防衛省、川重製「C-2」輸送機の開発完了、配備を開始


2017-04-11(平成29年) 松尾芳郎

2017-04-11改訂(誤字の訂正)

 C-1初号機と3号機

図:(防衛省)川崎重工製「XC-1」試作機(上)と量産初号機の203号機(下)。これまでに5機が完成している。

3号機離陸

図:(防衛省)「C-2」203号機の離陸。105 mm砲搭載の16式機動戦闘車は搭載できるが、120 mm 滑腔砲搭載の10式戦車・44 tonは運べない。

 

「C-2」の性能、諸元について簡単に記すと;—

乗員3名、全長43.9 m、翼幅44.4 m、空虚重量60.8 ton、搭載量36 tonなので16式機動戦闘車・重量26 tonなどの搭載が可能、最大離陸重量は141 tonになる。主翼にはスーパークリテイカル翼型を採用し、最大速度マッハ0.82、巡航速度マッハ0.8を出せる。航続距離は、36 ton 搭載時でも4,500 km、シンガポール、インドの一部、などに無着陸で飛行できる。滑走距離は500 mと短いので離島の短い滑走路でも使える。貨物室は高さ4 m、幅4 m、長さ15.7 mあり、8 x 8 x 40 ftコンテナをセミトレーラーに乗せたまま積むことができる。空中給油装置付き。川崎重工が主管し、三菱重工が機首を除く胴体、富士重工(現在はすばる)が主翼、電子機器は東芝、三菱電機などが担当している。

防衛省は3月27日に川崎重工製、日本最大の航空機「C-2」輸送機の開発を完了したと発表した。2001年に開発がスタートしてから16年を経てやっと完成したことになる。翌3月28日には鳥取県美浦基地第3航空輸送隊に3機が配備され、2018年9月まで運用試験を行った後、実際の輸送任務につく。

開発に異例なほど長期間を要したのは、2008年頃からの防衛予算削減で数年間調達が見送られたこと、強度試験で尾翼の強度不足が発見され、さらに後部胴体と貨物ドアの強度不足で設計変更があったこと、などの理由による。

航空自衛隊の輸送隊はこれまでずっと小型の「C-1」輸送機を使ってきたが、

搭載量、航続距離ではるかに優れる「C-2」の就航で、空輸能力は飛躍的に向上する。2014年から2018年に掛けて10機が調達される計画で、最終的には最大40機ほどが納入されそうだ。

「C-2」の主たる任務は、中国の脅威に曝されている沖縄、南西諸島への陸自部隊の緊急輸送、展開である。そのほかに国際緊急援助活動などにも使われる。川崎重工では「C-2」の民間用貨物機への転用を検討していたが、FAA型式証明取得にかなりの費用がかかるので、見送りを決めた。

「C-2」は、民間航空路を支障なく使うために巡航速度をマッハ0.8に設定してある。これはエアバス製「A-400M」のマッハ0.72、及びボーイング製「C-17」のマッハ0.74に比べかなり高速である。

JASDF_XC-2(18-1202)_CF6-80C2K1F_at_Gifu_Air_Base_20141123

図:(防衛省)「C-2」はGE製CF6-80C2K1Fターボファン、離陸推力22.7 ton (50,000 lbs)でスラストリバーサーを装備する。これで短距離離着陸を可能にしている。またメインギアは片側6輪ずつ12輪構成。エンジン選定には、防衛省が所有する政府専用機747-400、早期警戒監視機E-767、タンカーKC-767に採用済みであったことが大きな理由だった。

 

防衛省では「C-2」の電子情報収集機(ELINT=electronic-intelligence aircraft)への改修を2013年から進めている。予定では2018年に初飛行、2019年配備開始とされ、現在使用中の4機のYS-11 EB電子情報収集機の後継となる。「C-2 ELINT」に搭載する電子戦システムは、防衛省防衛装備庁が開発する「将来電子測定機搭載システム(ALR-X)」に東芝が各種アンテナ、受信機器、プロセッサーなどを開発する形で進められている。アンテナ類は、機首レドーム、機首上下、後部胴体、尾部、尾翼トップ、などに装備される。

これまで使われてきた「C-1」は、やはり川崎重工製で、最大離陸重量38.7 ton、搭載量は8 ton、航続距離は1,300 km、で、大きさ、性能はC-2に比べ半分以下でずっと劣る。「C-1」は1966-1973年間で28機しか製造されなかった。

防衛省によると「C-2」プログラム全体に要する費用は1兆9,300万円(172億ドル)、この中には開発費2,500億円(全体の13%)を含んでいる。「C-2」は、開発費を抑えるために、海上自衛隊が使用する川重製「P-1」哨戒機の外翼、コクピット、フライトコントロール・システム、尾翼の一部、などを共通化している。また軍用輸送機の多くが備える不整地離着陸機能はない。

「C-2」を30機購入するための費用は、プログラム全体の費用の25.3% (4,900億円)とされる。したがって1機当り価格は、163億円(1億4,600万ドル)となる。これは同サイズの軍用輸送機と比べ、開発期間の長期化と量産機数の少ない事を考慮すると、極めて安い。

「C-2」に最も近いサイズの輸送機はエアバス製「A400Mアトラス(Atlas)」で、最大離陸重量は141 tonで不整地離着陸ができる。「A400M」は、開発費を含まない単価1億6,300万ドル、欧州各国の空軍が購入を決めている。

エアバスA400Mは、最大航続距離8,900 km、速度マッハ0.73、搭載荷重37 ton、最大離陸重量141 ton、エンジンはEuroprop製TP400-D6ターボプロップ11,000馬力を4基、不整地離着陸可能な軍用輸送機。フランス/50機、ドイツ/53機、英国/22機、スペイン/27機など8カ国から174機を受注、これまでに38機を納入済み。

A400M不整地離着陸

図:(Airbus) 不整地離陸をするエアバスA400M。写真で判るように両翼のエンジンのプロペラはお互い反対方向に回転する。エンジン本体はいずれも同じだが、プロペラ・ギヤボックスを違えて逆回転させる。これで揚力を増やし、両翼に生じるトルクとプロペラ・ウオッシュを減らす効果があるという。

 

—以上—

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

 

Aviation Week Network Apr 5, 2017 “Japanese Defense Ministry Declares KHI C-2 Fit for Service” by Bradley Perrett

川崎重工ニュース 2016-06-30 “航空自衛隊向けC-2輸送機の量産初号機を納入“

Airbus Defense and Space “A400M”

Wikipedia “Airbus A400m Atlas”