2017年パリ・エアショーで初展示される新型機


2017-06-19(平成29年) 松尾芳郎

 

2017年パリ・エアショーは、6月19日から25日までパリ北にあるル・ブルジェ(Le Bourget)空港で開催中である。うち19日月曜から22日木曜までは[Trade Visitors day]で、専門関係者のみが参加できる、一般公開[General Public day]は23日金曜から25日日曜までとなっている。

パリ・エアショーの歴史は古く、1909年に始まって以来、隔年で行われ、今年は52回目となる。フランス航空宇宙業界(GIFAS)が主催するショーで、軍用、民間の航空機の地上展示、デモ飛行が行われ、多くの大型商談がここで成立する。参加者は例年80カ国から業界関係者15万人+、一般市民20万人+、合計30万人以上になる。

今年のパリ・エアショーに初めて参加する機種の主なものは、ボーイング、エアバスの狭胴型機(narrow body)及び広胴型機(wide body)を始め、ロッキード・マーチンF-35Aステルス戦闘機、そして初めて舞台に登場する三菱MRJリージョナル機である。エビエーションウイーク電子版Jun 14, 2017のGraham Warwick氏の記事を参考にしながら初登場の18機種について簡単な解説を試みる。

日本からは三菱航空機製MRJリージョナル機および川崎重工製P-1哨戒機が参加する。我国から大型機2機が参加するのはエアショー始まって以来のことで、ようやく日本の技術もここまできたか、との思いを深くする。

A321neo

図1:(Airbus) エアバスA321neo 初号機(PW1100G-JMエンジン付き)は2017年4月にバージン・アメリカ航空に引き渡されたが、ショーの期間中に初めて就航する。A321neoはエアバスのA320neo系列機中の最大で全長44.5 m、翼幅35.8 m、最大離陸重量89 ton、乗客185名(2-class)を乗せてパリ−ニューヨークに相当する6,850 kmの航続距離を持つ。A320neo系列機は5,050機以上を受注しているが、そのうちA321neoの受注は1,416機に達する、引き渡し済みは2機。

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図2:(Airbus) エアバスの大型機A350 XWB系列の2番目となるA350-1000がパリ・ショーに初めて姿を見せる。本機は2016年11月に初飛行、2017年末にカタール(Qatar)航空に引き渡される予定。エンジンはロールスロイス製トレントXWB推力97,000 lbs。全長73.8 m、翼幅64.8 m、3クラス標準で366名を乗せ航続距離は13,800 km。211機を受注済み。

Airbus H160ヘリ

図3:(Airbus Helicopters) エアバス・ヘリコプターH160。2015年6月初飛行した双発の多目的中型ヘリ。現在使われているAS365及びH155ヘリの更新用で2019年引渡しを目指す。H160ヘリのエンジンはサフラン・ヘリコプター・エンジンズ(Safran Helicopter Engines)が作る新型のアラノ(Arrano )ターボシャフト(軸馬力1,100-1,300 shp)2基である。乗員2名、座席12席、最大離陸重量6 ton、航続距離639 km。フランス空軍は2024年までに160-190機を購入したいとしている。

Airbus VSR700無人ヘリ

図4:(Airbus Helicopters) エアバス・ヘリコプターズが開発中のフランス海軍用無人ヘリコプター(UAV) VSR700は、地上展示で参加する。初飛行は2017年末の予定。Helicopters Guimbal製Cabri G2ピストン・エンジンを備える。最大離陸重量は680 kg、ペイロードは180 kg。8時間の継続飛行ができる。

アントノフAn-132D

図5:(Antonov)ウクライナ、アントノフ(Antonov)が作るAn-32軽輸送機を近代化改修して国際市場に姿を現したAn-132D。サウジアラビアのTaqnia社と共同開発中の機体。エンジンはP&WC製PW150A、軸馬力5,000 shpを2基、ハニウエル製アビオニクス、ハミルトン・サンドストランド製APU、など西側システムを多く取り込んでいる。初飛行は2017年3月、量産はウクライナとサウジの両方で2020年から始まる。軍用の場合兵員75名を収容できる。最大離陸重量は28.5 ton、航続距離は4,400 km。

