LiDARの開発と応用(第5回) ‐自動車への応用(その2)‐


2020-07-01(令和2年) 豊岡秋久

 

2020年1月22日の第1回で紹介した様に、LiDARは、Light Detection and Ranging (光検出と測距)もしくはLaser Imaging Detection and Ranging (レーザー画像検出と測距)の略で、光を用いたリモートセンシング技術の一つである。今回からは、自動車関連分野に関する応用として、自動運転への応用を行っているLiDAR開発企業の状況を紹介する。多くの種類のLiDAR技術が開発され、そのうちの幾つかは商用車に採用されている。LiDARの開発企業は、この数年に立ち上がったスタートアップ企業が多いが、そのうちの何社かは、大手自動車企業と既に提携関係、出資関係を築いている。今回および次回は欧米の海外企業を中心として紹介、最終回に日本および中国の企業の紹介をする予定である。

(As explained in the reports dated January 22, LiDAR, the acronym of Light Detection and Ranging or Laser Imaging Detection and Ranging, is one of remote-sensing technologies applying optics. In this report, LiDAR vendors adopting their technologies to the autonomous driving are introduced. Various types of LiDAR technologies have been developed and some of them have been already deployed to commercial vehicles. Many of LiDAR vendors are start-ups, which initiated their operations within a few years, and some of them have set up relationships with big auto manufactures. US and European vendors are introduced in this report and the next one, and Japanese and Asian vendors in the last one.)

図0

Valeoの配送車(Droid)への応用例

 

1. Quanergy

Quanergyは、米国California州Sunnyvaleに本社を置く2012年設立のスタートアップ企業であり、独Mercedes-Benzや韓国Hyundai、ルノー・日産、小糸製作所等の自動車会社や自動車部品会社の支援を受けている。

(1) M8

既に製品化しているメカニカル方式のM8センサーは,縦に並べた8本のレーザーを周回させることで周囲360°を上下20°の範囲でセンシングし、モデルにより100~200m(反射率80%)先の物体を捉えることができる。また、M8センサー本体は小型化され、昼夜を問わず認識でき、どのような天候でも機能する。 同様の製品では米国のVelodyneが先行するが,同社の製品は過剰な性能を求めずに比較的安価なコストを実現しているのが特長である。また、複数のLiDARを一つの統合点群に組み合わせ複雑な環境でオブジェクトの追跡ができるQuanergy独自のスマートテクノロジーであるMulti-LiDAR Fusion™を備えている。

メカニカル式のLiDARは価格が高く,長期信頼性にも懸念があることから,自動車メーカでは可動部の無いソリッドステート方式のLiADARの登場を期待している。ソリッドステート式LiDARに関してはサンプル的な製品が出始めているが,未だ性能,サイズ,価格においてスタンダードとなるような製品は出てきていないのが現状である。

図1

図1 (出典:Quanergy SystenのHP) QuaneregyのM8の外観

(2) S3

ソリッドステート方式LiDARセンサーであるS3は、高性能なスマートセンシングを提供するソリューションであり、輸送、産業オートメーション、セキュリティデータ分析、マッピングなどのさまざまなアプリケーションに最適である。センサーの経済的な価格により、3D LiDARの大量導入が可能となった。

ソリッドステート方式LiDARの主な方式としては第1回で紹介した様に,フラッシュ方式とMEMS 方式があるが,フラッシュ方式LiDARはビームを拡散して放射するため,遠距離の検出にはハイパワーのレーザーが必要となる。また,MEMS LiDARは厳密には微細な可動部が存在するため,メカニカル方式と同様に耐久性の問題が残る。そこでQuanergyは、新しいソリッドステート方式LiDAR「S3」に,フェーズド・アレイ方式を採用した。フェーズド・アレイ方式は、光の位相をコントロールしてビームを配向する技術。詳細はまだ不明だが、デモを行なっている試作機の視野角は50°、ビームは1本となっている。同社はこの試作機について、自動運転向けに製品化する際には視野角120°で100m先まで検出可能なものにする予定。また、ネーミングの「S3」から、ビーム数は3本となって上下方向のセンシングができるようになると思われる。

