航空自衛隊、超音速空対艦ミサイル「ASM-3」を2019年から量産


2018-01-13(平成30年) 松尾芳郎

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図1:(防衛装備庁Video)日本海”G”訓練空域と思われる場所で、空自F-2戦闘機から発射された超音速対艦ミサイル「XASM-3」。動画から転写した写真。

 

防衛省防衛装備庁(ATLA=Acquisition Technology and Logistic Agency)は、昨年7月に、開発中の超音速対艦ミサイル「XASM-3」の発射実験の様子を公開した。そして、このほど(2018年1月7日)、XASM-3の15回に及ぶ発射試験が終了したので、「ASM-3」として2019年度から量産を開始する、と発表した。

複数のメデイアによると、XASM-3は、米国レイセオン製の対地・対艦ミサイル「トマホーク(Tomahawk)」と同様、多くの艦艇が使用する垂直発射装置VLS Mk 41セルに僅かの改修で搭載可能であり、艦載用の検討も進行中と報じている。

トマホークの最新版Block IVは射程1,600 kmとされXASM-3よりかなり長いが、亜音速である。

XASM-3は2003年から三菱重工を主契約として開発が始まり開発費総額は約350億円、量産後は航空自衛隊のF-2戦闘機に搭載する。現在F-2に搭載している亜音速で射程の短い対艦ミサイルASM-1(80式)とASM-2(93式)の後継となるもので、これらに比べ速度は3倍以上の超音速になり、射程は大きく伸び150 – 200 kmに達する。

ASM-3の配備が始まれば、東支那海で増強著しい中国海軍の脅威に対抗する極めて有力な手段となり得る。

XASM-3の最大の特徴は推進方式にある。すなわち固体燃料ロケットとラムジェットを組み合わせた「固体ロケット・ラムジェット統合推進システム(IRR =Integral Rocket Ram Jet)」を採用し、これでマッハ3以上の超音速で飛翔し、敵の迎撃を困難にしたことである。XASM-3は、英国が開発中の空対空ミサイルMBDAメテオールと同じようにラムジェット用空気取入れ口を2つ備えている。

目標に接近するターミナル段階では海面上数 mの超低空で飛び、敵レーダーの探知をかいくぐり、迎撃を回避しながら目標に衝突、撃破する。

誘導方式は、発射・飛翔中はINS/GPS(慣性航法/衛星位置情報利用航法)で行い、目標に接近するターミナル段階では複合シーカーで目標を捕捉、衝突する。従って発射母機は、敵迎撃ミサイルの射程外からASM-3を発射し、その後の誘導は不必要なので直ちに退避できる。複合シーカーは、ミサイル弾頭に搭載するアクテイブ・レーダー・ホーミングと敵が発射するレーダー波を受信するパッシブ・レーダー・ホーミングを組み合わせたセンサーである。これで電子戦能力を向上させ電子妨害を排除しながら接敵する。

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図2:(航空自衛隊)F-2戦闘機の両翼に搭載されたXASM-3対艦ミサイル。XASM-3は、全長:5.25 m、弾体直径:35 cm、重量:900 kg、速度:マッハ3以上、射程:150 km以上、とされる。

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図3:(航空自衛隊)F-2戦闘機の両翼下面ハードポイント2箇所に懸架されたXASM-3、弾体両側にラムジェット空気取り入れ口が付いている。胴体両脇の黒い大きな物体は、燃料搭載用の増槽。

17-11-19岐阜で公開ASM-3

図4:(航空自衛隊) 2017-11-19空自実験航空隊岐阜基地で公開されたXASM-3、ラムジェット空気取り入れ口は本体左右下方に1つずつある。操舵翼は本体にはなくラムジェット空気取り入れ口に2枚ずつ、計4枚付いている。

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図5:(航空自衛隊) 同じく左横から見たXASM-3、左奥には別のXASM-3がある。ラムジェット空気取り入れ口はかなり大きい。詳しい構造は秘匿されている。

G訓練空域

図6:(航空自衛隊)空自の空対艦超音速ミサイルXASM-3の試験を行う”G”空域。ここは能登半島北西の日本海に広がる広大な空域で、防衛省が「若狭湾北方臨時」と呼ぶ演習区域を含んでいる。

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図7:(Military and Commercial Technology via `Toma_san) 2017年9月7日に舞鶴港で撮影された退役護衛艦「しらねDDH-143」排水量5,200 ton。舷側にはミサイル標的用のスポッターが描かれている。左の灰色カバーをした部分は、XASM-3の試験弾が命中した箇所。この試験では炸薬を装填していない。今年初めに炸薬を装填したXASM-3で再び試験すると云う話もあるが、定かではない。

 

—以上—

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

Naval _forces News-Japan 02 August 2017 “Japan’s XASM-3 Supersonic Anti-Ship Missile Test Launch”

The WARZONE Nov. 21, 2017 “Japan is Looking at a developing its very own Land Attack Capable Cruise Missile” by Joseph Trevithick

Defense Industry Daily Jan 09, 2018 “Japan’s XASM-3 supersonic anti-ship missile”

THE NATIONAL INTEREST July 22, 2017 “How Japan could Sink China’s Navy in a War: Ramjet Missiles” by Kyle Mizokami

Military and Commercial Technology 10 September 2017 “Japan test XASM-3 Anti-Ship Missile on Target Ship former JMSDF Destroyer Shirane”