LiDARの開発と応用(第6回) 自動車への応用(その3)


2020-07-31(令和2年) 豊岡秋久

図6

2020年1月22日の第1回で紹介した様に、LiDARは、Light Detection and Ranging (光検出と測距)もしくはLaser Imaging Detection and Ranging (レーザー画像検出と測距)の略で、光を用いたリモートセンシング技術の一つである。今回は、自動車関連分野に関する応用で、自動運転のセンサーとしての欧米のLiDAR開発企業の紹介の二回目とする。数多くのスタートアップ企業が生まれて来ており、技術開発および価格の競争は厳しくなっている。次回は最終回として、日本およびアジアの企業の紹介をする予定である。

(As explained in the reports dated January 22 and April 11, LiDAR, the acronym of Light Detection and Ranging or Laser Imaging Detection and Ranging, is one of remote-sensing technologies applying optics. This report is the second issue of LiDAR vendors mainly in North America and Europe adopting their technologies to the autonomous driving. Many start-up companies are popping up the world over, and competing each other in terms of their technologies and costs. Japanese and Asian vendors are introduced in the next issue, which is the last one of the LiDAR series.)

 

1. ストローブ(Strobe)/クルーズ・オートメーション(Cruise Automation)

ゼネラルモーターズ(GM)は2017年10月9日に、自動運転車用の100ドル以下のソリッドステート型LiDARを開発しているカリフォルニアの小さなスタートアップであるストローブ社(Strobe)を買収。ストローブは、その時点で、設立後わずか3年で、創業者であるルート・マレキ(Lute Maleki)が、オーイーウェーブズ(OEwaves)に在職時に発明した革新的な周波数変調LiDAR技術を使用している。

ベロダイン(Velodyne)やクワナジー(Quanergy)から販売されているようなLiDARは、Time of Flight (飛行時間)、即ちレーザー光が反射して戻って来る時間を計測するものである。この種のLiDARには多くの欠点がある。例えば、非常に短い距離を測定することができないこと、感度の高い光検出器が必要なこと、太陽、他の光源からの干渉を受けること等である。

ストローブのシステムでは、周波数変調したレーザー光の短時間のチャープ(charp)を生成する。(チャープとは周波数が時間的に変化する信号を意味する) ここではチャープ内の周波数は直線的に変化し、反射して来たチャープの位相と周波数を測定することにより、対象物体の距離と速度の両方を測定することができる。これにより、自動運転などの車における計算量を削減することができる。

周波数変調LiDARは、周囲からの干渉の影響も比較的受けにくく、特に感度の高い光検出器を必要としない。ただし、滑らかに変化する精度が高く、広範囲の周波数の高品質のチャープを生成することは、これまで困難であった。マレキは、「ウィスパリング・ギャラリー・モード(whispering gallery mode)」と呼ばれる光共振器を使用して、レーザーのスペクトル線幅を減らし、これまでよりもはるかに精度の高い信号を生成することにより技術革新を行った。

ゼネラル・モーターズの傘下で、ストローブの技術を適用して自動運転の開発を行っているクルーズ・オートメーションのCEOのKyle Vogt氏は、「ストローブの新しいチップ・サイズのLiDAR技術は、自動運転車の機能を大幅に強化するものであるが、もっと重要なことは、センサー全体を1つのチップに圧縮することで、自動運転車のLiDARのコストを99%削減することである。」とブログで述べている。クルーズ・オートメーションが、開発する「クルーズAV」はステアリングホイールやペダルといった運転操作に必要な部品を搭載せず、自動運転のためにセンサーとしてLiDARを5個、ミリ波レーダーを21個、カメラを16個搭載している。LIDARで車両周囲の固定物と移動体の形や大きさ、車両との距離を検知し、レーザー光の反射率が低い場合にミリ波レーダーの電波の反射によって補い、カメラは物体の分類と追跡に用いる。フェール・オペレーショナルと呼ばれる故障時に継続して動作ができる機能に対応し、制御回路の1系統が破損しても安定走行を可能としている。自動運転が可能な範囲は高精度地図データがあり、実車による走行試験と解析を繰り返した「既知の地域」に限定されるため、当初の販売形態は配車サービス向け業務用車両として提供されると予想されている。

図1

図1:(出典:IEEE Spectrum 09 Oct 2017) ストローブ製LiDARのプロトタイプの外観

 

2. ボッシュ(Bosch)/テトラビュー(TetraVue)

