2014-09-21 松尾芳郎
図:(USAF)F135エンジン改修を待つF-35。現在F-35A、B、C、の3機種、合計21機が飛行試験に参加中。
P&W軍用エンジン部門社長ベネット・クロスウエル(Bennett Croswell)氏は「21機のF-35試験機のエンジンF135の改修作業は11月にスタートし、来年早々には完了する」と述べた。
去る6月23日エグリン空軍基地(Eglin AFB, Florida)で離陸準備中のF-35Aで、F135エンジンが爆発事故を起こしたのは既報の通り。以後F-35は、一部の機体を除きgとロールに制限を付して飛行を続けてきたが、この改修で最終的に飛行包絡線全体を使う正常な飛行試験が行われることになる。
これは、F-35計画局長クリス・ボグデン(Christopher Bogdan)空軍中将が2週間前に述べた「今月末までに改修完了し正常な飛行試験を再開できなければ、開発スケジュールの見直しが必要になるかも」から見ると若干遅れることになる。
具体的には、11月に予定している空母ニミッツ(Nimitz)を使ったF-35Cの初の着艦試験とカタパルト発艦試験、それに2015年7月1日を目標としている海兵隊のF-35Bに対する”初期運用能力(IOC=initial operational capability)”付与、が予定通り行われるかに注目が集まっている。
ボグデン中将はニミッツでの“空母離発着試験”は今のところ変更はない、また海兵隊F-35Bの”初期運用能力(IOC)”付与は基本的には予定通り、ただし“ミッション・データ”ソフトの引渡しは遅れる、と云っている。
9月15日に空軍関係の会議に出席したボグデン中将は「AF27号機で起きたエンジン爆発の原因は絞り込まれており、改良型部品を10月に試験し、11月からエンジンに取付ける。対象エンジンは約150台、費用はすべてP&W社が負担する」と述べている。
現在P&Wでは、ウエスト・パームビーチ(West Palm Beach, Florida)工場の”摩耗試験装置(rub rig)”を使って、事故の3週間前に行った機動飛行でファン3段目一体型ブレード・ローター(IBR=integrated bladed rotor)とステーター間のシールプレートで生じた過度な摩擦の経緯を検証中である。また、密度の異なる数種の発泡ポリミド(polyimide foam)製シールプレートの試験も併せて行っている。
P&W軍用エンジン部門社長クロスウエル氏によると「この機動飛行はF-35に定められた飛行包絡線の内側で行われ、エンジンは当然それに耐えられなければならない」。「この機動は、低空を維持しながら背面飛行からロールを打ち緩やかに上昇に移る飛行で、通常の低空飛行訓練の一つである。この過程でロールとヨーとgを合成した荷重が、エンジンに僅かな曲げ応力として加わり、その結果過度の摩擦熱が生じ、ファン3段目に「微小クラック(micro-cracking)」を起こした」。
クロスウエル社長によると「初期に引渡されたF135エンジンでは、このような状況は見られない。今回の件は、使用開始間もないエンジンと機動飛行の組合せで発生した問題である」と云っている。
運転時間の少ないエンジンでは、ステーター先端が相手側の発泡ポリミド・シールに充分馴染んで(burned in)おらず、シール側に適度な深さの溝が形成されていない、このため、機動飛行によるエンジンの撓みで過度な接触摩耗、温度上昇が起こった。
一方、初期のエンジンを装着した初期のF-35グループは、穏やかな飛行から試験を始め、徐々に戦闘機に要求される高度な機動飛行の試験に入ったため、問題のシールの摩擦も徐々に進み、特別の問題は生じなかったもの、と見られている。
クロスウエル社長は「これが判ったので、シールの間隙を少し拡げる」としている。
ボグデン中将が先に発表したように、過度な摩擦で想定温度の2倍の1,900Fにも達したため、熱のためファン3段目ローターの強度が落ちたが、初期のエンジンでは、同じ間隙を持つ、同じシールで、同じ摩耗は生じていない。
P&Wでは、”摩耗試験装置(rub rig)”の試験で、間隙を再調整した改良型シールが決定すれば、F-35A用エンジンの一つ「FX638」に組込み地上試験を行う予定である。すなわち、新シールで、コンプレッサーの性能が落ちないこと、AF27号機で起きたような過度な摩擦を生じないこと、を検証する。「FX638」で地上試験が完了したら、実機(機番は未定)に取付け飛行試験を行う。
AF27号機事故後の一斉検査で、いずれも比較的若いエンジン3台に同じような摩耗が見付かっている。
これ等を含めて引渡し済みの全てのエンジンに改修が行われるが、作業は工場でファンセクションを取外して行う予定。
一方、P&WとF-35製造のロッキードマーチンは、すでに引渡し済みの機体で問題のシールが充分馴染んでいるものについて、飛行包絡線一杯を使った機動飛行を再開できるか、検討している。ボグデン中将は、未改修機でも出来れば制限無しの飛行再開を希望している。
当局によると、エンジン問題が発生する前までは、飛行試験は計画より25%ほど早く進行していたので、6月の件が無ければ今年は最良の年になっていた筈、と云う。F135エンジンの実績は、今回の事故を除けば故障取卸し率を含め全体としては、充分な信頼性を示している。
F-35計画局は近くP&Wと少数初期生産(LRIP)のロット7と8のエンジン購入契約を結ぶことになるが、クロスウエル社長によると前回契約分のロット6と比べロット8では価格が8%下がる予定。これでLRIP 2で納入したF-35A 2機用のエンジン価格対比では半額になる。我国が購入するF-35Aはロット8以降になる予定なので、価格面での恩恵にもあずかることになりそうだ。
–以上−
本稿の参考にした記事は次ぎの通り。
Aviation Week eBlletin Sept. 16, 2014 “F135 Test Fleet Retrofits could Start in November” by Amy Butler