イージス艦2隻の追加建造、新防衛大綱に明示へ


−イージス艦8隻体制となれば、我国弾道ミサイル防衛の力は格段に向上する–

 

2013-11-11  松尾芳郎

 

173こんごう

図;(海上自衛隊)高速航行中のイージス(Aegis)艦、艦番号173“こんごう”。同クラスは174“きりしま”、175“みょうこう”、176“ちょうかい”の計4隻。基準排水量7,250㌧、満載排水量9,500㌧、Mk41 VLS(ミサイル垂直発射装置)を29/前甲板+61/後甲板=90発のSM-3を含む各種ミサイルを装備できる。

対艦ミサイルはハープーン4連装発射機を2台。後甲板はヘリコプタ離着艦用スペースを備えている。イージス・システムの主センサー[SPY-1D]フェイズドアレイ・レーダーを艦橋4面に配置、探知距離は500km、同時追跡目標数は200以上と云われる。

搭載するイージス・システムは、“こんごう“、”きりしま“、”みょうこう“がベースライン4、”ちょうかい“はベースライン5。調達コストは1隻当たり1,200億円。

177あたご

図;(海上自衛隊)艦番号177“あたご”、同クラスは178“あしがら”と2隻。前掲の“こんごう”型を改良し、VLSミサイル発射装置は[64/前甲板+32/後甲板=96発]に増強、ここにSM-3を含む各種ミサイルを搭載する。艦載ヘリコプタ用のハンガーを後甲板に備える。対艦ミサイルは90式対艦誘導弾4基発射機2台に変更。基準排水量は7,700㌧、満載排水量は1万㌧。調達コストは1隻当たり約1,400億円。

現在「弾道ミサイル防衛(BMD)」能力付与の改修をロッキードマーチン社で実施中、2017年1月に完成する予定。搭載イージス・システムは最新のベースライン7.1。

 

1. 新防衛大綱

防衛省は、去る11月5日に弾道ミサイル防衛(BMD=Ballistic Missile Defense)能力を有するイージス(Aegis)艦を、10年以内に現在の6隻から8隻に増やすことで政府内の調整に入ったことを明らかにした。今年12月に決まる防衛大綱に明示される予定だ。

新防衛大綱は今後10年間の防衛方針の概要を示すもので、イージス艦2隻増強の他に、島嶼防衛力整備のための陸上自衛隊定員増、弾道ミサイル防衛のため敵発射基地を攻撃する能力整備の検討、など重要事項が盛込まれる。

 

2. イージス艦

1980年代に旧ソ連海軍の対艦ミサイル飽和攻撃から艦隊を守るために防空艦を開発配備したのがイージス艦の始まり。この防空艦はイージス・システムを搭載したタイコンデロガ(Ticonderoga)級(満載排水量9,590㌧)で、現在でも22隻が稼働中である。1990年代からこれを改良、低価格化したアーレイ・バーク(Arleigh Burke)級(満載排水量9,100㌧)が作られ、現在までに62隻が配備についている。原型はフライト1で21隻、電子戦能力を向上したフライトIIが7隻、ヘリ搭載を可能にしたフライトIIAが34隻となっている。いずれも防空艦として射程120-190km、射高24,000m級の対空ミサイルSM-2を垂直発射装置(VLS)に装備している。

ところが近年アジア中近東諸国からの中短距離弾道ミサイルの脅威が高まり、SM-2では対応能力が不足するので、これを改良して中短距離弾道ミサイルの迎撃能力(いわゆるBMD)を備えるようにしたのがSM-3である。

現在配備が進みつつあるSM-3ブロックIAは、射程700km、射高500km、に能力が向上している。

米ミサイル防衛局によると、2013年7月迄にイージス艦28隻(含むアーレイ・バーク級22隻)にSM-3 BMD能力付与の改修が済み、現在も改修が続けられている。

我が海自の“こんごう”級4隻は、アーレイ・バークを基本にして作られた防空艦だが、すでにSM-3 BMD改修を完了している。残りの2隻“あたご”級は改修が始まったところ。SM-3のメーカー、レイセオン社によると、これ迄に150発以上のSM-3ブロックIAが両国海軍に引渡し済み、と云うことだ。

 

3. 我国のミサイル防衛(BMD)

我国のミサイル防衛は、まず飛来する敵ミサイルを大気圏外でイージス艦搭載のSM-3が迎撃、撃破する、討ち漏らしたミサイルは地上配備のパトリオットPAC-3が迎撃破壊する、と云う2段構えの体制で整備が進んでいる。

SM-3 BMD改修済みの“こんごう”級4隻は、上層空域での弾道ミサイル防衛を受持つ。SM-2装備のままだった“あたご”級2隻は、2013年4月にロッキードマーチン社との間でSM-3化の改修契約が結ばれ、2017年1月に完成、BMDに加わる予定である。

改修にはSM-3本体のみならずイージス(AEGIS)・システムの改良も含まれている。

これ迄使われていたイージス BMD 3.0装置/ソフトには敵ミサイルの追跡(tracking)の機能しかなかったが、新しいイージス BMD 3.6.1システムは、追跡だけでなく、SM-3弾頭の誘導、着弾までを艦側で行なえる“完全交戦(full engagement)”方式を備えている。将来は、個艦でなく僚艦と共同で運用する“協同交戦能力(Cooperative Engagement Capability)”方式に改良される筈だ。

米海軍では、さらに進化したイージス BMD 4.0.1装置とソフトを“レイク・エリー(Lake Erie [CG 70]”に搭載、試験中で、成功すれば米艦のみならず海自イージス艦にも採用されるだろう。

 

4. イージス(Aegis)BMD SM-3ミサイルの進化

SM-3の改良予定

図:(Missile Defense Agency)米国ミサイル防衛局が公表した「イージスBMD SM-3の進化図」。現在海自4隻のイージス艦に配備されているのは左端の[SM-3ブロックI/IA]。左から3番目に示すSM-3は日米共同開発のブロックIIA、これは2015年に完成、2018年から配備が始まる予定。

ブロックI/IAは弾体直径が13.5inch、これに対しブロックIIAは21inchと太くなり、射程が大きく延びる。弾頭は同じ運動エネルギ(KW=Kinetic Warhead)型だがIIAは大型になり、シーカーが改良され、撃破能力が向上する。

 

SM-3では、ブロックIIAの開発が日本側12億㌦、米側15億㌦の拠出で、レイセオンや三菱重工などの手で進められている。ブロックIIAは、射程2,500km、射高1,500kmに大きく能力が向上するので、大気圏外を高高度で飛来する大陸間弾道ミサイル(ICBM)の迎撃にも威力を発揮できる。

これにはイージス BMD 5.1ソフトが使われる予定で、今の計画では完成が2015年、実戦配備は2018年頃となっている。

SM-3ブロックIIAが配備されれば、理論上常時2隻のイージス艦の配備で我国の弾道ミサイル防衛は可能と云われている。仮に2隻のイージス艦のVLS全てにSM-3ブロックIIAを装備すれば、敵が弾道ミサイル、巡航ミサイルなど最大182発のミサイルで同時飽和攻撃を仕掛けて来ても迎撃可能となる。8隻体制となれば、整備、訓練、故障などで稼働できない艦が生じても、運用上の柔軟性が増し対処が遥かに容易になる。

2隻の新イージス艦が建造されるとなれば、ブロックIIAの運用のみならず、米海軍が開発中の“アーレイ・バーク・フライトIII(Arleigh Burke Flight III)”システムと新レーダー“Dual-band SPY−1D/SPQ−9B”の導入もあるかも知れない。

−以上−