2013-11-07 マーク・デブリン(米フロリダ州マイアミ)
民間航空機のパイロットの放射線被曝問題へNASA(米航空宇宙局)が重大な関心を寄せている事が判った。『NASAサイエンス・ニュース』がこのほど掲載した“宇宙天気と航空への影響』(the effects of space weather on aviation)で明らかになった。影響緩和策策として宇宙空間での『放射線現況図(NAIRAS)』の早期実用化と活用が浮上している。
今回の問題を提起したのはNASAの上級科学者、クリス・マルテンス氏。ラングレー研究センターに所属している。
それによると地上に比べ高度1万㍍以上を飛行するジェット旅客機のパイロットは放射線被曝線量が最大、地上に比べ10倍以上に膨らむという。元凶は宇宙空間から常時降り注ぐ宇宙線と太陽が放つ太陽放射線。
地上で生活する人類も10日ごとに胸部レントゲン照射に等しい被曝量があると計算されている。パイロットの場合は高々度飛行を長時間余儀なくされるケースに遭遇する為、被曝量が地上と大きく異なる。空気が希薄で宇宙空間からの放射線遮蔽効果が限られる。飛行ルートも左右する。赤道付近に比べ北極圏に近いルートは被曝量が多いという。
現在、太陽活動は極大期で太陽放射線の影響がパイロットにじわりきいてくる。
最新のデータでは北極圏経由でシカゴから北京へノンストップ飛行するとパイロットが浴びる放射線被曝量は胸部レントゲン照射、2回分に相当する。乗客もまた同様だ。
パイロット、客室乗務員に取って厳しいのはこうした飛行回数が一般乗客と比べ物にならない。特に、燃料高騰、混雑回避、時間短縮-等で北極圏経由ルートの採用が日常化、飛行高度もこれ迄以上に高々度のケースが多い。
ジェット機時代のパイロットの放射線被曝問題については『1990年代後半、EUでも取り上げられ2000年5月から実態調査が行われた』(BBC放送)。英国の有力な医学雑誌『ランセット』でもこの問題に警鐘を鳴らした。
白人パイロットだと飛行時間が5,000時間を超えると白血病の発症との因果関係がみられるという。皮膚がんに罹患する頻度が高いとも言われる。
FAA(米連邦航空局)がパイロットを原子力発電所で勤務する職員より年間被曝量は多いと見ており、『パイロットの職種を放射線作業従事者と扱う』(NASAニュース)が何よりの証拠だ。
しかし、経済のグローバル化等でジェット機を搭乗は現在、日常茶飯事だ。航空旅客需要はこの先20年で軽く2倍以上。そこで、こうした放射線被曝の軽減緩和策としてNASAが中心となって大気圏内の高度別放射線実況図をリアルタイムで測定する計画が進行中だ。『NAIRAS』と呼ばれ地上の天気図の様に宇宙空間の放射線の変化を時事刻々観測する仕組み。先頃NASAは気球を使用し高度別の詳細な観測を実施したばかり。
宇宙空間の天気とパイロットの放射線被曝問題を真正面から取り上げる時期に来ているようだ。