日英共同開発のMBDA「ミーテイア」ミサイル試射は2022年度


2018-01-22(平成30年) 松尾芳郎

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図1:(MBDA) 長射程空対空ミサイル「ミーテイア」は 英国が主導し、欧州6ヶ国が共同開発した次世代型ミサイルで、2016年4月からスエーデン空軍などで配備が始まっている。MBDA製。ロケットとラムジェットを統合した可変推力ダクテッド・ロケット(TDR)を使い超音速/長射程を実現した。シーカーに日本製AESAレーダーを搭載し、一層の性能向上を目指す。

 

日本製シーカーを搭載する欧州MBDA製空対空ミサイル「ミーテイア(Meteor)」改良型の開発が進んでいる。日本は日本製シーカー付き「ミーテイア」の試射を2023年3月までに実施、またこれとは別に英国は、F-35戦闘機に搭載可能にするためフィンを変更した改良型「ミーテイア」を2024年から配備を始める。

日本製シーカーは空自が配備を進めている空対空ミサイル「AAM-4B」(99式空対空誘導弾(改))に搭載中のものの改良型になる。

改良型「ミーテイア」は日英共同のプロジェクトだが、採用予定は今の所日本しかない。他の「ミーテイア」採用国は開発状況を注視している段階である。

「ミーテイア」改良型は、日本ではJNAAM (Joint New Air-to-Air Missile) と呼ばれ、将来の長射程空対空ミサイルの中核と位置付けている。取付けるシーカーは、三菱電機製のAESA (active electronically scanned array) レーダーとなる。

AESAレーダーとは、アンテナ面に多数の送受信素子(TR Unit=transmitter /receiver unit) を配置、これから発射するビームを電子的に制御し高速でスキャンして目標を探知するレーダーである。この「電子スキャン」方式は、アンテナに械的駆動部分がないので小型にできる。TR Unitには窒化ガリウム(GaN=Gallium-Nitride) 製素子を使うので、探知能力が著しく高くなる。

空自が配備する「AAM-4B」は2010年に開発が始まり、世界で初めてGa-N 素子を使ったAESAシーカーを搭載し、実用化したことで知られている。

AAM-4Bの誘導は、中間誘導は内蔵する光ファイバー・ジャイロの慣性誘導と母機からの指令誘導で行い、ターミナル段階では搭載のAESAシーカーによるアクテイブ誘導で飛行する。空自では、2010年(平成22年)から行われているF-15およびF-2の近代化計画に合わせて、部隊配備を進めている。

「AAM-4B」は、米軍が配備する中射程空対空ミサイルAIM 120C-7 AMRAAMと性能は似ているが、AMRAAMは敵機との空中戦闘に特化したミサイル。これに対し「AAM-4B」は、やや大型で射程を伸ばし巡航ミサイル迎撃にも使える。そしてAESAレーダーを使っているため自立誘導距離はAIM 120C-7の1.4倍になっている。

AAM-4B誘導部

図2:(航空自衛隊)公開された三菱電機製の試作AAM-4B空対空ミサイルの写真。諸元は、全長3.66 m、直径20.3 cm、フィン幅77 cm、重量222 kg。米軍の空対空ミサイルAIM 120 C7 AMRAAMに比べ大きいので、このままではF-35A戦闘機のウエポン・ベイに収まらない。諸元は射程100 km+、速度マッハ4 – 5。基本型のAAM-4と形は同じだが、シーカーをAESAレーダーに換装、新方式の信号処理装置を追加している。AAM-4対比で射程を1.2倍、自立誘導距離を1.4倍に延ばし、対空戦能力に加え、巡航ミサイル対対処能力、ECCM能力(対電子戦能力)も備えている。

 

外電(2017-10-04)によると、防衛省は米政府に対しFMS方式でAIM 120C-7 AMRAAMを56発、整備部品等を含めて約120億円分を発注した。これは空自に導入が始まっている新型戦闘機F-35Aに搭載する改良型「ミーテイア」・JNAAMの完成が間に合わないため、それに代わる暫定措置と見られている。