図2

図2 (出典;Quanergy SystemのHP) QuanergyのM3の外観

2. Velodyne Lidar

Velodyne LiDARは1983年、エンジニアのDavid Hallがサブウーファー技術(低中音波の再生のためのスピーカ)を開発するオーディオ会社として米シリコンバレーを拠点に設立したのが始まりである。その後、2011年にヨットやフェリーのプラットフォーム開発などを手掛ける海洋部門Velodyne Marine、2015年にLiDAR開発を手掛けるVelodyne LiDARをそれぞれ設立。LiDAR開発は、米国防総省高等研究計画局(DARPA)が実施する無人運転によるロボットカーレース「DARPAグランド・チャレンジ」に参加したことをきっかけに始まったとされる。

以降、自動運転分野におけるLiDARの注目度は一気に増し、大手サプライヤーらがLiDAR開発に本腰を入れ、多くのスタートアップが新規参入するなど開発競争に火が付き、VelodyneがLiDAR開発におけるリーディング企業に位置付けられるようになった。

また、開発競争の激化とともに高性能化や低価格化が劇的に進んでいる。2010年ごろ、グーグルの自動運転試験車両に搭載されたベロダイン製のハイエンドモデルのLiDARは1基7万5000ドルとも言われており、量産車向けの生産体制と高品質化が大きなカギとなった。

その後エントリーモデルの価格は数十万円程度に下がり、近年では100ドル~200ドルを目安に開発を進める企業が多い。Velodyneも2016年に米自動車メーカー大手のFordと中国のIT大手の百度(バイドゥ)から1億5000万ドルの共同出資を受け、製造コストの削減や製造規模の拡大に取り組むなど力を入れており、ソリッドステート型の安価モデルの開発を進めている。また、2018年12月にニコンが2500万ドル(約28億円)の出資を実施しており、同社の光学・精密技術をVelodyneのLiDAR技術と融合させることが狙いの様である。現段階で、LiDARベンダーとして唯一年間100万台生産できるキャパシティを持つとしている。またLiDARの出荷量もトップである。

Velodyneはこれまでに数多くの製品を開発しているが現在の主な製品は以下の通りである。

(1) VelaDome™

2019年1月に発表されたモデルで、東京ビッグサイトで同月に開催された「第2回自動運転EXPO」でも披露された最新製品。水平・垂直視野角がそれぞれ180度と半球型の視野を誇り、測定距離0.1〜30メートルの超広角モデルで、歩行者や自転車、死角の検知などに最適な近距離タイプ。コンパクトな埋め込み型で、さまざまな取り付け方法が可能。特許取得済みのMicro Lidar Array(MLA)テクノロジーを搭載している。

図2

図3 (出典:Velodyne LiDARのHP) VelaDomeの外観

(2) Velarray™

VelaDomeと同じく新製品で、非回転型の長距離タイプ。測定距離は約200mで、水平視野角120度、垂直視野角35度、サイズは70×170×75mmで、バンパーに埋め込むなど様々な取り付け方法が可能となっている。昼夜を問わず確実な指向性のあるイメージを作り出すことができ、クラス最高の範囲と分解能により、物体識別などが速くなり、高速道路での走行速度であっても長い制動距離が確保できる。2020年の量産開始を予定。

図4

図4 (出典:Velodyne LiDARのHP) Velarrayの外観

(3) Ultra Puck™

自動運転やADAS(先進運転支援システム)に対応した小型・高解像度を実現したLiDARイメージングユニットで、32個のレーザー送受信センサーを備え、水平視野角は360度、垂直視野角は40度、垂直解像度は同クラス最高の0.33度となっている。測定距離は200mをカバーし、1秒間に120万ポイントの測定ができる。各センサーが個別に校正を行っており、誤差も小さく優れた測距データを得ることができる。直径10.33cm、高さ8.69cmの円筒形で、重量は890g。