B737-9

図6:(Boeing) ボーイングの狭胴型機737MAX系列の2番目となる737-9は今年4月に初飛行、パリ・ショーに姿を見せる。737MAXの最初の型737-8は今年5月から引渡しが始まっており、系列機の最大の型式737-10は間も無く開発が正式に決まる。いずれもCFM Leap 1Bエンジンを装備する。737-9は2018年初めにFAA証明取得し、ライオンエア(Lion Air)に引渡される予定。2クラス180席仕様、全長42.2 m、翼幅35.8 m、最大離陸重量88.3 ton、航続距離は6,500 km。737MAX系列機は、受注合計3,700機、うち737-9は202機となっている。

B787-10

図7:(Boeing) ボーイング787系列最大の大型機787-10は、客席数290-310席、エアバスA350-900とほぼ同じ乗客数である。今年3月にサウスカロライナ州チャールストン(Charleston, South Carolina)工場で完成、初飛行したばかり。30機発注のシンガポール航空への引渡しは2018年初頭から始まる。ショーに参加する1号機はロールスロイス最新のエンジンTrent 1000 TEN、推力76,000 lbsを装備する。2号機はGenx-1Bエンジン付き。787-10の受注数は149機。全長68.3 m、翼幅60.1 m、最大離陸重量254 ton、航続距離12,000 km。

シラスSF50

図8:(Cirrus Aircraft) シラス航空機のSF50 Visionは、スイスのジュネーブ(Geneva)で5月に行われた欧州ビジネス航空機会議(EBACE 2017)に参加し欧州航空当局の型式証明を取得した。今回はフランスの貿易商社Aerolitheの手でショーに参加する。エンジンはWilliams FJ33-5A、推力1,800 lbsを1基、2016年10月にFAA証明を取得済み。7人乗り、超軽量ジェット、すでに600機を超す受注がある。全備重量2.7 ton。単価は約2億円。

ダイヤモンド450

図9:(Diamond Aircraft) オーストリアの企業・ダイヤモンド航空機が作るダイヤモンドDART 450機は2人乗りの軍民両用の練習機。全機炭素繊維複合材製で、エンジンはイブチェンコ-プログレス・モーター(Ivchenko-Progress Motor)製のSich Al-450Sターボプロップ、出力495 hpを装備、MT Propeller製5翅プロペラを回す。コクピットにはガーミン(Garmin)製アビオニクスを装備している。初飛行は2016年5月、昨年のファンボロー・エアショーに登場した。離陸重量は2.3 ton。

Embraer E195-E2

図10:(Embraer) ブラジルのエンブラエル社製の狭胴型機E195-E2は、同社の第二世代機E-Jet E2系列機中最大で今年3月に初飛行した。大きさはカナダのボンバルデイアCS100とほぼ同じで、競合関係にある。全長41.5 m、翼幅35.1 m、最大離陸重量61.5 ton、2クラスで120名の乗客を乗せ、最大4,800 kmを飛行できる。これまでに65機を受注している。同系列でやや小さいE190-E2型機は2016年のファンボロー・ショーに登場、受注は68機。エンジンは両者ともにPW1900Gギヤード・ターボファンを装備している。

Embraer KC-390

図11:(Embraer)エンブラエル製軍用輸送機KC-390は、2016年ファンボロー・ショーで地上展示されたが、今回のパリ・ショーではデモ飛行が行われる。ブラジル空軍からのタンカー/兵員輸送/貨物輸送機としての運用証明は2017年末に取得する予定。兵員80名または貨物26 tonを搭載、全長33.4 m、翼幅33.9 m、最大離陸重量81 ton、航続距離は約2,000 km、エンジンはIAE製V2500-E5推力31,000 lbsを2基。初飛行は2015年2月。ブラジル空軍からの28機を含みチリ、アルゼンチン、コロンビア、チェコ、ポルトガルから合計60機を受注している。