ボッシュは2020年1月9日、カメラとレーダーに続く第3のセンサー技術として、長距離LiDARを開発し生産段階に入ったことを発表。このLiDARは、自動運転のSAEレベル3~5(第4回で解説)の自動運転には欠かせない、第3のセンサーとして開発された。レーザー・ベースの測距技術を用いたLiDARは、解像度が非常に高く、検知距離が長い。また、視野角も広いため、離れた距離にある路上の石のような非金属物体でも確実に検知可能で、ブレーキや障害物の回避といった運転操作を適切なタイミングで開始させることができる。ボッシュのLiDARは、自動運転に必要なさまざまな安全要件を満たすだけでなく、自動車メーカーの幅広い車種に効率的に組み込むことが可能としている。

ボッシュは、多岐にわたる自動運転のユースケースを調査した結果、3種類のセンサーを並行して活用することでのみ、安全な自動運転を路上で実現できることが明らかとなったとしている。例えば、交差点において自動運転車両にバイクが高速で接近した場合でも、レーダー、カメラ、ライダーの3つを活用することでバイクを確実に検知し、3つのセンサーが相互に補完し合うことで、どのような走行状況でも信頼に足る情報を得ることができるという。

ボッシュは、LiDAR以外のセンサー技術においても開発を進めている。AI(人工知能)を搭載した車両用カメラ技術についても新たな開発段階に到達している。この技術においては物体を検知して、車両、歩行者、自転車などに分類し動きを測定し、搭載したAIにより、見通しがあまり良くない市街地でも、横切ろうとする車両、歩行者、自転車などを迅速かつ確実に検知して分類する。これにより、必要に応じて警告を発すること、緊急ブレーキを作動させることが可能である。また、レーダー技術の向上も目覚ましく、ボッシュの最新世代のレーダーセンサーは、悪天候や照明が乏しい条件下でも、より広くなった検知範囲と視野角、最大検知角度により、車両の周囲を確実に検知することができる。

ボッシュはLiDARに関しては自社技術を持っていなかったが、傘下のベンチャーキャピタルであるRBVC(Robert Bosch Venture Capital)が2017年2月、テトラビュー社へ1000万ドル(約11億円)の投資を完了し、技術提携を開始した。LiDAR技術の確立に本格着手する契機となったのが、3D Flash LiDAR技術を持つこのスタートアップのテトラビュー社の技術である。

テトラビュー社は、時間と距離を計測して標準のCMOSセンサーで光学的強度を探ることができる「ライトスライサー」技術の特許を持っており、より幅広い距離にわたり超高解像度のイメージを捕捉できるできるという。データ転送時の遅延も小さく高い信頼性を発揮するほか、低コストも図れるなど、車載システムとしての要求を満たすと評価された。

テトラビューの技術は、自動運転車両が走行中に突然出現する危険な障害物に備える対策に役立つと期待されている。ボッシュは自動運転車両の開発と普及に注力しているが、テトラビューの技術は、ボッシュが自動運転のマーケットリーダーとしての地位を確立するのに重要な要素である。テトラビューの3D Flash技術をベースとした LiDAR技術の最大の特徴は、特許取得済みの「ライトスライサー」技術にある。この技術は、時間と距離を計測し、標準のCMOSセンサーで光学的強度を探ることができるものである。この革新的アプローチは、信頼性が高く、車載システムとしての要求を満たすほか、遅延が小さく、より幅広い距離にわたり超高解像度のイメージを捕捉でき、かつ低コストであるなど、数多くの利点とセールスポイントを持つ。

 

3. イノビズ・テクノロジー(Innoviz Technologies)

イノビズは、2016にイスラエルで起業したスタートアップ企業である。2019年5月のシリーズC増資で合計1.3億ドルの追加出資を得ている。(これまでの出資者総数は21社) この巨額の資金調達は、同社の優れたソリッドステート型LiDARソリューションの商用化をサポートし、世界中の先進的自律走行車(AV)技術の高まる需要に応じるものである。イノビズは、米国、ヨーロッパ、日本、中国を含む主要自動車市場での事業拡大を狙っている。同社は、一段とコストを削減し、性能を改善した次世代製品とソフトウエアの構築に投資する計画である。

イノビズのソリッドステート構造のLiDARでは、機械式のモーターの代わりにMEMS*を使用してミラーを動かしている。これによって振動による影響を最小限に抑えるとともに、LiDARの小型化、軽量化、低価格化が実現できる。

