東地中海、波高し。米露の艦隊集結で冷戦時代彷彿


東地中海、波高し。米露の艦隊集結で冷戦時代彷彿

ー対シリア武力行使で戦火、中東一帯に拡大?ー

2013-09-05 ジョン・ボスニッチ(ベオグラード)

米国を中心に、化学兵器使用に対するシリア・アサド政権への武力制裁の動きが確実視される中で、東地中海にロシアが艦隊を集結させ対決の姿勢を鮮明にし始めた。既に展開中の艦隊に加え露海軍が数隻の援軍を急派しているとノーボスチ通信は伝え米露が直接対決する場面も懸念されだした。

ノーボスチ通信が露国防省の高官の発言として伝えたところでは露海軍が東地中海方面へ新たに派遣を決めたのは水陸両用戦闘の大型艦『ノボチェルカスク』、『ミンスク』と電子戦戦闘艦『プリゾブィーエ』の3隻。いずれも黒海艦隊所属でボスポラス海峡経由で一両日中にシリア沖合に到着する。

現場海域には上陸作戦に投入可能な大型水陸揚陸艦『アドミラル・ネブルスキー』、『アレクサンドル・シャバリン』、支援艦艇が北海、黒海、太平洋の各艦隊からかき集められ機動部隊を編成している。露国防省は今回の決定はシリア情勢と無関係を強調しているが、クレムリンが増援部隊の急派でシリア軍事制裁へ着々動く米国等へ初めて力の行使で”待った”をかけたようにも見える。

議会の承認と言う手続きは残るが、オバマ大統領は対シリア武力制裁へ舵を切っている。最新の分析では、対決ムードがエスカレートする東地中海の軍事力は欧米が圧倒的だ。米海軍は増派を含めミサイル駆逐艦5隻と複数の攻撃型原子力潜水艦を派遣、駆逐艦は合計90発以上の巡航ミサイル『トマホーク』を装填、臨戦態勢だ。更に、原子力空母『ニーミッツ』、『ハリー・トルーマン』の原子力空母2隻が機動部隊を率い、強集揚陸艦の部隊とも合わせ搭載する艦載機の攻撃陣がいつでもシリアに挑みかかれる。空軍もシリアを取り囲む友好国に戦闘機、戦略爆撃機多数を配備済みだ。議会の反対で攻撃陣から脱落したが、英国の海空部隊は後方で睨みをきかせている。仏は制裁攻撃に加わる海空軍の部隊の準備が終了している。戦力比較で不利を承知でクレムリンが東地中海へ海軍機動部隊増派を決めたのは、米国の思い通りにさせまいとするプーチン大統領の意地のようにも見える。ロシアを牛耳る”シロビキ”とよばれる保守強硬派はシリアを重要な武器輸出国、中東での軍事プレゼンス確保で欠かせない友邦国と見なしている。9月3日、米、イスラエルは有事の防衛の盾『アロー』対弾道弾ミサイル発射実験を敢えて実施し、イランへの力の誇示を行なった。露側はこれがシリア武力行使が意外に近い兆候と見なす。

イランはシリア制裁の武力行使は中東全域で戦火を拡大させると警告した。ロシアの艦隊増派が思わぬ衝突を東地中海で惹起しないことを祈る。