2014-06-08 松尾芳郎
2014-06-11 Revised
図:(P&W)完成した「PW1100G-JM」、20台を使い証明取得試験中。
図:(Airbus)2014-04-30撮影のA320neo初号機MSN6101の状況。これに「PW1100G-JM」(正確にはPW1127G-JM)が装着され、今年10月に初飛行する。
P&Wは次世代エンジン「PW1000G」シリーズを開発中で、すでにボンバルデアCSeries用の「PW1500G」を完成、昨年初めから引渡しを開始し、現在CSeries機に取付けて飛行試験中であることはご存知の通り。
同社はこのほどエアバス「A320neo」用の「PW1100G-JM」を完成、5月20日に最初のエンジンをエアバスに納入した。これは同社のウエスト・パームビーチ工場(West Palm Beach, Florida)で組立て試験されたもの。
続いて、6月5日には三菱MRJ用の「PW1200G」を三菱航空機に納入。こちらはカナダのミラベル航空宇宙センター(Mirabel Aerospace Center, Quebec)で製造、納入されたエンジンである。
「PW1100G-JM」は、2013年5月からP&Wの社用試験機ボーイング747SPに取付け飛行試験中だが、これまでに証明取得の要件の75%を完了し、推力、燃費、騒音、排気ガスなど全ての目標値をクリアしていることを確認済みである。「PW1000G」シリーズ全体としては、9,000時間以上の試験運転を済ませ、性能と耐久性の実証を進めている。
「PW1100G-JM」を搭載したA320neoは今年10月に初飛行を行い、来年(2015)末には就航する予定だ。(詳しくはTokyoExpress “「A320neo」秋に初飛行、続いてA320neoプラスの検討へ”2014-05-28を参照)
現在「PW1100G-JM」は、20台のエンジンを使い試験をしており、うち3台が飛行試験に使われ、今年夏前に型式証明の取得を目指している。
在来型のA320ceo(旧式ウイングレット付き)対比で、「PW1100G-JM」搭載のA320neoは、燃費およびCO2排気が15%改善され、さらに離着陸時の騒音区域(noise footprint)が75%少なくなる予定。騒音区域が大幅に狭められると深夜の発着制限時間の緩和につながり、運用面で大きな利点が見込める
「PW1100G-JM」には、エアバスA319neo、同A320neo、同A321neoの3機種に対応するため、推力の異なる3種類が用意されている。すなわち;—
* 「PW1124G-JM」、推力24,500lbs、A319neo用
* 「PW1127G-JM」、推力26,800lbs、A320neo用
* 「PW1133G-JM」、推力32,700lbs、A321neo用
いずれも内部構造は変らず「直径81㌅ファン+減速比3:1ギア+3段LPC+8段HPC+2段HPT+3段LPT」、そしてファンバイパス比=12.5:1である。
P&Wによると、このほど(2014-05-20)一層大型にした「PW1135G-JM」推力35,000lbs をA321neo用に開発することを決めた。これでA320neoは、標高の高い空港からの航続距離の増加やペイロードの増加が期待できる。
(注)「PW1100G-JM」の末尾「-JM」の意味;—
本エンジン開発プログラムで、ドイツMTU社と我国JAECが開発に参加することが2011年)月にP&W社との間で調印されたので、それぞれの頭文字が加えられた。我国の参加分は23%で、ファン、低圧コンプレッサー(LPC)、低圧シャフト、燃焼器。JAECはIHI、三菱重工、川崎重工の3社で構成する企業体である。MTUは18%シェアで、低圧タービン(LPT)と高圧コンプレッサー(HPC)の一部を担当している。
なお、「PW1200G」(三菱MRJ用)の組立て、試験は、三菱重工が同社の名古屋航空宇宙システム製作所で行う。
これまでに「PW1000G」シリーズは、オプションを含め5,500台以上を50社以上から受注している。
ここで、最近「PW1500G」装備のカナダ・ボンバルデアCSeries機の証明取得試験中に発生したエンジン破損事故(5月29日)について簡単に紹介する。
図:(Bombardier) 飛行中のボンバルデイアCSeries 「CS100」型1号機「FTV-1」、「PW1500G」を装備する。同機は、2013-09-16に初飛行、以来同型機4機と共に証明取得の試験中に、地上でNo.1(左)エンジンの破損事故(2014-05-29)を起こした。
最新の情報によれば、故障は“ファン減速ギア”とは全く無関係で、低圧タービン(LPT)に起因していることが確認された。さらにボンバルデイア社は、“LPTの設計不良ではなくて、製造もしくは整備の不具合が原因と推定される”と話している。このエンジンは破損事故の数週間前に問題があり、取卸しP&Wで修理が検討されたが、結局ボンバルデイアで修理されて、その後の地上運転中に破損したもの。破損エンジンはP&W社に送られ分解検査中だが、間もなく正式な結論が発表される予定。
破損したLPT(低圧タービン)は、3段で、MTUが設計、製作を担当している。
ボンバルデイアでは、エンジンが破損した「FTV-1」は試験を中断、機体側にも損傷があるので修理しているが、他の「FTV-2」、-3、-4、の3機は地上試験を継続中。P&Wとボンバルデイアは2-3週間以内に飛行試験を再開する、としている。
CSeries の飛行試験はこれまで330時間を消化しているが、カナダの型式証明取得には計2,400時間が必要となる。
–以上−
本稿作成の参考にした記事は次ぎの通り。
Golden Eagles News “Pratt & Whitney Ships Initial PurePower engines to Airbus” May 20, 2014
Golden Eagles News “Pratt & Whitney Unveils Higher Thrust PurePower Engine” May 20, 2014
Air Transport World “CSeires engine had problems prior to failure, Bombardier tells analysis” Jun 6, 2014 by Graham Warwick
IHI技報Vol.53 No.4 (2013)「PW1100G-JMエンジン開発」by佐藤篤、今村満勇、藤村哲司
Aviation Week Jun 6, 2014 “Turbine Failure Identified in CSeries Engine Event” by Guy Norris