図5

図5 (出典:Velodyne LiDARのHP) Ultra Puckの外観

(4) Alpha Prime™

自動運転やADAS(先進運転支援システム)に対応した高性能モデルで、128個のレーザー送受信センサーを備え、水平視野角は360度、垂直視野角は40度、解像度は同社の既製品の中で最も高い0.2度×0.1度の密度を誇る。測定距離は300mに及び、1秒間に240万ポイントもの測定ができる。各センサーが個別に校正を行っており、誤差も小さく優れた測距データを得ることができる。直径16.58cm、高さ13.83cmの円筒形で、重量は3.5Kg。

図6

図6 (出典:Velodyne LiDARのHP) Alpha Primeの外観

(5) HDL-64E

自動運転を始め船舶の障害物検出などにも使用可能な高機能モデルで、64個のレーザー送受信センサーを備え、水平視野角は360度、垂直視野は26.9度、角度分解能は0.08度、垂直方向の解像度約0.4度となっている。測定距離は120mで誤差2cm程度、1秒当たり最大約220万ポイントの測定ができる。

幅20.3cm、高さ28.4cmで堅牢性を確保しており、重量は15Kg。最も要求の厳しい認識アプリケーションや3Dモバイルデータの収集、マッピングア・プリケーションにも対応できる。

図7

図7 (出典:Velodyne LiDARのHP) HDL-64Eの外観

 

3. Luminar

Luminar社は、2012年に設立された自動車などに搭載されるLiDARの開発メーカであり、Silicon Valleyに本拠を置き、世界のLiDARのトップメーカの一つである。同社は新たに1億ドルの資金調達ラウンドを発表し、調達総額が2億5000万ドルを超えている。出資者は、G2VP、Moore Strategic Ventures, LLC,、Nick Woodman、The Westly Group, 1517 Fund/Peter Thiel、Canvas Venturesおよび戦略的出資者としてのCorning Inc、CornesおよびVolvo Cars Tech Fundである。

LuminarのLiDARは、多くの企業が採用している技術とは大きく異なっている。ウェイモ、クルーズ、アルゴAIのほか、タクシーや配送車に使う自律走行車を開発している企業は、外付けで回転式のLiDARを利用している。これに対してLuminarのLiDARユニットIrisは現行製品の3分の1の大きさで、車両のフロントグリルやルーフ、ヘッドライトなどに取り付けることができる。Luminarは2022年にIrisの納品を開始する予定である。

価格も従来製品より格段に安く、自動運転レベル4(高度運転自動化)の乗用車やトラック向け製品は1000ドルを切り、レベル2(部分自動運転)やレベル3(条件付き自動運転)の車両向け製品は500ドルを切るとしている。

図8

図8 (出典:Tech Church) 左はテストモデル、右はIrisの販売モデル

採用を決めているVolvoのモビリティ戦略統括責任者は以下の様に発言している:

「LiDARは安全な自動運転に不可欠であると確信している。テスラ、キャデラック、日産の高速道路で利用できる既存の半自動運転機能は、停止している消防車のような物体をカメラとレーダーが検知できるとは限らない。これに対して、LiDARなら周囲の状況について詳細な情報を把握できるので、ドライバーが周囲から目を離せるだけの信頼性を保つことができる。」

 

4. Ibeo Automotive

Ibeo Automotive Systems GmbHは、1998年に設立されたLiDARセンサー、LiDAR関連製品、およびLiDAR関連のソフトウェアツールの分野においての世界的な技術リーダである。拠点はドイツのハンブルグとオランダのアイントホーフェンにある。2016年から自動車部品会社ZF Friedrichshafen AGの子会社が株式の40%を所有している。また、フランスのBrestにある生産拠点は、パートナーのZF Autocruiseと共同で設立したものである。

現在の主要な製品は以下の通りである。

(1) ibeo LUX

LiDAR ibeo LUXセンサーは、センサー内のミラーを連続的に回転させることにより、レーザービームによってLiDARの対象範囲内の完全な画像を生成する。ibeoLUXは110度の視野と最大200メートルの距離の性能を持つ。このLiDARのもう1つの特徴は、時刻と可動ミラーの同期である。LiDARの時刻は外部基準時間と同期され、ミラーの回転周波数は、外部からの周期的信号で補正される。

