2016-03-26 松尾芳郎
図1:(USAF)これまで[LRS-B](Long Range Strike Bomber)計画と呼ばれていた空軍の長距離戦略爆撃機は、ステルス形状で熱核爆弾を搭載できる機体とする計画で2014年7月に公募された。調達機数は少なくとも100機、将来は200機を想定しており、目標単価は5億5000万ドル(約605億円)。2015年10月に主開発担当にノースロップ・グラマン社が選定された。[B-21]は爆撃機だが、同時に情報収集(intelligence gatherer)、戦闘指揮(battle manager)、および対戦闘機空戦能力(interceptor aircraft)を備える。2020年代中期から実戦配備の予定。
米空軍では、これまで[LRS-B]と呼ばれていた計画を、このほどノースロップ・グラマン社(Northrop Grumman)と、800億ドル(約8兆8千億円)で開発する契約を結んだ。開発費の総額は235億ドル(26兆円)に達するものと見られている。そしてこれまでの名称、[LRS-B] (Long-Range Strike Bomber)「次世代型長距離打撃爆撃機」を、21世紀の爆撃機を意味する[B-21]に改めた。
米空軍では、21世紀に入ってから新型爆撃機の発注をしておらず、54年前の[B-52H]、28年経った[B-1B]、21年前の[B-2]などの旧型機を今でも運用している。これを今回更新しようと云うもの。
[B-21]の契約先にノースロップ・グラマン社を選定した事に付き、ボーイング社、ロッキード・マーチン社はそれぞれ異議を申し立てたが、2月16日に「米国政府監察局/GAO (Government Accountability Office)は却下した。
米空軍長官デボラ・ジェームス(Deborah James)氏は、2月26日にオーランド(Orland, Florida)で開催した空軍年次兵装会議(Air Force Association’s annual air warfare symposium)で、ノースロップ・グラマンが作る新型爆撃機の概要を明らかににした。大きさは未だ秘密に包まれている[RQ-180]諜報・監視・偵察(intelligence, surveillance, and reconnaissance)無人機を基本にし、大型化した機体になる。形は最近のノースロップ・グラマンが開発中の[X-47B]空母艦載型無人機とは異なり、以前に製作した[B-2]爆撃機のデザインを踏襲した双発機になる模様。
空軍長官によると「[B-21]は、現在すでに実用化されている技術を集約して設計し、大幅なコスト削減を図る。最初の21機を生産するに必要なコストは明らかにされていないが、1機当たりの平均価格を5億1,100万ドル(562億円)に下げるよう契約面で配慮されている。
空軍は、[B-21]の主要(tier-one)サプライヤー7社を選定し、その担当を次のように発表した。
プラット・アンド・ホイットニー(P & W=Pratt & Whitney)
P & W社(East Hartford, Connecticut)は、すでにF-35攻撃戦闘機用のエンジン[F135]を本社近くのMiddletown工場とWest Palm Beach工場(Florida)で生産中である。[B-21]のエンジンがどんな型式になるかは不明だが、業界筋によるとP &Wは[PW9000]と呼ばれる新型を提案した模様。これはファン・バイパス比4:1で、民間用に開発しエアバスA320neoや三菱MRJに使われる[PW1000G]ギヤードファン・エンジンを基本にし、これに軍用の[F135]エンジンの技術を組み合わせた型式になると見られる。[F-35]攻撃戦闘機計画主席クリス・ボグデン(Chris Bogdan)空軍中将は、エンジンが[F-35]と共用部分が多くなるので[F-35]の価格低減に繋がるとして歓迎している。
これで競合相手のGEは再び軍用エンジンへの参入を阻まれたが、依然としてF-15戦闘機やF/A-18 E/F艦載攻撃機のエンジン市場を保持、その改良型の開発に取り組んでいる。
BAEシステムズ(BAE Systems)社(Nashua, New Hampshire)
BAEシステムズ社は、エレクロニクス・システム、特に戦闘用システムでByron Callan of Capital Alpha社と協力して取り組む。
BAE社は、F-35攻撃戦闘機でAN/ASQ-239攻撃・防御システムの開発、生産を担当中である。このシステムは、全周波数帯域にわたりサイバー攻撃を防御できる機能を備えている。
BAE社は、ロンドンに本社を置く英国発祥の多国籍防衛、保安、航空宇宙企業で、米英両国で活動している。同社は電子部門だけでなく、航空機製造から艦船建造まで幅広い業務を抱えている。
GKNエアロスペース(GKN Aerospace)
この会社は、ノースロップ・グラマン社が開発した空母艦載用無人機[X-47B]の金属および複合材製の構造部材を担当してきた実績がある。これを基に[B-21]の構造部材の開発を担当する。
これに対し、同社の所在地は、セント・ルイス(St. Luis, Missouri)であるが、ここにはボーイングの防衛部門の工場もある。今回の決定に関心を寄せてきた上院議員Claire McCaskill氏(D-Mo)は、(ボーイングを支援する立場から)ノースロップ・グラマン/GKNの選定に対し、遠慮のない攻撃を加えている。
GKN社も英国起源の多国籍自動車両、航空宇宙企業で本社は英国にある。
ジャニッキ・インダストリーズ(Janicki Industries)
