– ミサイル駆逐艦“ズムウオルト”はこれまでの常識を超える革命的な新型艦–
2013-12-16 松尾芳郎
図1:(Wikipedia)クレーンで吊り降ろされるズムウオルトの艦橋は複合材製。コンピューター・ソフトで著名な“アーステクニカ”社は、この“リナックス(Linux) OS”で詰まった艦橋を“浮かぶデータセンター”(floating data center)と呼んでいる。
図2:(US Navy)2013-10-29に進水した“ズムウオルト”は、満載排水量15,600㌧、全長185.9mで、数々の新型装備を搭載することで世界の注目を集めている。
*全体像
米海軍のミサイル駆逐艦(Guided Missile Destroyer)“ズムウオルト”はゼネラル・ダイナミックス社バス造船所(Bath Iron Works of Bath, Maine)で2011年から建造が行なわれていたが、2013年10月29日に進水した。現在87%が完成した段階で、艤装が完了する2014年から配備につく。
ズムウオルトは数々の新装備を備えており、これまでの海軍の常識を大きく超える艦となる筈だ。
艦首は”タンブルホーム(tumblehome)”型と呼ばれる下が突き出た形のステルス設計で、複合材で作る艦橋構造とヘリ格納庫と相俟って敵レーダーの探知を防ぐ。艦載砲を含む兵装は100マイル(160km)以上離れた陸地を攻撃できる。情報関連装備はリナックス(Linux-based)OSを基本とするネットワークで、既存のソフトと容易に接続できる。推進装置は全電気駆動システム(all-electric drive system)を採用しているので極めて静粛である。
ズムウオルトは総工費38億㌦(3,800億円)の予定で作り始めたが、革新的な装備を多く採用するため、コストは2倍近くに膨れ上がった。このため建造は3隻で打ち止めとなる。
搭載される新しい電子装備、兵装システム、電気駆動推進、を動かすため消費電力は、将来換装予定の電磁レールガン用電力を含めると78メガワットにもなる。
艦内装備は自動化が進むため、満載排水量15,600㌧、全長185.9mの大型艦ながら乗員は158名となる。これは同型艦が62隻もある米海軍の代表アーレイ・バーク級イージス艦、満載排水量9,000㌧全長153.8m、の乗員210名よりかなり少ない。
ステルス性を追求した艦型、上部構造を複合材製としたこと、それにアンテナ配置の結果、レーダー反射面積(radar cross section)は非常に小さく(アーレイ・バーク級の50分の1)なったと云われる。
*兵装
ズムウオルトの兵装は対地攻撃と沿海水域の制圧に勝れ、センサー類も沿海水域で性能を発揮できるよう、また、友軍との連携攻撃を容易にするネットワーク中心(network-centric)装備になっている。
搭載する先進砲システム(AGS=advanced gun system)はBAEシステムス製、これでGPS誘導の長射程陸上攻撃砲弾(LRLAP=long-range land attach projectile)を発射する。LRLAP砲弾は約900発を搭載する。AGSは62口径155mmの単装砲で、射撃速度は8~10発/分だがLRLAP、砲弾重量102kg、を150km先の目標に正確に命中させる。これで「退役戦艦に替わる対地攻撃能力を持たせる」と云う目標は達成されたと云える。このAGSは、使わない時には砲身を砲塔内に納めステルス性を改善している。
ミサイル発射装置は”舷側設置型垂直発射システム(PVLS=peripheral vertical launch system)”で、船体の舷側に4セル型PVLSを20個、合計80セルを備える。ここに各種ミサイルを搭載する。搭載するミサイルは、対空ミサイルSAM、巡航ミサイルSLCM、対潜用アスロック。これに加えて戦術トマホーク(tactical tomahawk)、対弾道ミサイルSM-3、および発展型シースパロー(ESSM=Evolved Sea Sparrow Missile)なども装備する。イージス艦等で使っている垂直発射装置(VLS)は集中配置型であるのに対し、ズムウオルトのPVLSはミサイルを分散して配置するので、被弾時の抗堪性に勝れている。
2005年以来BAE社で開発中の電磁レールガン(Electromagnetic Railgun)は、弾頭をマッハ7.5の初速で発射し、200n.m.(380km)遠方の目標に命中させようと云うもの。着弾時スピードはマッハ5になるため炸薬は使わず運動エネルギで目標を破壊する。
