空自、有人戦闘機と無人機の混成部隊が2030年代に実現


2016-10-11(平成28年)  松尾芳郎

以下の話は防衛装備庁が外誌に語った内容を参考にして纏めたものである。

 

人工頭脳を使って戦闘機の空中戦をコントロールするのは、対地攻撃を行うよりかなり難しい。このため多くの国では、戦闘機への人工頭脳の適用は対地攻撃に絞って開発を続けている。

しかし日本は、これを越えロボット技術を使う高性能な無人戦闘機の研究に取り組んでいる。有人戦闘機のパイロットが列機(随伴機)として無人機を伴い戦闘に使おうと云う構想である。防衛省ではこれを「“戦闘支援無人機”または“無人随伴機/列機”(Combat Support Unmanned Aircraft or Unmanned Wingmen)」と呼んでいる。

この無人機は、当初は母機のセンサーとして前方を飛行させる予定で、開発が進むと射撃やミサイル発射の任務を追加するとしている。

防衛省防衛装備庁(ATLA=Acquisition, Technology & Logistics Agency)の話では「有人機、無人機を組み合わせた編隊は2030代には実現する」。この構想は以前から研究してきたが、昇格して計画としたのは今回が最初である。

計画にリストされている無人機には5種類あり、うち2つは小型で、母機に携行されて戦場に赴き、到達すると母機から発進し、視認距離で偵察・通信を行う方式で、原型はすでに空自で実用化している。3番目は、この数年開発に取組んでいる形式で、衛星経由で通信・連絡を行う無人機である、米国のゼネラル・アトミックスMQ-1やMQ-9あるいはノースロップ・グラマンQ-4と同じ型式である。4つ目は無人戦闘機であり、最後の5番目は長期間滞空可能なソーラー発電型の軽量航空機である。

防衛装備庁の話;—「最も力を入れているのは3番目の型式で、これは弾道ミサイル防衛(BMD=Ballistic Missile Defense)のための機体で、敵の弾道ミサイルが発射された直後の監視を任務とする、その次は4番目の無人戦闘機の開発である」。

防衛省技術研究本部(TRDI=Technical Research and Development Institute)では、“無人列機(Unmanned Wingmen)”について6年以上前から研究を進めてきた。そして次世代型戦闘機F-3の配備開始を2030年頃と見込み、それに合わせて2040年に”無人随伴機/無人列機“の実用化を想定してきた。

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図1:(技術研究本部)技本が公表した次世代戦闘機「F-3」の概念図で2013年(平成25年)策定の「25MDU」案をほぼ踏襲し、2030年の完成を目指している。2基のエンジンの間隔を広げその間に空対空ミサイル6発を収納する大型のウエポン・ベイがあり、大きい主翼には大量の燃料を搭載し長距離巡航を可能にする。エンジン空気入口は薄い長方形で、ファンからのレーダ波反射を抑えステルス性を高めている。エンジンはIHIが2018年までに開発を完了する推力15 ton 級の“HSE = High-power Slime Engine)を2基。レーダは素子を機体外皮に埋め込むスマートスキン形式となる。

詳しくはTokyoExpress 2014-11-25、12-08改訂「わが国の次世代戦闘機「F-3」の概念設計が進む」を参照されたい。

ロイター通信((Reuters)2016-07-29によると、防衛省は今年7月に量産機100機程度を含む”F-3”次世代戦闘機の開発、製造の入札準備に入った。関係者によると主契約は三菱重工に内定、それにボーイングとロッキード・マーチンの両者に計画参加を求めていて、最終決定は2018年夏ごろになる予定という。

 

しかし防衛装備庁は次のように話している;—「最近の高度な自動化技術の進歩に伴い、F-3に随伴する“無人機”は15-20年以内に実現が可能となる。従って2029-2033年には実証試験ができ、2035年を待たずに実用化されるだろう」。この場合当然のことながらF-3戦闘機は“無人列機”との整合性を持たせるために、多少の改良が必要となる。

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図2:(防衛省/Aviation Week)防衛当局が描くF-3有人戦闘機と無人列機の戦闘イメージ。母機の前方を飛ぶ無人機のセンサーで敵を捕捉、飛来する敵ミサイルを無人機側に誘導しつつ有人戦闘機から敵を攻撃する。無人列機は太い胴体と後退角45-50度のずんぐりした翼の機体を想定している。

 

そして20年後には、2番目の無人機の改良型でセンサー付きに加え、攻撃能力を備えた型が実現するだろう。センサーを備えた無人の列機は、来襲するミサイルより遥かに高価なので攻撃回避のための機動能力と電磁妨害システムを備える必要がある。

無人列機はF-3のパイロットがコントロールするが、戦闘時の機動飛行は無人機自身の人工頭脳で行い、母機にリポートする。つまり母機のパイロットは列機に対し、偵察行動や攻撃指令、あるいは最善な行動を採るよう指示、と云った基本的な行動指令を下すだけである。瞬時の判断が必要な戦闘時に、母機のパイロットが列機の行動を細部に渡り指示するのは、実戦的でないので列機自身の判断による行動が優先される。

単なる偵察から攻撃行動への移行、および、敵攻撃からの回避で選択すべき機動飛行は、人工頭脳の進歩があって初めて可能になる。

防衛省が最も力を入れている3番目の無人機“BMD用無人機”は、センサー搭載型で2007年に開発済みの赤外線センサー“エアボス(AIRBOSS)”を使うことになる。素案によると、この無人機は高高度飛行、長時間滞空、ができるよう極めて細長い主翼を持ち、双発のプッシャー型プロペラを備えた無人機で、ボーイングが1988年に試作した「コンドル(Condor)」に似ている。