*注: MEMS:Micro Electronics Mechanical Systemの略。半導体のシリコン基板・ガラス基板・有機材料などに、機械要素部品のセンサ・アクチュエータ・電子回路などをひとまとめにしたミクロンレベル構造を持つデバイスのこと。

イノビズではLiDARのハードウエアだけでなく、LiDARからのデータを活用する画像処理ソフトウエアも提供する。同社が独自に開発したディープラーニングなどAIの手法を活用したソフトウエアにより、「1台のLiDARのデータから、コンピュータビジョン(例えばロボットの目)を実現できるだけでなく、3次元画像によるマッピングまで行えるようになる。」としている。こうした先端テクノロジーによって、LiDARを搭載した車は道路上の障害物を検知するだけではなく、その物体がどの方向にどのくらいの速度で移動しているかまでを、リアルタイムに知ることができる。

現在、イノビズのLiDARには「InnovizPro」と「InnovizOne」という2つの製品ラインアップがあるが、「InnovizOne」が自動車グレードとなるソリッドステートLiDARである。MEMSミラーの採用で衝撃に対する耐性を持ち、「InnovizPro」に比べて視野が2倍、解像度が10倍という高感度化、高解像度化を実現した。InnovizOneは自動運転のレベル3から5までの要件を満たしており、高温、多湿な環境にも十分耐えるように設計されている。

図2

図2 (出典:Innoviz HP) InnovizProの外観

図3

図3 (出典:Innoviz HP) InnovizOneの外観

 

2年の開発期間を費やし、高性能化された技術がBMWに認められ、「InnovizOne」は、BMWが2021年からの出荷を予定している自動運転車への搭載が決まっている。「InnovizOne」は、BMWとして初めて採用する、自動運転車のフロントグリルに搭載されるソリッドステートLiDARとなる。

「InnovizOne」は自動車市場に絞った展開を考えており、事業開発を担当するZiv Livne氏は、日本市場にも関心を示しているとの事である。(現在はマクニカが日本の代理店となっている。)

 

4. ゼノマテッィクス(XenomatiX)

ゼノマティックスは、ベルギーのLeuvenで2012年にマルチビームLiDAR技術の開発を目指して起業したスタートアップ企業である。その後、会社は急成長し、現在はベルギー、ドイツ、米国、中国に従業員を擁し、東陽テクニカなどを通じてアジアにも販売網を持つ。 その他のパートナーおよび顧客は、AGC(日本)、マレリ、コスワース、セプテントリオ、ベルギー道路研究センターなどである。

同社の主要製品であるXenonLidarの特徴は以下の通りである。

① 3D点群データと2D画像のリアルタイム取得:標準ソフトウェアで2つのデータを同時に取得、対象物の高精細な判別が可能

② 光の強度マップ出力3D点群マップは距離のレンジだけでなく、光の強度のレンジに切り替えることが可能で、道路の白線や道路標識など平たい面の表示も判別可能。

③ 高信頼性: 自動車やその他の市場で実績のある技術に基づくコンポーネントを選択し、かつソフトウエア的にも冗長性を考慮し信頼性を上げている。

④ マルチビーム: シーン全体を1回のフラッシュで認識するが、マルチビームにより距離またはレーザー光の出力の制約は無く、125,000点/秒(25Hzデータ出力)と高速で高空間分解能な計測と200mを超える範囲の検知が可能である。

⑤ 可動部品無し: 真のソリッドステート型(全く可動部分が無い)であり、全てのコンポーネントは、高いMTBF(平均故障時間間隔)、耐衝撃性、および長寿命の実績を持つ。

⑥ スケーラブルで低価格: 大量生産に焦点を当てた設計がなされており、光学と製造の専門的知識が活用され、また大量生産を意図しており、スケールアップが容易で、価格的な面でも期待できる。

⑦ フレキシブル性: 柔軟なモジュール設計により、顧客の要求に合致したLiDARの提供が可能である。また、視野確度、視野範囲、解像度、フレームレートに対して、短期的に変更に応じることが可能としている。

図4

図4 (出典:東洋テクニカ 自動車計測ポータル) XenoLidarの外観

 