ジャニッキ社はシアトル郊外のSedro-Woolleyにあり、ボーイング向けに長尺物の複合材や工具を納入している企業だが、ここは長さ50 ft(約16 m)のオートクレーブを保有している。ノースロップ・グラマン/空軍はこれに目を付け、サプライヤーの一つに選んだ。
ジャニッキ社は、複合材や金属製の工具、治具の製造を得意としているが、これから発展して複合材を使った試作品の開発、供給を行っている。
オービタルATK(Orbital ATK)
同社はデイトン(Dayton, Ohio)にレドームの製造工場を持つ。また、クレアフィールド(Clearfield, Utah)では、F-35戦闘攻撃機の翼上下面のスキンとナセル用複合材パネルの自動化製造を担当している。この技術を[B-21]製造に活用する。
オービタルATK社は、は米国企業で2015年に設立された。スペース・シャトルの固体燃料ブースター、スペース・ロウンチ・システム(Space Launch System)の固体燃料ブースター・ロケットなどを手掛けている。今回の受注は同社の防衛システム部門が選定されたものと思われる。
スピリット・エアロシステムス(Spirit Aerosystems)
同社のウイチタ(Wichita, Kansas)工場は、金属製あるいは複合材製の機体製造で世界最大の1次受託(first-tier)企業、ボーイング737の胴体、787胴体の一部とコクピットを始め、最近ではエアバスA350XWBの胴体なども手がけている。我国の川崎重工などの競合相手。さらに軍用ではシコルスキーの重量ヘリコプターCH-53K、またベルの将来型陸軍用ヘリコプター[V-280 Valor]の提案もしている。
ロックウエル・コリンズ(Rockwell Collins)
本拠はシーダー・ラピッド(Ceder Rapids, Iowa)にあるが、同社はデータ・リンクとコクピット・デイスプレイの分野で、多くの経験を持っている。しかし[B-21]では、通信の分野で貢献することになりそうだ。これまで[B-2]爆撃機の超低周波通信システムとデイスプレイの改良作業で成果を挙げてきた。
主契約社のノースロップ・グラマンは、この他にも多数の参加企業をリストしている。例えばレーダーでは、ボーイング・ロッキードマーチンの爆撃機チームに加わっていたレイセオン(Raytheon)社の協力を得たいとしている。
国防総省の記者会見で、デボラ・ジェームス(Deborah James)空軍長官、幕僚長マーク・ウエルシュ(Mark Welsh)大将、空軍装備品調達部長アーノルド・ブンチ(Arnold Bunch)中将は、最終組立工場などこれ以上詳しい 情報は開示しなかった。しかし、ノースロップ・グラマンは、同社のパームデイル工場(Palmdale, California)には組立に必要な十分な広さがある、と云っているので、ここになるかも知れない。
問題は価格だが、前述のように最初の21機製造の単価の目標は5億1,100万ドル(562億円)としていて、[B-2]爆撃機の11.6億ドル(約1276億円)を大きく下回っている。
最後に本文中に出てくる関連航空機について簡単に紹介する。
図2:(USAF Bobbie Garcia)ノースロップ・グラマン社が製作した[B-2]多目的重爆撃機。1989-07-17に初飛行。1993年からホワイトマン空軍基地(Whitman AFB, Missouri)に20機配備されている。主契約はノースロップ・グラマンだが、ボーイング軍用機部門、ヒューズ・レーダー部門、GE航空エンジン部門などが参加した。エンジンはGE製F118-GE-100推力17,300 lbs(7,850 kg)を4基。翼幅52 m、長さ20.9 m、最大離陸重量152.6トン、兵装搭載量18トン、航続距離は長く、例えばMissouri州からアフガニスタン往復攻撃などの実績がある。開発費を含めると単価は21億ドルになると言われている。
図3:(Northrop Grumman)ノースロップ・グラマンが、米海軍の無人戦闘機システム(UCAS=US Navy’s Unmanned Combat Air System)用として開発中の[X-47B]。2007年に契約を受注、実証機2機を完成、試験中である。自動操縦で空母から発艦し着艦する試験に成功し、2015年4月には初の自動空中給油(AAR =Autonomous Aerial Refueling)試験にも成功した。ノースロップ・グラマンはこれを元に本格的な無人艦載戦闘攻撃機を2020年までに完成させたいとしている。長さ11.6 m、翼幅(展張時)9.4 m、最大離陸重量20トン、エンジンはP&W F100-220U 1基。
-以上-
本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。
Aviation Week Feb 26, 2016 “Meet the B-21 Bomber, Formerly Known as LRS-B” by Bill Sweetman and Jen DiMascio
Aviation Week March 14-27, 2016 “Little by Little” by Jen DiMascio
US Air Force B-2 Spirit @ December 16, 2015
Northrop Grumman “X-47B UCUS Makes Aviation History Again!”
Flightglobal “USAF reveals Northrop’s B-21 long range strike bomber” @ 26 February, 2016 by James Drew