イージス・アショアの配備、閣議決定


2018-01-01(平成30年) 松尾芳郎

 

日本政府は、北朝鮮の核弾頭を含む弾道ミサイル開発で急速に高まる脅威から国家国民を守るため「地上配備型の新迎撃ミサイルシステム“イージス・アショア”システム2基を導入する旨、閣議決定をした(平成29年12月19日)。これに伴い防衛省は2018年度予算で、導入に関わる経費を計上している。配備は2023年になる見込みだが前倒しを図る。

「イージス・アショア」については、“TokyoExpress @ 2017-10-25日「配備するイージス・アショアに巡航ミサイル迎撃機能を追加か」”で解説したが、ここに再度説明する。

ルーマニア サイト

図1:(US Missile Agency) イランの中距離弾道ミサイルの脅威からヨーロッパを護るため、ルーマニア、デベセル(Deveselu Base, Romania)基地に設置されたイージス・アショアショアの上空から見た写真。レーダーはSPY-1型、ランチャー(垂直発射装置)VLS Mk41には迎撃ミサイルSM-3 Block IAを装填。ミサイル8発を装填するランチャー3基配備している(合計24発)。2018年以降迎撃ミサイルは性能向上型のSM-3 Block IIAに変更される

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図2:(Lockheed Martin)ランチャーはミサイル8発をキャニスターに入れた状態でセルに搭載する。Mk-41 VLSはセル8個で一つのモジュールを構成する。

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 図3:(Lockheed Martin ) 米海軍イージス駆逐艦ヒュー・シテイ(Hue City [CG 66])の前部甲板に装備されているMk-41 VLS。8個セルのモジュールが8個、合計64発のSM-3などのミサイルが収まる。後部甲板には別に32発収納のセルがある。

 

「Mk-41 VLS (Mark 41 Vertical Launch System)」ランチャーとは、艦船からSM-3などのミサイルを発射する装置である。キャニスタ(canister)に納められたミサイルは 各セル(cell)に装填する。セルは、4個2列の計8個で1つのモジュールを構成し、これを複数まとめて装備している。ランチャーの高さは3種あり、SM-3は大型なので、これに合う最大のランチャー(全高7.6 m型)になる。装備セル数は、海自の「こんごう」級では90個、アーレイ・バーク級フライトIIAでは96個、「あたご」級も同じである。

Mk-41 VLSはロッキード・マーチン製だが、我が国では三菱重工がライセンス生産中で海自艦艇に使っている。

 

イージス弾道ミサイル防衛 (Aegis BMD=Ballistic Missile Defense)の現況;—

 

1)イージス弾道ミサイル防衛 (Aegis BMD)とは、米ミサイル防衛局(Missile Defense Agency)が主管する弾道ミサイル防衛計画の海軍担当部分を云う。主な構成は、AN/SPY-1レーダー、指揮・管制・通信・コンピューター(C4I)システム、Mk-41 ランチャー(垂直発射装置)、レイセオン製SM-3迎撃ミサイル、等からなる。2009年からヨーロッパのミサイル防衛 (EPAA= European Phased Adaptive Approach)計画として、イージスBMDと迎撃ミサイルSM-3を組み合わせた地上配備システムの検討が始まった。これが「イージス・アショア」である。

2)イージスBMDは、敵の短中距離弾道ミサイルを中間点(midcourse-phase) で捕捉し、迎撃ミサイルSM-3を発射して、衝突・破壊する。

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図4:「中間点/ミッドコース」の説明。

 

3)イージスBMD能力を持つイージス艦は、洋上で飛来する弾道ミサイルを追跡、必要に応じ迎撃ミサイルを発射すると共に、その情報を自軍のミサイル防衛システムに伝える。これは直ちに陸上配備のBMDシステム、すなわちTHAAD(ターミナル区域高空防衛)、ペトリオットPAC-3、イージス・アショア等に伝えられ、適切な迎撃行動が採られる。

4)海自のイージスBMD搭載艦は、「こんごう」、「きりしま」、「みょうこう」、「ちょうかい」の4隻、これに「あたご」、「あしがら」の2隻にBMD能力付与の改修が行なわれている。さらに8,200 ton級の2隻の建造が始まっている。これらしんイージス艦は平成27年度および28年度計画でスタート、完成は平成32年および33年になる、それぞれの建造費は1,700億円。

