2017-03-26(平成29年) 松尾芳郎
3月14日付けロイター(Reuters)通信は、複数の情報筋からの話として「Japan plans to send largest warship to South China Sea, sources say (日本は最大のヘリ空母を南シナ海に派遣を計画)」と題して次のように報じている。実現すれば戦後最大の日本艦隊の行動となる。
図1:(海上自衛隊)「いずも」は満載排水量27,000 ton、飛行甲板長248 m、幅38 mで、前身の「ひゅうが」級の19,000 ton、197 m、33 m、に比べかなり大きい。最大速力30 kt、主機はIHIがライセンス生産するGE LM2500ガスタービン4基2軸、出力112,000 ps。大型ヘリ14機を搭載、対潜水艦作戦を主任務とする。対空兵装はCIWS 20 mm高性能機関砲を2基、SeaRAMミサイル発射機を2基装備する。レーダーは対空用AESAアンテナ4面を持つOPS-50を1基、対水上捜索用OPS-28Fを1基、などを装備する。対戦用ソナーは艦首アレイのみのOQQ-23 1基。
図2:(Wikipedia) 対空兵装として搭載されるSeaRAMは、CIWS高性能20 mm機関砲のM61バルカン砲の代わりにRIM-116 RAM 対空ミサイル11基発射装置とした射程15 km の近接防空システムである。
海上自衛隊は今年5月から3ヶ月の予定で、大型ヘリ空母“いずも”(DDH-183) を、南シナ海の海域及びその周辺諸国を訪問後インド洋に派遣することを計画している。この件に関し防衛省はコメントしていない。
ヘリ空母「いずも」は就役後僅か2年しか経過していない新造艦で海自最大の護衛艦。5月に母港横須賀を出港し、南シナ海に入り、シンガポール、インドネシア、フィリピン、スリランカを歴訪し、6月にインド洋で行われるインド海軍、アメリカ海軍との「マラバー合同海軍演習Malabar Joint Naval Exercise」に参加する。
そして日本への帰還は9月の予定。
(注)「マラバー合同海軍演習Malabar Joint Naval Exercise」は、米印両海軍の合同演習として1992年からインド洋で始まった。その後2009年以降は日本近海でも行われ、これに海上自衛隊が参加するようになった。例えば2014年には沖縄、九州海域で護衛艦2隻とP3C哨戒機とUS-2救難飛行艇が参加した。2015年ベンガル湾演習には最新型護衛艦「ふゆずき」が参加した。
関係筋によると今回の目的は、「いずも」の長期任務遂行の能力を確認するためで、南シナ海では米海軍と共同演習を行う。
南シナ海は漁業資源が豊富で、石油、天然ガスの埋蔵量も多く見込まれ、かつ、大量の貨物が行き来する重要な国際的な海上交通路になっている。このため台湾、マレーシア、ベトナム、フィリピン、ブルネイなどの各國が、それぞれ自国の権益を主張している。
日本は南シナ海で直接の要求を出しているわけではないが、東シナ海では中国と厳しく対立している。このため、南シナ海で中国と対峙するフィリピンとの連携の強化を図っている。
今回「いずも」はマニラの西100 kmにあるスービック・ベイに寄港するが、この機会にフィリピン大統領ロドリゴ・ドウテルテ(Rodrigo Duterte)氏の「いずも」訪問を打診している。
これに対し大統領は『南シナ海は国際法上の公海でありフィリピンの領海ではない、しかし我々には若干の権益がある。「いずも」には時間があれば訪問したい』と話している。
「いずも」の航海が実現すれば、南シナ海の島々で実効支配を進め軍事基地を造成する中国に対し“公海上の航行の自由を求める”として強硬姿勢を示すトランプ政権と、初めての共同歩調を採ることになる。
「いずも」は、第2次大戦中の日本海軍の空母に匹敵する長さ248 mの飛行甲板を備え14機のヘリコプターを運用する大型艦で、米海軍の強襲揚陸艦とほぼ同じ大きさである。しかし上陸用エアクッション艇を収納するウエルデッキ(well deck)はない。
「いずも」の2番艦「かが」は、ジャパン・マリンユナイテッド社磯子工場で建造され、相模湾などで試運転中だったが、このほど完成し3月22日に引渡式、自衛艦旗授与式を挙行、呉基地に配備されることになった。
