−中国は未解決の空中給油技術と大型ファンエンジン技術の取得に努力中—
2014-01-25 松尾芳郎
空中給油技術が無ければ「遼寧」は練習空母のまま
図:(Air Power Australia)ロシア海軍のスーホイSu-27K原型機(右)が給油ポッド“UPAZ-1Aサハリン(Sakhalin)”を使って同型機に給油テスト中の写真。最新型のSu-27Kには引込み式の給油装置が付いている。中国海軍はSu-27K/Su-33改め[J-15]を空母「遼寧」の艦載機として使用中だが、この給油方式には未だ習熟していない。
中国海軍は空母「遼寧(Liaoning)」、旧ソビエトのワリヤーグ(Varyag)、を漸く完成させたが、それに搭載する戦闘機[J-15]には航続距離を伸ばすための空中給油装置が必要である。
「遼寧」には射出用の蒸気カタパルトがないため、スキージャンプ状ランプから飛び上がらざるを得ない。従って、今のところ[J-15]は僅かの燃料と兵装しか積むことができず、航続距離は160kmに過ぎないと云う。これに対し米国やフランスの空母はカタパルトを備えているため、F/A-18やラファエル(Rafale)は充分な兵装を搭載して離艦、数百km遠方の敵を攻撃して帰還できる。F/A-18の場合、必要となれば数百機もあるKC-135やKC-10タンカーからの給油支援を受けられる。中国空軍はこのタンカーを数機しか持っていないので、[J-15]はその支援を期待できない。
そこで、図に示すような艦載機同士での空中給油の実用化が[J-15]には求められる。遼寧には[J-15]を10数機とヘリコプターを搭載可能と推定される。もし充分な数の給油ポッドを入手でき、パイロットがその使用に習熟すれば、[J-15]は充分な兵装を搭載して離艦し給油を受けて任務を遂行でき、遼寧は本来の打撃力を備えた空母に変身することになる。
ここでスーホイ(Sukhoi)[Su-27K/Su-33]とUBがついた機体、それに本題の[J-15]の関係を調べてみよう。
Su-27Kは、露海軍の空母用として4機作られたが、これが後に西側で“フランカー”シリーズと呼ばれる各種派生型の基本になった。
Su-27Kは、主翼と水平尾翼が折畳み式で、ランデイングギアが強化され、引込み式の給油プローブ、テイルフックも付いている。給油プローブは、Il-78タンカーやSu—27タンカーが装備するUPAZホースリール式給油ポッドと適合し、燃料を1,800kg/分の割合で受けられる。Su-27Kは、量産型ではしばしばSu-27K/Su-33と呼ばれている。
新型のSu-27KUB (Korabl’niy Uchebno-Boyeviy=Shipboard Trainer-Combat)、つまり“艦載型訓練兼戦闘機”は、前部胴体の形状が変わり並列複座型コクピットになり、レーダーが新型になった。Su-27KUBの原型機は1999年4月に初飛行したが、量産型でSu-33UBと改称された機体は予算不足で暫く生産されなかった。
中国は旧ソビエトから購入した空母“ワリヤーグ”(現在の遼寧)と一緒にSu-33を30機購入したが、これは陸上型。中国は艦載型の[Su-33UB]の取得を望んだが不調に終わった。そこで、2001年にウクライナにあったSu-27Kの原型機1機を購入、リバースエンジニアリング手法で[J-15]、西側名称で“フランカーD”、を作り上げた。[J-15]は、Su-27Kを模した機体に、Su-33の国産型であるJ-11B/BS搭載の各システムを、搭載して完成させた機体である。
図:(Air Power Australia)中国が作った[J-15]多目的艦上戦闘機の原型機。WS-10Aエンジン、アフトバーナ時推力13㌧(30,000lbs) を 2基装備している。WS-10Aは、1982年に米国より輸入したCFM56のコアを中心に開発が始まった。1990年代に試運転を開始、その後改良を重ね、2010年代には実用に堪える信頼性に到達。2013年末には、最新の戦闘機である瀋陽[J-16]に取付けて試験に成功、以来少量初期生産に入っている。
大型ファンエンジンの開発が進行中
図:( Chinese Internet)中国空軍はIl-76輸送機に新型エンジンを搭載、試験を開始した(2014-01-10)。Il-76はNPO Saturn D-30KP-2を4基装備。写真の左翼#2位置はD-30と異なる高バイパス比エンジンと判る。[WS-20]らしい。