図3:(Wikipedia)開発中の電磁レールガンの原理図。並行する2本のレールの片方の一端からから高電流パルスを流し、両者をつなぐ移動可能な導電性アマチュア(これが弾頭)を介して他方のレールに伝える。この時に生じる磁力によってアマチュア(弾頭)は高速(マッハ7.5)で左下(砲口)に移動(発射)する。
2008年に10.6メガジュールのエネルギで3.2kgの砲弾をマッハ7の砲口速度で発射するのに成功した。
電磁レールガンには、大電力を消費すると云う問題はあるが、在来の砲では必須である発射用炸薬と弾頭の炸薬の貯蔵が不要になるため、艦の抗堪性が著しく向上する。
*動力源
従来艦では推進用と電力用に別々の動力装置を持っていたが、ズムウオルトは、“統合推進システム(IPS=integrated power system)”となり一つの動力源からの電力を必要に応じ推進/電力に配分する。動力源はロールスロイス製MT30ガスタービン出力35メガワット級を2基と、予備に非常用発電機1台を備えている。推進はMT30からの出力で”永久磁石同期モーター(PMM=permanent magnet-synchronous motor)”を回し、発生した電力でスクリューを駆動する電気推進方式。これは艦の速度に関係なくMT30ガスタービンを燃費の良い最適スピードで運転でき、また船体の振動と騒音を少なくできる。現在は1台のMT-30で賄えるが、将来電磁レールガンに換装するのに備えて2基装備にしたと云われている。
MT30ガスタービンは、ボーイング777型機用のトレント800型エンジン、推力93,400lbs(415kN)を、舶用に改造したもので両者の部品の80%は互換性がある。
*電子装備
艦橋に装備されるのは、新開発の水平線領域探査用と全天探査用の2周波数使用型のレーダー。完成済みのXバンド使用のAN/SPY-3多機能レーダー(MFR=multifunction radar)にロッキードマーチン開発のSバンドレーダーを組合わせたもの。これで探査能力の向上と標的追尾能力の向上を図る。AN/SPY-3レーダーはアクテイブ・フェイズドアレイ型で、来襲する敵ステルス巡航ミサイルを探知し、迎撃する発展型シースパロー/ESSMを誘導するための標的照射をする。
対潜用システムは、艦首に装備する中周波数用ソナーAN/SQS-60、同じく艦首装備のAN/SQS-61高周波ソナー、およびAN/SQR-20多機能型曳航アレイソナー、を一体化して組込んだレイセオン製AN/SQQ-90統合型水中戦闘システム(integrated undersea warfare system)となる。
図4:(Wikipedia) 図は、ズムウオルトが陸地攻撃をしている想像図。前部甲板の先進艦載砲2門からはGPS誘導長射程砲弾(LRLAP)が発射され、艦尾の舷側にあるPVLSからは戦術トマホーク・ミサイルが発射されている。
図5:(Wikipedia)来襲する敵の巡航ミサイルを迎撃する発展型シースパロー(ESSM)。一発目は巡航ミサイルの撃破に成功、続けて2発目が発射され、そして3発目が艦尾のPVLSから発射された場面の想像図。
図6:(Defense Industry Daily)ズムワルトの先進砲システム(AGS)から発射された長射程陸上攻撃砲弾(LRLAP)の想像図。GPS誘導で150km遠方の目標に正確に着弾する。
*まとめ
参照した”Golden Eagles News” 2013-12-05,の“US Navy’s Most Intimidating Creation Yet Just Hit The Water”には、纏めとして次ぎの一節が書かれている。
“タンブルホーム”型艦首で造波抵抗を少なくしレーダー反射面積を減らし、先進兵装システムを備え、暗闇に紛れて行動するその姿は船の”SEAL”そのもので、まさに“海の忍者”(a ninja of the sea)と呼ぶのに相応しい。
(“SEAL”は米海軍の特殊部隊で、陸海空どの場面でも特殊任務を遂行できるよう訓練された兵士で構成され、イラク、アフガニスタン等で活躍したことで知られている)
−以上−
本稿作成に参照した主な記事は次ぎの通り。
”Golden Eagles News” 2013-12-05,の“US Navy’s Most Intimidating Creation Yet Just Hit The Water”
“Naval Technology.com”, DDG1000 Zumwalt Class-Multimission Destroyer, USA
“Office of Naval Reseach Science & Technology”, “Electromagnetic Railgun”
“世界の艦船”2013-12月、“1番艦進水へ!DDG-1000級の超絶技術”大塚由古