好調な英国航空・アイベリアの統合企業「IAG」、ヨーロッパの伝統エアラインを越える勢い


2014-12-26 松尾芳郎

 Travel Daily Media

図:(Travel Daily Media)手前の英国航空機(British Airways)、と奥のアイベリア航空機(Iberia)。両社は2011年1月に「インターナショナル・コンソリデイテッド・エアラインズ・グループ(IAG=International Consolidated Airlines Group)」を結成、多国籍エアライン持株会社として発足した。

IAGロゴ

図:(IAG) IAG企業体のロゴマーク

 

「IAG」すなわちインターナショナル・エアラインズ・グループは、我々には馴染みの薄い名前だ。「IAG」は英国を代表する英国航空(BA)とスペインを代表するアイベリアが共同で設立した(2011年)多国籍エアライン持株会社で、本社は英国ロンドンにあり、スペインのマドリードに登記している企業体である。その後2012年末にはスペイン第二の航空会社で本拠をバルセロナに置くLCC(格安航空) のブエリン(Vueling)航空を買収している。

IAGは、取締役会はマドリードで開き税金はスペイン政府に納めている。発行する株式はロンドン、マドリード、バルセロナ、その他で取引されている。

傘下にある企業は英国航空(BA) 、アイベリア(Iberia)、ブエリン(Vueling)航空の3社とそれぞれの子会社群で、いずれも自社ブランド名で運航している。

BA A320neo20機

図:(British Airways)英国航空のA320neo(想像図)

Iberia A320

図:(Iberia)アイベリアのA320

Vueling A320

図:(Vueling)ブエリン航空のA320

 

欧州の伝統的航空会社であるエアフランス-KLMとルフトハンザは、昨今の欧州の景気低迷の影響と、9月に相次いで起こったストライキのため、減収減益の傾向にあるのに対し、IAGは経営戦略が当たり成長軌道に乗り始めている。

この11月に発表されたIAGの中期展望によると;—

「今後数年間は、成長は鈍化するが営業利益率は10%以上を達成でき、充分な配当を持続できる。また組合との関係も安定し、当面争議が起きる心配はない、さらに新型機の大量導入で業績が下支えされる。」

発足当初IAGは、とてもヨーロッパの伝統航空会社の一角に食い込めるとは思われていなかった。英国航空もアイベリアも同じくLCCの台頭に苦しんでいたし、ブエリン航空は自身がLCCであるにも拘らず他の新興LCCとの競争に巻き込まれていた。英国、スペイン両国にはヨーロッパ経済を牽引するだけの力はなく、特に後者は2008年に起きた国内の民族紛争がやっと収まりかけた段階だった。

伝統航空会社の経営方針には、一般に格安航空に巻き込まれたくないと云う考えがあるが、IAGはこの考えに一石を投じブエリン航空を傘下に収めた。

IAGの会長を務めるウイリー・ウオルシュ(Willie Walsh)氏は53才、スコットランド出身でエアリンガス(Air Lingus)の社長から転身、IAG創立当初からIAGに移り、構想を練り上げ今日の成功へ導いた。同氏の努力で英国航空、アイベリアは共に長く続いた労組との軋轢が終わり、経済的苦境から立ち直ったのは注目に値する。

ヨーロッパ域内路線の多くは不採算路線だが、エアフランス−KLMやルフトハンザはこれまでの経緯を引き継ぎ未だに運航を続けている。

しかし英国航空はLCCとの競争もあり2010年から早々と域内路線から撤退した。代わりに、ヒースロー空港をハブとしてロンドン在住の人々のためここからローカル線を運航している。欧州–北米を結ぶ大西洋路線では、アメリカン航空と共同運行を行い、ヒースロー発旅客の増加分の多くを取り込むことに成功している。

アイベリアも同様で、伝統的に強いヨーロッパとラテンアメリカを結ぶ路線に資源を集中して利益を出し、最近ではアフリカ、アジア路線にも食指を伸ばしている。

IAGグループとしては、ロンドン発の長距離路線、スペイン発の長距離および短距離路線、それにヨーロッパ域内ではブエリン航空の低運賃運航で、それぞれの分野で業績を伸ばしている。IAGでは、ロンドン–北米とラテンアメリカ路線で2016-2020年の期間、年率3-4%の供給力増加を予定している。

短距離路線は、現在はA320ceo系列機を266機、ボーイング737 を35機、それに767を7機使っている。このうち737は2015年までに退役し、767は2018年までに退役する予定。一方供給力は2020年まで年率平均で3.5%ずつ増やす。このための更新および増機用として、昨年夏にはA320neo を220機発注している(2013年8月)。

広胴型機の運航は全体として年率3-4.5%の割合で成長を見込んでいる。英国航空は現在ボーイング747を43機使っているが2015 年末までに退役する。エアバスA380は現在の8機から来年末までに10機に増やす。エアバスA350は26機確定発注済みで2018年から導入が始まる。ボーイング787も増え2015年末には13機、最終的には29機となる。これ等の新型広胴機のお陰で、2018年の燃料消費は2012年に比べ6億3,000万㌦以上も安くなる。(最近の原油価格下落が維持されればさらに燃料費が低減する)

2014年1-9月の実績から推定した欧州各社の2014年収支予測を次の表に示す。これを見るとIAGはルフトハンザと比較して、収入は3分の1に止まるが、営業利益はほぼ同じ。これから「不採算路線からの撤収」と「労働争議からの脱却」の成否が、航空企業の業績を大きく左右する、と云うことが判る。

2014予測

図:1ユーロ=145円、1㌦=120円換算レートを使用。IAGの業績好調が判る。

 

報道によれば、IAGはアイルランドの航空会社エアリンガス(Air Lingus)に対し11億ユーロ(約1兆6,000億円)で買収を提案した(2014-12-18)が、未だ同意には至っていない。敏腕のウイリー・ウオルシュ会長の指導のもとでIAGは益々台頭することだろう。

–以上−

 

本稿作成の参考にした記事は次ぎの通り。

Aviation Week Nov. 17, 2014 page 32 “Unlikely Winner” by Jens Flottau and Cathy Buyck

IAG Annual Review 2014

Flight Global 14 Aug. 2013 “IAG to order up to 220 A320neos”by David Kaminski-Mprrow

Lufthansa Annual Review 2014

Air France-KLM Annual Review 2014

日本航空第66期第2四半期のご報告