フランスのマレリおよび日本のAGCの子会社との協業関係は以下の通りである。

・マレリとの協業:自動車関連サプライヤーのマレリは2020年1月7日、米国ラスベガスで開催中のCES 2020にて、True-Solid-State型LiDARメーカーあるゼノマティック社と、LiDARソリューション分野での技術・商業開発で協働を開始すると発表。この合意により、ゼノマティック社は、マレリの車載照明部門に対して、ADAS(先進運転支援システム)および自動運転アプリケーション向けのソリッドステート型LiDARモジュールを提供する。マレリの車載照明部門とゼノマティック社は、マレリが2018年に買収したフランスのスタートアップ企業Smart Me Up社のAI知覚技術も活用し、各自動車メーカーが開発を進める次世代モデルのニーズを満たすモジュラー型LiDARシステムソリューションを提供して行く。

・AGCとの提携:ゼノマティック社とAGC株式会社のグループ企業であるAGC Automotive Europe社の両社は両社の最先端の製品・技術を組み合わせて、自動運転のための“次世代フロントガラス一体型LiDAR”の開発を進めている。LiDARは車両のルーフに搭載するのが一般的なため、天候の影響を受けやすいという問題点があった。雨や雪が降った場合、LiDARから出力されたレーザーが雨粒や雪粒に反射し、測定対象物との距離の測定に誤りが出てしまう。また、LiDARを車内に搭載しようとする場合、レーザーがフロントガラスで減衰してしまうため、離れた測定対象物からの反射光の検出が困難であるという課題がある。両社はこの課題を克服するための方策として、AGC Automotive Europe社の自動車用フロントガラス「WideyeTM」の内側にゼノマティック社のLiDARを一体化する。車内に搭載できるLiDARは、現在市場には存在せず、画期的な製品となる。

図5

図5 (出典:東洋テクニカ 自動車計測ポータル) 「XenoLidar」を自動車用フロントガラス「WideyeTM」の背後に統合したフロントガラス一体型LiDAR

 

5. レダーテック(LeddarTech)

レダーテックは、カナダの光学・光通信研究所INOからスピンアウトして2007年にカナダのケベックで設立された企業である。レダーテックは、同社独自のLeddarEngine™をベースに、用途が広く、スケーラブルな自動車および移動体用のLiDARプラットフォームを提供している。LeddarEngineは、独自の信号処理ソフトウエアLeddar SPと一体となって機能し、車載グレードの機能的安全性認証を受けたSoC(System on Chip)により構成されている。ADASおよび自律走行機能を拡張する特許を (取得済みと出願中を含め) 70件以上保有している。また、移動体市場向けに、自律走行シャトル、トラック、バス、配送用車両、ロボットタクシーのための高性能のソリッドステートLiDARモジュールを提供している。

主力製品であるLeddar Pixellは、ADASおよび自動運転アプリケーション用に特別に設計された180度の視野を持つ3Dフラッシュ型LiDARであり、車両周辺の歩行者、自転車、その他の障害物を非常に信頼性高く検出する認識プラットフォームである。デッドゾーン領域を持つ機械的スキャン型のLiDARに対して、ソリッドステート型のPixellは、全くデッドゾーンのない視野を提供する。

車両に装備する検出システムは、高いMTBF(平均故障時間間隔)を確保し、ダウンタイムと運用コストを最小限に抑えながら、信頼性の高い安全な車両操作の提供が必須であり、また耐久性の高い技術が必要である。Leddar Pixellは、可動部品のない堅牢な100%ソリッドステートLiDAR設計に基づいており、自動車グレードのコネクターを備えたIP67準拠の筐体に収容されており、優れた信頼性を提供し、自律型車両の導入に最適である。検出最大範囲は56mであり、180°の近接カバレッジを持ち、100%のシーンカバレッジ(デッドゾーンが無し)を提供する3Dフラッシュ照射機能を持ち、広い温度範囲で動作する。

Leddar Pixellは既に北米とヨーロッパの主要な自動運転車開発企業に採用されており、現在商用導入が可能である。 また、Pixellは、CES 2020イノベーションアワードHonoreeを得ている。

図6

図6 (出典:レダーテックのHP) Leddar Pixellの外観

レダーテックは、2017年にMEMS型LiDARに対応した信号処理ICを開発。MEMS化は、高解像度化を実現するためである。2017年第4四半期にサンプル出荷を始めたこのICをベースとした「LCA2」は、水平64画素×垂直16画素で、受光部には高感度のAPD(アバランシェフォトダイオード)を64列並べている。主には駐車支援など近距離向けとしている。

