2016-01-13(平成28年) 松尾芳郎
2016-01-15改定(図13を差し替え)
7)ターボファン(Turbofan)
図10:(Wikipedia)ボーイング707-320Cの左翼に装着されたP&W JT3D、写真は上がNo. 1、下がNo.2エンジンである。No.2エンジン・カウルの上にある膨らみは客室与圧用ターボ・コンプレッサーの吸気孔である。民間用JT3Dと軍用のTF33は、合わせて8,600台が作られた。1985年に生産は終了したが、TF33はKC-135タンカーの一部とB-52H爆撃機などで現在も使われている。
2軸式ジェットの実用化が始まると間もなく、一層燃費が良く高推力のエンジンが求める声が強まり、メーカーはエンジンの空気流をコアの中を流れる部分とコア周囲を流れる部分とに分ける「バイパス・エンジン(by-pass)」の研究を始めた。
初期のバイパス・エンジンは、バイパス量が全体の空気流量の数%程度で、この数%分をコアの周囲に流して推進効率の向上を図っていた。コアに入る空気流はコンプレッサーに導かれ圧縮され圧縮比が高くなり熱効率が上がる。ファンを通るバイパス空気流は、コア空気流に比べずっと遅いので、コアを含む全体の排気ガス速度は機体の速度に近くなるため、結果として推進効率(propulsive efficiency)が高くなる。1960年にロールスロイスのコンウエイ(Conway)が最初のバイパス・エンジンとしてボーイング707に使われ始めた。続いてP&W JT3Dが参入。コンウエイはバイパス比が僅か0.3だったのに対し、JT3Dは1.5と大きかったので燃費が良く広く受け入れられた。
GEは、軍用のJ79エンジンの改造し、エンジン後部に新たに一体型のフリータービン・ファンを取付けたCJ805-23Bターボファンを開発し、コンベア990型機に採用された。これでCJ805を使ったコンベア880型機に比べ燃費を28%改善したが、売れ行きは伸びなかった。
8)可変ステーター(Variable Stators)
図11:(GE) J79エンジンを背景に、左側ゲアハルド・ニューマン氏、右はJ79プロジェクト・マネジャーのネイル・バージェス氏。ニューマンはドイツ系アメリカ人技師で1948年にGEガスタービン部門に入社、ジェットエンジンに関わる多くの革新的技術の開発に携わった。J79/CJ805のコンプレッサーに採用した「可変ステーター」はその最たるものであある。CJ805付きコンベア880型を使っていた日本航空にはしばしば来訪していた。1997年11月に80才で没した。
コンプレッサーの圧力比を高くすれば、巡航時の燃費が良くなる事が判ったが、低速回転から加速する時にコンプレッサーが失速し易くなる、など問題も明らかになってきた。
2軸式ジェットや、単軸でもコンプレッサーの途中段から空気を抜いて(bleeding)やれば、失速が少なくなる。しかし最良の解決策は、エンジン回転速度が上がるに応じてコンプレッサーのステーター・ベーン(静翼)の迎え角を変える自動装置の実用化である。コンプレッサー前部の数段にこの装置を付けてやると、急加速時でも失速しなくなるし、燃費も改善される。
この可変ステーターのアイデアは1940年代末にロールスロイスで検討されたが、実用化したのはGEが最初である。1954年になるとGE製単軸式ターボジェットJ-79で、同社の技師ゲアハルド・ニューマン(Gerhard Neumann)が実用的な可変ステーター・システムを開発した。この革新的システムのお陰でマッハ2のスピードが出せるようになり、後に出現する高バイパス比のファンエンジンの基礎を開く事になった。
ニューマンのJ79エンジンは30年間作り続けられ17,000台以上生産され、ロッキードF-104スターファイター(Star fighter)、F-4ファントム(Phantom)戦闘機、コンベアB-58ハスラー(Hustler)爆撃機、それにイスラエル製キファー(Kifir)戦闘機などに採用された。
9)ターボプロップとターボシャフト(Turboprops and Turboshafts)
図12:(Rolls Royce)ロールスロイス(RR)製 RB.53ダート(Dart)・ターボプロップの展示用モデル。初期型は出力860軸馬力で1940年代末に作られた、以後改良が続き、最も後期のモデルRDa.10/1型では3,000軸馬力を超えるようになった。写真はRDa.7 と思われ、コンプレッサーは遠心式2段、タービンは3段となり15,000rpmで回転し、遠心コンプレッサー前方の減速ギアを介して1,900馬力を出した。バイカウント旅客機、フォッカーF27旅客機、ガルフストリームI ビジネス機などに使われ、1987年生産終了までに7,100台が製造された。
ターボプロップとは「ガスタービンの排気ガス流が持つエネルギーを回転力に変えてプロペラを回す装置」と云える。これには、減速ギアを介してコンプレッサー軸を直接プロペラ軸に伝え回す型式と、別に用意したフリータービンの力を本体のシャフト内を通る軸に伝え減速ギア/プロペラを回す2軸方式、の二つがある。
ターボシャフトは、ターボプロップと似ているが、減速ギアが異なりプロペラではなくヘリコプター用の大型ローターに駆動力が伝わるエンジン型式である。代表的なターボプロップにはロールスロイスのダート(Dart)、アリソンのT56/501、P&WCのPT6系列、ロシアの・クズネツオフ(Kuznetsov) NK-12、がある。ターボシャフトにはGEのT64/T700とハニウエルのT55、ロシア・クリモフ)Klimov TV3-117などがある。
10)高バイパス・ターボファン(High-bypass Turbofan)
図13:(GE) 空軍のロッキードC-5A大型輸送機に使われているGE製TF39高バイパス・ターボファンは、民間用に改修されCF6となり、また艦船用および陸上設置型としてLM2500になり、広く使われている。TF39は推力41,100 lbs、改良型TF36-1Cでは43,000 lbs。ファンは1段半でバイパス比は8:1、コンプレッサーは16段、圧力比は25:1、高圧タービン2段で入口温度は2,500°F、低圧タービンは6段でファンを回す。燃費は当時のターボファンより約25%改善された。コンプレッサーの前段部分には可変ステーター・ベーンを使用。ファンは、1段目は2段の倍の長さで外側の空気流はコアの外周を、内側は2段ファンを通りコア内を流れる。1968年以降約700台作られた。C-5A/B/C大型輸送機は126機製造された。
1963年に米空軍が後にC-5Aとなる大型輸送機の開発を決めたことで、GEとP&Wの2社は、それまでに無い高バイパス比(BPR=bypass ratio)の大型ファンエンジンの開発を始めた。新型エンジンは、単段のプロペラのように大きいファンをコンプレッサー前部に付け、バイパス比(BPR)をそれまでの1.5:1程度から3倍以上と大きくした。最初に登場したGEのTF39は空軍のC-5A大型輸送機に採用され、そのBPRは8:1であった。競争に敗れたP&Wは、民間型に改修したJT9Dがボーイングの超大型旅客機747に使われ、BPRは4.8:1であった。大型ファンで燃費は著しく向上し、ファンの後流がコアエンジンの排気流を包んで流れるため騒音の低下にも貢献した。高バイパス比の開発はその後も続き、リージョナル機用のハニウエルLF507推力7,000 lbsからGE90-115Bの115,000 lbsまでの広い範囲に渡っている。
(その4に続く)