ロッキード・マーチンC-130輸送機の性能向上策


2017-06-16(平成29年) 松尾芳郎

 空自C-130H

図1:(USA Military Channel)写真は 2014年のアラスカ・レッドフラグ演習に参加した航空自衛隊C-130Hハーキュリーズ(Hercules)輸送機。我国では空自、海自合わせて約20機を運用中。コクピットの多数の窓を通して急角度で降下進入ができ、貨物など18 ton (40,000 lbs) を搭載、時速600 km/h (360 mph) で1,900 kmを飛べる。エンジンは、アリソンT-56-A-15ターボプロップ軸馬力4,590 hpを4基、4翅プロペラを回す。貨物室長さは40 ft(12.2 m)。最大離陸重量は約70 ton。翼下面の外部燃料タンクは標準装備。

1444938402426

図2:(Lockheed Martin) 写真はC-130の貨物室を5 m延長し55 ft(16.8 m)にした米空軍のC-130J-30型。搭載量は原型の18 tonから20 ton (44,000 lbs)に増えている。最大離陸重量は74.4 ton。単価は約30億円。

 

C130 ハーキュリーズは航空史上最も重要な飛行機の一つで、1954年初飛行以来、あらゆる場所であらゆる任務をこなしてきた。同機は軍用輸送機としてベトナムからアフガニスタン紛争まで使われただけでなく、南極、北極への物資補給、我国の東日本大震災を含む世界各地の自然災害地域の救援にも大きな活躍をしてきた。

1951年に米空軍は、野砲や戦闘車両を搭載して長距離を飛行できる輸送機の開発をロッキードに依頼した。要件は、短い滑走路から離発着でき、パラシュート付き貨物を時速125 knotsで投下でき、必要な時には1エンジンでも飛行できること、頑丈で多目的に使える“空のトラック”としたい、と云うもの。

ロッキードの当時の首席エンジニアのハル・ヒバード(Hall Hibbard)氏は、社内の反対を押し切り空軍の要件を満たすYC-130輸送機を完成、1954年8月末に初飛行した。

これまでに2,400機以上が作られ、貨物機だけでなく、給油機、対地攻撃機、気象観測、消防、その他70種の用途で使われている。

後継機C-130J スーパー・ハーキュリーズ (Super Hercules)は、1997年に就航、グラスコクピットになり、アリソンAE2100D3ターボプロップ軸馬力4,590 hpを4基搭載、ダウテイ(Dowty)開発の複合材製6翅プロペラを回す。20 tonの貨物などを積み航続距離は3,000 km+、運用の柔軟性が増えている。

C-130Jと胴体延長型のC-130J-30は1,200機ほどを受注すみ、150機を引渡している。山岳地帯にある長さ700 m(2,000 ft)に満たない不整地滑走路でも離着陸できる。

C-130及びC130Jは日本を含む68カ国で使われ、合計で2,500機+が引き渡されている。

製造を担当するロッキード・マーチン社では、C-130系列機の性能向上策 ”Fuel Efficiency Initiatives”を進めてきたが、その一つが“後部胴体に乱流抑制用マイクロベーンの取付け”である。これは現在カナダ空軍で改修作業が始まっている。ベーンはメトロ・エアロスペース(Metro Aerospace)が用意し、今年6月からカナダ空軍が所有する18機のC-130J輸送機へ取付けが始まっている。

後部胴体には大きな貨物ドアがあるが、改修は、その両側の胴体側面に計20枚の複合材製のベーンを取付けて、この付近に生じる空気流の渦を抑え、抵抗を減らし、巡航時の燃費を3.3%改善すると云うもの。

C-130では、後部胴体に沿って流れる乱流空気流の抵抗は、巡航時の全機の抵抗の11%にもなる。この部分にマイクロベーンを取付けることで、空気流が平滑化され、飛行試験の結果で、この部分の抵抗が平均15%改善されることが確認されている。

C-130 Aft bodyベーン

図3:(Lockheed Martin)後部胴体貨物ドアの付近にマイクロベーンを取付けることで空気流の乱れが改善され、抵抗削減に効果が得られた。写真は片側に小型ベーン30枚を取付けた場合の空気流を示すCFDグラフ。

 

既述したC-130 の燃費向上策 ”Fuel Efficiency Initiatives”は、ロッキード・マーチン社の先端開発部門スカンクワークス(Skunk Works)の手で、2011-2014年の間研究された。内容は;-

「後部胴体側面にマイクロベーン(microvanes)取付け」、

「主翼エルロンを自動操作して翼幅方向の揚力分布改善 (LDCS = Lift Distribution System)」、

「主翼端にウイングレット(Winglets)の取付け」、

「主翼内燃料タンク容量を増やし、翼下面外部タンクを廃止」

の4つ。このうち「マイクロベーン取付け」で巡航時の抗力節減/燃費改善が3-6%に達することが判った。しかし、米空軍ではこれを含め今の所“燃費向上策”を棚上げにしている。

メトロ・エアロスペースは、C-130輸送機を民間用LM-100とする計画を進める過程でこの技術に着目し、2016年に、メトロがロッキード・マーチン社から権利を買い取った。

米空軍では約500機のC-130を運用中だが、1980年代導入の旧い機体を含み、デジタル・アビオニクス、T-CAS II空中衝突防止装置の搭載、強化型ウイングボックスへ改修、などで寿命を延ばし、2030年代以降まで使うべく準備を進めている。この内、胴体と主翼をつなぐウイングボックスは、高齢機ほど痛みが大きいので、早急に強化型と交換する。米空軍のC-130は、低空を飛ぶ機会が多いため、高空を巡航する機体に比べ、翼付け根部分に加わる荷重が3−4倍にもなり、これで疲労が進む。