図9

図9 (出典:Ibeo AutomotiveのHP) ibeo LUXの外

(2) ibeoNEXT Generic

ibeoNEXT Geneticは、新しい4D(3次元の点群と各点群の強度を合わせて4次元と称している)ソリッドステート式LiDARシステムである。特に、そのモジュール設計は差別化ポイントである。アプリケーションに応じて、11.2度、32度、60度、または120度のレンズを選択することが可能である。複数のセンサーを使用し、ECUにおいて稼働されるソフトウェアパッケージでデータを融合することで、車両の周囲の環境を360度検出できる。 ibeoNEXT Generic 4D ソリッドステート式 LiDARは、交通渋滞解消支援から自動運転に至るまでの自動車アプリケーションに使用可能である。また、産業分野にでも多くの可能な用途があるとしている。

図10

図10 (出典:Ibeo AutomotiveのHP) ibeoNEXTの外観

ibeoNEXTは、可動部品が全く無いソリッドステート式LiDARセンサーであり、機械部品が無いため、堅牢であり、長期間にわたって高い信頼性が確保できる。また、コンパクトなデザインかつ軽量なため、多くの車両に対して簡単にインテグレートが可能である。ibeoNEXTは、300メートルの広い範囲と0.05度の高い空間分解能を備える。

(3) ibeoNEXT Corner

ibeoNEXTコーナー4Dソリッドステート式LiDARは、レベル2+からレベル5までの自動運転のあらゆるアプリケーションに使用可能であり、例えば以下の状況等で特に有効。

・車線変更を行う車の検知

・車線に停止している車に接近する場合

・張り出している積荷の検知

・道路上の障害物検知

図11

図11 (出典:Ibeo AutomotiveのHP) ibeoNEXT Cornerの外観

 

5. Valeo

Valeoは、1923年にパリの郊外で設立され、現在は33カ国に展開している世界でもトップクラスの自動車部品メーカである。1991年に後退レーダー用超音波センサーの量産を開始したのを皮切りに、超音波センサーやカメラ、LiDARなど様々なセンサーを開発・製造している。生産台数は全種類合わせ累計10億台に及び、今後4年でさらに10億台の生産を見込んでいる。中でも、各社が技術開発と量産化を進めているLiDARに関しては量産化と実用化をいち早く実現。LiDAR製品の”SCALA”は、自動車業界で初めて量産化に成功したモデルで、静止した障害物をはじめ動く障害物も最大150メートル手前から145°の視野で検知することができる。こうしたセンサー類による検知やデータ処理を得意分野としており、Valeoのソフトウェアは、人間の脳が五感からの情報を処理するのと同様にデータを統合するとしている。

図12

図12 (出典:Valeo) PACEアワード2018で表彰を受けた「SCALAレーザースキャナー」

開発を進めるAIシステムの研究をいっそう進めるため、AIと自動車への適用に特化したディープラーニングのグローバル研究センターとなる「Valeo.ai」の開設を2018年に発表している。

幕張メッセで2018年10月に開催されたCEATEC JAPAN 2018で初公開した「Valeo XtraVue」技術も注目を集めている。車載のテレマティックスアンテナとLiDAR、コンピューター画像カメラシステムを組み合わせることで、視界に入らない領域も含め路上で何が起きているかをドライバーに知らせるシステムである。

一方、Drive4Uは、2018年10月に開催されたパリモーターショー2018で初公開された最新の自動運転デモカーで、すでに量産実績のある超音波センサーやカメラ、LiDAR、レーダー、AI(人工知能)をフルに搭載したデジタルブレインを備えた自動運転レベル4の車両である。独自開発した地理位置情報・マッピングシステムにより、自車の位置を高精度かつ厳格に定義することで、トンネルや閉鎖型の駐車場などGPS信号が届かない環境でも自動走行が可能で、走行を重ねるごとにAIがリアルタイムで学習し、さまざまな交通状況パターンへの対応が段階的に可能になっていくという。

