2016-06-13(平成28年) 元・国務大臣秘書官 鳥居徹夫
2016-06-21改定(民進党香川県連動画は削除されている)
■□はじめに
第24回参議院選挙が6月22日公示、7月10日投票で実施される。
この選挙の焦点は、与党の自民・公明では、対外的には防衛・安全保障の基盤強化、国内的にはアベノミクスの推進に向けた「政治の安定」である。
一方、野党の民進党・共産党のアピールは「一強他弱の打破」であるが、どのような政治を目指すのかが全く見えてこない。
しかも参院選挙区で32ある一人区すべてが、民進党、共産党、社民党、生活の党による野党統一候補であり、「選挙目当ての無原則の野合」との批判も強い。
■□共産党候補が野党統一候補に、香川県で民進党候補者を取り下げ
労働団体の連合は、5月19日の中央執行委員会で、参議院香川選挙区で岡野朱里子県議の推薦を決めたが、翌20日に民進党は岡野候補の推薦を取り下げると発表した。
推薦を決めた翌日の取り下げに、連合本部はビックリ。しかも民進党の5月20日付の機関紙には、推薦候補者として岡野氏の決意表明が掲載されていたのである。
連合が推薦を決めた19日、民進党の岡田克也代表、日本共産党の志位和夫委員長、社民党の吉田忠智党首、生活の党の小沢一郎共同代表の4野党党首は国会内で会談し、「参院一人区のすべてで野党統一候補を実現する」などで合意し、参院選一人区の32選挙区すべてが、野党4党の統一候補擁立となった。
学生団体のシールズ(SEALDs)など左翼5団体は、すでに昨年12月20日に「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合(略称:市民連合)」を結成し、参院選の全ての一人区で野党統一候補とすることを求めていた。
その5団体とは、①戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会、②安全保障関連法に反対する学者の会、③安保関連法に反対するママの会、④立憲デモクラシーの会、⑤シールズ。
参議院選挙を控えた6月7日、民進、共産、社民、生活の党の野党4党の党首と「市民連合」は、国会内で安保関連法の廃止などの政策協定を締結した。
「市民連合」の呼びかけ人の法政大の山口二郎教授は「政策課題でも、市民と野党がともに戦う態勢を作ることが必要だ」と指摘した。
■□次の衆議院選挙でも、共産党の候補取り下げにつなげたい民進党
民進党香川県連が、岡野氏を選挙区候補に擁立を決定したのは4月24日、連合・香川も5月11日の執行委員会で推薦を決定し、連合中央に推薦を求めたばかりであった。
岡野氏は、民進党所属の現職県議であるにも関わらず、民進党公認ではなく無所属としての推薦であり、野党統一候補となると見られていた。
ところが民進党は、自ら決定した推薦候補を取り下げたのである。
民進党香川県連代表の小川淳也衆院議員は20日、「勇気ある撤退を決断した」と語ったが、悔しさをにじませた。そして「ひとつ読み違いがあったとしたら、共産党中央の意向が日々刻々と硬化していったこと」「精いっぱい丁寧に運んだつもりだが」とも述べている。
(民進党香川県連ホームページの動画参照・・・現在は削除されている)
全国の一人区で共産党候補を取り下げる代わりに、香川県で共産党候補を野党統一候補とすることを求めたのである。
それは、次の衆議院選挙にも、全国的に影響が及ぶことを懸念する民進党などへの揺さぶりである。つまり「香川の影響で、共産党が来る衆院選で民進党に協力しない」とか「候補者擁立を取り下げない」と言いだせば困る、という心理的効果でもある。
■□民共蜜月をアピールする共産党
それに先立つ3月18日、長崎県では、民主党県連や社民党県連、生活の党県総支部、共産党長崎県委員会が、「安保法制廃止と立憲主義の回復を求めるながさき市民連合(略称:長崎市民連合)」と長崎市内で共同記者会見し、参院長崎選挙区の野党共同候補として民主党(現・民進党)公認の西岡秀子氏の勝利に力を尽くすことを盛り込んだ合意確認書に調印した。
確認書の内容は、「ながさき市民連合」の掲げる①安全保障関連法の廃止、②立憲主義の回復、などに加え、「5野党会談の確認事項の実現に向け『共同候補』の当選に向けて全面支援する」ことである。
民進党議員には、これまで共産党をシロアリと罵倒してきた議員も多い。
その民進党が共産党との選挙協力を進めるとなると、民進党の会合にも共産党の活動家たちが堂々と顔を出すようになり、民進党の地方組織は共産党系によって取り込まれていくおそれも強くなる。
しかも野党統一となった一人区では、選挙区を取り下げた共産党候補は比例代表に名簿登載しており、共産党は「選挙区は野党統一候補、比例は共産党候補」という運動が公然とでき、選挙区候補のいる民進党陣営などへの揺さぶりも効果的である。
すでに4野党幹部と市民連合のそろい踏みで、集会や街頭演説が行われている選挙区もあり、今後も増えていくであろう。
そうなれば参議院選挙区の複数区においても、民進党は共産党の批判すらも遠慮を強いられることになりかねず、民進党の選挙運動が腰砕けになりかねない。
70年安保時代のように、かつての「社共共闘」では、共産勢力との「共同行動」で社会党系の大衆組織が侵食されたことが、「民共合作」で繰り返されるおそれは強い。
それに関し、民進党の前原誠司元外相は9日夜のBSフジで、民進、共産、社民、生活の野党4党の幹部が「市民連合」を通して、政策協定を締結したことについて「合意したことを知らないし、党の決定ということではない」と反論した。
このように、野党陣営でも不協和音も増す一方である。
さらには、労働団体の連合が、香川のように野党統一候補を推薦していない選挙区が複数あり、また長崎のように連合推薦でも、共産党や市民連合などとは別の枠組み(ブリッジ支援)で、距離を置いているというのが実態である。(敬称略)
ー以上ー