三菱MRJ遅延問題、FAA新規則への対応に手間取る


2013-09-07  松尾芳郎

 

MRJ協力企業

図:三菱MRJの主な協力企業とその受持ち分野。この他にも座席/デルタ工業(日本)、エルロン、スポイラー/ジャムコ(日)など、全体の部品、装備品の大半が協力企業から提供される。加えてマニュアル作成/サーブ(スエーデン)、訓練プログラム支援/CAE(カナダ)、顧客支援/ボーイング(米)など、ソフト面でも多くの企業が参加している。

 

2013-09-04 Golden Eagles newsに掲載されたMavis Toh氏(Singapore)作成の「MRJ attributes programme delay to US FAA’s delegation process」を要約し多少付記して以下に述べる。

 

三菱航空機がMRJリージョナル機の開発に予想以上に時間が掛かっているのは、米国FAAの新しい型式証明認可手順[ODA]への対応に手間取っためである。

同社の営業担当責任者(Y. Fukuhara氏)の電話インタビューに対する説明は以下の通り;—

 

『FAAは、型式証明発行に関わる新しい規則「organisational delegation authorization (ODA) process」つまり「組織に認証代行の権限を委譲する際の手順」を、2009年(実際は2006年8月)から施行した。三菱MRJはこの規則が完全に適用される最初の飛行機となった。ボーイング787の型式証明取得時には、ODAが部分的に適用され、787搭載のリチウム・イオン電池に関わる耐空性要件の試験の責任がボーイングに委任されている。

ODAシステムの下で、三菱はMRJについて、航空機の設計、試験および解析手法、そして試験結果が耐空性要件を満足している事の確認、に関わる権限を委譲されたのである。しかし一方で、実施するための必要な手順を細かく決める、と云う大変時間と人手を要する仕事が必要になった。

新しいODAシステムでは、全ての設計と製作に関わる社内手順を、予め設定し文書化してFAAの認可を得なくてはならない。これは、三菱が自社内で決めた手順の正当性を立証するだけでなく、搭載する全装備品メーカーにも同じ手順の準備が要求される。装備品メーカーは新システムについて理解はしているが、三菱側としては、装備品メーカーのこれまでのシステムを、三菱の新しい手順書に逐一組込むことが必要になった。これは大変時間の掛かる仕事となった。。

新ODAシステムが2009年に発効した事は判っていたが、実際に適用するのにこんなに時間が掛かるとは予想していなかった。

こうしてMRJのあらゆる装備品にODAシステムが適用されたのだが、ここへ来てそのプロセスがやっと確定し、MRJの初飛行へ向けての道が開けた、後はそれに進むだけだ。

MRJの型式証明取得には、米国FAA、ヨーロッパ航空安全庁(EASA)、日本の航空局(JCAB)が関与するが、FAAのODAシステムはJCABでも採用しているので、FAA ODAシステムの要件をクリアーできれば問題はない。

今回が最後の遅延発表で、これ以上の遅れはあり得ない。』

 

この電話インタビューは、MRJの初飛行が2013年末から2015年第2四半期に、また就航が2017年第2四半期に延期、と発表されてから、1週間後に行なわれたもの。上述のように、設計それに型式証明取得に予想以上の人員と時間を要した事、これが装備品の納入と機体製造に大きな影響を及ぼした、のが遅延の理由ということである。

三菱では現在初飛行用の初号機と地上試験用機体の2機が併行して組立中だ。三菱はシステム装備品のどの位が納入済みか明らかにしていないが、構造部材は90%が製作済みとしている。そしてODAシステム適用のため再製作が必要な部品はもうない。

MRJ初号機の最終組立ては間もなく名古屋空港に隣接した小牧工場で開始される。そして2014年春には、最初のP&W製PW1200エンジンが引渡される。

今回の遅延が全体の開発コストを押上げたのは間違いないが、三菱では“それほど多額ではなく今後吸収できる範囲だ”としている。

MRJについてもう一つのニュース。昨年夏にP&W社との間で、PW1200Gエンジンの最終組立と試運転を、量産体制が始まってからは小牧の三菱名古屋誘導推進システム製作所で行なうことで合意した。これで量産開始後はエンジン、機体とも名古屋三菱で生産されることになる。

 

FAAはこれまで航空行政に関わる許認可事項を民間に移譲する政策を進めて来た。これは設計審査を委託するDER(Designated Engineering Representative)制度等で良く知られている。

ODAシステムもその延長上にある規則で、航空機の型式証明のみならず、追加型式証明、製造証明発行の分野で、FAAが直接審査するのではなく、勝れた安全管理体制を持つ企業へ「認証代行の権限を委譲」する制度である。いわば小さな行政を指向するやり方と云える。我国に関係する企業としてはジャムコ・アメリカが、新造機向け客室内装備品製造と既存機の客室改修に付いて追加型式証明と製造証明の分野でODAの認定を取得した(2008-07-16)のが最初である。

–以上−