−有人実証機は2023年飛行が目標、[SR-72]は2030年から配備可能に−
本稿は2013-11-08 マーク・デブリン(米フロリダ州マイアミ)寄稿「マッハ6級、SR-72計画明るみに」の補足記事。
2013-11-15 松尾芳郎
Revised 2013-12-29
図:(Lockheed Martin)[SR-72]の完成予想図。かつて活躍した有人超音速偵察機[SR-71]ブラックバード(Blackbird)が引退して久しいが、この後継となる無人の極超音速機[SR-72]計画が進んでいる。
ロッキードマーチンが(2013-11-01)明らかにしたところによれば、[SR-72]は巡航速度マッハ6でSR-71の2倍、双発で全長はSR-71とほぼ同じ約30m(100ft)、航続距離は5,400kmで両者同じ。
先ず、やや小型の全長20m(60ft)の単発型有人実証機(FRV)を作り2023年に飛行する、その成果を基に[SR-72]の製作を進め2030年から供用する計画と云う。
[SR-72]は、ステルス性を重視せず、極超音速飛行で相手に対応の時間を与えない、つまり“スピードが新しいステルス”(speed is the new stealth)”コンセプトの飛翔体、となる。
図:(Lockheed Martin)ロッキードマーチン製SR-71ブラックバード(Blackbird)1967年から配備された超音速高高度偵察機、32機製造されうち12機が事故で損失。1999年に退役した。残った機体は全米各地の航空博物館に展示されているので容易に見学できる。
全長32.7m、翼幅17m、最大離陸重量78㌧、センサー類1.6㌧を搭載する。
乗員は前席にパイロット、後席に偵察システム士官(RSO)の2名、機体は85%がチタン合金製、残りは複合材製。飛行中は高温になるため、放熱を目的に全体を黒に近い濃紺に塗装、内翼部の表面は熱膨張に対応するため前後方向の波形構造(corrugated skin)にしてある。チタン表面の下には燃料を流し冷却をしている。着陸直後でキャノピイ表面は300℃にもなるので整備では充分な注意が必要だった。
エンジンはPW J58-P4推力34,000lbs(1151kN)を2基、マッハ3.2辺りで最も効率が良いように作られている。J-58はターボジェットとラムジェットを組み合わせたハイブリッド・エンジン。低速域ではターボジェットで吸入空気を圧縮大部分の推力を生み出す。高速になると、ターボジェットはほとんど推力を出さず、吸入空気の殆どは入口のショックコーンで圧縮されてアフトバーナ部に導かれ燃焼、大部分の推力を出す。
1976年に米空軍のSR-71ブラックバード(Blackbird)有人偵察機はニューヨーク−ロンドン間を2時間弱で飛び、速度マッハ3を記録した、以来この記録は40年近く破られていない。しかしこれは不滅の記録とはならないだろう。
SR-71を生んだ同じロッキードマーチンのスカンクワークス(Skunk Works)で目下開発中の極超音速機[SR-72] が完成すれば、SR-71の2倍の速度で飛ぶ予定だからだ。
[SR-72]は、高度100,000ft(33,000m)以上の高空を巡航速度マッハ6で飛ぶ無人機で、情報(intelligence)、監視(surveillance)、偵察(reconnaissance)の[ISR]任務に加え攻撃(strike)ミッションをこなす汎用のプラットフォームとして、基礎的な研究が進められてきた。
明らかになった内容によると、まず2018年に単発型の有人実証機(FRV=flight research vehicle)の詳細設計をスタート、2023年に完成させマッハ6飛行を開始、この成果を基にして双発の[SR-72]を製作し、2030年の配備を目指すと云うもの。
SR-71は計算尺と製図板と云う20世紀の技術で作られた飛行機、これに対し[SR-72]は数百万ラインに及ぶコンピュータソフトとチップを駆使して開発が行なわれている。
SR-71は、マッハ3、つまり2km/秒の速度で飛び対空ミサイルの攻撃をかわし偵察任務についてきたが、[SR-72]はこの2倍、秒速4kmで飛行する。このため従来型の対空ミサイルでは迎撃不可能で、唯一の対処法としては最新の弾道ミサイル防衛用イージスシステムSM-3に頼ることとなる。つまり[SR-72]の時代では“スピードが新しいステルスになる”。(スカンクワークス技術先進システム担当副社長アル・ロミグ(Al Romig)氏の言葉)
現在のF-35、F-22、スーホイPAK FAなどの第五世代の航空機は、敵防空網を突破するためステルス設計を採用し、速度はせいぜいマッハ2程度、速度よりもステルス性に重きを置いて作られている。
図:(Lockheed Martin)開発中の「タービン使用コンバインド・サイクル推進装置(TBCC=Turbine-Based Combined Cycle Propulsion)」の概念図。
スカンクワークスでは、7年前からエアロジェット・ロケットダイン社と協力して、「タービン使用コンバインド・サイクル推進装置(TBCC=Turbine-Based Combined Cycle Propulsion)」の開発を進めてきた。これは既存のタービン・エンジンを使い超音速燃焼のラムジェットと組み合わせて、離陸からマッハ6までの速度領域をカバーしようと云う考え方だ。
ここでタービン・エンジンは離陸からマッハ3までの範囲を受け持ち、そこから「デユアルモード・ラムジェット(Dual-Mode Ramjet)」が作動、マッハ6に加速する。タービンとラムジェットは共通のインレットとノズルを使う予定。
ところが、現用のタービン・エンジンは速度マッハ2.5程度までしかカバーできない、一方ラムジェットはマッハ3-3.5から推力を発揮する。開発チームは、この両者のギャップであるマッハ3付近を埋めるべく取組んだ。
すなわち、現用のF100/F110級エンジンの運転範囲をより高速領域に拡げるとともに、ラムジェットの運転可能範囲を低速域に拡大することで、成功の目処を付けた。
詳細は明らかでないが、タービン・エンジン側ではコンプレッサ入口空気を冷却し性能を上げるため“プリクーラー法”を採用し、また高速域を拡げるためアフトバーナに似た“ハイパーバーナ”が組込まれる模様。ラムジェット側は、ロケットを使って加速し、マッハ3~3.5辺りでラムジェットにバトンタッチしてマッハ6に加速するデユアルモード・ラムジェット(Dual-Mode Ramjet)が検討されている。
現在は、運転領域を拡大した小型のタービン・エンジンと新構想のラムジェットを個別に試験している段階だが、2018年までには有人実証機(FRV)に搭載する複合エンジンを完成する、と云っている。
[SR-72]の開発には、米空軍(USAF)と「国防先進研究計画局(DARPA=Defense Advanced Research Projects Agency)」が協同で取組んだ一連の極超音速試験機(HTV=Hypersonic Test Vehicles)」の研究成果を活用している。
HTVは「ファルコン(Falcon)」計画と呼ばれ、地球上何処でも攻撃可能な無人システムを開発するのが目的だった。原型機はHTV-2で、2010年と2011年にロケットブースタを使って打上げられ、最高速度マッハ20(20,930km/hr)、機体表面温度1,925℃、の飛行を記録した。この後継機HTV-3X は、ターボジェットで離陸加速し、スクラムジェットでマッハ6飛行を行い、帰還する、と云う想定で計画されたが、2008年にキャンセルされた。
[SR-72]計画にはこれ等で得られた知見が活用されている。
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