ボーイングKC-46Aタンカー問題は解決へ


2016-06 -15(平成28年) 松尾芳郎

 

ボーイング「KC-46A」タンカーについては、TokyoExpress 2011-02-26 「ボーイング、米空軍より次世代タンカーを受注」で紹介済み。これに述べたようにボーイング防衛・宇宙・保安部門(BDS=Boeing Defense, Space & Security)は、2011年に米空軍の次世代タンカーとして「KC-46 A」型機を提案、エアバス/ノースロップ・グラマン提案の「KC-30」を退け、条件付きながら175機の受注に成功した。

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図1:(Boeing)米空軍の次世代タンカー[KC-46A]の完成予想図。2017年に配備の予定が2018年に遅れる。 [KC-46A]は多目的タンカーで、給油用燃料91.6tonを搭載する他に、兵員190名または貨物463Lパレット19個等を積み、12,200km(6,590nm)を飛ぶ。最大離陸重量40万lbs(180ton)、エンジンはプラット&ホイットニー[PW4062]推力63,500lbsを2基装備。給油は、空軍機用として尾部から延長する「給油ブーム」と海軍機用に両翼下面と尾部にある「ホース&ドローグ」方式で行われる。図は、海軍のFA-18戦闘攻撃機に給油中の様子、翼端のポッドに「ホース&ドローグ」が収納される。今回問題となった「給油ブーム」は給油速度毎分1000 gallons(約3,800 リットル)で、航空自衛隊採用のKC-767Jの給油ブームの900 gallons/分より早い。

 

 

受注に成功した「KC-46A」は、民間旅客機で成功した767型機を基に、空軍の仕様で改良を加えタンカーとした機体だが、これまでにも多くの問題の解決に手間取り、開発費に15億ドルも多く費やしてきた。加えて今年1月にはC-17大型輸送機とA-10地上攻撃機への給油試験で新たな不具合が生じ、空軍への納入スケジュールに影響が出てきた。

今年2月にボーイングBDS部門担当社長に就任したリーナ・カレット(Leanne Caret)氏は早速この問題に取り組むことになる。カレット社長は「次期タンカーは米空軍最大かつ最重要なプログラムだが、開発の遅れで空軍への引き渡しが遅れ、コストにも悪影響が生じている。早急に軌道に乗せたい」と語っている。

先月(5月)の計画見直しの結果、空軍は「航空輸送軍(Air Mobility Command)」でのKC-46Aの運用開始を5ヶ月延期して2017年8月からとし、最初の発注分18機の受領完了を2018年1月にする」と決定した。契約では、今年8月までに18機を納入することになっていたので、ほぼ1年半の遅れとなる。

これに基づき国防総省の国防調達局が“調達承認(Milestone C)”を出せば、予算凍結が解除され“少量初期生産(LRIP=low rate initial production)”に必要な経費が2回に分けて数十億ドル支出される。これは最初に6機分、続いて12機分の費用になる。これが出るまでは、ボーイングは自己資金で製造、改修の経費を賄わなくてはならない。

5月末現在で、5機が飛行試験中で、7機が最終組立工程にあり、8機が組立てを始めている。

カレット社長は次のように語っている;—「給油システムのハードウエアを改修した機体の給油試験はC-17輸送機、A-10地上攻撃機、F-16戦闘機、を対象にして7月から開始する。これは8月に開かれる国防調達局との会議で約束する。並行して改修済みのKC-46Aの生産を加速し、納入を急ぐ。」

ボーイングは契約済みの18機の納入を新スケジュール通りに完了させ、それに続く175機の生産につなげたいとしている。こうなれば2018年3月からは年産15機の割合で生産されることになる。

 

今回の問題の経緯を振り返ってみると;—

今年1月にF-16C戦闘機への給油が成功したのに続いて、C-17輸送機への給油テストが行われた。この試験ではKC-47Aの起こす後流にC-17が入り、揺れが大きくなり、給油システム計器上に「給油ブームに加わる力が過大」と表示され、給油できなくなることが判った。

