2017-06-11(平成29年) 松尾芳郎
防衛省統合幕僚監部の発表(29-06-09)によれば、ロシア空軍のSu-24型攻撃機1機が我国日本海の防空識別圏内に侵入、北海道南西付近から青森県、秋田県、新潟県沿岸に沿って南下、能登半島沖で北西に変針、ウラジオストック方面に立ち去った。飛行高度や速度については公表されていない。
航空自衛隊は戦闘機を緊急発進させて領空侵犯に備えた。
図1:(統合幕僚監部)写真は6月9日に我国防空識別圏を侵犯、飛行したロシア空軍のSu-24攻撃機。スーホイ(Sukhoi) Su-24は、西側ではフェンサー(Fencer)と呼ばれ、超音速、全天候攻撃機で、可変後退翼付き、双発で並列座席に乗員2名が乗る。1974年就役開始、1993年までに約1,400機が作られた。航続距離3,000 km、爆弾・ミサイル搭載量は8 ton、構造、電子装備の近代化が行われSu-24M2として配備されている。
最大離陸重量は43,8 tonにもなる大型機で、可変後退翼は、離着陸時/16°、巡航時/35°と45°、高速時/69°の4段階にセットできる。エンジンはサターン(Saturn)AL-21F-3A、アフトバーナ付き推力24,700 lbsを2基装備する。最大速度は1,100 km/h (マッハ1.35)、上昇限度は11,000 m、特徴は低空飛行での対地攻撃性能が優れ、他機種より著しく勝る。搭載する対地攻撃ミサイルは、Kh-25Lレーザー誘導ミサイル4発(射程20 km)、Kh-31Pパッシブ・レーダー誘導ミサイル2発(射程180 km)Kh-59テレビ誘導ミサイル2発(射程90 km)など、通常爆弾であれば8 tonまで搭載可能。
ロシア空軍では約370機を配備している。ロシア以外ではイラン空軍、シリア空軍、ウクライナ空軍が少数機を運用している。
図2:(統合幕僚監部)6月9日のロシア機Su-24の航跡。
図3:(航空自衛隊)我国の防空識別圏(ADZ=Air Defense Zone)は青色の線で示す区域。中国は膨張政策の一環として、2013年11月23日に南シナ海の尖閣諸島を含む海域を自国のADZとして設定する、と宣言した。これは我国の領有権を著しく侵害するもので、断じて許容出来ないと云うのが日本の立場である。
図4:(平成28年度版防衛白書)我国が配備するレーダーサイト。図中地名のみの表示箇所、たとえば北海道奥尻島など、にはFPS-4レーダーが配置されている。6月9日のSu-24の飛行で、北は北海道当別(FPS-3改)から佐渡島(FPS-3)、能登半島輪島(FPS-3改)などのサイトは、すべてその対地攻撃ミサイルの射程圏内に入る。
終わりに
今回のSu-24攻撃機の日本領空接近飛行については、知る限り全てのマスコミは、全く報道していない。おそらく、「またか、それより安倍内閣攻撃に有効な加計学園問題の方が大事」と見ているためだろう。しかし、詳しく見れば、決して見過ごすことのできない我国安全保障上の問題を孕んでいる、と判る筈だ。
万一ロシア空軍が本気で我国のミサイル防衛体制を破壊しようとすれば、僅か数機のSu-24攻撃機によるミサイル攻撃で可能になるからだ。
我国防衛省は、これらレーダーサイトのミサイル攻撃に対する防衛体制については殆ど公表していない。しかし消息筋の間では、サイトの防衛体制は極めて不十分だ、との見方が一般的である。早急な体制整備が望まれる。
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