図7

図7(出典:日経XTECH) レダーテックのMEMS型LiDARの試作品

2020年7月レダーテックは、イスラエルのセンサーフュージョン(センサーの組合せ)および認識ソフトウエア会社バヤビジョン(VayaVision)の買収を発表した。レダーテックは、LeddarEnginを含む、オープンなLiDAR用プラットフォームでTier 1-2自動車システムインテグレーターをサポートしている。レベル3〜5の自動運転アプリケーションには、LiDARの他、複数のセンサー、レーダー、カメラ等の組み合わせが必要である。このため、製品化までの時間、コスト、リスクが大きくならざるを得ない。バヤビジョンの技術、製品、専門知識を統合することで、レダーテックは、製品の市場投入までの時間を短縮する事ができる。これと同時に、センサーフュージョンおよび認識ソフトウエア・スタックは、ソフトウエアに依存するもでは無いため、レダーテックの顧客の開発コストとリスクの削減に寄与する。

2019年6月4日-自動車およびモビリティLiDARテクノロジーの業界リーダーであるレダーテックは、COAST Autonomousがその自動シャトルにレダーテックを選択したことを発表。自動運転業界のベテランによって設立されたCOAST Autonomous(都市およびキャンパス環境に適した速度でAVソリューションを提供することに重点を置いたソフトウエアおよびテクノロジー企業)は、COAST Autonomousの車両の安全性を高めることができるという理由から、レダーテックのテクノロジーを選択した。 レダーテックのソリッドステート型LiDARの堅牢性と信頼性は、今日の厳しいモビリティ条件を満たし、他のセンシング技術が持つデッドゾーンの問題を排除することにより、衝突防止に最適な技術となっている。

 

6. コンチネンタル(Continental)/アドバンスド・サイエンティフィック・コンセプト(Advance Scientific Concepts) 

ドイツの自動車部品最大手のコンチネンタルは、2016年に米国のアドバンスド・サイエンティフィック・コンセプト(Advance Scientific Concepts;ASC)からLIDAR事業を買収し、ASCの技術をベースにしてLiDARの開発を行っている。

現状の主な製品は以下の通りである。

(1) 多機能カメラ一体型レーザーレーダー MFL4x0

この短距離LiDAR MFL4x0の最新版には、マルチファンクションカメラMFC400が組み込まれる予定である。これにより、パッケージングや機能の面で複数の利点が生まれる。新型MFL4x0は、小型車のミラーのベース部にも取り付けることが可能な1個のパクトなユニット内に、赤外線短距離LiDAR(レーザー画像検出と距離分析)とCMOSカメラを組み込んでいる。カメラと短距離LiDARは、現在すでに連続生産されているが、1個のユニットとして製造するのは初となる。新しいセンサーモジュールは車両前方の物体を高い信頼性で検知することができる。これらの2種類のセンサーに加え、すべての機能がMFL4x0に統合されている。検知した障害物に対し、衝突回避もしくは緊急ブレーキの動作で危険回避が可能である。さらに、車線逸脱警告、交通標識認識、インテリジェント・ヘッドランプ・コントロールなどのカメラをベースとした運転支援機能も提供される。

図8

図8 (出典:コンチネンタルのHP) 多機能カメラ一体型レーザーレーダー MFL4x0の外観

(2) 短距離LiDAR – SRL121

前面衝突を回避するためのLiDARであり、、赤外線ベースの緊急ブレーキアシストを提供するもの。すでにマイクロカーセグメントで使用されている。

(3) 高解像度フラッシュライダー

高解像度3Dフラッシュ型LiDARの将来を見据えた、高度自動運転や完全自動運転を実現するソリューション。

コンチネンタルは、2019年12月に、日本の専門誌の取材で日系メーカーの乗用車に搭載されることが決まったことを表明した。2020年末までに量産を開始する3次元LIDARは、日本の自動車メーカーが採用第1号になる模様。同社が量産するLIDARは、レーザー光を走査する可動部のない“メカレス”式である。レーザー光を拡散して照射し、受光素子をアレー状に配置して3次元位置を認識するフラッシュ方式を採用する。多くの点群で構成する1画面分の画像を1/30秒と速く検知できるのが特徴である。2016年に買収した米アドバンスド・サイエンティフィック・コンセプトの技術を基に開発したもの。

光源のレーザーの波長は1064nmであり、検知角度は、水平120度で垂直30度。解像度は水平128×垂直32(4096)画素である。センサー筐体の外形寸法は100×120×65mm。

