超低温の恒星「トラピストー1」と地球に似たその惑星群


2017-02-26(平成29年) 松尾芳郎

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図1:(NASA/JPL-Caltech) 左端の恒星「トラピストー1」を回る7個の惑星の想像図。それぞれの惑星には ”b”から ”h”の記号が付いている。この内 ”b”、”c”、”e”、”f”、”g”、の5個が地球と同じ大きさ、”d”と“h”は地球と火星の中間の大きさ。生命存在可能範囲(habitable zone) にあるのは”e”、”f”、”g”の3個で、”e” の公転周期は9日である。

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図2: (NASA/JPL-Caltech) 惑星「トラピストー1f」から見た「トラピストー1」(太陽に相当する恒星)の想像図。惑星”f”の表面は氷に覆われ彼方には弱々しい光を放つ恒星「トラピストー1」が描かれている。

太陽から比較的近い39.5光年の距離で、水瓶座(Aquarious)にある超低温の恒星「トラピストー1」(Trappist-1) と、その惑星7個が発見された。いずれも岩石質で、水が存在し大気があるらしい。そしてその内3個は生命存在可能範囲(habitable zone) にあると信じられている。

2016年5月にベルギーの天文学者が、チリにある小型望遠鏡を使って「トラピストー1」が3個の地球サイズの惑星を伴っていることを発見した。そして2017年2月には、パラナルにある欧州南観測所の大型望遠鏡 (European Southern Observatory’s Very Large Telescope)とNASAのスパイツアー赤外線宇宙望遠鏡(Spizer Infrared Space Telescope)が協力して、追加の4個の地球サイズの惑星を発見した。

「トラピストー1」は、小型の超低温の恒星で、重量は太陽の8%、半径は太陽の11%しかなく木星と同じ大きさ。温度は2,550 K、年齢は5億年、これに対し太陽は温度5,778 K、年齢は46億年である。「トラピストー1」は金属分を多く含み、金属/水素比率は0.04で太陽より大きい。発光は赤外線が主で弱いので寿命は12兆年にもなると見られる。

7個の惑星は、恒星のごく近くの軌道を回っていて、我々太陽系で言えば金星より内側の軌道に集まっている。このため恒星の強い引力を受け、自転はせずに片面だけが常に恒星に照らされているようだ。地球の一年に相当する公転周期は非常に短く僅か1日から20日の間である。

スパイツアー望遠鏡の観測結果から、これら惑星の主成分は岩石で、ガスや水を含んでいると考えられている。含有する水の量は不明だが、表面の水は氷結していると考えられている。さらに、惑星同士の公転軌道が接近しているため、お互いが引き合い、不規則な動きをしている。

観測に活躍した「スパイツアー赤外線宇宙望遠鏡」は、地球の太陽周回軌道上を、地球を追いかける形で太陽を公転している。恒星「トラピストー1」は可視光線より波長の長い赤外線を主に出しているので赤外線観測には丁度適している。スパイツアーは、2016年秋には「トラピストー1」を連続して500時間も観測した。これで恒星表面を横切る惑星の動きを詳しく調べることができた。「スパイツアー望遠鏡」は2003年打ち上げ後14年を経過していて、赤外線観測のために冷却材を使っていたが、これも稼働5年間で使い切り、その後は“温かい状態”で作動している (Spizer Warm Mission)。今回の発見は14年間の運用期間中で最大の成果だと、NASAは云っている。

スパイツアー望遠鏡の観測の後、ハブル宇宙望遠鏡でも観測が行われ、その大気は水素を主体とするガスで、海王星の大気と似ていることが判明した。

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図3: (NASA/JPL-Caltech) 科学論文誌ネイチャー(Nature) 2017年2月23日号の表紙を飾った「トラピストー1」の想像図。超低温の恒星「トラピストー1」とその周囲を回る7個の惑星。惑星軌道は恒星に極めて接近していて、1〜20日の周期で一周している。

 

2018年末には「ジェームス・ウエブ宇宙望遠鏡 (JWST)」が “太陽—地球ラグランジェ・ポイント L-2”に打ち上げられるが、これも赤外線望遠鏡なので、これら惑星の水の状態、大気の組成、の詳細を解明して呉れるだろう。

 

—以上—

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

Aviation Week network Feb 22, 2017 “Record ExoplanetFind May Hasten Search for Life” by Frank Morring

NASA Exoplanets Feb 23, 2017 Release 17-015 “NASA Telescope Reveals Largest Batch of Earth-size,Habitable-zone Planets around Single Star”

TokyoExpress 2016-11-18 (改定)“NASAのジェームス・ウエブ宇宙望遠鏡、完成近づく”