増強著しい中国空軍の現状(その1)


増強著しい中国空軍の現状(その1)

 

—新型ジェット戦闘機の活動を支援する大型機の一群–

2014-01-23  松尾芳郎

 

中国人民解放軍空軍(PLAAF)はこの20年間に著しく変貌し、名前も“中国空軍(Chinese Air Force)”と変った。第四世代の戦闘機、爆撃機、無人機、巡航ミサイル、が空軍に導入され、それまでの専守防衛の体制からアジア全域に睨みを利かせるようになった。それに伴って中国政府はこれまで平穏だった南シナ海、東シナ海で、新たな領有権を主張し始めたのはご存知の通り。中国政府の主張は空軍の増強と無縁ではなく、これ等の空域でしばしばパトロール飛行を行ない、他国の防空識別圏に侵入し挑発を繰り返している。こんな事は20年前にはなかった。

中国空軍の新型戦闘機や戦闘爆撃機は性能や姿で人目を引くが、その背後にはその活動を支える5種類の大型機の存在がある。いずれも侮り難い存在で、豊富な軍事費を背景に、これ等を同時並行の形で開発、配備を進める軍事力拡張には脅威を覚える。これ等について紹介しよう。

 

*KJ-2000空中早期警戒管制機(AWACS)

 

KJ-2000 AWACS

図:(Chinese Internet)着陸進入中のKJ-2000 AWACS、大型円形レドーム(固定式)内には3基のAESAレーダーが収まっている。レーダーは”Lバンド“を使用と思われる(Lバンドとは、0.5〜1.5GHz帯域でUHFに入る)。イスラエルの”エルタ・ファルコン(Elta Phalcon)”システム設計を参考にしたと云われる。

 

KongJing(KJ)-2000空中早期警戒管制機(AWACS)は、米空軍のE-3 AWACSに似た形だが、機体はロシアから購入したIl-76輸送機。これにイスラエル製“ファルコン”レーダーを搭載する予定だったが、米国の圧力で中止となり、中国の南京電子研究所開発のレーダーを搭載している。レーダーはAESA(Active Electronically Scanned Array)レーダーで、固定式3基をドーム内に3角形状に配置し、E-3や我国のE-767 AWACSと異なりドームは回転しない。探知距離は300マイル(480km)と云われる。KJ-2000 AWACSがレーダーをオンにして空中警戒中は、中国戦闘機はレーダーをオフのまま行動できるので自機の秘匿に役立てる。特に地上レーダー波の届かない洋上での戦闘支援に効力を発揮する。

2003年に初飛行、現在5機が配備されていて、内3機には空中給油装置が付けられているので24時間滞空、警戒と戦闘機の支援ができる。しかし本格的な空中戦を支援、指揮するには5機では不十分で、さらに機数を増やす必要がありそうだ。

 

*  Xian H-6爆撃機

 

西安H-6爆撃機

図:(Chinese Internet)H-6爆撃機は中国空軍唯一の大型爆撃機で、ソビエトからツポレフTu-16爆撃機を導入、1968年から西安(Xian)航空機工業でライセンス生産を開始、以来改良を加えられ、150機以上が作られている。乗員4名、全長34.8m、翼幅33m、最大離陸重量は79㌧、エンジンは西安(Xian) WP8、推力20.000lbs(93 kN)を2基。戦闘行動半径は3,500km以上、搭載量は9㌧。

 

H-6シリーズは本来核爆弾攻撃を目的として作られ、中国の核実験で計9発の核爆弾を投下した実績がある。その後弾道ミサイルの進歩で核攻撃の役割は縮小し、長大な航続力と搭載量を生かして現在では巡航ミサイル攻撃が主な役割になっている。巡航ミサイル搭載、発射用として約80機を保有、ほかに空中給油機HY-6型が10機あると見られている。

H-6K_CJ-10K

図:(Chinese Military Aviation)H-6爆撃機の最新型H-6K、2007年1月に初飛行。機首に新型レーダーを装備、エンジンを換装、射程2,500kmの巡航ミサイル7基を携行し、日本全土をその射程に納める。

 

最新型のH-6Kは、エンジンを燃費の良いロシア製D-30KP-2推力12㌧に換装、航続性能と速度を向上させている。D-30KP-2は2009~2011年に55台ほど輸入されたが、加えてリバースエンジニヤリング手法を使い瀋陽エンジン社で製造中と云う。さらに機首を変更し大型レドームを装備、内部に地表探査レーダーFLIR/TVとECMアンテナを取付けるなど、電子装備を大幅に改良している。胴体内弾倉の他に翼下面には6ヶ所のミサイル取付け用ハードポイントがあり、合計7基のKD-20長距離巡航ミサイルを携行できる。KD-20巡航ミサイルは射程2,000~2,500kmのミサイルで、地上発射型のCJ-10を航空機用にしたものでCJ-10A型とも呼ぶ。

H-6K爆撃機は、2011年はじめに16機が東・南シナ海を受持つ空軍第8爆撃機師団(広州軍区)に配備され、続いて2013年秋には第10爆撃機師団(南京軍区)にも配備されている。

H-6K爆撃機とKD-20長距離巡航ミサイルの組合せで、我国全域は全てその射程内に入ることになる。1月22日の新聞に「某中国空軍少将が“開戦なら日本は火の海になる”と語った」と小さく報じられたが、これにはH-6KとKD-20の配備の進行が背景にあることは間違えない。

