–地上で胴体の加圧試験中に後部貨物扉などが損壊−
2014-01-18 小河正義
2014-02-03 Revised 松尾芳郎
図:(防衛省)写真は2011年1月に初飛行したC-2の飛行試験機2号機(202)。C-2輸送機は、1960年代から1970年代に掛けて配備されたC-1輸送機(25機)の後継機で、2002年度から開発が始まった。地上試験用2機と飛行試験用2機が作られ、2014年度末までに開発を完了、量産に移る予定である。
C-2の諸元は次ぎの通り。
乗員3名(パイロット2名、ロードマスター1名)
機体の大きさは全長43.9m、高さ14.2m、翼幅44.4m。
貨物室は長さ16m、幅4m、高さ4m、積込み/積卸し用ランプ長さは5.5m。
貨物搭載量は約30㌧、(C-1は8㌧、C-130Jは19㌧、よりかなり大きい)
最大離陸重量は141㌧
エンジンはGE製CF6-80C2推力52,500lbs (23.6㌧) x 2基
航続距離は貨物12㌧搭載で6,500km、
巡航高度12,200m、巡航速度890km/hr。
図:(防衛省)進入着陸中の飛行試験用2号機。地上試験機で胴体内外の気圧差試験中に想定気圧差の1.2倍の荷重を加えた際、貨物扉と後部胴体が損壊した。
貨物扉は、胴体後部下面のフィンの付いた薄色の部分で、左右に開く構造。薄色部分下部の前方は貨物室ランプで、開くと車両などが自力で乗降できるし、また飛行中貨物を投下する場合にも使う。貨物扉左側直ぐ前方にはパラシュート降下用のドアが見える。
防衛省は1月17日に、開発中の次期主力輸送機川崎重工製[C-2]の地上試験で不具合が発生したと発表した。
次期輸送機[C-2]は、飛行試験用として2機が完成し2010年春から岐阜基地の飛行開発実験団により飛行テストが続けられている。不具合が発生したのはこれではなく、別途地上で構造強度の試験をするために2機作られた地上試験用機体の1機で生じたもの。地上試験は空自岐阜基地第二補給所にある強度試験場で行なわれている。
防衛省発表の趣旨は次ぎの通り。
『[C-2]の地上試験機を使って、胴体構造の強度確認を行なっていた際に、貨物扉と後部胴体に損壊が発生した。すなわち、機内気圧を一定に保ちつつ、高高度飛行をするために必要な強度確認の試験中の損壊である。機内外の気圧差は予め想定して設計してあるが、この約1.2倍の圧力を機内に加えた際に、貨物扉と後部胴体(三菱重工担当)が損壊した。』
図:(防衛省)空自岐阜基地第二補給所にある強度試験場。地上試験用機体はこの構造内にセットされ、様々な荷重が掛けられ試験される。
機内は常に地上気圧に近くなるよう与圧されている、一方高高度飛行では外気圧が下がる、このため機内外の気圧の差が大きくなる。例えば、一般に機内は高度8,000ft (2,600m)の気圧10.1psiaに与圧されるが、高度36,000ft (12,000m)で飛行すると、その外気圧は3.3psiaにまで下がるので、機内外の気圧差は約3倍になる。
[C-2]の胴体設計で想定した荷重の1.2倍と云う意味は、他の関連情報から推測すると次ぎのようになる。すなわち、設計の気圧差になにがしかの加算(2.5倍?)をして「制限荷重」とし、これに「安全率」1.5を掛けた値の[終極荷重]の試験中に、1.5倍になる前の1.2倍の荷重付近で損壊した、と云うことらしい。
構造強度の試験には、大きく分けて“静的強度試験”(static proof test)と“疲労試験”(fatigue test)があるが、この試験は“静的強度試験”に含まれる。
“静的強度試験”とは次ぎのような荷重テスト;—
飛行機が自重の何倍まで耐えられるかを示す数値を「制限荷重」と云い、輸送機では「2.5」を使う。つまり自重の2.5倍の力が加わっても壊れないように翼、胴体、尾翼などを設計する。これを証明するために行なうのが“静的強度試験”。これは、地上試験用機体に[制限荷重x 安全率1.5] = [終極荷重]を加えて、3秒間持ちこたえられれば良い、とされる。
今回の損壊が生じた場所は、胴体後部の断面が矩形に近い部分のため、設計で与圧荷重の算定が難しい箇所。同じ胴体でも断面が円筒形の強度設計はモデルも多くあるが、矩形に近い断面形の与圧設計は簡単ではない。
また、発表では「損傷」ではなく「損壊」と表現されているのは、ダメージの程度がかなり大きい事を伺わせるもので、今後の原因究明、再設計、新部品の製造などにかなりの時間が掛かることを意味している。従って2014年度(平成26年度)末に開発を完了し、美保基地に配備を始めると云う予定は遅れるかも知れない。鳥取県美保基地への配備は、今のところ2014年度に1機、15年度に3機、16年度に2機の予定となっている。
C-2開発はこれまでもトラブルが続き、当初計画で2012年3月開発完了・量産開始の予定から2年遅延している。すなわち;—
* 静強度試験中2007年に「水平尾翼の変形、主脚と胴体構造に変形、床構造にクラックなどを発生」、中部胴体(三菱重工担当)の改修に時間が掛かり計画に遅れが生じた。
* 2007年完成間近の飛行試験用1号機で米国製ファスナー3,700点に強度不足が判明、ファスナー交換と構造補強に手間取り、初飛行は2010年1月にずれ込み、防衛省への納入は同年3月となった。
図:(防衛省)飛行試験用C-2から貨物投下試験を行なっているところ。胴体後部の貨物室ランプを開き、貨物を投下している。この他にパラシュート降下用ドアを開いて、兵員を降下させる試験も行われた。このような試験は地上で行なわれている静強度試験および疲労強度試験と並行して行なわれる。
今回の静的強度試験中、胴体気圧差の荷重試験で損壊が生じたが、飛行試験は飛行高度に制限を設けるなどして続けられるだろう。
新型機の開発で、静強度試験中に欠陥が見つかることはしばしばある。例えば、ボーイング787では主翼と中央胴体との結合部に、またエアバスA380では主翼構造に、それぞれ欠陥が発見されたが飛行試験はそのまま継続された。A380ではその状態で就航し、機会を捉えて改修する手筈になっている。
C-2の静強度試験で欠陥が発見されたことは残念だが、いたずらに非難するのではなく、これを機会に一層完成度が高まることを期待したい。
−以上−