図3:(共同)海上自衛隊最大のヘリ空母2隻。3月22日午前横須賀基地で撮影。両艦は桟橋を挟んでお互い反対向きに接舷している。これはいずれも右舷側に揚陸機能を備えているためである。左側は「いずも」艦番号183で、右舷の舷外エレベータがせり出しているので良くわかる。右はこの日に就役した「かが」艦番号184で、これから母港呉基地に向かう。
両艦の標準的な搭載ヘリコプターは、三菱製SH-60K対潜水艦ヘリ (ASW= Anti Submarine Warfear)を 7機、アグウスタ・ウエストランド製MCM-101 掃海・輸送ヘリ(MCM= Mine Countermeasure) を7機。また米海兵隊のMV-22オスプレイ・テイルトローター機の発着もできる。
戦後米国が起草した新憲法では攻撃兵器は所持しないという制約があり、このため日本は敵地攻撃用の弾道ミサイルや長距離巡航ミサイルあるいは爆撃機などは保有していない。「いずも」も例外ではなく、防衛省ではこれを“護衛艦/駆逐艦”と呼び、主たる目的は対潜水艦作戦用としている。
米海軍第7艦隊司令官ジョセフ・オーコイン提督(Adm. Joseph Aucoin)は昨年12月にPress Trust of Indiaのインタビューで “マラバー2017合同演習で「いずも」の参加に言及し、その対潜水艦作戦能力が米印両海軍に適合することを証明するだろう”と語っている。
同提督によると、2017合同演習で行われる対潜水艦演習(ASW exercise) は、これまでより規模が大きくなり一層複雑化したものとなり、インド海軍からはP-8I、米海軍からはP-8Aの哨戒機が初めて参加する。
これに対し中国は、日本の艦艇が南シナ海に入ることに強く反対している。
曰く“これは第2次大戦後最大の日本海軍の行動となる。日本は南シナ海沿岸諸国を巻き込み地域の平和を壊し紛争を拡大しようとしている。「いずも」の派遣は、日本には無関係の南シナ海問題へのあからさまな介入だ。米中両国が対峙する問題の海域に日本が加わり火に油を注ぐ行為に出ることに強く反対する。”
最後に、戦前の我が帝国海軍の代表的空母「加賀」と、最新のヘリ空母「いずも」級を簡単に比べてみよう。
「加賀」は1928に航空母艦として就役、その後大改装を経て1935年に本格的空母となった。改装後の公試排水量42,000 tonとなり、飛行甲板長さ248.5 m、幅30. 5 m、速力28 kt、搭載機数75機、であった。この仕様で大東亜戦争初期には機動部隊の主力として活躍したが、1942年6月のミッドウエー海戦で沈没した。
図4:大改装後本格空母となった「加賀」42,000 tonの姿。煙突は右舷下方に排煙するようになっている。
これに対し「いずも」は、排水量は半分ほどだが、飛行甲板はむしろ大きい。理由は「加賀」に限らず当時の艦艇は装甲が厚く、また動力源が蒸気タービンで大変重かったのに対し「いずも」型は装甲が薄く、軽いガスタービン推進を使っているため、軽く大型になっている。
搭載機についてもそれらの重量は、哨戒ヘリSH-60Kは10.7 ton、掃海・輸送ヘリMCM101は15.6 ton、に対し、「加賀」に搭載していた零戦は2.7 ton、97式艦上攻撃機は4 ton、99式艦上爆撃機は3.8 ton、で、形状の差もあり搭載機数が大きく違ってくる。
従って一部で“海自は「いずも」の大きさを過小に報道しているのではないか”との噂は間違いである。
—以上—
本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。
Reuters Mar 14, 2017 “Japna plans to send largest warship to South China Sea, sources say” by tim Kelly and Nobuhiro Kudo
US Naval Institute News, March 13, 2017 “Report: Japan’s Largest Warship Heading to South China Sea, will Train with US.,Indian Navies” by Sam LaGrone
Global Times 2017/03/14 “Japan to send largest warship to S.China Sea: Report” by Zhao Yusha