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図12:(海上自衛隊) 川崎重工製P-1哨戒機が初めてパリ・ショーで飛行展示される。P-1は昨年2016年に英国王立国際軍事航空ショーに参加したのに続いて2回目の国際展示となる。エンジンはIHI製のF7-10ターボファン推力5.4 tonを4基装備する。全長38 m、翼幅35.4 m、離陸重量80 ton、時速450 kt、航続距離8,000 km。海自は2017年度予算までに33機を発注済み。電子情報収集機やE-2Cの後継となる早期警戒機など派生型機の製造が見込まれている。

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図13:(L3 Technologies) L3テクノロジー(L3 Technologies)社が、農薬散布用のエア・トラクター(Air Tractor)製AT-802を地上監視・攻撃用にしたOA-8 Longsword機が地上展示される。OA-8はAT-802Lとも呼ばれ、飛行時間は5時間、700 kmの範囲を飛行、監視できる。爆弾、ロケット弾など各種兵装2.8 ton を搭載、不整地離着陸が可能である。2017年オーストラリア・アバロン(Avalon)エアショーで公開された。2人乗りで装甲を施したコクピット、P&WC PT6A-67AGエンジン軸馬力1,350 hp、5翅プロペラ、固定脚、L3 Wescam の電子光学センサーを備える。

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図14:(Leonardo) イタリアのレオナルド(Leonardo) M-345型機は、二人乗りのターボファン付き初等練習機で、SIAI Machetti S.211型機を原型としている。エンジンはWilliams FJ44-4M-34に換装され、グラスコクピットを装備する。昨年末に初飛行、イタリア空軍のMB339訓練機の後継となる予定で、当面5機発注済み、将来は45機になる。米空軍にもT-100の名称で売込み中。

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図15:(US Air Force) 米空軍のF-35A (ロッキード・マーチン製)が今回パリ・エアショーで初めてデモ飛行する。L-M社のパイロットの飛行に続いて米空軍Heritage Flight TeamのF-35Aが飛行し、海兵隊所属のF-35Bがホバリング飛行を行う予定。F-35は、空軍用/F-35A、海兵隊用/F-35B、空母用/F-35Cがあり、F-35B及びF-35Aは実戦配備についている。すでに231機が完成、うち2機は空自に引渡されている。米空軍はF-35Aを1,763機、海兵隊はF-35Bを340機、海軍と海兵隊はF-35Cを計340機調達する予定。

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図16:(Lockheed Martin) LM-100J型機は、軍用輸送機C-130J-30ハーキュリーズを民間用に改良した貨物機で、2017年5月に初飛行した。今回初めてパリ・ショーに参加する。元は1964年にC-130を民間用にしたL-100型機で114機作られた。今回のLM-100Jは、その胴体延長型で、軍用のC-130J-30が基本になっている。全長34.4 m、翼幅40.4 m、貨物搭載量23 ton、離陸重量70.3 ton、航続距離2,500 km。LM-100Jは2018年にFAA型式証明を取得し、顧客に引き渡される。

三菱MRJ

図17:(三菱航空機)三菱MRJは10年前にパリ・エアショーで構想が発表され、今回初めて飛行展示が行われる。最初の型となるMRJ90は、2015年から日本と米国で試験飛行中だが、種々の問題で遅れ、ローンチ・カストマーのANAへの引渡しは2020年中頃になる。ショーに参加するのは試験飛行中の3号機でANA塗装が施されている。MRJ90は、全長35.8 m、翼幅29.2 m、最大離陸重量39.6 ton、客席数88席、航続距離2,100 km。エンジンはPW1217G推力約8 ton。現在の確定受注は243機。

トルコはークシュ

図18:(Turkish Aerospace Industries) トルコ航空機工業(TAI)が製造するターボプロップ訓練機Hurkus-Aは2人乗り、単発で、2013年に初飛行。2016年にヨーロッパ航空当局(EASA)の型式証明を取得済み。これを元に、Hurkus-B先進訓練機とHurkus-C軽量攻撃機を開発、トルコ空軍に引き渡す。Hurkus Bは・ヘッドアップ、デスプレイ(HUD)、多機能デスプレイ(MFD)、など先進アビオニクスを装備する。エンジンはP&WC PT6A-68Tターボプロップ軸馬力1,600 shp、ハーツエル(Harzell) 製5翅プロペラを装備。トルコ空軍ではHurkus-Bを15機+オプション40機発注済み。

 

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