2019年の人とくるまのテクノロジー展2019名古屋の特設会場において2020年より量産を開始する同社の第2世代LiDARである「SCALA2」を展示し、さらにその先のMEMS型の第3世代モデルについても説明を行った。Valeoは、LiDARについてはレベル3自動運転を実現したアウディA8に搭載。世界で初めて量産車にLiDARを提供するメーカになったとして一躍有名になった。しかし、その製品はValeoにとって第1世代であり、世の中の関心は第2世代の「SCALA2」へと移り始めているというのが実際のところである。

図13

図13 (出典:Valeoプレスリリース) SCALA2の外観

2020年のCESにおいて、自動運転型(自律型)の電動配送Droid「Valeo eDeliver4U」を世界に向けて初めて公開。発表によれば、自社開発した認識システムを搭載して自動でルートを検知でき、「ゼロエミッションでの都市部の配送に適している。」とのことである。

また、Valeo eDeliver4Uは中国の大手食品流通サービスプロバイダー大手Meituan Dianping(美团点评)とともに共同で開発したものだという。

図14

図14 (出典:自動車編ラボ) Valeoの電動配送車Droidの外観

 

6. Blackmore

Blackmore社は2016年にMontana州で設立されたスタートアップ企業である。トヨタのスタートアップ育成ファンド「トヨタAIベンチャーズ」の他、独自動車メーカーBMWのコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)「BMW i Ventures」などから出資を受けている。前回の報告でも述べた様に、Blackmoreは、2019年に元Googleの自動運転開発トップが創業した米スタートアップ企業のAuroraに買収されている。

Blackmoreは、LiDARを用いて、対象物の動きをこれまで以上に素早く検知する技術を開発している。鍵を握るのは「ドップラー効果」であり、センサーから照射する光の周波数の変化を測定するこの技術は、自律走行車を大きく進化させる可能性を秘めている。

速度はレーダーでも測ることができる。先行車との車間距離を保って一定速を保つアダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)や、Teslaの半自動運転機能「オートパイロット」で速度を測るのはレーダーである。但し、レーダーの解像度はかなり低い。レーダーは、50m前方から何かが時速100kmで迫ってくることは検知できる。しかし。それがトラックなのか、トラックから転げ落ちた物なのかは、はっきり識別できない。

Blackmoreが採用しているのは「周波数変調連続波(FMCW)方式」で、波長の長いレーザー光を連続的に発射する手法である(光の波長は1,550nm。波長が長い不可視光線なので、人間の目を傷めない)。BlackmoreのLiDARセンサーは、光が返ってくるまでの時間だけではなく、光が返ってきたときの周波数も測定する。ここで「ドップラー効果」が登場する。例えばバイクで移動中の人にレーザー光を照射すると、その人の移動速度によってレーザー光の周波数が変わる。周波数はその人が近づいてくると上がり、離れていくと下がる。発射した光が返ってくると、その光の新たな周波数を測定し、光を照射した対象の速度と方向を導き出す。このデータと光が返って来るまでの時間を基に測定した対象の正確な位置と組み合わせる。

図15

図15 (出典:LIDAR MAGAZINE) BlackmoreのFMCW方式ドップラーLiDAR(左)およびLiDAR開発用のプラットフォーム(右)

この方法であれば、レーザー光を照射した対象に対して複数回レーザー光を照射しなくても、その対象が移動しているか、またどのように移動しているかを測定できる。たった1度だけ光を発射するだけで、必要なデータがすべて揃うことになる。

図16 図16 (出典:Blackmore) LiDARが、検知した対象の速度を色で示している(離れていくものは赤く、近づいてくるものは青く表示)。

 

7. Sense Photonics

Sense Photonicsは、2016年にRTP(Research Triangle Park, NC)で創業したLiDARのスタートアップ企業である。現在は、San Francisco, CAおよびEdinburgh(UK)にもオフィスを持つ。Sense Photonicsは、自動車および産業分野における次世代3D認識システムの開発を行っており、自動運転用のLiDARおよびロボット工学、マテリアル・ハンドリング、活動監視、その他の産業用アプリケーションが用途である。

