–6月23日離陸直前に発生したエンジン火災でF-35は飛行停止に–
本稿は7月15日掲載の「地上待機中の次世代ステルス戦闘機F35『ライトニングⅡ』のエンジン火災事故原因判明」の改訂版。
2014-07-15 小河正義
2014-07-16 改訂 松尾芳郎
図:(USAF)ロッキードマーチン製F-35 JSFは、単発の第五世代多目的戦闘機で、対空戦闘はもとより対地攻撃、偵察、の能力を備えたステルス機。翼幅11m、長さ16m、最大速度1,900km/hr、給油無しの航続距離は2,200km。空軍用F-35A、海兵隊用STOVL F-35B、海軍用F-35Cの3機種があり、すでに合計100機ほどが完成している。写真は空軍用のF-35Aで火災を起こしたのはこれと同型機。
去る6月23日にエグリン(Eglin)空軍基地を離陸しようとしたF-35A「AF-27」が、離陸直前に後部胴体に火災を発生、乗員は脱出し無事だったが機体が焼損する事故が発生した。このため、7月3日からF-35は全機飛行停止となり、開催中の英国ファンボロー航空ショウでの飛行展示は中止を余儀なくされた。
調査の結果、火災の原因は3段目ファンの先端がステーターと過度に摩擦、高熱となり火災に至ったものと判明した。米国F-35開発担当の責任者が発表した。
7月15日になり、米空軍および米海軍の耐空性審査当局は、「エンジン火災のため飛行停止となっていた次世代型ステルス戦闘機F-35は、制限付きで飛行再開を認可する」と発表した。しかし、予定していたイギリス、ファンボロー航空ショウへの参加は未だ決まっていない。この航空ショウは7月20日まで行われているので、間に合うかどうか気になるところだ。
米国防総省では、4,000億㌦を投じて開発したF-35を代表して、4機のF 35B (海兵隊および英海軍用のSTOVL型機)を、大西洋を横断飛行して参加させる予定だったが、この事故のため3週間もの間保留を強いられている。
飛行再開は、エンジン検査を終了し、飛行包絡線、つまり飛行高度と速度の範囲にある程度の制限を付けて許可された。この制限は、エンジン破損の原因が公式に決まるまで続けられる予定だ。
6月23日に空軍用のF-35A 「AF-27」のP&W F135エンジンで火災が発生したが、この原因はブレード・デイスク一体型(IBR=integrated bladed rotor)(あるいはブリスクとも呼ぶ)ファン3段目の先端が、ファンケース内側のシュラウドと接触、過度に摩擦、高温となったのが原因だった。
F-35プログラム最高責任者、クリストファー・ボグデン(Christopher Bogdan)空軍中将は、7月14日に「事故後直ちに使用中の98基のP&W F135エンジンを詳しく調べたが、事故を起こしたエンジンと似た状況を示すエンジンは皆無であった。すなわち、本件は特異事象であり、設計上の問題とは考えられない。これで事故の全体像が判り、原因は解明されたと考える」と語った。
図:(USDOD)F-35に搭載されているP&W F135エンジンの見取図。図の左、青く示してある箇所がIBR型ファンで、3段の構成、この3段目が大破、火災となった。F135は、全長5.6m、直径1.3m、ドライウエイト1,7㌧(3,750kg)、推力は最大43,000lbs(191.4kN)、中間28,000lbs(124.6㌧。推力重量比11.5。構成は、コンプレッサー「3段ファン+6段高圧コンプレッサー」タービンは「1段高圧+2段低圧」である。
図:(Alp Aviation)P&W F135エンジンのコンプレッサー部分の詳細。左から①ファン1段目(IBRではない)、②ファン2段目(IBR)、③ファン3段目(IBR)。2段目と3段目はそれぞれデイスクと一体構造である。この3段目が、高周波疲労破損(high cycle fatigue failure)を起こし、デイスクもろとも破壊した。製作担当のAlp Aviationはトルコ企業である。
F135エンジンのコンプレッサーは、低圧系としてブレード・デイスク一体型(IBR)ファン3段で構成され、ここで圧縮されたエアが同じくIBR高圧コンプレッサー6段に送られる仕組み。IBRファン3段は、それぞれ間にステーターを挟み、ファンケースの中で回転する。各段のファンの先端は、エアリークを少なくするためケース内側に張られた摩耗シュラウドとの隙間を最少にしてある。この隙間を、ファン先端が摩擦するほどタイトにすることで圧力損失が少なくなる、と云うことである。
火災事故を起こしたF-35 「AF-27」では、ファンは設計上許されている摩耗限界を遥かに超え、高温となりファンには微小クラックが多数発生していた。その結果、高周波疲労破損(high cycle fatigue failure)を起こし、破壊した、と判った。
図:(Air Force Magazine July 2014)3段目ファンの構造。ファンとデイスクが一体(IBR)になっている。このファンの先端がケース側シュラウドと過剰に接触、摩耗、高温となり破損した。
–以上−
本稿作成の参考にした記事は次ぎの通り。
Aviation Week July 14, 2014 eBulletin “F-35 Latest* Engine Fire Cause Emerges” by Amy Butler and Guy Norris
Aviation Week July 15, 2014 eBulletin “F-35 Cleared To Fly, but Not to Faunborough Yet” by Amy Butler
AirForce Magazine July 2014
Alp Aviation /Turkey