図9

図9 (出典:日経Automotive) 2020年末までに量産する3次元フラッシュ型LIDAR

コンチネンタルは、LIDARの量産を乗用車向けから開始するが、MaaS(Mobility as a Service)向けの車両への提供も想定している。同社が開発を進めている無人運転シャトル「CUbE(Continental Urban mobility Experience)」に新型LiDARを搭載し、性能を検証中である。

図10

図10 (出典:日経XTECH) 無人運転シャトル「CUbE」に新型LiDARを搭載 (車両前方に3個、後方に1個配置)

 

7. プリンストン・ライトウエイブ(Princeton Lightwave)/アーゴAI(Argo AI)

2016年プリンストン・ライトウエイブは、自動車LiDAR事業ユニットを設立し、業界最先端のガイガーモード**LiDAR技術を自動車市場に向けて商用化する事とした。ガイガーモードLiDARは、米国で77%の自動車や軽トラックを製造する車両メーカーが参加するAuto Allianceが、衝突低減のために200m以上のセンシング能力があるとして推奨している。

プリンストン・ライトウエイブは、目に安全な波長領域(1400nm以上)で動作する波長のガイガーモードLiDARの世界的リーダーである。同社は、防衛およびマッピングの3Dイメージング用途向けに過去10年にわたりガイガーモード検出器を販売して来ている。高感度ガイガーモード検出器は、1つのフォトンでも検出可能であり、高解像度、長距離3D LiDAR画像で比類のない性能を提供できる。

**注:ガイガーモード:降伏電圧を超えた逆電圧でAPDを動作させること。ガイガーモードによってシングルフォトンの検出が可能になる。(ガイガーモードLiDARについてのアーゴAIの学会発表に関しては後述)

2017年10月、アーゴAIがプリンストン・ライトウエイブを買収すると発表。アーゴAIは、

同社の自動運転の未来を実現するという使命を加速するために、LiDARの開発と商品化において豊富な経験を持つプリンストン・ライトウエイブを買収。既にプリンストン・ライトウエイブはLiDARセンサーのラインナップを支えている技術(すでに商用のマッピングおよび防衛産業にサービスを提供)は、多くの問題を抱えている都市環境で自動運転機能を実現するために必要な検出対象範囲と解像度を拡張するのに役立つとしている。プリンストン・ライトウエイブのチームが加わったアーゴAIは、センサーハードウェアとセンサーとソフトウエア間のインターフェースの両方で革新をもたらすことができる立場にあり、パフォーマンスの向上を実現できる。また、悪天候などの困難な環境において対象物検出を処理し、動的環境で高速で安全に動作できる仮想ドライバーシステムを支援するものである。

さらに、2020年6月2日にフォルクスワーゲングループは、アーゴAIへの26億ドルの投資を確定。この契約により、2017年にVWグループ向けの自動運転車技術を開発するために立ち上げられた自動運転子会社であるオートノーマス・インテリジェント・ドライビング(AID)は、アーゴAIに吸収さ、アーゴAIの従業員は1000人以上に増加する。これにより、アーゴAIは、VWとFordの2つの顧客を持ち、米国とヨーロッパでの事業を展開するグローバル企業となる。尚、同社は、オースティン、マイアミ、ワシントンD.C.の公道で自動運転車のマッピングとテストを行っている。

2020年のIEEEのICCP(International Conference on Computational Photography)でアーゴAIはガイガーモードLiDARに関する発表を行っている。下の表1はガイガーモードLiDARと一般のLiDARの比較をしたものである。また図11は、ガイガーモードのAPDアレイを示したものである。

表1 (出典:アーゴAIのIPPC発表資料) ガイガーモードLiDARと従来のLiDARの比較

表1

 

図11

図12 (出典:アーゴAIのIPPC発表資料) ガイガーモードのAPDアレイ

 

8. ファントム・インテリジェンス(Phantom intelligence)

ファントム・インテリジェンスは2011年に設立されたカナダのスタートアップ企業であり、軍事用LiDAR技術を背景に持ち、フラッシュLiDARの開発を行なうベンチャーである。手頃な価格の信頼性の高い高度な自動運転支援システム(ADAS)を可能にするソリューションの提供を狙っている。