「AAM-4B」は「ミーテイア」より弾体が太いため (AAM-4B / 20.3 cm に対 しミーテイア / 17.8 cm)、「ミーテイア」に搭載するシーカーは断面積が20%ほど減りTR unitの数は少なくなる、しかし改良型となるため探知性能は同等かそれ以上を期待できるとされる。

2017-12-15にロンドンで、小野寺五典防衛相とガビン・ウイリアムソン(Gavin Williamson)国防相が「ミーテイア」の共同開発を含めて会談を行った。会談後の記者会見で小野寺防衛相はJNAAMの開発につき次のような発表をした;—

「日英両国は、新しい空対空ミサイルJNAAMの開発を共同で行い、それぞれでプロトタイプを製作、性能を確認する」。

非公式な共同研究は昨年(2017)から始まっていて、「ミーテイア」にAESAシーカーを搭載することで成果が期待できる、と結論付けている。そして今回の会談の前に、日本側は“2021年度末までにプロトタイプを製作、2022年度末までに3発の試射を実施する”と云う計画を立てている。これに必要な予算総額を125億円と見積もり、2018年度予算に計上している。

英国防省の報道官はJNAAMプロジェクトを“日本版ミーテイア”と呼び、日本が直面する緊迫した国防要件に適合した計画、と高く評価している。

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図3:(MBDA) 「ミーテイア(Meteor)」の構造概要図。弾体側面両側に四角形断面のラムジェット用空気取入れ口がある。固体燃料ブースターは弾体中心部の白い部分、発射されると固体燃料がイグナイターで点火され、右端のノズルなしの噴気孔から噴出、加速する。ブースター(ロケット)用固体燃料が燃え尽きると、ボロン系固体燃料がガス化され、噴射ノズルから緑色部分のラムジェット燃焼室で高温高圧となり、右端のノズルから噴射され、目標に衝突するまで安定して燃焼する。シーカーと関連装置は、JNAAMでは今回の日英合意で日本製が搭載されることになる。

 

「ミーテイア」は、英国防省がMBDA社と契約し、2002年末から開発をスタートした次世代型の長距離空対空ミサイル(BVRAAM=beyond visual range air-to-air missile)である。天候を問わず、戦闘機、小さな無人機、さらに巡航ミサイルにも対処できる。

エンジンは、ドイツのバイエルン化学(Bayern Chemie)が開発した“固体燃料、可変推力、空気吸入式のダクテッド・ロケット(TDR=Throttleable Ducted Rocket)”で“ラムジェット(ramjet)”とも呼ぶ。エンジンは、ブースター組込式のラムジェット、空気取入れ口、インターステージ、およびガスゼネレーターの4つからなる。空気取入れ口後部、フィンの前方には推力制御装置を納めてある。

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図4:(Wikipedia) ラムジェットの説明。ラムジェットは空気吸入型のジェットエンジンと同じだが、ジェットエンジンで使う圧縮機/コンプレッサーがない。その代わり高速で流入する空気を取入れ口で音速以下(M1以下)に下げて圧縮し、燃焼室に送る。ここで燃料と混合・燃焼させ、高温・高圧のガスにし、ノズルを通して音速以上(M=1以上)にして推力を得る。従ってラムジェットは低速では作動し得ず、ロケット・ブースターで加速してから作動、推力を出す。

 

発射されると固体燃料ブースター・ロケットで加速、高速度(マッハ3/3,700 km/hr程度)になると空気取入れ口が開きTDR/ラムジェットが作動を始める。ガスゼネレーター内には酸素を殆ど含まないボロン系固体燃料があり、高温でガス化しTDRに送り込まれ、ラムジェットが作動する。この燃料は普通の固体燃料ロケットに比べ比推力(ターボジェットの燃費に相当する値)は3倍にもなる。推力調節はガスゼネレーターの出口スロート面積を可変にして行なっている。