Sense Photonicsは、2019年6月11日に沈黙を破って、2600万ドル(約28億円)のラウンドAとともに登場。広い視野とフレキシブルな設置を可能とするまったく新しいアプローチのLiDARTがその売りとなっている。Luminarや一部の企業のLiDARは、狭い視界で数百フィート先の形状を検出する前向きタイプのLiDARを開発しているが、Sense Photonicsはもっと短い距離で対象を広角で捉える製品を目指している。車の後部や側部に搭載を考えているLiDARに適しており、広い視野で捉え、子供や自転車などを迅速かつ正確に検知することができる。

価格が2900ドルの基本製品は視野角が80×30度であり、もっと広い95×75度の製品も提供可能である。視野角は、標準的なLiDARより相当大きく、他社のフラッシュ型LiDARよりも精度が高いのが特徴である。また取付場所の自由度が大きく車全体の設計もし易くなるというのも特徴である。

LiDARは2種類に分かれ始めている。1つは前方に向いた長距離用LiDAR(LuminarやLumotiveの製品)で、200m前方の路上の障害物や人物を検出する。もう1つは、より短距離で幅広い視野を持つLiDARで、より近接した状況認識のために用いられる。例えばバックする車の後ろにいる犬や、数m先の駐車スペースから出てきた車などを検出する。Sense PhotonicsのLiDARは、後者の用途に適している。

図17

図17 (出典;Sense PhotonicsのHP) Sense PhotonicsのLiDAR製品(左はプロトタイプ、右は次世代モジュール型の設計品)

Sense Photonicsの製品ではセンサーとエミッターとは完全に切り離して設置することができる。エミッターはヘッドライトのようなカーブした部品に統合することが可能になり、一方小型センサーを従来カメラが設置されていたようなサイドミラーやバンパーなどの上に設置することができる。

 

8. Lumotive

Lumotiveは、2018年にMicrosoftの創設者であるBill Gatesからの資金提供を受けて設立された、自律走行車向けの高性能LiDARシステムを開発しているSeattleに拠点を置くスタートアップ企業である。同社のLiDARソリューションは、特許取得済みの液晶メタサーフェス (Liquid Crystal Metasurfaces™:LCM) をベースにした革新的なビームステアリング技術を活用して、これまでに無かった、高性能 (視野範囲、解像度、フレームレートによって評価) と広範囲にわたる普及(コスト、信頼性、サイズによって評価) を同時に実現させるものである。

Lumotiveの共同創設者兼CEOのDr. William Colleranは、次のように述べている。「Lumotiveのソリューションは、より安全かつコスト効率の高い知覚ソリューションを求めている自動車メーカーおよびティア1企業に最適である。当社のLiDARセンサには可動部がなく、また、大きな光学口径、広い視野、および高速スキャンを同時に提供するビームステアリングのLCMの特性により大きな効果が得られる。LCMは、ADASと自律走行車のLiDARを採用する際のハードルを下げる高い性能と経済的な可能性を同時に提供することができる。」

これまでのところ、多くのLiDARシステムは機械的スキャンに依存しており、低信頼性、コスト、およびフォームファクタの問題に苦しんでおり、さらに最大の問題は、既存のシステムの性能に限界があること。これとは対照的に、Lumotiveの革命的なビームステアリング技術は、レーザーパルスをステアリングする半導体チップであるLCMをLiDARとしては初めて使用する。LumotiveのLCMは、半導体製造の量産の経済性効果を得て低コストのシステムを可能にすると同時に、LiDARの認識能力を向上させる大きな開口部を備えている。LumotiveのLCMチップは可動部品を含まず、成熟したCMOS製造プロセスと液晶ディスプレイのパッケージングを使用して製造され、低コスト、高信頼性、小型で商業的に可能なLiDARシステムを実現する。

図18

図18 (出典:Lumotive HP) Lumotiveのビームステアリング・チップによりレーザ光がプログラムされた方向に反射する様子を示す。

Lumotiveの考え方では、フラッシュ、2Dおよび1D LIDARの比較は以下の通りである。(図19参照)

