–空港内で垂直尾翼を取外し、胴体頂部を広範囲に切取りパッチ当て接合中−
2013-12-11 松尾芳郎
Revised 2013-12-27
図1:2013-06-12にロンドン・ヒースロー空港で、駐機中のエチオピア航空787の後部胴体(Section 47)天井部分に取付けた“非常用位置送信器(ELT=emergency locator transmitter)”から発火、写真のように外板まで焼損した。
図2:(撮影者不詳)10月に撮影されたヒースロー空港に於けるエチオピア航空787、垂直尾翼が取外され、焼損した後部胴体部分は仮設の作業用天幕で被われている。
6月に火災を発生、後部胴体天井部に大きな損傷を生じたエチオピア航空787は永らく空港内の人目に付きにくい場所に置かれていたが、ボーイングの手で10月から修理作業が始った。
修理手順はこうだ。すなわち、垂直尾翼を取外し、損傷したパネル部分を矩形状に切取り、新しく用意した矩形状パネルを取付け、垂直尾翼を再取付ける。来年早々には再び就航する予定と云う。
ボーイングは修理の詳細を公にしていないが、12月初めまでに約6割まで進んでいると云われている。
図3:(Boeing)787の胴体は炭素繊維複合材の含浸布をコンピューター制御の回転式モールドマシンで積層して作る。この写真はSection 47と48部分で、一体で作られる。
修理担当のボーイング技術者等からの情報を基に、シアトルタイムス紙ドミニック・ゲイツ(Dominic Gates)記者が報じた記事を要約すると;—
『後部胴体全体の交換も検討したが、全てのワイヤリングや、ニューマチック、燃料システム等のダクトを外し、再取付けの作業が必要となり煩雑すぎるので取り止め、パッチ修理を選んだ。
数週間前(多分9月)にノースチャールストン(North Charleston, S.C.,)工場で、後部胴体全体のバレルを製作した。次にそれから修理する787に必要な大きさの胴体上部パネルを切取り、パッチを作った。これは矩形状でエッジを丸めてある。
これを同じサイズにカット済みの焼損胴体上部にはめ込む。生じた僅かの隙間には胴体の与圧、減圧に対応できる伸縮性シーラントで埋める。
次に、スプライス・プレートで胴体スキンと修理パッチを“糊付け”する。この際両側共に約10㌢ずつ重ね合わせる。“糊”は超強力な接着剤で、接着区域を真空バッグで覆い加熱ブランケットで固めて接着する。
修理のため切断された胴体ストリンガー(補強用縦通材)は、パッチ当てののち複合材テープを正確に積み重ねてストリンガーの断面形状に合わせ成形し、加熱ブランケット/真空バッグの方法で接合する。
作業全体は、複雑で細心の注意が必要なことは云うまでもない。ボーイングは修理完了後に行なう飛行試験で、修理個所にセンサーを貼付け応力テストをする予定だ。』
この後に客室内装システム全体の交換修理があるが、これもヒースロー空港内で行なわれる模様。
火災の状況を振り返って見ると、6月12日に到着した同機が駐機中に、後部胴体に装着してあるハニウエル製の型式[RESQU406AFN]“非常用位置送信器(ELT=emergency locator transmitter)”から発火、その付近を焼損した。焼損範囲は、図1に示す垂直尾翼前縁付け根部分から前方数メートルに及ぶ胴体頂部だが、客室内部も全体に亘って煙による損傷を受けていた。すなわち、客室内天井、側面のパネル、の殆どが煙で汚れ、さらに消火活動で客室内だけでなく床下の各システムにも損傷が及んでいると云う。
図4:ハニウエル[RESQU406AFN]“非常用位置送信器(ELT=emergency locator transmitter)
発火源の”ELT”は、客室内に2ヶ所装備されていて、他の一つは前部ラバトリーにある。”ELT”は、内部電子装備と外部アンテナから構成され、電源としてリチウム基バッテリー5個が内蔵されている。
火災の原因は、ELT本体カバーを取付ける際に、装置の内部でバッテリーとELT電子回路を結ぶ配線を咬み込みショートさせたため、と推測されている。FAAは7月になって「787用ELTを取外し、装置内のバッテリーや配線に異常がないか調べるよう」指示を出したことはご存知の通り。
本稿作成に参照した記事は次ぎの通り。
Aviation Week Dec. 2, 2013, page 32~ “Big Fix” by Guy Norris
The Seattle Times July 25, 2013, “FAA directs airlines …” by Dominic Gates
“ Oct. 21, 2013, “Boeing readies patch…” by Dominic Gates
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