巡航ミサイル監視、追跡用無人飛行船「JLENS」の行方


2014-07-05 松尾芳郎

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図:(Raytheon)陸軍の「ユタ試験、訓練射爆場」上空で試験中の「JLENS」係留型飛行船。大きなレーダードームを備え、ケーブルで地上に係留(tether)され使われる。全長74m、容積19,000m、高度3,000mまで浮揚可能で、30日間昼夜連続で監視活動を行える。高度3,000mからだと半径500kmの範囲の飛翔体や海面上を移動する小型舟艇を捕捉追尾し「射撃管制データ」を作成、友軍迎撃システムに通報する。風速70kt(秒速36m)まで運用できる。耐えられる最大風速は100kt(秒速52m)と云うからチョットした台風でも壊れない。

主契約者はレイセオン。

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図:(US Army/Defense Industry Daily)「JLENS」システムは、「火器管制レーダー(Fire Control Radar)」用(左側)と「監視レーダー(Surveillance Radar)」用(右側)の2機の係留飛行船から成っている。飛行船はケーブル(Tether)でそれぞれ地上の係留装置(Mobile Mooring Station)に繋がれ、ケーブルに同軸の光ファイバー回線を通してデータ処理装置に接続している。地上の係留装置はお互い3kmほど離れて設置される。

 

係留気球から敵軍の状況を偵察しようと云う試みは、220年前のフランス革命で初めて行われた。その後、日露戦争の旅順攻略戦でも港内に停泊するロシア艦隊を日本軍が気球で監視した、と伝えられる。このアイデアが、巡航ミサイル迎撃の手段として再登場、2008年以来「JLENS」の名前で開発が行われてきた。来襲する巡航ミサイルの探知には、地上配備型のレーダーより、高空から見下ろして監視する方が遥かに勝っている。

「JLENS」は、これまでに2システムが完成している。開発費を含め全体のコストは28億㌦(2,800億円)。

開発を担当した陸軍は2017年までに5システムの調達を望んだが、国防総省は予算削減の一環で最近(2014年6月末)中止とした。出来上がった2システムの1つは首都ワシントンの防衛用として配備され、他の1つは予備として保管される模様。しかし予算復活を求める声が強く、6月27日現在上院・下院協議会で検討中、2015年度予算として下院は54億円を29億円に削減、上院は54億円で開発配備を続行、と主張している。先行きは不透明である。

 

「JLENS」とは「Joint Land attack cruise missile defense Elevated Netted Sensor」の略で、意味は「巡航ミサイル防御用高空監視レーダー網」。

「JLENS」の役目は、超低空で飛来する巡航ミサイル、航空機、無人機、高速で接近する多数の小型舟艇から味方を防御することにある。「JLENS」は、米陸軍が進めている将来の「統合型対空、対ミサイル防衛(IAMD=Integrated Air and Missile Defense)」構想の重要項目とされている。

「JLENS」は、来襲する敵目標を遠距離から捉え「火器管制データ」を作成、高速通信で「THAAD」、陸軍の「パトリオット(Patriot)」、海軍の「イージス(AEGIS)艦」、あるいは地上設置型AIM-120 AMRAAMなどの対空ミサイル・システムに通報して、迎撃を確実にするのが役目。さらに、飛行中の友軍機に対しても「火器管制データ」を通報し、遠距離から脅威の迎撃を可能にする。

 

(注)「JLENS」の頭文字「J=Joint」は「統合」と訳されるが、意味は「陸、海、空、海兵隊、4軍が共同で使う」と云うこと。例えば「F-35攻撃戦闘機」は「JSF=Joint Strike Fighter」と呼ぶし、我国では原語のまま「JDAM=Joint Direct Attack Munition」と呼んでいる「爆弾誘導キット」などの「J」がそれである。

 

「JLENS」は、高度3,000mまで上昇でき24時間、1ヶ月連続で監視活動および火器管制データ作成、送信することができる。

1組の「JLENS」システムがカバーする監視活動は、4-5機の固定翼機が行う活動範囲に相当する。つまり「早期空中警戒機(AWACS)」の「E-3」や「E-767」、また「E-2C/D改良型ホークアイ」、さらにはこれから配備が進む無人偵察機「RQ-4グローバル・ホーク」などと比べて、「JLENS」はコストが数分の1で済むと予想される。

前述のように「JLENS」は、飛行船、レーダー、係留装置、データ処理装置、の4つの主要装置から成り、これが2つで「JLENS」ユニットを構成する。飛行船は軟式で、容積19,000m3の船内にヘリウムガスを充填、それぞれ重さ1㌧以上の監視および火器管制用レーダーを搭載して浮揚する。総重量は3.2㌧、無人で係留索(tether)で地上に繋がれる。

「監視レーダー」は、極めて遠距離で行動するレーダー反射面積(RCS)の小さい目標を捕捉追跡できる。「火器管制レーダー」の有効範囲は、監視レーダーより短いが、目標の識別やその速度航跡などの迎撃に必要な詳細なデータを取得できる。2機の飛行船は、高度5,000mまで浮揚可能な係留索で地上係留装置に固定される。この索は、ケブラーで出来ており、給電用電線、通信用光ファイバー線が同軸されている。飛行船からの情報は、地上係留装置からデータ処理装置に送られる。データ処理装置はシステム全体の頭脳で、内部に指揮装置、気象観測装置などが備えてある。

「JLENS」は、梱包して輸送でき、目的地到着後5日間でシステムを展開できる。飛行船を5,000m上空に浮揚、係留後は目標サイズにも依るが、半径550kmの範囲を監視できる。

2009年8月の初飛行以来、各種試験が続けられている。2012年9月の陸海両軍の共同試験では、数百㌔離れた海面上を飛行する巡航ミサイルを捕捉、「火器管制」データを高速通信網(Link 16)経由でイージス艦に送信、同艦から発射された「SM−6」ミサイルを途中まで誘導し、撃墜に成功した。

 

(注)「SM-6」は、良く知られている対弾道ミサイル「SM-3」と同じレイセオンが開発する一連の「スタンダード・ミサイル」の最新型。任務は飛来する弾道ミサイルの最終行程での迎撃、超低空を飛来する航空機、巡航ミサイルの迎撃で、射程は240km。2015年から米海軍で配備が始まる。

 

今年(2014)10月頃には米国東部メリーランド州沖合で、「JLENS」ユニットの飛行試験が行われる予定、天気が良ければバルテイモア市内からでもその姿が見ることができる。

–以上−

 

本稿作成の参考にした記事は次ぎの通り。

Defense Industry Daily July o2. 2014, “JLENS: Co-ordinating Cruise Missile Defense-and More

US Army: Program Exclusive Office, Missiles & SpaceJLENS Product Office

Aerospace & Defense Intelligence Report July 31, 2013 “About theJLENS System” by Joakin Kasper

“Massive blimps over Maryland to conduct 24/7 domestic aerial surveillance” Jan. 22, 2014byDarlene Storm