2015-08-09 松尾芳郎
図1:(TRDI)米国ホワイト・サンズ・ミサイル試験場(WSMR)で発射された「03式地対空誘導弾(改)」略称:「03式中SAM改」。現在配備中の「03式中SAM」とは別物でやや細身。
我が国が配備を進めている地対空あるいは艦対空ミサイルは大別すると3種に分類でき、目的別にそれぞれ陸海空3自衛隊が担当している。すなわち;—
1.海上自衛隊:弾道ミサイル防衛(BMD)用「SM-3」艦対空ミサイル。イージス艦から発射し来襲する敵弾道ミサイルを大気圏外で迎撃、撃破する。現在のイージス艦6隻体制は数年以内に8隻に増強される。
2.航空自衛隊:地上配備のペトリオット「PAC-3」地対空ミサイル。主任務はイージス艦「SM-3」が撃ち漏らした敵弾道ミサイルを大気圏内で迎撃、撃破する、いわゆる「低層BMD」ミサイル。「PAC-3」は来襲する敵巡航ミサイル、航空機に対する迎撃能力も併せ持つ。現在運用中の6高射群は今年中に全て「PAC-2」から「PAC-3」装備に改編される。
3.陸上自衛隊:来襲する敵巡航ミサイル、航空機の迎撃用として配備中の地対空ミサイル「改良型ホーク」は、現在順次「03式中SAM」に更新中である。その後継機「03式中SAM改」の完成を待って、全国に展開する7個高射特科群に「03式中SAM改」を配備する(2016年度開始)。
「03式中SAM改」は陸自が運用する最大規模の中距離地対空誘導弾システムで、三菱電機が主契約となり、開発が進められている。
防衛省技術研究本部によると、現在配備を進めている「03式中距離地対空誘導弾(略称03式中SAM)」の後継となる「03式地対空誘導弾(改)、(03式中SAM改)」の開発は順調で、発射試験は昨年7月〜10月の間、米国ホワイト・サンズ・ミサイル試験場(WSMR=White Sands Missile Range, New Mexco)で行われた。
この試験では、敵戦闘機、巡航ミサイル、空対地ミサイルを想定した標的機に対して、「03式中SAM改」を発射し精度、威力を確認した。この後も全体システムの完成度を高めるための試験を予定していて、平成 27年度もWSMRで試験を実施する。
図2:(TRDI)「03式中SAM改」」は、国産の先進センサー・ネットワーク技術を使い、特に敵巡航ミサイルへの対処能力を向上させ、見通し線外射撃能力を重視している。このため「03中SAM」にはない補助レーダーを追加している。
陸自ではこれまで対空ミサイルとしてレイセオン社製「改良型ホーク」を使ってきたが、この後継機が国産技術で開発され2003年度に正式化されたのが「03式地対空誘導弾(03式中SAM)」である。
陸上自衛隊は全国を5つに分け、それぞれ北部方面隊、東北方面隊、東部方面隊、中部方面隊、西部方面隊、が担当している。各方面隊はそれぞれ数個の師団、旅団で構成されている。これら方面隊には直轄の高射特科群が全国で7個置かれている、高射特科群は4個高射中隊の編成となっている。
これら高射特科群では[中SAM]の配備が進みつつあるが、予算の制約で各年1個中隊の割合で行われているため、まだ「改良型ホーク」が多く残っている。2016年度(平成28年)には「中SAM改」を実用化、これらを一括して更新しようとしている。
図3:(TRDI)「03式中SAM改」の新島試験場での試射。原型の艦載用「XRIM-4」と比べると、胴径は先端の誘導部を含め同じにしたこと、操舵翼の折畳み機構を省いたこと、投棄式のTVCモジュールがないこと、に気付く。余裕のあるキャニスターを使うため操舵翼の折畳み機構を廃止でき、発射直後の方向変換の必要性が低いことからTVC(推力偏向装置)を省いたことが考えられる。これらの改良で性能アップとコスト削減を目指している。
図4:(陸上自衛隊)「03式中SAM」の発射装置。陸自下志津駐屯地(千葉県)で2010-04-29に公開された。「03式中SAM」は本体直径が32 cmで6個のキャニスターに1個ずつ収納される。高射中隊は、発射装置と射撃用レーダー車、信号処理兼電源車、指揮車など6台で編成される。費用はパトリオット中隊1個が850億円であるのに対し半分強の470億円とされる、1ユニット編成の人員は改良型ホークの50人から20人になる。「03式中SAM改」も同じ発射装置を使う模様。
「03式中SAM改」のミサイル本体について触れてみる;—
「03式中SAM改」は、巡航ミサイルや航空機からの高速対地ミサイルの脅威に対抗するため2010年から開発が始まった地対空ミサイルで、2016年の実用化を目指している。
海自用に開発中だった艦載型対空ミサイル「XTRIM-4」が中止となり、米海軍と同じレイセオン社製造のRIM-162「発展型シースパロー(ESSM=Evolved Sea Sparrow Missile)」の採用が決まった。これで海自案「XTRIM-4」は一旦お蔵入りしたが、陸自の新中SAMとして再生したのが「「03式中SAM改」である。
「03式中SAM改」は「XTRIM-4」と同じように、弾頭のシーカーは空自の空対空ミサイル「AAM-4」のAESAレーダーで、アクテイブ方式で終末誘導を行う。
発射試験の写真から見ると、「XTRIM-4」に比べミサイル誘導部(先端部)が太くなり、推進部と同じ直径になっていることに気付く。これでAESAレーダーを大きく送受信素子を多くでき、目標追尾能力が向上すると思われる。
「03式中SAM」の大きさは、は重量約570 kg、全長4.9 m、直径32 cmで「ホーク」ミサイルとほぼ同じである。これに対し「03式中SAM改」の大きさは未公表だが少なくとも直径は、原型の「XTRIM-4」が20.3 cmなので、かなり細いと思われる。
有効射程は、「改良型ホーク」(35 km)より伸び60 km以上と推定される。
隣国である中国の国防費は、この10年間におよそ4倍に膨れ上がり、これに伴い巡航ミサイル、作戦用航空機の数が著しく増強されている。我々は万一の事態に備え、国土と国民の生命財産を守るため、防衛力の整備強化に努めることが肝要である。この一端を担うのが「03式中SAM改」の完成と配備である。政府の一層の努力を願いたいものである。
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本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。
防衛省・自衛隊 平成26年版防衛白書
防衛省技術研究本部パンフレット2014
週間オブイエクト2014-11-27 “03式中距離地対空誘導弾(改)
防衛省技術研究本部「防衛技術シンポジウム・レポート 2012-11-15