2016-08-29(平成28年) 元・国務大臣秘書官 鳥居徹夫
民進党と労働団体の連合との関係が、「民共共闘」をめぐってギクシャクしている。
連合の神津里季生(りきお)会長は8月25日、記者会見で「共産党とは目指す国家像が全く違う。一緒に手を組んでやることはあり得ない」と、民共共闘に否定的な姿勢を示した。
参議院選挙の直後に行われた東京都知事選挙で、連合は自主投票であった。つまり民進党などが推薦する野党統一候補の鳥越俊太郎を、連合は推さなかった。
ちなみに2年前の猪瀬辞任による都知事選挙でも、民主党が細川護煕を推薦、連合が舛添要一を支持した。舛添候補と連合東京との間で政策協定がなされ、締結文書を手交していた。
■□東京都知事選挙で自由投票の連合
東京都知事選挙の告示日であった7月14日、連合の定例記者会見で「参院選で野党共闘というものが出されている中で民進党の支持基盤である連合が、自主投票という対応を取ると、野党共闘に水を差すのではないか」という質問が、記者から出された。
神津連合会長は「野党共闘だから鳥越さんという方が分かりにくい」「政策があってはじめて、選挙でどういう応援するのかということ」と反論した。
東京都知事選挙では、連合組合員の動員は全くゼロ。ポスター貼りもビラ配りも、また有権者への電話かけも選挙ハガキの推薦依頼もなかった。
そもそも政策の一致、政策協定がないのに、連合が支援できないのである。
鳥越は、ネット誌のインタビューで次のように述べている。
「60年安保の頃のように、まず組合が全く動いていない。今回の都知事選も連合(日本労働組合総連合会)は自主投票ですからね。昔だったらありえないですよ」「労働組合が自主投票ということは、自民党にも入れるっていうことでしょ」
(The Huffington Post「戦後社会は落ちるところまで落ちた」鳥越俊太郎氏、惨敗の都知事選を振り返る2016年08月12日)
野党の統一候補である自分(鳥越)を、労働組合が支援するのが当然と言わんばかりの感覚である。
■□候補者取り下げならば、共産党批判をためらう民進党
7月10日投開票の参議院選挙において、民進党が共産党などとともに、参議院選挙で争点化したのは「一強政治の打破」「アベ政治許さない」「安保法制の廃止」である。
焦点となった32ある1人区では、11選挙区で野党統一候補が勝利した。
前回2013年の参院選で、1人区で自民が29勝2敗であったことからみると大健闘であり、野党統一の効果があったように見えた。
一人区での野党候補の一本化は、共産党が候補者を取り下げることによって、成立したと言ってもよい。
民進党公認候補のいる選挙区でも、共産党が候補者を取り下げた。
連合の政治方針は、「民進党と連携をはかる」であるが、民進党と共産党との共闘には抵抗が強かった。
連合推薦の民進党候補者であっても、連合は共産党や左翼団体などとは別の枠組み(ブリッジ支援)で距離を置いた。
連合幹部と共産党が同じ宣伝カーで演説することは、野党統一候補であってもなかった。
衆議院議員は、2年後に任期満了を迎える。
民進党議員には、これまで共産党をシロアリと罵倒してきた議員も多い。その民進党議員さえも、共産党の候補者取り下げとか選挙協力を持ちかけられれば、共産党批判をためらうこととなる。
さる6月26日のNHK番組で、共産党の藤野保史政策委員長(当時)は防衛費について「人を殺すための予算」と述べた。
出席者の多くが、発言の取り消しを求めたが、民進党の山尾志桜里政調会長は藤野発言の取消しを求めなかった。
その2日後に、藤野氏は「発言は不適切」と政策委員長を辞任したが、謝罪はしなかった。
■□労働組合は政党の下請け組織ではない
連合と民進党は、一体であるかのような論調が、マスコミには強い。
民進党には、共産主義運動にみられる「前衛党が、労働組合などの大衆組織を指導する」と言う大衆蔑視の感覚を持つ幹部もいる。
言うまでもなく、政党と労働組合は独立した別々の組織である。まして労働組合は政治団体ではないし、政党の下請けではない。
連合政治方針は「労働組合としては、税制・社会保障・経済政策・産業政策など、政策課題の実現のためには、支持・協力関係にある議員や政治勢力・政党を通じて解決を図る」としており、その連携をはかるのが民進党である。
そもそも連合は、共産党主導の労働組合を排除した総評系組合と、他の労働団体とが労働戦線統一で結集した経過からみても、共産党批判もフリーハンドである。
連合は、次期衆院選の野党共闘について「政策の一致が不可欠」であり、共産党とは「一線を画すことが大原則」(参院選のまとめ)である。
共産党に対し「ノーと言えない」のが民進党であり、「ノーと言える」のが連合ということである。(敬称略)
—以上—