ロールスロイス、新型エンジンの開発計画を発表


2014-08-29 松尾芳郎

 

ロールスロイス(以下RRとする)は今年の始めに、次世代型ターボファンの2030年までの開発構想を公表した。このほどその詳細を明らかにした。

RR 複合材ファン

図1:(Rolls-Royce) RR社は今年のファンボロー航空ショウで、次世代型ターボファン開発の第一歩となる”先進複合材製ファンブレード”を組込んだTrent 1000 エンジンを公開した。これは間もなくRR所有の747-200飛行試験機に取付け飛行試験する予定。現在のチタン合金製ファンと同じ形状で重量はケースを含め350kgほど軽くなる。

 

RRは、現在ボーイング787用の「Trent 1000」とエアバスA350に搭載する「Trent XWB」両エンジンの生産拡大に取組んでいて、さらに今年6月に開発が決まったエアバスA330neo用の「Trent 7000」の開発にも取組んでいる。多忙を極める中、「Trent 1000」と「Trent XWB」の成功を受けて、RRは今年2月には将来のエンジン開発について基本構想を明らかにした。すなわち;–

*  第1段階:

2020年頃までに実用化する“アドバンス(Advance)”エンジンで、ファン・バイパス比を11 : 1とし全体の圧力比を60 : 1に高めたエンジンを開発する。これでTrent 700対比燃費を20%改善する。

RR Advance

図2:(Rolls-Royce) “アドバンス”のカットビュー、従来の3軸方式を踏襲している。”Trent XWB”を基本として、HP系、IP系を変更し、ファンを現在のチタン合金中空型から複合材製に変えたエンジン。

 

*  第2段階:

”ウルトラファン(UltraFan)”を開発する、この考え方は2012年に一部で公表された。“ウルトラファン”はファンピッチを可変式にし、ギア・システムで低速回転とし、バイパス比は15 : 1、そして全体の圧力比を70 : 1にして、Trent 700に比べ燃費を25%改善する。完成目標は2025年とする。

RR UltraFan

図3:(Rolls-Royce)大型ファンは可変ピッチ、IPタービンシャフトから減速ギアを介して駆動する。コアは基本的に“アドバンス”(図2)の考え方を受け継ぐ。LP系を廃し、Trent伝統の3軸式から2軸式に変わる。

 

RR民間エンジン部門Advanced Project 主席のA.ニュービイ(Alan Newby)氏はこの開発構想について次ぎのように解説している。即ち;–

 

第1段階では、Trentエンジンの基本的な設計の見直しを行い、これまでの中圧系(IP=Intermediate-pressure)に荷重が多く加わっていたのを改め、高圧系(HP =High-pressure)と平等にする。

これまでのTrentエンジンの改良は、主としてIP系のコンプレッサーとタービンの仕事量を増やすことで対処してきた。“アドバンス”エンジンでは、これを改める。

すなわち、HP系コンプレッサーの段数をTrent WBXの6段から10段に増やして圧力比を高め、それに伴いHPタービンを現在の1段から2段にする。同時にIPコンプレッサーはXWBの8段から4段程度に減らし、IPタービンも2段から1段に変え、IP系に偏っていた負担を軽減する。

この変更により、2軸式を使っているGEおよびP&Wの構成に近くなる。唯一異なるのはGE、P&WのLP系では、LPコンプレッサーとファンをLPタービンで駆動しているが、”アドバンス“ではLPタービンで駆動するのはファンだけである。Trentエンジンでは、LPコンプレッサーの役をIPコンプレッサーで行ってきたと云える。

Trentエンジンは、1988年にTrent 700を発表以来、-800、-1000、-XWBと性能向上を続けてきたが、これらはIPコンプレッサーとIPタービンの負荷を増やす方法で行われ、HP系の改善は小規模に止まっていた。”アドバンス”では、これが抜本的に改められる。

この新しい組合せにより、HP系を高負荷に改めコア全体の効率を高め、さらに重要なことはその次の世代、つまり第2段階の“ウルトラファン”のコアとの共通性を持たせるとした点である。将来を見据えた全体構想と云える。

“アドバンス”の特徴はコアの再構築、“IP系とHP系の再編”、にあるが、LP系が軽くなるのも重要な点で、これらで推進効率を僅かだが改善でき、また熱効率は大きく改善される。

複合材製の軽量ファンブレードの採用、それに予め配線や配管をファンケース上の取付け用かごに貼付けて軽くする方法も採用する。その他にも低エミッション燃焼器、コンプレッサーやタービン・ブレードの軽量化、ブレード冷却方式の改善、ダイナミック・シーリング、抽気量を効率的にするアダプテイブ冷却システム、などが採用される。さらに、新しいセラミック・ハイブリッド・ベアリングを使う。

“複合材ファンブレード”についての詳細は、本サイト「ロールスロイス、複合材(CFRP)ファンブレードを復活」2013-10-24掲載、を参照されたい。

 

第2段階では、最大の変更点として次世代型大型高バイパス比ファンの採用がある。新大型ファンはギア・システムで可変ピッチ機構付き、IPタービン軸からギアボックスを挟み駆動する方法を採用する。これでLPタービンは除去され、RRの伝統的な3軸ではなく2軸エンジンとなる。

