売上60億㌦以上のエアライン評価でJALがトップに


2014-06-02 松尾芳郎

近着のエビエーションウイーク誌(May 26, June 2, 2014)は、同社が実施した2013年の「トップ・パフォーマンス・エアラインズ(TPA=Top-Performance Airlines)評価」を発表した。これによると中小規模を含む全体では「コパ・ホールデイングス」がトップとなった。一方、年収60億㌦(6,000億円)以上の大規模エアラインは全般に業績改善が著しく、JALはその中で1位となった。

JAL 787

図:(Boeing)エビエーションウイーク誌が実施した2013年のエアライン評価で、大規模航空会社中JALは1位にランクされた。債務超過9,600億円を抱え2010年1月に破綻したが、100%減資(2,000億円)と金融機関の債券放棄(5,200億円)で負債を減らし、リストラを進め再建に成功し、経営を軌道に乗せた。

 

「トップ・パフォーマンス・エアラインズ(TPA=Top-Performance Airlines)評価」とは、AW&ST誌が行う“エアライン評価”システム。今回の発表は、2013年1年間に於ける各社の“財務健全性”、“利益率”、“資本効率”、および“経営の効率指標”の4項目に付き調査し、数値化して合計点で比較した結果である。

ここでは、エアラインを収入規模に応じ「20億㌦以下」、「20~60億㌦」、「60億㌦以上」、の3つに分け、それぞれでランク付けをすると共に、全体を纏めて順位付けをした。財務内容を公表していない中東の諸航空会社(エミレーツ、エチハッド航空、カタール航空、など)およびバージン・アトランテイック等は除外してある。

これに依ると、JALは「売上60億㌦以上」の大規模グループで「71.2」ポイントを取り、第1位と高い評価を受けた。また、エアライン全体の中でも中小規模の会社が上位を独占する中で4位にランクされた。

以下、少し詳しく見てみよう。

60億㌦以上10社

図:(Aviation Week)大規模グループのトップ10社。「TAP評価」はJALが1位、しかし売上高ではルフトハンザ、デルタ、サウスウエスト、全日空、に次いで5位。全日空は5位と健闘している。大規模エアラインは、殆どが国内・国際の幹線運営を主にする会社で、LCCはライアンエアのみ。

2013トップ10

図:(Aviation Week)収入規模に関わりなく全体のトップ10社。ここで売上高60億㌦以上の大規模企業はJAL(4位)とライアンエア(10位)のみ。1位の「コパ・ホールデイングス」を含め多くが中小規模で、LCCが多数を占める。

 

これまでの数年間、伝統ある大航空会社は、会社更生法の適用を受けたり、企業合併を行ったり、大規模なリストラを実施したりして、苦境を乗り越えて来たが、ここへ来て漸くその努力が漸く報われ始めてきた。

デルタ、ラタム航空(LAN航空とTAM航空の合併)、アメリカン、ユナイテッド、エアフランス・KLM等いずれも業績を大幅に伸ばしている。会社更生法で立ち直ったJALは、今や見違えるような体質になり「TAP評価」に復帰した。「TPA評価」チーム代表(Michael Lowry)は次ぎのように語っている。

『JALは政府の支援を受け、多額の債務を解消し、組織のスリム化を行い、生産性向上に成功した。しかしこれからはライバルANAと同じ条件で競争することになる。再建期間中に培った社内のコスト管理意識が、何処まで深められ、持続されるかが問われることになる。』

デルタ航空は世界最大の機数を運用し、世界最大の旅客数を運ぶ巨大航空会社、ここが前年対比で19.4ポイントもスコアを上げ、12位を飛び越え3位に浮上した。これは、同社が2008年に会社更生法の適用を受け、同じ状況だったノースウエスト航空と合併して、成功した例である。

一般論では合併は触媒みたいなもので、成否はその後の計画と戦略の良否、それを遂行する強い指導力に掛かっている。デルタの場合は、ハブ空港の新設や整理、それにハブの余剰枠の削減などが功を奏し、折からの景気回復の追い風もあって好成績を得た。例として、バージン・アトランテイックから製油所を買収し燃料を社内調達に切替え、シアトルにアラスカ航空と協力しハブを新設、エアロメキシコへの投資、等が挙げられる。

2010年にコンチネンタルと合併した“ユナイテッド航空”、および、2011年11月に倒産し2013年12月にUSエアウエイズと合併した“アメリカン航空”は、前述のように業績を伸ばしてはいるが、「TAP評価」ではそれぞれ15位と12位に止まり、トップ10には登場していない。

「TAP総合評価」で1位となった“コパ・グループ”は、中米パナマに本拠を置く会社で、これまでの「TPA評価」で何度もトップの座を射止めて来た。強力な経営陣がしっかりした経営を続けている点は云うまでもないが、これと共に同社の地理的条件が幸いしていることも見逃せない。

パナマシテイをハブとし、米国とラテンアメリカを結んでいるのは大変な利点である。それに政情不安定なラテンアメリカの中にあってパナマは殆ど唯一の安定した国家である。

経営陣は強固な信念で効率的な経営を遂行し、仕様機種も路線戦略に見合った適切な選定を続けている。そして、中小規模の企業が向かい勝ちなLCCモデルを“コパ・グループ”は決して指向していない。

図:(Copa Group)エビエーションウイーク誌(May 26/June 2, 2014)の表紙を飾った“コパ・グループ”の737-800。2013年収入は26億㌦の中規模企業だが堅実経営と地の利を生かした路線構成で、全エアライン評価で、昨年1位だった“アレジエント・トラベル”を押さえて、トップとなった。中南米、カリブ海諸国、と北米を結んでいる。使用機種は、737-800を18機、737-800 を48機プラス発注中41機、エンブラエルE190を26機。

 

「TPA評価」は前述の4項目についてそれぞれを詳しく検討して採点し、次ぎの割合で合計して総合点とする仕組み。各社のバランスシートなど元となる企業情報は、“スタンダード&プアーズ”社の”Capital IQ”部門から提供を受けている。「TPA評価」チーム代表のM. K. Lowly氏はエアラインの経営を担当後、エアラインの信用調査機関運営の経歴を持つ。

*  財務の健全性 (Financial Health) (30%)

*  利益率(Earning Performance) (30%)

*  資本効率(Capital Efficiency) (20%)

*  経営の効率指標(Business Model Performance) (20%)

 

参考までにJALの2011~13年度の財務情報を書き出してみた。

JAL財務状況

–以上−

本稿作成の参考にした記事は次ぎの通り。

 

Aviation Week May 26 & June 2, 2014 page 52~59 “Rise of the Giants” by Adrian Schofield

JAL企業サイト 投資家情報・財務ハイライト、平成26年3月期決算短信