“増強著しい中国空軍(その1)”にあるように、中国は米国のC-17に匹敵する大型輸送機[Y-20]を完成、2013年1月に初飛行をした。これで中国空軍は先進諸国と輸送能力で追いついたかに見えるが、未解決な大きな問題が残っている。それはエンジンだ。[Y-20]は、輸入したIl-76輸送機と同じロシア製[D-30]エンジンを装備するが、これは後述のように低バイパス比、燃費が悪く大量の人員/貨物を積んで長距離飛行をするのには能力が充分ではない。中国には未だ高性能の大型エンジンを高精度で量産する技術が無いため、[Y-20]には不満足な[D-30]を使っていると云うことだ。
しかし、最近の写真によると、D-30エンジン付きのIl-76輸送機で新しい大型ターボファンを装着、試験している模様が明らかになった。これは前述の[WS-10A]から発達した[WS-20]であると多くの関係筋が推測している。
図:(Chinese Internet)[WS-20]エンジンの写真。これは前述ののコアを利用、大型のファンを装備する高バイパス比、高推力、低燃費のエンジン。前身とされる[WS-10A]は、GE-SnecmaのCFM56エンジンのコアを活用しているが、このコアはF-16戦闘機のエンジンGE製F101のそれを使っている。従って[WS-20]の根幹はGEの技術と云うことだ。[WS-20]は将来大型輸送機[Y-20]に搭載すべく開発中である。ファンバイパス比や推力などは不明。
中国ではこの他に推力3万lbsクラスのACAE [CJ-1000A]あるいは[SF-A]と呼ばれるエンジンも開発中である。いずれにせよ中国空軍は高バイパス比エンジンの完成を待ち望んでおり、その完成を待って[Y-20]を本来の戦略輸送機に仕上げようとしている。
現在[Y-20]に使われている[D-30]はソロビエフ(Soloviev)設計局の設計で、2軸式低バイパス比ターボファン。軍用の[D-30F6]は超音速アフトバーナ付き推力15.5㌧でMig-31戦闘機に採用。民用は[D-30KP]および[D-30KU]と呼ばれ推力12㌧(26,300lbs)で、Il-76や[Y-20]、および[H-6K]爆撃機に搭載されている。
[D-30KU]は、ファン直径1.46m、低圧コンプレッサ–3段、高圧コンプレッサ–11段、タービンは高圧2段、低圧4段で、全体の圧力比は17:1で、西側エンジンに比べると推力と燃費で見劣りする。
1990年代になり、ソロビエフ設計局の後身であるAviadvigatel社により[PS-90]が完成。これはロシア初の高バイパス比ターボファンで、その最新型[PS-90A2]は米国のP&Wの協力を得て先進技術を導入、FADEC等を装備し“ETOPS 180分”の基準を満たして西側エンジンに比肩する迄になった。[PS-90A2]は、ファン直径1.9m、バイパス比は4.4、コンプレッサ−は低圧2段、高圧13段、タービンは高圧2段、低圧4段、推力は17,4㌧(38,400lbs)となり、かなり性能がアップしている。新型のIl-96-400大型輸送機に取付けられている。
中国開発の[WS-20]がロシアの[PS-90]のレベルに達しているのか、興味がある。
−以上−
本稿作成に参照した記事は次ぎの通り。
Golden Eagles News 2014-01-03 “China7s Air Power Future is Visible in These Two Photos” by David Axe in War is Boring
Air Power Australia, updated Mar 29, 2013 “Su-33 and Su-33UB Flanker D, Shenyang J-15 Flanker D” by Dr Carlo Kopp
AINonline Jan. 17, 2014 “China Flies First Large Turbofan” by David Donald
Tiananmen’s Tremendous Achievements Feb. 25, 2013 “Development of China-made Engine for Y-20 Close to Success” by ChanKaiyee