女子受刑者、20年で2.4倍に


―高齢女性の万引き急増―― 25年版犯罪白書より

20130-11-19   豊島典雄

刑法犯の認知件数も、検挙人員も減少しているものの、一般刑法犯(刑法犯全体から自動車運転過失致死傷等を除いたもの)は全体に高齢化が進み、65歳以上の高齢者が約17%を占め、48,500人余りと平成5年の5.2倍になっている。高齢化は女子のほうが顕著で、女性の一般刑法犯のうち高齢者は27%を占め、高齢者の検挙人数の3人に1人が女性である。

平成24年における一般刑法犯検挙人員のうち罪名別構成比では、高齢者では、窃盗の割合が高いが、特に女子では、約9割が窃盗であり、しかも万引きによる者の割合が約8割と際立って高い。

認知件数も検挙人員も減っているが………

15日に公表された法務省の「平成25年版犯罪白書」によると、刑法犯の認知件数は、平成8年から毎年戦後最多を記録し、14年には369万3928件にまで達したが、15年から減少に転じ、24年は201万5347件(前年比12万4373件(5.8%)減)まで減少した。

最近の認知件数の減少は、例年、刑法犯の過半数を占める窃盗の認知件数が、15年から毎年減少したことが大きな要因となっている。窃盗を除く一般刑法犯の認知件数も、17年から減少しているが、5年と比べると1.6倍である。

刑法犯の検挙人員は、平成10年に100万人を超え、11年からは毎年戦後最多を記録し、16年に128万9416人を記録した後17年から減少に転じ、24年は93万9826人であった。

検挙率は、平成13年には、刑法犯総数で38.8%、一般刑法犯では19.8%と戦後最低を記録したが、14年から上昇に転じ、18年以降は横ばいで推移し、24年は、刑法犯総数で53.1%(前年比0.7ポイント減少)、一般刑法犯では31.7%(前年比0.4ポイント上昇)だった。

刑法犯の認知件数では、窃盗が51.6%と最も高く、次いで、自動車運転過失致死傷等(31.4%)、器物損壊、横領(遺失物等横領を含む)、詐欺の順であった。検挙人員では、自動車運転過失致死傷等が69.4%を占めている。

一般刑法犯の検挙人員の高齢化が進み、60歳以上の構成比は、平成5年に5.7%(1万6892人)であったが、24年は、23.8%(6万8299人)を占め、特に85歳以上の高齢者が16.9%(4万8559人)を占めている。リタイアし、余生を楽しむ年齢になってつまずいてしまうのである。

窃盗は、認知件数において一般刑法犯の大半を占める(平成24年は75.3%)。7年から13年まで、認知件数の増加と検挙率の低下が続いていたが、14年からは検挙率が増加に転じ、15年からは認知件数が減少に転じた。24年の認知件数は、認知件数増加前の5年を下回った。また、24年の検挙率は、27.5%であり、戦後最低であった13年と比較すると11.8ポイント高い。

窃盗の種類としては、非侵入窃盗が半数以上を占めている。手口としては、自転車盗、万引き、車上狙いの順に多い。侵入窃盗、乗り物盗、非侵入窃盗のいずれも認知件数は、平成13、14年前後をピークに減少している。手口別に見ると、自動販売機ねらいは11年(認知件数22万件、窃盗総数に占める構成比11.6%)、車上狙いは14年(認知件数44万件、窃盗件数に占める構成比18.6%)をピークに、それぞれ大きく減少している一方、万引きは、16年まで増加傾向にあり、その後は概ね横ばいで推移している。

また、振り込め詐欺を含めた特殊詐欺は8693件で、前年に比べて約2割増加し、被害額は前年の約2倍の357億円余となっており、特に振り込め詐欺以外の特殊詐欺は大きく増加した。特殊詐欺とは被害者に電話をかけるなどして対面することなく偽もうし、指定した預貯金口座への振込みその他の方法により、不特定多数の者から現金等を騙し取る犯罪(現金等を脅し取る恐喝も含む)の総称である。