5)米海軍では2017年末でイージス巡洋艦、駆逐艦合わせて33隻にイージスBMD能力付与の改修が終わり、内17隻が太平洋艦隊に、16隻が大西洋艦隊に配備されている。

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図5:(海上自衛隊)海自イージス艦“あしがら”DDG 178、基準排水量7,750 ton、満載排水量10,000 ton。Mk-41ランチャーは、前部甲板に64セル、後部甲板に32セル、合計96セルを装備する。現在同級艦“あたご”と共にBMD改修中。

 

6)現在配備中のSM-3 Block 1Aの弾体の直径は34 cm、これを日米共同開発中のSM-3 Block IIAでは53 cmに太くし、射程をBlock IAの1,200 kmから2,000 km+に伸ばす。その他の改修と合わせて2018年から配備を始める。

7)イージス・アショア (Aegis Ashore) は、イージスBMDを陸上型にしたシステムで、イージス艦の艦橋に相当する“デッキハウス”と、迎撃ミサイルSM-3を発射する垂直発射装置 (VLS) Mk 41“ランチャー”で構成されている。

8)ヨーロッパではイランから発射される弾道ミサイルを防ぐため、ミサイル防衛(EPAA) 計画に従い、最初のセットが2016年5月にルーマニアに設置された。続いて2018年にはポーランドに設置される。迎撃ミサイルはSM-3 Block IBを使用するが、Block IIAが使えるようになり次第これに変更する。

9)米国には、2016年にハワイ州カウアイ島(Kauai, Hawaii)にイージス・アショア・ミサイル防衛試験設備(Aegis Ashore Missile Defense Test Complex)が完成し、ここで開発が行われている。カウアイ島の施設は実戦能力も備え、ハワイのミサイル防衛の一翼を担っている。

冒頭に述べたが、我国のイージス・アショアの導入は、2018年に準備を開始して、配備が2023年と5年も先になるのは、ミサイル防衛体制を完璧にすべく最新のシステム導入を目指しているためである。現在ルーマニアに配備中のシステムから改善する主な点は次の2つ;—

 

①   レーダーをSPY-1からSPY-6

「SPY-1」は「イージス戦闘システム」の中心である。ロッキード・マーチン製のPESA(Passive Electronically Scanned Array)レーダーで、”S”バンド(3.1 – 3.5 GHz)を使用。アンテナ面に多数の送受信素子を並べてマグネトロンや導波菅経由で大元の送受信機に接続し、送受信素子からの発射電波を電子的に制御、高速でスキャンし目標を探知する。送受信素子はガリウム砒素(GaAs Arsenide)半導体で作られている。海自イージス艦搭載の最新型「SPY-1D(V)」は、探知距離310 km+、単価は13億円(1,200万ドル)と言われている。

「SPY-6」は、AESA (Active Electronically Scanned Array)レーダーで、アンテナ面に配された多数の素子はそれぞれが送受信機能を持ち、発射電波を電子的に制御、高速でスキャンし目標を探知する。送受信素子に窒化ガリウム(GaN=Gallium Nitride))半導体技術を組み込んだレーダーで、「SPY-1D(V)」に比べ、消費電力は増えるが、レーダー波出力(つまり探知能力)が著しく向上する。

SPY-6は、レイセオン(Raytheon)が対空・対ミサイル防衛(air & missile defense) 3Dレーダー(AMDR) として目下開発中である。このシステムは、60 x 60 x 60 cm (2 x 2 x 2 ft) の立方体ブロック(レーダー・モジュール[RMA])で作られ、これをイージス艦などの艦橋サイズに合わせ積み重ねて使う。つまり積み木細工、ビルデング・ブロック形式である。

「SPY—1D(V)」を搭載するイージス駆逐艦DDG 51 フライトIIIクラスを新しい「SPY-6(V)」に換装すると;—

  1. 立方体ブロック(RMA)は37個になり、性能はSPY-1D(V) + 15 dBに向上する。これはSPY-1に比べ、探知可能な目標サイズが半分になり、探知距離が2倍+になることを意味する。あるいは感度が30倍以上になるとも表現できる。
  2. SPY-6はこれまで同様、艦橋4面に貼り付けられる。RMA 37個のレーダー面はSPY-1と同じ面積(4.2 x 4.2 m (14 x 14 ft) に収まる。