ボーイングでは当初ソフトの改善で対処できると考えていたが、その後の検討で給油ブームを含むハードの改良も併せて行うことにした。

給油ブームとは、タンカー側から伸びるパイプで、受給機に接続し燃料を輸送する、長さは伸びた状態で6 mになる。タンカー側にあるコントロール・システムは、ブーム両端の給油ノズルの接続圧が適正(弱いと燃料漏れ、強いと機構が破損)であることを常時モニターし、制限値を外れると給油を停止するようになっている。

ボーイングは、ブームの強化とブーム両端の接続機構に“レリーフ・バルブ・システム(hydraulic relief valve system)”を追加し、給油圧が高まると燃料を逃す方法を採用することに決めた。このシステムは、すでに米空軍のKC-10タンカーと、日本とイタリア空軍のKC-767タンカーで採用され効果が確認されている。

空軍のKC-46Aプログラム担当高官は、ボーイングが決めたハード改良の措置を歓迎し、これで計画が軌道に乗る、と話している。

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図2:(Boeing)ボーイングKC-46AタンカーがC-17大型輸送機に給油するイメージ。給油ブームは伸縮できる燃料輸送用パイプで、長さ6 mまで伸びる。給油する側と受取る側の両機が接続した場合、これの両端に加わる力が規定以上になり給油できなくなるのが問題となった。対策としてブームを強化し両端に“レリーフ・バルブ・システム”を取付け、関係ソフトを改善して7月から試験を再開する。

 

KC-46Aはこれまで、給油ブームでロッキード、マーチンF-16戦闘機に、またホース&ドローグ・システムを使ってボーイングF/A-18戦闘機、AV-8B VTOL戦闘機などへの給油テストに成功している。さらにボーイングKC-10からの給油を受取るテストにも成功済み。残っているのは今回のC-17輸送機とA-10地上攻撃機への給油テストである。

我が航空自衛隊では、767-200ERをベースにした「KC-767J」を4機購入、小松基地の第404飛行隊に配備、運用している。これは「KC-46A」と多少異なり、最大離陸重量176 ton、燃料搭載量は72 tonでやや小さい。その後増機が検討され2015年10月に米空軍仕様の「KC-46A」を導入することが決まった。機数は未定だが航空自衛隊では少なくとも8-9機の導入が必要としている。

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図3:(Boeing)今年2月にボーイング防衛・宇宙・保安(BDS)部門担当社長に就任したリーナ・カレット(Leanne Caret)氏は、アビエーション・ウイーク誌とドイツ銀行に対し次のように語っている。「BDS部門は,F-35ステルス戦闘機でロッキード・マーチンに敗れ、最近では次世代爆撃機B-21の選定でもノースロップ・グラマンに負けた。しかしFA-18戦闘攻撃機やF-15戦闘機の生産は2020年代はじめまでは続く。そして何より重要なことは、空軍のKC-47Aタンカー計画だ。これは空軍の最重要プログラムで、我々は問題解決に自信があり、早急に生産を軌道に乗せ、収益改善につなげたい」。

 

—以上—

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

TokyoExpress 2011-02-26 「ボーイング、米空軍より次世代タンカーを受注」

Flightglobal April 4, 2016 “Boeing KC-46 test run complicated by C-17 refueling issue” by Jams Drew

Defense Industry Daily Jun 06, 2016 “KC-46A Pegasus Aerial Tanker Completes Firsts”

Defense One June 6, 2016 “Here’s How Boeing Aomes to Fix its Broken Tanker” by Marcus Weisgerber

Aviaation Week Network June 9, 2016 “Boeing Defense Chief Focused on Righting troubled KC-46” by James Drew

Aviation Week Aerospace Daily June 9, 2016 “Boeing Defense CEO not Banking on Fighters” by Michael Bruno