TDRは作動開始後着弾まで、低空から高空までの範囲で、可変推力を安定的に維持できる。空対空ミサイルとしては、空自のAAM-4Bや米国製AIM-120C-7の100km級の射程の数倍に達する (関係筋は300 kmと推定)。

誘導は、双方向データリンクで母機から誘導され、途中での目標変更も可能。目標に接近すると搭載のレーダー・トランシーバー(radar transceiver)が作動しアクデイブ・レーダー・ホーミング(active radar homing)として誘導し目標に接近・衝突する。

諸元は、直径17.8 cm、全長365 cm、重量185 kg、速度はマッハ4+。フィンの改修をすることで日、英、ノルウエイなどが導入する最新型のステルス戦闘機F-35のウエポン・ベイに4発収納できる。弾頭には多数の弾片が収納され近接信管の作動で放出し目標を破壊する。

MBDA社は、英国BAEと仏マトラ合弁のマトラ・BAEダイナミックス社、独仏合弁のEADS社の誘導武器部門、それに、英GECと伊アレニア合弁のアレニア・マルコーニ社の誘導武器部門、の3社が合併し2001年に設立された欧州誘導武器企業である。

既述したが、Ga-N製TR 素子を使うAESAシーカーは、現在「ミーテイア」に搭載中のGa-As素子を使うPASAレーダーと比べ、消費電力は倍になるが、探知能力(距離やサイズ)は著しく向上する。

探知距離が伸びると目標を捕捉、ロックする距離が伸び、より遠方からシーカーを作動できる。これで母機(例えばF-15やF-35戦闘機) は「ミーテイア」を発射後レーダーで誘導する時間が減り、直ちに退避でき敵の迎撃を回避できる。

既述したが「ミーテイア」をF-35のウエポン・ベイに搭載できるようフィンの改修をしている。英国は2024年までにフィン改修「ミーテイア」のF-35での運用を目指している。

新しい三菱電気製AESAシーカーは一層小型化されるので「ミーテイア」弾体内の収納スペースが小さくなり、その分燃料、炸薬、バッテリーなどを多くの搭載余地が生まれる。燃料を増やせば、射程距離をさらに延伸できる。炸薬を増やせば、撃墜能力が高まる。バッテリー電力が増えればシーカーの探知距離が伸びる。

このようにJNAAMには利点が多いが、英国等の「ミーテイア」ユーザー国は、当面は現在のシーカーのままで使い、開発の様子を見守る姿勢を崩していない。これは、日本は何事によらず開発に慎重で時間を掛け過ぎる傾向があると観られているためだ。

「ミーテイア」は、英国主導でMBDAによりフランス、ドイツ、イタリア、スペイン、スエーデン、向けに開発されてきたが、今回日本から技術を入れることについて関係諸国の了解が必要となろう。

ロシアは、Su-57戦闘機に空対空ミサイルK-77Mを装備する。K-77系列ミサイルは1982年からVympel 設計局により、米国のAIM-120 AMRAAMに対抗する中射程空対空ミサイルとして開発が始まった。ロシア空軍を始め、中国インドにも大量に輸出され、使用されている。最新版のK-77Mは、シーカーにAESAレーダーを採用、固体燃料ロケットとラムジェットを併用して射程を延長し150 km+にしている。

 

—以上—

 

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

Aviation Week Network Jan 4, 2018 “Japanese Meteor Version Advancing to Test Shots” by Bradley Perrett and Tony Osbornee

Defense Security Cooperation Agency Oct. 4, 2017 “Japan – AIM-120C-7 Advanced Medium-range Air-to-Air Missiles (AMRAAM) ”

Tokyo Express 2014-08-05 “欧州製「ミーテイア」空対空ミサイルに日本製シーカーを搭載“

MBDA Missile Systems “METEOR”

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