三菱MRJ、量産体制は予定通り進行中


2016-04-18 (平成28年) 松尾芳郎

 南アルプスを背景

図1:(三菱航空機)飛行試験の初期段階では、高度、速度を高めるのが一つの目的だが、3月には高度35,000 ft(10,500 m)、速度Mach 0.65 (450 km/hr)まで飛行範囲を拡大した。また、機首右側にある「緊急用発電機(ram air turbine)」を展張し動作確認をした。写真は南アルプスを背景に飛行するMRJ試作1号機。飛行試験2号機は5月に完成、飛行試験に加わり、1号機と共に年内に米国モーゼスレイク(Moses lake, Washington)の飛行試験センターに移動する。3号機、4号機は2016年末に完成、同様にモーゼスレイクに移送される。そして5号機は今年末から国内で飛行試験に供される。

 

三菱航空機によると、顧客への引渡し1号機の組立ては、今年(2016)後半から開始される、そのための細部部品の生産は1年以上前から始まっている。昨年末に改定された量産初号機の納入時期は、2017年第2四半期から1年程度延期し、2018年第2四半期に変更された。これに向けて全体の生産スケジュールが再調整された。

昨年11月11日に初飛行を行ったMRJ試作1号機は、一旦主翼強度の不足で試験飛行を中断していたが、改修を終え今年2月10日から飛行を再開している。現在では、エスコート機を伴わず、単独で高度35,000ft (10,500 m)、速度マッハ0.65の試験を完了している。MRJ90の最大運用速度はMach 0.78 (956 km/hr)とされているのでこれまで順次飛行速度を増やし試験することになる。

一方型式証明取得用試作機7号機となる地上疲労試験機は、技術試験場に移動、試験装置にセットされた。

疲労試験機

図2:(三菱航空機)MRJ試作7号機となる疲労強度試験機は、3月15日早朝技術試験場に移送された。試験装置にセットし機体に繰返し荷重を加え機体の耐久性を確認する。これでMRJは1日当たり8時間飛行し27年間の使用で合計80,000回の飛行に耐えることを実証する予定だ。構造部材試験が目的のためエンジンなどは取付けられていない。

 

最終組立工場は総面積44,000 m2(474,000 ft2)で、月産10機の体制を整える。この最終組立工場と、他の主要な機体構造部品は、全て三菱重工に所属する工場で製造される。P&W製PW1200Gギヤード・ターボファン・エンジン、離昇推力17,000 lbs、ファン・バイバス比9:1、はMRJ90 (88席型)用として近く証明が交付される予定になっている。

MRJ構造部材製造工場

図3:(三菱航空機)MRJの量産には、最終組立を行なう小牧南新工場を中心に飛島、大江、岩塚の各工場、それに神戸造船所、松坂工場が参加している。

MRJパートナー工場

図4:(三菱航空機)MRJ主要構造部材生産の流れ、右から主翼部品担当の神戸造船所、胴体パネル担当の大江工場、それらが飛島工場でまとめられ、最終組立ての小牧南工場に搬入される順序を図示したもの。

 

名古屋地区にある岩塚工場/小物部品、大江工場/中大型部品、飛島工場/胴体および主翼の組立て、および小牧新工場/最終組立、が中心となる。加えて神戸造船所で主翼スキンと主桁、松坂工場で複合材部品および尾翼、が製作される。

量産初号機用の大型構造部品は、大江工場では2015年2月から、飛島工場では2015年10月から左主翼が、それぞれ製造に入っている。

広大な最終組立工場は去る3月1日にオープンしたが、まだ組立用の治工具はセットされていない。最初の量産機の作業が始まるのは今年の9-11月を予定している。治工具類はそれに間に合うよう準備中である。

MRJ工場外観

図5:3月10日に公開された、名古屋空港に隣接する小牧南地区に新設されたMRJ量産用工場の外観。面積は2.4万mあり、これから組立用治工具類を搬入して今年秋から量産開始の予定。これに対応して工作機械を納入する大手「ヤマザキマザック」は、三重県いなべ市に200億円を投じて新工場を建設している。

 

ANAに納入する量産初号機は組立開始から2年掛けて完成し、引渡しは2018年第3四半期になる。これはMRJ開発が決まってから10年後となり、当初の予定よりも4.5年遅れることになる。

以前立てられた生産計画では、月産5機で始める予定だったが、その後2012年に米国の「トランス・ステーツ航空(Trans States Airlines)」から50機、および「スカイ・ウエスト(Sky West Inc.)から100機の大量注文が入ったため、計画が見直されることになった。

その結果、2014年後期に、これまでの2017年6月としていた初号機納入後、2020年から月産10機に増やすよう改められた。

この月産10機は極めて高く、野心的な数字で、リージョナ機の業界では、現在市場を独占しているブラジルのエンブラエル(Embraer)の”E Jets”の場合ですら、昨年は月産8.4機だった。

 

計画通り予定価格(4,700万ドル=52億円)で毎月10機の割合でMRJが売れるとしても、3,300億円に膨らむと想定される開発費を回収するには、さらなる受注を獲得しなくてはならない。これまでの受注は確定243機をふくめ、オプション、購入覚書、など合計で407機だが、2012年の三菱社長(当時)宮永俊一氏は「投資回収には750機からが目安となる」と述べていたが、開発費が2倍+に膨らんだ現在では、1,500機以上の販売が必要と見られている。

開発が本格化した2008年の予想開発費総額は1,500億円とされていたが、設計変更、試験スケジュールの改定などを含め見直した結果、3,300億円程度になる見通しとなった。もちろんこの全額を三菱が負担している訳ではなく、開発費の一部は2008年度予算で当時の経済産業省が4年間で400億円を補助している。

—以上—

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

Aviation Week April 11-24,2016 “Volume Production” by Bradley Perrett

三菱航空機 “MRJ Newsletter” Vol.11 Mar.2016

朝日新聞digital“MRJ開発費3300億円に、計画遅れ、当社の2倍超”by井上亮@2016-02-16

TokyoExpress 「三菱MRJの最終組立て始まる」作成2014-02-13

TokyoExpress「三菱MRJ、証明取得飛行は圧縮して実施、引渡し期日は厳守」作成2015-11-24、(改定)2015-11-25