F-3戦闘機は日英共同開発になるか?


2017-04-24(平成29年) 松尾芳郎

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図1:(Royal Air Force)2016年10月27日に三沢基地で撮影した日英共同演習の写真。遠景は先に着陸しタキシー中の英国空軍タイフーン戦闘機、手前は着陸する三沢基地所属の空自F-2戦闘機。

 

航空自衛隊のF-2戦闘機は2030年代の退役が予定されている。この更新として新戦闘機F-3が検討されているが、日本・英国の共同開発になるかも知れない。これは最近の防衛技術開発で両国の協力関係が進む中で浮上した案で、今年3月16日防衛装備庁から“お知らせ”として公表され、関係者を驚かせている。

 

退役時期が近づくF-2

F-2は、米国のF-16を基本に、我国の運用方針に合わせて、ロッキード、マーチン及び三菱重工などの優れた技術を結集し改造開発した戦闘機である。1988年(昭和63年)に開発を開始、2000年(平成12年)から配備が始まった。

F-2は2007年度予算まで94機を量産、3個飛行隊と教育訓練1個飛行隊に配備されている多目的戦闘機である。翼幅11.1 m、全長15.5 m、最大離陸重量約22 ton、最大速度マッハ2.0、エンジンはGE製F110-GE-129をIHIがライセンス生産するF110-IHI-129型、 推力13.4 tonを1基装備する。

原型となるF-16戦闘機からの主な改造点は、旋回性能向上のため主翼面積を増やし、主翼等に炭素繊維複合材を使い軽量化し、離陸性能を高めるためエンジンを推力向上型に変更、国産の”GaN”半導体で作る高性能AESAレーダーなどを装備している点などだ。

 

日英共同開発の構想

仮に日英共同開発が成立しなくても、英国のBAEシステムズ社は三菱重工が進めているF-3の開発援助に興味を示している。日本側はBAEに技術援助だけでなく開発費の一部負担も望んでいる。

日英とは別にフランスは新戦闘機開発で英国との共同開発を希望しており、すでに両国は新技術の収集を共同で行うことで合意している。

日英両政府は、それぞれの開発計画、すなわち日本側のF-3将来戦闘機計画と英側の将来戦闘機システム(FCAS=Future Combat Air System)計画の初期構想について間もなく情報交換の話し合いを始める。防衛省によると、この中で共同開発の可能性を探り、お互いの開発能力について助言しあい、それぞれの持つカードを示しあうことになる。

日本政府にとり共同開発の相手国は英国だけではなく、すでに米国との間でも昨年6月以降協議が進められていて、ボーイングとロッキード・マーチン両社が名乗りを上げている。英国は、日本にとり米国に次ぐ防衛技術のパートナーで、すでに2012年には限定された範囲での防衛技術交流協定を締結している(公式発表は2014年)。

これに基づき両国政府は2016年に、英国の主導で開発中のMBDA製空対空ミサイル「メテオール」に日本の三菱電機製シーカー(GaN半導体使用のAESAレーダー)を搭載することを決定した。

防衛省はF-3の開発予定を公表していないが、F-2の退役時期の2030年代には必要になるので、2018年度中には決定することになろう。英国では、空軍のユーロファイター・タイフーン戦闘機が2040年前に退役を想定している。

関係筋の話では、両国政府がそれぞれの次期戦闘機の要件と必要な新技術を絞り込んだのち、多分年内には、共同開の可否を決めることになる。

次世代戦闘機に関する両政府の最大の違いは、有人機とするか無人機とするかの点である。日本側の将来戦闘機研究は、空中戦闘を無人機で行うのはコンピューター・プログラム上複雑過ぎると云う理由で、「26DMU」で代表される有人機を志向している。これに対し英国では「FCAS」として無人機計画を進めている。

F-3開発決定に先んじてF-3に採用する予定の新技術を試験するため、日本ではやや小型の技術実証機三菱製X-2(重量10 ton+) を完成、2016年4月に初飛行、以来今年3月17日までに19回の飛行を行っている。これに対し英国はBAEが「テラニス(Taranis)」無人機の技術開発を進めている。さらに英国はフランスと、無人戦闘機の開発で2機の実物大試作機2025年までに製作することで合意している。

しかし英国防省はFCASで開発した技術は有人機にも適用できる、と言っている。

F-3戦闘機の案

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図2:(防衛装備庁)F-3戦闘機の試案「25DMU」、最終案とされる「26DMU」とほとんど外見は変わらない。推力33,000 lbsの“ハイパワー・スリム・エンジン”2基を装備する。

F-3 26DMU?