  • フラッシュLIDARは基本的に、近赤外線(905ナノメートル)でシーン全体を一度に照らすパルスを送信する。これにより、シーン全体の迅速な測定が可能であるが、放出される光のパワーが制限されるため、距離が制限される。
  • 2DもしくはラスタースキャンLIDARは、一つのシーンで素早く左から右に移動、次に少し下に動かして左から右に移動、これを何度も何度も繰り返す。ビームにパワーを集中させると、長距離の範囲がカバーできるが、一つのシーン全体を完了するのにかなり長い時間がかかる。応答時間は車の運転では非常に重要である。
  • 1DもしくはラインスキャンLIDARは、上記の両者の折衷案である。一つのシーンを完了するのにレーザー光を垂直方向に照射しつつ左から右にスキャンする。この方法は距離と解像度が犠牲にはなるものの、応答性は大幅に向上する。

Lumotiveは次の図を提供し各方式を説明している。これはシステムの視覚化理解には役立つが、一部には主観的な見解もあることに注意。

図19 図面変更用v.1

図19 (出典:TechChurch) Lumotiveによる主なスキャン方式の比較(筆者にて一部変更)

Tweet this

―以上―

 

本稿作成の参考にした記事等は次の通り。

  • Optronics Online 2018年06月07日「Quanergy,ソリッドステートLiDARを発表」
  • JEPICO HP センシング/IoT Quanergy Systems
  • Quanergy Systems のHP:https://quanergy.com/products/
  • 自動運転ラボ編集部 2019年1月24日 ベロダインライダー(Velodyne LiDAR)を徹底解説!
  • Wikipedia (English) Velodyne Lidar
  • 産業タイムズ社「車載デバイス2019」
  • Velodyne HP:https://velodynelidar.com/
  • Tech Church July 12, 2019 Luminar eyes production vehicles with $100M round and new Iris lidar platform
  • Forbes テクノロジー 2019/07/22 自動運転技術で独走する24歳、「ルミナー」創業者の野望
  • WIRED Mobility 2020.05.09 ボルボが採用した「先進的なセンサー」が、市販車での“完全自動運転”の実現を加速する
  • Ibeo AutomotiveのHP:https://www.ibeo-as.com/en/products
  • Vaeo HP:https://www.valeo.com/en
  • 自動運転ラボ編集部2018年4月21日仏部品大手ヴァレオ、自動運転キーデバイス「レーザースキャナー」で表彰
  • 自動運転ラボ編集部2019年1月26日ヴァレオ(Valeo)の自動運転戦略まとめ LiDAR製品や技術は?
  • 自動運転ラボ編集部 2020年1月7日 仏ヴァレオ、CES 2020で自動運転の電動配送ドロイドを初公開
  • WIRED 2018.10.22 「ドップラー効果」を用いた新しいセンサーが、自律走行車の進化を加速する
  • 自動運転ラボ編集部2019年5月25日 自動運転開発の米オーロラ、トヨタ出資のLiDAR企業Blackmoreを買収へ
  • WIRED 2018.10.22 「ドップラー効果」を用いた新しいセンサーが、自律走行車の進化を加速する
  • Forbes テクノロジー 2019/06/03 アマゾン出資の自動運転「オーロラ」が買収したLiDAR企業
  • LIDAR MAGAZINE 10.07.2019 Blackmore Leads the Way with FM Lidar for AV Applications Measuring velocity on every data point
  • TechChurch 2019年6月13日28億円調達でライダーシーンに登場した新しいアプローチ
  • TechChurch 2019年10月24日 Sense PhotonicsのフラッシュLiDARが量産体制に移行
  • Research Triangle Park (www.rtp.org) RTP Discover: Sense Photonics
  • TechChurch March 23, 2019 Gates-backed Lumotive upends lidar conventions using metamaterials
  • GlobeNewswire March 21, 2019 ルモーティブ、自律走行車を実現する高性能LiDARを発表
  • Lumotive HP:https://www.lumotive.com/