なお、一般刑法犯により検挙された者のうち再犯者は13万人余りと検挙者全体のおよそ45%を占め、再犯者率(検挙人員に占める再犯者の人員の比率)は平成に入って最も高くなっている。再犯者率は平成9年から一貫して上昇している。気になる数字である。

高齢者の検挙人員増加

年齢別の検挙人員では、高齢者の検挙人員は他の年齢層と異なり、増加傾向が著しく、平成24年は、5年の検挙人員の約5.2倍となっている。高齢者の検挙人員の人口比は、他の年齢層より低いが、他の年齢層に比べて上昇が著しく、平成24年は5年の約3倍である。

高齢者の一般刑法犯検挙人員の罪名別構成比を男女別に見ると、高齢者では前述のように、窃盗の割合が高いが、特に女子では約9割が窃盗であり、しかも万引きによる者の割合が約8割と際立って高い。

高齢者の一般刑法犯検挙人員の大半を占める窃盗の増加は著しく、平成24年は5年の約5.5倍であった。さらに粗暴犯である傷害及び暴行も著しく増加しており、重大事犯である殺人および強盗も増加傾向にある。

「吾十有五にして学を志し、三十にして立ち、四十にして惑わず、五十にして天命を知り、六十にして耳従う。七十にして心の欲する所に従えども、矩(のり)を踰(こ)えず」(論語)。現代は65歳を超えても惑うようである。

今回の白書では女子の犯罪を詳しく分析しているが、女子の検挙人員は、平成4年の5万2030人を底として、5年から増加傾向となり、17年には戦後最多の8万4175人を記録した。その後、再び、減少に転じ、24年は、6万431人であった。女子の人口比(14歳以上の女性10万人あたりの一般刑法犯検挙人員)も、検挙人員の推移と同様の傾向にある。

女子の一般刑法犯の高年齢化顕著

女子の一般刑法犯の検挙人員を年齢層別に見ると、女子の高年齢化は男子以上に顕著で、50歳以上の者の占める割合は、平成10年までは概ね2割未満であったが、16年には3割を超え、22年からは4割以上を示している。特に、65歳以上の高齢者の比率は顕著な上昇傾向にあり、5年は5%台であったが、13年には1割を超え、20年からは2割以上で推移している。24年は高齢者が27.3%と5年の約5倍であり、24年の男子(14.1%)に比較して顕著に高く、一般刑法犯による高齢者の検挙人員の3人に1人が女子であった。24年の一般刑法犯の検挙人員を罪名別・男女別に見ると、男女ともに窃盗の占める割合が高いが、女子は窃盗が8割近くを占めており、男子(5割弱)に比較して、顕著に高い。特に、万引きの占める割合が、女子は 6割強であり、男子の約2.5倍であった。また、女子の高齢者では、窃盗は9割強を占めており、男子の高齢者の場合(6割強)と比較しても際立って高く、特に、万引きの占める割合が約8割にも及び、男子(5割弱)に比べ著しく高い。

昨年、新たに刑事施設に入所した受刑者は2万4780人。このうち女子受刑者の数は2225人。全体に占める女子受刑者の割合は最近20年間で最高の9%と2倍以上に増えた。65歳以上の割合は13%と、男子受刑者(8.5%)に比べて高齢化が進んでいる。女子の入所受刑者の高齢者では窃盗が5年(18人)から24年(234人)にかけて13倍に増加している。

なお、平成20年から24年の女子の入所受刑者は、29歳以下では、覚せい剤取締法違反の占める比率が5割を超えている。30歳以上では、年齢が上がるにつれて、覚せい剤取締法違反の占める比率が低くなるとともに、窃盗の占める比率が高くなっており、50歳以上64歳以下では窃盗の比率が約55%、 65歳以上の高齢者層では80%となっている。