図3:(防衛装備庁)平成28年11月の防衛装備庁主催「技術シンポジウム2016」で公表されたF-3戦闘機試案(26DMUか?)。スリムな側面、傾斜角の大きい尾翼、広い主翼面積の特徴を示している。F-3は長大な航続距離、大型ミサイルを並列内蔵、ステルス性を重視する構想。

 

日本側のF-3戦闘機は大型ジェットを想定している。運動性よりも航続距離と滞空時間を重視し大型高性能のミサイルを搭載できる兵装庫を備える機体の実現を目指している。これに対し英国側は、2030年代半ばまでに完成すれば良いため、決定までにまだ数年余裕があるとして、急いでいない。

情報筋によると、共同開発に関する日本側の焦点はステルス技術、とされる。英国が保有するステルス技術の一部は米国の援助で得たもので、他国に譲渡することはできない。しかし英国自身で開発した部分は日本に供与できる。日本側はそれを望んでいて、英国も要望に応えようとしている。

エンジンは、日本のIHIが先進型推力33,000 lbsの実証エンジンを製作中である。一方世界的なエンジンメーカーであるロールスロイスを持つ英国は、その戦闘機に日本製エンジンを使うとは思えない。したがってエンジンは共同開発となりそうだ。これは日本側にとっても悪い話ではなく、信頼性の高いロールスロイスの技術を取入れて、それに日本が開発した新技術を組み込み実用化する良い機会となる。

英国側から見ると、仮に共同開発が実現しなくても、予備的な会議を重ねBAE Systems社が技術的なパートナーとなることで、BAE自身の戦闘機技術の維持向上につながるという利点がある。英国には今の所ユーロファイター・タイフーンの後継機の計画がないからだ。

BAEは、今でもエアバス(仏)、レオナルド(伊)と協力してタイフーンを作り続けている。そしてこれからは日本の三菱重工と同様、ロッキード・マーチン製F-35戦闘機のライセンス生産を開始することになる。さらにBAEは英仏共同開発の無人機テラニスの試作機製作に取り組んでいるが、本格的量産に入るか、どうかは不確実。

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図4:(BAE Systems) BAEが開発中の無人戦闘機テラニス(Taranis)。地上からの遠隔操作を入れ若干の自律飛行可能な原型機(重量8 ton)は2013年8月に初飛行した。これを基に英仏両国は2014年に、将来の無人戦闘機(UCAV) “FCAS”の開発を合意した。

 

さらにBAEは、今年1月に英国・トルコ両政府で合意した1億5,000万ドルのトルコ新戦闘機TF-X開発協約に参加することになっている。トルコ側はTF-Xの開発で、BAEが所有するシュミレーション技術やステルス性能実験設備などの技術や設備の提供を受けることになる。

日本との関係は、トルコとの場合と似ているが、数年ほど遅れているので、BAE側にとっては技術陣への負荷が平準化されるので都合が良い。

しかし日本は英国側に開発費の分担を求めている。日本、英国、フランスの3国の国防費はほぼ同額で、年間470-500億ドル(GDP対比では英仏の2%に対し日本は1%)。したがって日本、英国、フランスは、開発から配備までに200億ドル以上を必要とする第1級の戦闘機開発は、単独で行うには負担が多く共同開発を希望している。

日英両国の国防関係の連携を強める動きは他にもあって、英国国防省は今年3月15日に、両国は相互の国防軍、自衛隊が必要とする弾薬、燃料等の補給、整備作業等を融通しあうことを合意した、と発表した。

また昨年10月末には英国空軍のユーロファイター・タイフーン戦闘機が初めて日本を訪問し、空自戦闘機と演習を行っている。空自戦闘機が国内で、他国機と共同演習を行なうのは米国機以外では英国機が初めてだ。

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図5:(Royal Air Force) 2016年10月末から11月にかけて来日、空自三沢基地を中心に日英共同演習を行った英国空軍のユーロファイター・タイフーン戦闘機4機の写真。

 

昨年9月に空自杉山幕僚長は、英国空軍RAF II (AC)所属のタイフーン戦闘機4機がC-17輸送機とともに日本三沢基地を訪問、航空自衛隊三沢基地のF-2及び千歳基地のF-15戦闘機と共同演習を行うと発表した。これは日英両国が安全保障、防衛の面で関係を強化し、緊密な共同作戦を実施できるようにするための演習で、”Guardian North 16”と命名された。

Royal Air Force News 2016-10-22によると、ロシマウス(Lossiemouth, UK)基地所属のタイフーン4機はマレーシアから無着陸で5,600 kmを飛び空自三沢基地に到着した。

タイフーンは、英国のBAE Systems、イタリアのアレニア・エアロマッキ(現在のレオナルド)、フランスのエアバス、が1986年に共同設立したユーロファイター社が設計、製作した戦闘機。英国、ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、サウジアラビア等の各国空軍が採用している。初飛行は1994年3月、配備は2003年から開始、これまでに500機が生産されている。優れた運動性が特徴だが、改良が加えられ、空中戦闘だけでなく対地攻撃能力、偵察能力が付加され多目的戦闘機となっている。最大のユーザーは英国空軍で160機を運用する。

 

—以上—

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

Aviation Week April 3-16, 2017 “Anglo-Japanese Fighter” by Bradley Perrett and Tony Osborne

航空自衛隊主要装備“F-2”

防衛装備庁29-03-16 お知らせ“将来戦闘機における英国との協力の可能性に関わる日英共同スタデイに関する取決めの締結について”

British Embassy Tokyo, 16 September 2016 “Announcement : RAF Typhoon aircraft to visit Japan”

TokyoExpress 2014-08-05 “欧州製「ミーテイア」空対空ミサイルに日本製シーカーを搭載”

TokyoExpress 2016-10-19 “日本の次期戦闘機“F-3” の開発構想固まる”

TokyoExpress 2016-12-15 “検討中の国産次世代戦闘機「F-3」は「F-22」より大型?“

IHI Jan’S 360 14 June 2016 “More flights of UK’s Taranis UCAV possible” by Tim Ripley, Warton