実際、小規模の攻撃には配備中のPAC-3対空ミサイルで対処できる。しかし20機規模のH-6Kからの攻撃となると話は別だ。これらから発射される巡航ミサイルは140発を超え飽和攻撃となり、現在の防空能力ではお手上げで、国民の生命財産を守ることはかなり難しくなる。空軍少将の発言は半分脅しだが、真面目に対処した方が良い。

 

*  Y-20 輸送機

Y-20大型輸送機

図:(Chinese Internet)2013年1月に初飛行したY-20大型輸送機。Y-20は最大離陸重量約200㌧でC-17より小さく、EUのA400M輸送機より大きい。エンジンは前述のH-6K爆撃機と同じ系列であるロシアNPOサターン製D-30Kp推力23,000lbsを4基搭載。しかしこれは、C-17のF117エンジン推力4万lbsに比べかなり推力が小さい。全体の形状はC-17に酷似しているが、機首部分はロシア製アントノフAn-70に似ている。ボーイング勤務の中国人技師がC-17設計図窃盗などの容疑で2010年に逮捕・有罪となったが、これがY-20の完成に繋がったと見られている。

66㌧の貨物を積んで航続距離は4,300km。また、空中給油装置があるのでさらに航続距離を伸ばせる。

 

中国空軍はロシア製Il-76輸送機を購入し続け、少なくとも17機を入手して、うち5機をKJ-2000 AWACSに改装、4機をIl-78空中給油機として導入、さらに30機を貨物輸送機として発注している。しかし中国はIl-76が高価であることを理由に西安航空機工業で大型輸送機Y-20の開発に踏切った。Y-20は2013年1月に初飛行が報じられ、これから量産(最大で300機と噂される)が開始されると云う。

Y-20は、予想される台湾侵攻作戦などでパラシュート部隊90名の輸送や99型戦車の輸送に使われそうだ。中国軍事筋は「Y-20が100機規模で実戦配備されれば、3日間で15個空挺師団を日本の6大都市に送り込み占領できる」と語ったと云う。しかし、初飛行後未だ1年にしかならず、実戦配備が始まるまでには5年は要すると思われる。この発言はいかにも支那式の誇大宣伝だ。

 

*  Tu-154M/D電子戦偵察機

 

16,17日の侵犯機_0001

図:(航空自衛隊)2013-12-16および同17日に我国南西諸島近辺の領空に接近したTu-154M/D電子戦偵察機B-4015号機。胴体下部の膨らみは合成開口レーダー。基本はロシアのトウポレフ(Tupolev) Tu-154旅客機、3エンジン形式、未舗装の滑走路でも離着陸可能、航続距離は5,000kmを超える。就航は1972年で以来1,000機以上が作られた。中国空軍は中国連合航空(CUA)が輸入した Tu-154M型を使い、塗装はそのまま(偽装目的?)で、電子情報装置(ELINT)と合成開口レーダーを搭載して4機を運用中である。

 

敵の電子戦情報を収集する専用機で、敵のレーダー波、通信電波などあらゆる情報を受信するELINT /BM-KZ 800型電子情報蒐集・解析システムを搭載している。受信データは機内で直ちに分析、例えばそれが特定の艦からの電波と判定されれば、次回同じ電波を受信した場合、発信元の艦名を推定できる。また、これを使って敵の通信やレーダー波に対し妨害電波を出すこともできる。胴体下面には合成開口レーダーが取付けられ、航空機のみならず地表のあらゆる物体の映像を捉えることができる。

 

*Il-78タンカー(空中給油機)

 

露空軍Il-78Mタンカー

図:(Wikipedia)写真はロシア空軍のイリューシンIl-78Mタンカー、Il-76貨物輸送機をタンカーに改良した初期型は給油可能な燃料は僅か10㌧だった。改良してタンカー専用となった[Il-78M]は、貨物室に着脱式タンクを積み最大離陸重量210㌧、給油可能燃料は105㌧に増えた。給油方式は両翼にホースリール式ポッド、そして胴体後部にも同じポッドを装備するので3機同時に給油ができる。ロシア空軍で19機、ウクライナ空軍8機、インド空軍6機、中国空軍は8機を所有する。

 

中国空軍の戦闘機は、これまでは主に本土上空の防衛戦を想定して開発されて来たため航続距離/戦闘行動半径が短くJ-10戦闘機でも550km程度に止まっていた。しかし今では、東シナ海、南シナ海など周辺海域に散在する島々に領有権を主張し始め、それに伴い戦闘機の進出も必要になってきた。しかし、空軍基地のある海南島から南シナ海の南沙諸島(Spratly Islands)までは1,000km以上もあり、Il-78のようなタンカーの支援が無くては飛ぶことができない。

[Il-78M]タンカーは図の説明のように、大量の燃料を積み同時に3機に給油可能だが8機しか保有しておらず、大規模作戦を遂行するには不十分。

購入しようにもIl-78は2006年に生産終了しており追加はできない。中国空軍は、前述のようにIl-76を12機ほど運用しさらに30機を発注している。この輸入機を自力でタンカーに改造しようとしているが、引渡しが遅れているため問題解決には至っていないようだ。

−以上−

 

本稿作成に参照した記事は次ぎの通り。

2013-12-30 Golden Eagles News, by Kyle Mizokami in War is Boring

2012-12-09 Sino Defense Com, Tu-154M/D Electronic Intelligence Aircraft

2012-04 updated Air Power Australia, “PLA-AF Airborne Early Warning & Control Programs” by Dr Carlo Kopp

Chinese Military Aviation