さらに“ウルトラファン”では、“アドバンス”で採用する技術の上に、次ぎのような新技術が付加される。すなわち、“可変ノズル”、エンジンと一体型のスリムライン・ナセル、等が使われる。ファンは着陸時を含め飛行中ピッチを変えるので、ナセルに逆噴射装置はない。IPタービンには、軽量化のため回転部分にはチタン・アルミ合金(titanium aluminide)を、ノズルのような非回転部分にはセラミック・マトリックス複合材(CMC=ceramic matrix composites)を使う予定である。

Trent XWB

図4:(Rolls Royce)基本となるA350用”Trent XWB”。ファンは直径3 m、バイパス比は 9.3:1、全体圧力比は52:1、推力75,000〜97,000lbs。詳しくは本サイト「エアバスA350 XWBの概要」5ページ、2013-10-16掲載を参照されたい。

 

アドヴァンス

図5:(Rolls Royce) Trent XWBを基本にし、HP系とIP系を新設計したエンジン。ファンは大型となりバイパス比は11:1、全体の圧力比を60;1に高める。

 

ウルトラファン

図6:(Rolls Royce)可変ピッチ機構付き大型ファンで、IPタービン軸で減速ギアを介して駆動する。従って2軸式ターボファンとなる。

 

“ウルトラファン”には、“アダプテイブ冷却システム”の冷却空気を冷却する”cooled cooling air”方式と“ブリングス(brings=bladed ring)”の採用を検討中だが先延ばしされるかも知れない。

*  ”cooled cooling air”方式;

コンプレッサー後段から抽気したエアを、バイパス/ダクトのエアで冷却し、タービン部に導く方式。これで抽気エア量が減るだけでなく、熱交換の終わったエアをタービン・ブレード、ノズル、デイスクなどに再注入すればサイクル効率が向上する。現在ヨーロッパNEWAC計画の中で試験が行われている。

*  “ブリングス(brings=bladed ring)”:

次世代型の”ブリスク(blisk=bladed disks)”で、ブレード・デイスク一体型の現在の”ブリスク“で使う厚い重いデイスクに替わり、非常に強度のあるメタル・マトリックス・リングを使いブレードと一体化する構造。

図1の説明のように、現在は、複合材製ファンブレードをTrent 1000に搭載し、実用化を目指して試験を進めている段階にある。

また別途Trent XWBを使って”アドバンス“エンジンのコア、即ちHP系とIP系、の試験の準備が進められている。すなわち、Trent XWBのHPおよびIP系を取外し、”アドバンス”のコアと入れ替える作業中。すでに設計は完了し、デイスクの製作に取り掛かる段階にあり、2015年末に組立て完了、2016年には耐久試験に入る予定だ。

アドバンス“のコアは、前述したがHPコンプレッサー10段、IPコンプレッサー4段とする予定だが、両者の整合性を考えて量産型では多少変るかも知れない。ただしHPタービン2段、IPタービン1段には変更はない。

“アドバンス“、”ウルトラファン”、共に圧力比を高める予定だが、これは運転温度の上昇と高濃度の窒素酸化物排出をもたらす。対策として2010年からTrent 1000にCMCを使ったタービン・ブレード、シュラウド、と、新しい希薄燃焼式燃焼器を組込んだ「環境に優しいエンジン(EFE)」を使い試験を行っており、2015年には終了する。

 

“ウルトラファン”については、RRは8,700万㌦(87億円)を投入し、ドイツのダルウイッツ(Dahlewitz)工場でギアボックスの研究、開発に取組む。これは極めて重要なプログラムで、英国とドイツ両政府が資金の一部を負担して行う「クリーン・スカイ2」計画の一つに予定されている。このギアボックスは、P&W社のPW1000Gギヤード・ターボファンに似た”遊星歯車”方式で、ファン速度をIP軸回転速度に対し 3 : 1位に下げる予定だが、詳しいことは判らない。ギアボックスの運転試験は2015年末から始める。

 

最後に、ロールスロイスのTrent系列エンジンについて、サイト上で度々解説したが、それらの題名を纏めて再録するので参考にされたい。

*「エアバスA350 XWBの概要」5ページ、2013-10-16作成

*「ロールスロイス、複合材(CFRP)ファンブレードを復活」2013-10-24作成

*「超合金に替わる“セラミック–マトリックス複合材(CMC)」2014-04-09作成

*「エアバスA330neoに装備するRRトレント7000エンジンとは」 2014-07-29作成、2014-08-02改訂

 

–以上−

 

本稿作成の参考にした記事は次ぎの通り。

Aviation Week eBulettin Aug 25, 2014 “Rolls-Royce Details Advamce and UltraFan Test Plan” by Guy Norris

Aviation Week March 3, 2014 “Future Fans” by Guy Norrs

Bloomberg Feb 27, 2014 “Roos-R0yce unveils Engine for Future Boeing, Airbus Planes” by RobertWall

RR 26 February 2014 “Rolls-Royce shares next feneration engine desighns” b