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図3:(防衛省/Aviation Week)弾道ミサイルの発射を検知する長時間滞空型無人機「マルチセンサー偵察機」は2030年頃に完成する。機首上面に“エアボス”を取り付け、高高度から弾道ミサイル発射直後に生じる赤外線を探知、データリンクで友軍の弾道ミサイル防衛(BMD)システムに通報、対処する。

 

技術研究本部では、偵察機に搭載する「電波・光波複合センサ・システムの研究」を平成22-29年度の間に約100億円を投じて続行している。この中の一つが“エアボス”(AIRBOSS = Advanced Infrared Ballistic Missile Observation Sensor System)である。

“エアボス”試作品は、海自UP3C機に搭載され、2005年と2007年にハワイ沖で弾道ミサイル迎撃試験に参加、発射された弾道ミサイルの捜索、探知、追尾に成功している。“エアボス”は、航空機の機首上部に取り付けるターレット型の赤外線センサー”IRST = Infrared Search & Track”と機内に装備する関連機器で構成されている。弾道ミサイル発射で、ブースト段から出る高熱を“中赤外線捜索センサー”が探知、それを受けて“遠赤外線追尾センサー”が弾頭部の追尾を行う仕組みになっている。

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図4:(防衛省)海自厚木基地に配備されている“エアボス”試験機UP-3C。“エアボス”センサーは機首後方の胴体上部に取り付けられている。“エアボス”のセンサー部は直径60 cm、高さ80cmのドーム内に収められている。ドーム内のセンサーは“中赤外線捜索センサー”と“遠赤外線センサー”の二つである。

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図5:(技術研究本部/図説・自衛隊有事作戦と新兵器)2005-2007年に行われたハワイ沖での“エアボス”試験の概要。カウアイ島から発射された模擬弾道ミサイルを海自UP-3C機が“エアボス”で探知、追尾情報をデータリンクで洋上に展開する米イージス艦に転送、イージス艦のSM-3ミサルで迎撃・撃破した。

スエーデンのサーブ(Saab)社は、同社の有人戦闘機グリペン(Gripen) E/Fを使った、高空での滞空飛行、および航空路上の標識点/ウエイポイント(waypoints)をたどりながら飛行する“基本的な航空路飛行(basic air traffic maneuvers)”、それに離陸と着陸を含めた自動飛行技術を公開している。この後は本機が有人の編隊長機に従い列機として自動的に基本的な飛行を遂行することを実証したいとしている。これは我国が実現を目指しているセンサー付き無人列機に相当すると言って良い。

サーブ社は次の段階の困難な点として、編隊長機に追随して行う旋転/ローリング(rolling)や宙返り/ループ(looping)のような曲技飛行(aerobatics)を挙げている。そして最後に最も困難なのは、目視以遠の距離での機動飛行だと言っている。この飛行は我国が無人列機に必要としている対敵攻撃やミサイル回避飛行の技術と同種と見て良い。

F-3戦闘機は無人列機より航続距離がずっと長くなる予定である。センサー付き無人列機は比較的小型なので母機に携行されて戦場近くまで行き、そこで発射される。

我国ではF-15J戦闘機に2機の無人機を携行、空中発射して偵察を行い基地に帰還する試験に成功、この技術は一応取得している。2009年10月から2011年12月にかけて海自硫黄島航空基地を使用、同島北北東のS空域で実施され、その有効性を実証した。

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図6:(防衛省)左翼下に無人機(TACOM)を携行、試験に向け離陸する空自F-15J。

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図7:防衛省)空自F-15Jの左翼下に取り付けられた小型無人機(TACOM)の拡大写真。これは空自塗装色にしてある。無人機の上部にはエンジン空気取り入れ口、下面にはセンサーを収めるキャノピーが見える。

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図8:(防衛省) “多用途小型無人機(TACOM)”は1995年から開発され、F-15Jから発射され偵察を行い自律飛行で基地に帰還する。写真は海上自衛隊硫黄島航空基地で、彼方には擂鉢山が見える。左は技術研究本部の塗装、右は空自塗装の機体である。富士重工製で、長さ5.2m、幅2.5m、エンジン(teledyne製)推力500kg、重量700kg。

 

もう一つ考えられるのは、無人機に対する空中給油である。これができれば母機のパイロットの負担が軽くなり、無人機は母機の機数に関係なく多数製造し配備でき、全体として交戦能力が向上する。

 

—以上—

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

Aviation Week Network Sep 23, 2016 “Unmanned Wingmen for Japan’s Piloted Force Planned for 2030s” by Bradley Perrett

防衛省・自衛隊“無人機の試験技術について”by 才上 隆

“図説・自衛隊有事作戦と新兵器”河津幸英著82ページ(「軍事研究」2010-12から2012-01に「自衛隊有事作戦と新兵器」で連載した記事

TokyoExpress 2014-12-08改定“我が国の次世代戦闘機「F-3」の概念設計が進む”

TokyoExpress 2016-01-26 “ステルス実証機「ATD-X」初飛行に向け準備整う“

TokyoExpress 2016-05-03 “三菱、先進技術実証機「X-2」が初飛行“