ベイルートの米大使館員、退去開始


―米軍臨戦態勢、最終関門は来週の議会審議―

 2013-09-07 、13:30 ジョン・ボスニッチ(ベオグラード)

シリアの隣国、レバノンの首都ベイルートから米大使館員の退去が始まった。米軍が武力行使に踏み切る前、必ず見られる現象だ。米海軍制服組トップのジョナサン・グリーナート作戦部長は9月7日までに『巡航ミサイル発射を含め”臨戦態勢”は整った』と言明。化学兵器使用で米国の対シリア軍事制裁は”秒読み”に近いことを示唆した。下院は武力行使の是非を来週審議するが、オバマ大統領の決断を翻す可能性は低い。

ベイルートの有力メディアは9月7日、現地駐在の米大使館員の退去の動きを相次いで報道した。非常時の要員をのぞく館員、家族等が退去を始めたという。アサド大統領に近いヒズボラ勢力が優勢なレバノンで、米軍の武力行使に対し報復攻撃に出る可能性が危惧されるのに他ならない。米国務省はベイルート駐在の米大使館に退去命令を発出済みである。

一方、米海軍のグリーナート作戦部長は、9月6日、ワシントンのシンクタンク、『アメリカン・エンタープライズ』で講演。東地中海等で展開中の米艦隊は巡航ミサイル、トマホークの発射が何時でも可能な状態だと指摘した。同ミサイルは水上艦、潜水艦何れからも発射可能。敵が攻撃を察知する時間的余裕が限られ第一線部隊司令官攻撃の選択の幅が広がる。イラク戦争や、アフガン作戦で常に米軍の攻撃の先陣を切っている。同時にコストが1発、150万ドルで戦費への跳ね返りに目を光らす議会関係者に説得力がある。

欧州の軍事筋は東地中海で作戦行動中の4隻の米海軍、アーレー・バイク級ミサイル駆逐艦には合計200発以上のトマホークは準備されているという。それに潜航中の攻撃型原潜の同ミサイルも少なくない。

化学兵器使用問題でシリアに対する軍事行動に反対姿勢をエスカレートさせるロシアのプーチン大統領はサンクトペテルブルグでのG20首脳会議で中国やインド、ブラジル、南アフリカの有力新興国の支持をバックにオバマ大統領と真っ向から渡り合った。攻撃が実行されれば、シリア支援の姿勢を明確に表明。具体的には防空能力強化で最新鋭地対空ミサイル、S-300の輸出許可が視野に入っている。イスラエルの有力紙もこうした動きに言及、警戒している。

地対空ミサイル、S-300は射程が最大150キロ、到達高度が最高2万7,000メートル。マッハ2近いスピードで発射装置から一度に6発が打ち出せる。電子防御機能もあり米、イスラエル空軍も同ミサイル配備を航空作戦の重大な脅威と警戒してきた。

米議会では上院がオバマ大統領の対シリア軍事制裁に賛成だが、下院はここへきて微妙だ。下院本会議で否決という事態になればホワイトハウスは厳しい立場に追い込まれる。しかし、オバマ大統領が政治解決へ路線転換すれば、同大領のレームダックは一気に早まるかもしれない。

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