SPY-6は、2種のレーダーとコントローラー(RSC=radar suite controller)で構成される。”Sバンド“レーダーは、全天をくまなく捜査、敵ミサイルの追跡と情報伝達を行い、”Xバンド”レーダーは水平線近くの探索、精密な追跡、友軍ミサイルの誘導・通信とターミナル段階で目標の位置照射を行う。

AMDR規格は拡張可能なシステムで、米海軍は将来の弾道ミサイル探知能力を高めるため、これを20 ft (6 m) にすることも検討している。

SPY-6レーダー

図6:(Raytheon) AMDR / SPY-6 レーダーの立方体ブロック(RMA)。右から順に、2 x 2 x 2 ft RMA、一つ置いて、現用のSPY-1サイズに合わせたレーダー面[14 ft (4.2 m)型]、一番左は米海軍が検討中の20 x 20 ft パネルを示す。

 

単価は3億ドル(約330億円)、米海軍での初期運用 (IOC) 開始は2023年3月の予定である。

ロイター通信(Aug 30, 2017)によると、米ミサイル防衛局(MDA)は、米海軍でも未だ使っていない最新のSPY-6を日本に輸出することに難色を示している。

 

②   迎撃ミサイルをSM-3 Block IBからSM-3 Block IIA

RIM-161と呼ぶSM-3迎撃ミサイルは、中距離弾道ミサイル(IRBM)の脅威から自軍の艦艇を守るミサイルで、レイセオン(Raytheon) が開発している。迎撃・破壊は炸薬の爆発で行うのではなく、衝突のエネルギー(KW=kinetic energy warhead) で行う。

17-10 SM-3変遷

図7:(Missile Defense Agency) [SM-3]の変遷。現在海自イージス艦「こんごう」級の4隻が搭載するのは「SM-3 Block IA」。改良型のBlock IBは2014年から米海軍で配備が始まっている。両者共、発射時重量は1.5 ton、高さ(全長)は6.55 m。「SM-3 Block IIA」はレイセオン/三菱重工の共同プロジェクトで、2段目、3段目の直径が53.3 cm (21inch)と太くなる。運動性の優れた大型の「KW弾頭」を搭載し、性能向上したセンサー類を装備する。現在開発の最終段階にあり、2018年末から実戦配備が始まる。

 

これまでにSM-3 Block IAおよびIBは25回の迎撃実験に成功し、日米両海軍に合計240発以上が引き渡されている。「SM-3」の射程/防御可能な範囲・飛行速度は、改良で順次向上している。すなわち、現在配備されている「-Block 1A/B」では射程700 km・速度マッハ10だが、「-Block IIA」では射程2,000 km+・速度マッハ15、となる。

1発当たりの価格は、「SM-3 Block 1A、IB」が約1,000万ドル(11億円)、「SM—3 Block IIA」は約2,400万ドル(26億円+)と言われている。

 

SM-3 Block IIAの発射試験

試験は、米ミサイル防衛局(MDA)および日本の防衛省が立ち会い2016年2月3日午後10時過ぎにハワイ州西部沖で、イージス艦ジョーン・ポール・ジョーンズ(John Paul Jones)[DDG 53]を使い行われた。

先ずカウアイ島のミサイル試験場から模擬弾道ミサイル(IRBM)が発射され、これを同艦のSPY-1D(V)レーダーが捕捉、SM-3 Block IIAを発射してミッドコースで衝突・撃破に成功した。ミサイル防衛局長官ジム・シリング(Jim Syring)准将は「SM-3 Block IIAは、日米両国が共同で開発した迎撃ミサイルで、両国にとり極めて重要で、増大する周辺諸国からの脅威に対抗する有力な備えとなる。」と語った。

SM-3 ブロックIIA

図8:(Missile Defense Agency) 米ミサイル開発局(MDA)が公表した「SM-3 Block IIAミサイルの日米両国の分担を示す図」。かなりの部分に日本(三菱重工等)が関与しているのがわかる。日本の分担は左から、NOSECONE(ノーズコーン)、TSRM (Third Stage Rocket Motor=3段目ロケット)、STAGING ASSY(段結合部分)、SSRM(Second Stage Rocket Motor=2段目ロケット)、SCS(Steering Control Section=姿勢制御部分)など。

 

続いて2017年6月21日に行われたハワイ沖での試験は失敗に終わった。試験に参加したのは同じイージス艦ジョーン・ポール・ジョーンズ、レーダーも同じSPY-1、同じ9.C2版イージス戦闘システムが使われた。