ファントム・インテリジェンスの持つ信号処理アルゴリズムとLiDAR設計における専門敵知識により、LiDARの設計の時間を短縮し、プロジェクトのリスクを最小限とし、優れた性能と高い信頼性を持つLiDARを提供することである。 ハードウェア、電子機器、ファームウェア、およびソフトウェアを統合したLiDAR設計により、LiDARの内部でローカルな処理が行うことができる(一種のエッジ・コンピューティング)。ユーザが持つ固有のアプリケーションの要求に対し、容易にカスタマイズできるためのリファレンス・プラットフォームの提供も可能である。

現在ファントム・インテリジェンスが提供している製品は以下の二つである。

(1) Sentinel

この機種は、コンパクトで軽量であり、高速・中長距離アプリケーション向けに設計されている。 可動部分がないため、このフラッシュLiDARは、頑丈で、強い振動にも対応できる。 センサー内部のデジタル信号処理により、信頼性の高い詳細なデータ、障害物までの距離、速度の結果を出力することができ、システム全体を簡素化できる。

主な仕様:

・サイズ (W x D x H):100 x 48 x 74 mm

・重量:350 g

・光学的構成: 2×8 (対称)

・視野

水平視野:25°

垂直視野:3.9°、1.5° (走査ライン間)

・測定距離:200 m (高反射率), 35 m (低反射率)

・消費電力:<11 W

・Class 1 の目の安全性に適合する905 nmの波長を利用

図12

図13 (出典:ファントム・インテリジェンスのHP) Sentinelの外観

(2) Guardian

コンパクトで軽量なGuardianは、高速・短距離アプリケーション向けに設計されている。 可動部分がないため、このフラッシュLiDARは、頑丈で、強い振動にも対応できる。センサー内部のデジタル信号処理により、信頼性の高い詳細なデータ、障害物までの距離、速度の結果を出力することができ、システム全体を簡素化できる。Guardianは消費電力が少ないため、センサーは小型の移動ロボットアプリケーションなどにも適合。

主な仕様:

・サイズ (W x D x H):78 x 37 x 47mm

・重量:180g

・光学的構成: 1×16 (対称)

・視野

水平視野:25°

垂直視野:1.5°

・測定距離:40m

・消費電力:<2.5W

・Class 1 の目の安全性である905 nmの波長を利用

図13図14 (出典:ファントム・インテリジェンスのHP) Gurdianの外観

 

9. ブリックフェルト(Blickfeld GmbH)

ブリックフェルトは、2017年にドイツ・ミュンヘンでミュンヘン工科大学卒のエンジニア3名により創業、高い信頼性、低価格、小型化を兼ね備えたMEMS方式LiDARセンサーの開発を通して、革新的な自動運転技術開発を推進している。既存の部品とシリコン微細加工技術を組み合わせることで、高性能・低価格の両立するMEMSミラー方式LiDARを開発し、高解像度の3Dマッピングを可能とする技術を持つ。2018年には、自動車メーカーとコンセプトの共同検証を行っており、自動運転への応用が可能なMEMS方式3D LiDARの開発企業として、世界の自動車関連スタートアップの中でも注目を集めている。

一般的にMEMSミラー方式LiDARセンサーは、ミラーを小型化すると視野角が狭くなるという問題を抱えており、小型化と高視野角の両立が課題となって来た。ブリックフェルトは、小型でありながら、150m以上の検知距離と水平120°×垂直30°という高視野角・高解像度の最先端MEMS方式3D LiDARセンサーを開発。

また、ブリックフェルトは、低価格かつ小型を実現するため、レーザーダイオードとしては、1550nm帯では無く905nm帯の低価格(1ドル以下)の物を用いることでコストを下げようとしている。ハイパワー化は難しいが,同社では独自の大口径シリコンMEMSミラーによって,1つでも多くの反射して来る光子を拾うとともに,点群データを高精度に再構築するソフトウエアにより,ロングレンジの検出を可能にしている。具体的には,LiDARを出射したときに1012個ある光子も,100m先の物体に反射してディテクタに戻ってくるのは1~5個程度となる。これを確実に捉えるため,同社は直径約12mm,面積108mm2の大型MEMSミラーを開発。これは従来の一般的な大型MEMSミラーの5.4mm2に対して20倍となる。同社はこのミラーを2枚用いるシンプルな構造で高感度を達成。ミラー径を大きくすることで外乱光によるノイズも増えるが,同社では空間フィルタリング(ビームを出射した方向だけからの光子を捉える),波長フィルタリング,S/N比を高めるデジタル信号処理の3つの技術によって対策を施している。

