木星最大の衛星「ガニメデ」には広大な海が存在


−ハブル宇宙望遠鏡の観測結果から判明−

 2015-03-25 松尾芳郎

 

先日NASAの探査機カッシーニが土星の衛星エンセラダスの厚い氷層の下に海を発見した話を紹介した。今回はNASAのハブル宇宙望遠鏡が、木星を回る衛星ガニメデの氷層の下に海があることを突き止めたニュース。エンセラダスの海の場合と同様、新聞に紹介されたのでご存知の方が多いと思う。

木星の磁力線

図:(NASA/ESA)太陽系最大の惑星木星を周回する衛星「ガニメデ」。ハブル宇宙望遠鏡がガニメデの磁界で生じる青白く光るオーロラの観測に成功した。ガニメデの磁界は、木星からの磁力線の影響を受けている(図の黄色の線が木星の磁力線を示す)。ガニメデの表面の氷層の下には塩水の海があり、それがオーロラ帯の揺れ幅に影響している。

 

NASAの発表(2015-03-12)によると、ハブル宇宙望遠鏡を使って、木星最大の衛星ガニメデ(Ganymede)の厚い氷層の下に広大な塩水の海が存在する証拠を発見した。ガニメデの海の容積は地球の海よりも大きいと云う。

液体の水の存在は、生命の維持に必須の条件なので、ガニメデにも生命存在の可能性が出てきた。

「この発見は極めて重要で、ハブル宇宙望遠鏡が地球軌道を周回、活動を始めてから25年間で挙げた大きな成果の一つである。ハブルはこれまで太陽系で数々の新発見をしてきたが、今回のガニメデの氷層の下に広がる大洋の発見は地球外生命存在の可能性を示唆するもので、極めて興味深い。」(NASA Science Mission担当副長官John Grunsfield氏の談話)

ガニメデは太陽系惑星を周回する衛星/月の中で最も大きく、また自身の磁界を持つ唯一の月である。磁界があるとオーロラ(aurorae)ができるが、これは磁力の影響で天体(月)を被う大気の上層部の両極の近くで高温の電離層が発生するが、それが帯状に発光する現象である。ガニメデは木星に近いので木星の磁界の影響も受け、木星の磁界が変動するとガニメデ上の2本のオーロラの帯も揺れ動く。

このオーロラ帯の揺れを注意深く観察して、ガニメデの厚い氷層下に海が広がっていると結論づけられた。

ガニメデオーロラ

図:(NASA/ESA)ハブル宇宙望遠鏡の紫外線カメラが撮影したガニメデのオーロラ帯(青白く光る部分)。このオーロラ帯の揺れ/変動の範囲から氷層下に広大な海が存在すると、結論づけられた。

 

ドイツのコロン大学(Univ. of Cologne)のJoachim Saur氏率いる研究チームは、ハブル宇宙望遠鏡が観測したガニメデに発生しているオーロラ帯の揺れのデータを解析して、ガニメデ内部に海が存在すると云う結論に達した。

ガニメデに海が存在しないと、木星の磁界の変動の影響でオーロラ帯の揺れ幅はほぼ6度になる筈だが、観測データでは2度を示している。この理由を次ぎのように説明している。すなわち;—

「塩水の海があると、木星の磁界でガニメデの海に2次磁界が生じる。これがガニメデ自身の磁界との間に摩擦を引き起こし、オーロラ帯の揺れの範囲を少なくしている。」

研究チームによると、ガニメデを被う氷層は厚さ150 kmで、その下に広がる海は深さ100 km(地球の海の深さの10倍+!)と云う。

ガニメデの内部

 

図:(NASA, ESA,and A. Field(STSci))木星の最大の衛星ガニメデの内部構造。NASAのガリレオ探査機とハブル宇宙望遠鏡のガニメデの磁界観測の結果から描いた想像図である。ガニメデの外側の層は分厚い氷層(厚さ150 km)とその下の海水の大洋(深さ100 km)から成る。その内側では鉄の中心核を岩石のマントルと氷のマントルが包んでいる。

ガニメデ磁力線

図:(NASA, ESA,and A. Field(STSci))ガニメデを取巻く磁界は鉄の中心核から生じる。この磁力線の影響でオーロラが生じるが、氷層下の塩水の海がこの磁力線に影響を与えている。

オーロラの揺れ

図:(NASA, ESA,and A. Field(STSci))ガニメデに生じる2本のオーロラ帯の揺れ幅を、「海が無い場合」と「海がある場合」について示した図。ガニメデの磁界は鉄の中心コアから生じるが、木星の磁力線が変ると、ガニメデのオーロラ帯も変り揺れ動く。しかしこの揺れは氷層下の海で磁力線が減衰されて揺れ幅が小さくなる。「海があると仮定」すると木星磁力線の影響で海に2次磁力線が生じ、これがガニメデ磁力線を減衰する。

 

科学者達がガニメデに海があるかも知れないと推測したのは1970代に遡る。2002年にはNASAの木星探査機ガリレオ(Galileo)がガニメデに磁界があることを発見し、この推測の裏付けをした。しかし、この観測は20分間隔で磁界を測定しただけで、海に生ずる2次磁界による揺れ/変動については判らなかった。

今回の発見は、ハブル宇宙望遠鏡の紫外線カメラを使った撮影で初めて可能となったものである。地上望遠鏡では大気が紫外線を吸収してしまうので紫外線は観測できない。

ハブル宇宙望遠鏡は、今年4月24日に観測開始から25周年を迎える。その間太陽系に関する新しい発見、太陽系外の星々に関する数々の情報を届けてくれた。

ハブルはNASAとESA(European Space Agency)との協力事業である。NASAのゴダード宇宙飛行センター(Goddard Space Flight Center, in Greenbelt, Maryland)が望遠鏡の運用全体を主管している。そしてSpace Telescope Science Institute (STSci in Baltimore, Maryland)が、ハブルを使った科学運用を担当している。STSciは、ワシントンのAssociation of Universities for Research in Astronomy Inc.がNASAのために作っている組織である。

 

最後にガニメデの親である木星(Jupiter)について少し。

木星は太陽系最大の惑星で直径はおよそ140,000km、太陽からの距離は約5 AU(天文単位)、太陽の1000分の1の質量を持つ。これは太陽系の太陽以外の惑星などの質量を合計したものの2倍半に達する。木星は大半が水素でヘリウムが4分の1ほど、中心に岩石や金属のコアを持つ。衛星/月は少なくとも67個あり、ガニメデは直径5,260kmで、これら月の中で最も大きく、太陽系の惑星である水星よりも大きい。

−以上−

 

本稿作成の参考にした主な記事は次ぎの通り。

NASA March 12, 2015 “Hubble’s View of Ganymede—Briefing Materials