女子収容者、既決は定員オーバー

刑事施設の女子の被収容者は19年まで増加し以降は横ばいである。収容率は、16年まで上昇傾向にあったが、女子の収容人員の拡大により、17年以降は低下傾向にある。24年末現在においては、女子の収容定員が6092人(このうち既決の収容定員は4527人)で、その収容率は86.7%(既決103.4%、未決38.3%)であり、既決については収容定員を上回る状態が続いている。

また、平成20年の女性出所受刑者について、出所年を含む5年以内の累積再入率は30.5%であり、男子の同比率(40.6%)に比して低い。しかし、罪名別に見ると窃盗は45.1%と、男性の同比率(48.5%)と同程度に高い。

白書はまとめで、全体な傾向として、女子の犯罪は男子と比較して数は少ないが、検挙人員、起訴人員及び入所受刑者人員が過去20年間というスパンでは増加し、また、とりわけ入所受刑者では男子以上の急速な高齢化が見られる。そして、窃盗または覚せい剤取締法違反者の割合が高く、これらの者に対する処遇のあり方が再販防止を図る上でもきわめて重要だと指摘している。

高齢者を孤立させないで

特に、万引き事犯者は、一般刑法犯の検挙人員中8割を占めている(男子では5割弱)上、増加傾向にあることからすると、女子犯罪者の再犯防止を図る上で、万引き事犯者に対する効果的な処遇のあり方を探ることは特に重要な問題だとも指摘して、いくつかの具体策も提示している。

「規範意識が低下する前の段階で、たとえば、初めて検挙されたときなどの初期段階において、適切に対処し、規範意識を喚起させるとともに、万引きを繰り返させないための効果的な処遇を行うことがきわめて重要である」「受刑者の再犯防止と社会復帰を図るには、更生に適した帰住先の確保が重要である」。規範意識の涵養と社会の中で孤立させないことが重要なようだ。

また、矯正施設における処遇体制の充実・強化について白書は以下のような問題点を指摘している。

「刑事施設の女子収容率は、既決については100%を超える状況が常態化していること、女子の入所受刑者は高齢者層で万引きを主とする窃盗事犯者、若年者層では覚せい剤事犯者が多く、また、それぞれの年齢層や入所者数等に応じた問題がある。男子の刑事施設は、受刑者をその犯罪傾向の度合いや属性により区分して収容しているが、女子施設では、それらを問わず、同一施設の中で混合して収容している。さらに、女子の受刑者は精神障害を有する者の占める比率が高く、異常な食行動を繰り返す摂食障害のある者も少なくない。こうした者に対する医療的措置や配慮、心身のケア等は、個別的対応が求められ、また、適切な措置を行う上での専門性が高いものといえる」。

生活に困窮して万引きするだけではなく、過食症などの摂食障害のため食べ物を盗むことを繰り返したり、精神疾患を抱えたりしている人も少なくないというのだ。個別的対応を求められる。だが、現在はきめ細かな指導が難しい状態にある。受刑者の大多数を占める男子中心に考えてきた処遇のあり方を見直す必

要があるようだ。

そして、「これらの問題に対処するには、心理療法、医療や介護等の分野の外部専門家と積極的に連携するなど民間の支援・助力を最大限に活用するとともに、施設の拡充を含む処遇体制の充実・強化を図るべきだろう」と白書は訴えている。

谷垣禎一法務大臣は15日の閣議で報告した後の記者会見で「女性の犯罪では、窃盗と薬物犯罪の比率が極めて高く、高齢化が進んでいる。高齢化に対しては、法務省の矯正部門だけではなく、社会保障とどうリンクさせていくのかが不可欠であり、総合的に施策を組み立てて実行に移していきたい」と語った。

深刻な高齢女性の万引き。要因としては日本社会のモラルの衰弱と、デフレの深化を考えさせられていたが、孤立した1人暮らしの女性高齢者の増加もあるようだ。今や、日本人の4人に1人が高齢者である。また、高齢の男性140万人と、高齢の女性350万人が1人暮らしである。社会の中で孤立しないよう見守る仕組みが必要なようだ。

官民上げた取り組みが期待される。

−以上−