2017-08-18(平成29年) 松尾芳郎
近着のSputnik Newsに掲載されたロシア軍に関する話題を2つ取上げ紹介しよう。
1:開発中の第5世代戦闘機「PAK FA」の名称は「スーホイSu-57」に。
図1:(RussiaFeed.com)第五世代多目的戦闘機「スーホイSu-57」。インドへ採用を働きかけている。
ロシア空軍長官ビクトール・ボンダレフ(Viktor Bondarev)中将は、「開発中「PAK FA」あるいは「スーホイ(Sukhoi T-50)と呼ばれてきた第5世代戦闘機は、今後正式名称を「スーホイSu-57」とする」、と8月11日(金)に発表した。
「Su-57」は、単座、双発、多目的、ステルス戦闘機で空中戦闘と対地攻撃を任務とし、先進アビオニクスと高性能AESAレーダーを装備する。かつて本機の開発に携わり現在ロシアの航空機生産の元締め組織である「UAC (United Aircraft Corp.)」のユーリ・スリザール(Yuri Slyusar) 社長は次のように話している;—「「Su-57」の初飛行は2010年、空軍での就役は2019年になる。来年末までに6機が納入され、2020年までにおよそ55機が配備される。」
「Su-57」は、複合材製で時速マッハ1.6 (2,400 km/h)、航続距離5,400 km、最大離陸重量は35 ton。2箇所ある兵倉庫(weapon bay)には長射程空対空ミサイルと空対地ミサイルを収納する。翼下面には、核弾頭搭載可能のブラモス(BrahMos)超音速巡航ミサイルや長射程の対艦巡航ミサイルKh-35UEを懸架できる。エンジンはスーホイSu-30が使っているサターン(Saturn) AL-41F1、推力33,000 lbs 2基だが、2020年に改良型の“Item 30 ” が完成すればこれに換装される。「Su-57」は現在9機が飛行試験中、今年中に2機が加わり試験が加速される。
2:「サンヒート(Sunheat)」・「TOS-1A」火炎投射ロケット弾の射程が2倍に。
図2:(Sputnik News) ロシアの対地制圧用火炎投射ロケット「TOS-1A」システムは、T-72型戦車のシャーシーに、直径22 cmロケット弾24発をランチャーに搭載したシステムである。“着弾域の全てを焼き尽くす”という意味で「サンヒート(太陽の焦熱)」と名付けられた。
図3:(Militarytechcooperatins)2016年9月に公開された「TOS-1A」システムは、1980年代に開発された「TOS-1」を改良したシステムである。要塞に守られた敵兵員、車両を攻撃、破壊するための火炎投射ランチャーで、有効射程は一説に10 kmと言われる。ロシア軍の他に、旧型「TOS-1」はアゼルバイジャン、イラク、カザフスタン、シリア、などで使われている。
「TOS-1」はその恐るべき性能で知られていたが、このほど射程を2倍にした改良型「TOS-1A」が出現したことで、その悪名が一層世に知られることになった。
「TOS-1A」は、目標近くで空中に可燃性液体の霧状雲を撒き散らし着火・爆発させるシステム。爆発の効果は、火炎保持時間が極めて長く、高温の威力の高い衝撃波を発生させ、その効果は普通の爆薬の爆発と比較にならないほど大きい。それに加えて付近の酸素は、全て燃焼に費やされるので部分的に真空状態を作り出す。このように「TOS-1A」は、塹壕や防空壕、あるいは要塞に潜む相手側兵士にとって、戦術核爆弾に次ぐ真に恐るべき兵器となる。
「TOS-1A」システムを開発したロシアのSPLAV R&D社の技師長ウラジミール・メドベデフ(Vladimir Medvedev)氏は次のように話ししている;—
「射程は当初3.5 kmだったが改良型は6 km+に伸びている。最短射程は600 mでこの場合は高く打ち上げ弾頭を落す一点集中攻撃となる。シリア内戦でIS過激派拠点攻撃に、この方法が使われた。「TOS-1A」1システム (24発)の破壊力は、榴弾砲18基を備える砲兵連隊・数個連隊による一斉射撃より大きい。」
「このように「TOS-1A」システムは極めて強大な火炎投射能力を誇るが、西側諸国ではこれに注目し、類似のシステムの開発に乗り出しているようだ」、「我々としては名声に安住することなく次世代型TOSの開発を始めたところで、すでにロシアの2018-2025国防増強計画の中に開発予算が組み込まれている。これは「Tosochka」と呼ぶ新システムで、砂漠などでも運用できる車輪付きシャーシーに搭載する方式、中東諸国への輸出も有望視されている。」
終わりに
2016年のGDP (USドル)は、ロシアは、原油価格の低迷で1兆3,000億ドルの世界12位、日本は4兆9,400億ドルで3位。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI) の報告によると、2016年の国防費は、ロシアは690億ドル(GDP比5%)で米国(6,100億ドル)、中国(2,200億ドル)に続く世界3位。日本は460億ドル(GDP比1%)で8位。ロシアは厳しい財政状況の中で国防費の負担を軽くしようと、兵器の輸出にも力を入れている。
ロシアの兵器輸出について詳述は避けるが、最近でも北朝鮮向けロケットRD250エンジンの例が示すように、合法、非合法を問わず、その軍事技術は、中国、北朝鮮に止まらずトルコ、インド、パキスタン、などに拡大している。
若し戦術核兵器に次ぐ威力を持つと言われる「TOS-1A」火炎投射システムを中国が入手し、我国の南西諸島侵攻に大量に投入してきたらどうなるか、戦慄を覚える。
ロシアは決して油断できない。
—以上—
本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。
Sputnik News 2017-08-11 “Russia’s Fifth-Generation PAK FA Fighter Jet Officially Named Su-37”
Suptnik News 2017-08-08 “The Burning Projectile fired by Russia’s TOS-1A Heavy Thermobaric Flameethrower System is Capable to Making Life a Living Hell for Anyone within its Reach”