後日発表された調査報告によると、原因は次の通り。「イージス艦の担当データリンク・コントローラーが、飛来する模擬ミサイルを友軍のものと勘違いしてマークしたため、発射したBlock IIAは模擬ミサイルを避けて飛行し自爆した。」担当者の一人がミスをしたため、数十億円の費用がフイになったのである。

政府がイージス・アショア導入を閣議決定するや、早速一部マスコミは失敗の原因には触れず「SM-3 Block IIAの発射試験は2回行われたが成功は1回のみ、信頼度は50%程度だ!」と批判し、導入反対に向け世論誘導を試みている。典型的なフェイクニュースと言って良い。

米ミサイル防衛局(MDA)は、2018年にポーランドに配備するイージス・アショアには、できれば最初からSM-3 Block IIAを装備したいとしている。

ロイター通信によると、ロシア外務省ザハロワ報道官は28日の定例記者会見で、日本のイージス・アショア配備について、日露関係に悪影響を与えると発言、「米ロの中距離核戦力(IRBMを指す)全廃条約にも違反し、日露の信頼醸成を進める動きや平和条約締結交渉にマイナスだ」と非難した。

日本全国

図9:(Google mapを利用) 「イージス・アショア」2基は、秋田県秋田市陸自新屋演習場と山口県萩市陸自むつみ演習場に配備する予定とされる。図は両基地から半径1,000 kmの円を描きその範囲を示したもの。現用のSPY-1Dレーダーの探知距離は310 km+だからこの円の半分以下の範囲、SPY-6レーダーの探知距離は2,000 kmなので、この円の2倍を探知できる。つまりSPY-6を使うと、北朝鮮のみならず、中国本土やロシア・シベリアから発射される弾道ミサイルは、ほぼ発射と同時に探知でき、直ちに迎撃ミサイル「SM-3 Block IIA」(射程2,000 km)」が発射され、洋上遥か彼方の上空で撃破することになる。

 

まとめ

イージス・アショアの導入経費は、小野寺防衛相は最初1基700億円と言っていたが、閣議決定では1,000億円+程度と修正している。これはSPY-6レーダーの単価やMk-41 VLSの増設等に必要な経費等を考慮するためかもしれない。

これに、1発26億円+と言われる迎撃ミサイルSM-3 Block IIAの価格が上積みされる。仮にルーマニアのシステムと同じ24発装備の場合724億円が必要となる。従って1基当たり弾を含めて2,000億円程度の費用が必要と思われる。

北朝鮮の有する弾道ミサイルは報道のように多種あるが、その中で射程1,300 kmの中距離弾道ミサイル“ノドン”は200発、発射台/ランチャーは50輌を保有している。つまり50発を同時に撃てるということだ。これを全てミッドコースで撃墜するのには、SM-3がルーマニアのように24発ではとても足りない。少なくとも「あたご」級イージス艦と同様96セルは必要、ここに記述しなかったが、中国の巡航ミサイル脅威に対抗する迎撃ミサイルSM-6の装填も考慮するなら、それ以上のセル数が望まれる。

イージス・アショアの配備完了までは、現有のイージス艦4隻+改修中の2隻に頼る他はない。

 

—以上—

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

TokyoExpress 2017-10-25「配備するイージス・アショアに巡航ミサイル迎撃機能を追加か」

U.S. Embassy in Romania “A [Pased, Adaptive Approach] for Missile Defense in Europe” “Aegis Ashore Site – Deveselu Base, Romania

Raytheon “Air and Missile Defense Radar (AMDR)” “The Highly Capable, Truly Scalable Radar”

Reuters August 30, 2017 “Exclusive: Japan seeks new U.S. missile radar as North Korea threat grow-sources” by Tim Kelly, Nobuhiro Kubo

Popular Mechanics Jul 27, 2017 “Oops! Multi-Million-Dollar Missile Test Failed because a Sailor Pushed the Wrong Button” by Kyle Mizokami

Reuters News 2017-12-29 “日本の地上イージス配備、日露関係に悪影響=ロシア外務省”

Missile Threat April 14, 2016 “Aegis Ashore”

TokyoExpress 2016-09-24改定「中国の弾道ミサイルの配備は質・量ともに北朝鮮とは桁違い」

Mostly missile defense “Ballistic Missile Defense: The Aegis SPY-1 Radar”