この最先端3D LiDARは、取得するポイントクラウドデータを活用することで、カメラと比較して高い精度で物体を検出することが可能である。高精度に物体を検出することができる特性を活かし、さらにAIアルゴリズムと組み合わせることで、駐車スペースの検出・提案、夜間警備など、さまざまな分野への応用が可能である。

現状の製品は2種類であり、主な仕様などは以下の通りである。

(1) Cube 1

Cube 1は、比類のない小型サイズで長距離検出能力と広い視野を提供する。 この3D LiDARセンサーは、駐車スポットの検出や交通流の監視、産業用ソリューションやセキュリティソリューションなどの都市モビリティアプリケーションに最適である。

主な仕様は以下の通りである。

検出可能距離 最大. 250m
視野範囲 (H x V) 70°x 30°
角度解像度 0.4°
スキャン・ライン(ソフトウエア設定可能) 例:50 ライン、20°、10Hz
動作電圧 12V
消費電力 <15W

図14

図15 (出典:Blickfeld HP) LiDARモジュールCubeの外観

 

(2)Cube Range

Cube Rangeは、超長距離検出用に開発された製品であり、広い範囲において高精度の3D測定を提供する。また、この高性能LiDARは小型サイズを実現している。 高解像度と長距離測定範囲により、移動対象物のリアルタイム検出用途に関してCube Rangeは最適な製品である。

主な仕様は以下の通りである。

検出可能距離 最大. 250m
視野範囲 (H x V) 12° x 10°
角度解像度 0.24°
スキャン・ライン(ソフトウエア設定可能) 例:. 50 ライン、 12°、10Hz
動作電圧 12V
消費電力 < 15W

図15

図16 (出典:BlickfeldのHP) LiDARモジュールCube Rangeの外観図

―以上―

 

本稿作成の参考にした記事等は次の通り。

 

IEEE Spectrum 09 Oct 2017 GM Cruise Snaps Up Solid-State

Wikipedia GMクルーズ

MOTAニュース/記事業界ニュース・自動車ニュース2020/01/27 ボッシュ、第3のセンサーLiDARを開発!センサーラインナップを拡充で自動運転がより現実のものに

ロボスタ 2020年1月9日 ボッシュが考える自動運転に必要な3つのセンサー技術とは

ボッシュ・ジャパン HP 2017/02/16: プレスリリース Robert Bosch Venture CapitalがTetraVueに投資 先進3D LIDARの技術革新をけん引

日経XTECH 2018.08 BMWに認められた高性能なソリッドステートLiDARを提供

Laser Focus World 2019.5.17 Innoviz、1億3200万ドル調達し固体LiDAR製造を加速

InnovizのHP:https://innoviz.tech/

XenomatiXのHP:https://xenomatix.com/

東洋テクニカ 自動車計測ポータル2019/5/27 一歩先行くLiDAR~ADAS・自動運転の開発に~

自動運転ラボ編集部2019年4月11日 AGC欧州法人、「自動運転の目」をフロントガラス一体型に

LeddarTechの HP:https://leddartech.com/

GlobeNewswire January 07, 2020 レダーテック、CES 2020でLiDARテクノロジーを複数個所で出展

日経XTECH 2019.04.25 LeddarTech、フラッシュ型LiDARチップをMEMS対応に

Continental-automotiveのHP:https://www.continental-automotive.com/ja-JP

日経XTECH 2019.12.09 コンチネンタルの3次元LIDAR、日系メーカーの乗用車が採用

Laser Focus World July, 20, 2016 プリンストン・ライトウェイブ、自動車用LiDAR事業部設立

Argo AI HP: https://www.argo.ai/How Acquiring a Team of LiDAR Experts Strengthens our Self-Driving Future

Techchurch June 2, 2020 Self-driving vehicle startup Argo AI completes $2.6B deal with Volkswagen, expands to Europe

ICCP Keynote Speech 2020年4月26日: Single-photon lidar imaging: from airborne to automotive platform

Phantom Intelligenceの HP: https://phantomintelligence.com/en/

OPTRONICS ONLINE 2018年05月25日【人とくるま】海外ティアワン,フラッシュLiDARのロードマップ発表

BlickfieldのHP:https://www.blickfeld.com/

OPTRONICS ONLINE 2019年05月28日Blickfeld,開発するMEMS LiDARを紹介

PR TIMES 2019年8月19日 ネクスビジョンテクノロジーズとBlickfeldは協業して、IoT用途のLiDARおよびIoTソリューションの販売を開始