さらにFAAからは、2020年1月までに、全C-130に正確な位置情報を通信する装置を取付け、航空管制下での飛行をするよう、要求されている。

このため空軍は、これら改修を急ぐと共に、旧いC-130Hの一部を退役させ新しいC130Jへの更新を進めている。したがってC-130の抗力削減策は、当面優先順位が低い。

メトロ社は、エアバスが開発した大型輸送機A400M及び小型のC295輸送機もC-130と同じような後部胴体を持つことから、マイクロベーン改修の提案をしたい、としている。

カナダ空軍ではC-130J改修用として18機分のキットを9万ドルで発注済み。年間飛行時間を1,000時間とすれば年間の燃料費節減額は15万ドルになるので、十分回収できるとしている。

2011-08飛行試験

図4:(Lockheed Martin)ロッキード・マーチン社は2011-14年にC-130の胴体に数種類のマイクロベーンを取付け試験したが、写真は最後の試験で使った片側10枚、両側で20枚構成のベーンである。メトロ社が用意する改修キットはこの形になる。

 

メトロ社提供のマイクロベーンは、ジョージア州ケネソー(Kennesaw, Georgia)にあるベンチャー企業Vortex Control Technology社が製作している。長さ約10 inch (25.4 cm) で全て僅かずつ形状が異なる。素材は”DuraForm GF”と名付けるガラス繊維ナイロンで、3Dプリント製法(additive manufacturing)で作られる。

ベーン取付け作業はカナダ空軍自身で行なっており、他のユーザーでも簡単に実施できる。改修用キットには、位置決め用テンプレートが付いているので、これを使い正しい位置に正しいベーンの取付けができる。

メトロ社によると次の予定は、オーストラリア空軍のC-130Jですでに交渉を始めている。オーストラリア空軍は、1958年導入開始以来これまでに48機のC-130系列機を使用している。1999年以降は最新のC-130J型機の購入に切替え、12機を運用中である。

我国では航空自衛隊が1984年からC-130H型の導入を開始、1998年までに16機を購入、航空支援集団第1輸送航空隊隷下の第401輸送隊(小牧基地)に配備している。また海上自衛隊でも2014年から米海軍のタンカーKC-130Rを輸送機に変更、C-130Rとして4機を導入済み、6機に増やす予定。

161101-F-LO365-411-1

図5:(US Air Force photo by Kenji Thuloweit) 米国空軍研究所(Air Force Research Laboratory) では、C-17抵抗削減計画の一つとして後部胴体の乱流抑制のため片側6枚ずつのマイクロベーンを取付けて試験をしている。試験は、エドワーズ空軍基地(Edwards AFB) の第418飛行試験中隊により、他の試験項目を含めて行なわれている。写真は「後部胴体側面にマイクロベーンの取付け」の試験の様子。

 

米空軍では、ボーイングC-17大型輸送機で2016年に類似のマイクロベーンの試験を行っている。

空軍研究所のC17抵抗削減計画は;—

「後部胴体側面にマイクロベーンの取付け」、

「エンジン・パイロンの主翼取付け部にフェアリングの取付け」、

「ウイングレットの主翼取付け部にフェアリングの取付け」、の3項目。

このうち「後部胴体側面にマイクロベーンの取付け」は、咋年春に2種類のベーンを取付け、試験された。

マイクロベーンはVortex Control Technology 製で、複合材3-Dプリント部品、これを3-Dレーザー位置決め装置で正確な位置にボンドで貼り付ける。この方法で、複雑な位置決め装置が不要になり、取付け精度が向上する。

昨年末からは、その他の項目を含めて試験すべく準備作業に入っている。すなわち;—

後部胴体両側面に12枚のマイクロベーンを取付けて試験、続いて、主翼—パイロン取付け部にロッキード・マーチン製のフェアリング合計6枚を取付け試験する。そして最後は、両翼のウイングレット取付け部にフェアリングを取付け、試験する。

飛行試験の責任者は「1-2 %の燃費節減効果が得られれば、米空軍が運用する213機のC-17の年間燃料費は2,400-4,800万ドル節約できる」と話している。C-17用のマイクロベーンを製造するVortex Control Technology社は、同様な装置がボーイング737NG、767、777、エアバスA320などにも有効と言っている。

我国ではC-130の燃費節減計画は予算化されていなし、就役が始まったばかりのC-2輸送機でも同種の改修が有効と思われるが、まだ具体化していない。

 

—以上—

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

Lockheed Martin “C-130 Hercules”

Lockheed Martin “C-130 Super Hercules”

Aviation Week Network May 30, 2017 “Drag Reduction Microvanes Finally Make It to the C-130 Hercules Fleet” by Graham Warwick

Lockheed Martin “C-130 Hercules Fuel Efficiency Initiatives” by kyle Smith

Business Insider [military & Defense] Nov. 15, 2016 “The US Air Force is pushing a massive technological upgrade of its war-tested C-130” by Kris Osborn, Scout Warrior

Air Force technology.com “C-130J Hercules Tachtical Transport Aircraft, United States of America”

U.S. Air Force September 01, 2003 “C-130 Hercules”

18th Air Force News Nov. 29, 2016 “Final phase of C-17 drag reduction testing underway” by Kenji Thuloweit, 412th Test Wing Public Affaires