2018-03-10(平成30年) 松尾芳郎
ゾデイアック(Zodiac Aerospace)社はフランスの航空機用システム、装置類の大手で1896年に設立された。世界100箇所に営業拠点、事業所を持ち従業員は35,000人と言われる。座席メーカーとして著名、2008年からオランダのギャレイ大手ドリーセン(Driessen)などを買収、客室内装部門を拡充。2011年には客室内装大手のヒーステクナ(Heath Tecna)を買収している。2017年からフランス航空宇宙大手のサフラン(Safran)の傘下になっている。開発中の三菱MRJリージョナル機の客室内装も担当している。
提携相手の“ハインケル(Heinkel Engineering)”はドイツ・ハンブルグに本社を置く技術全般に関するコンサルテイング業務を行なっている会社である。
もう一つの提携先”スピリアント(Spiriant)”は、20年ほど前から航空機の客室用品全てを開発、供給する分野での大手企業である。顧客エアライン向けに、旅客が使う食器類、スリッパ類、アメ二テイ・キット、などを供給している。
ゾデイアックがハインケルおよびスピリアントと提携、客室内装の改良案をまとめた記事が、アビエーション・ウイーク誌電子版Mar. 2, 2018に “Zodiac, Heinkel Engineering and Spiriant Innovate to Improve Cabins” by Kerry Reals として掲載されたので、これを基にして紹介する。
センター・ラバトリーに男性用室を設置
ゾデイアックは、長距離フライト用として、客室スペースを減らさずにラバトリーの数を増やす“デユリナル(Durinal)”案の実現を目指している。この方式は、価格、重量、整備コストも併せて低減できる有望なアイデアのようだ。我が国の新幹線などにある男性用小便器室と同じようなものを航空機に搭載する案である。これでラバトリー全体の混雑を緩和できることになり、旅客の利便性向上に繋がる。
現在長距離機のエコノミー・クラス客室内に設置されているセンター・ラバトリーは60 jn. x 30 in.の大きさのもの2個が普通だが、このうちの1個を30 in. x 30 in.型の男性用小便(urinal)器室2個に変えようという案である。
図1:(Zodiac)エコノミー・クラス客室内のラバトリー2室の内の1つを男性用2室に変更し、ラバトリーの混雑緩和と清潔さの向上に資する。
そして手洗い用シンクを廃し、抗菌型手拭きタオル装置(antibacterial handwipe dispenser)に置き換える。これで水の消費量と重量の削減に繋がるはずだ。
男性用小便器室の設置はこれまでも検討されたが、これまでの案はラバトリー室を単に置き換えるだけで、他に利点がなかったので見送られてきた。
1個のラバトリーを2個の男性小便器(urinal)室、つまり“デユリナル(Durinal)”にすることで実質的にキャパシテイが増え、男性のラバトリー使用回数が減る。その分、洗顔、髭剃り、排便、乳児のおむつ交換などに利用する時間が増える。
さらに、男性が小便器室を使うことで尿の飛沫が床などに飛び散ることがなくなり、ラバトリーの清潔さが保たれる。
図2:(Zodiac)男性用ラバトリーを斜め上方から見たところ
図3:(Zodiac)左上が通常のラバトリー、右下が男性用ラバトリー2個。男性用は通常型ラバトリー1個のスペースに2個設置される。
ハインケル社製の壁掛け式乳幼児用椅子
ドイツのハインケル(Heinkel)エンジニアリング社から、乳幼児を連れて旅行する親たちのために提案された“スカイリーフ(SkyLeaf)”と名付けたホルダーがある。現在使われている壁掛け式ベービー・キャリヤーとは違い、飛行中は丁度自動車の座席背中に取付けるように壁に固定でき、ベルトで子供を固定するようになっている。
図4:(Zodiac)壁掛け式乳幼児用椅子。赤色の乳幼児用椅子は簡単に着脱でき、外した場合は手提げにして子供を運べる。
図5:(Zodiac) 壁掛け式乳幼児用椅子のフレーム部分。この上に赤色の乳幼児用椅子を取り付ける。フレーム部分は上下にスライドでき、離着陸時は上に、巡航時には下げて親の目線に合わせる。使わない時はフレームを壁に畳み込む。
ハインケル社の主任技師ボルカー・ガラ(Volker Galla)氏は“スカイリーフ”を次のように説明している。「“スカイリーフ”は可動式の平板なので、使わないときは壁に取り付けたままで良い。離着陸時には安全規則に従い基板を親の頭の位置まで上げておくが、巡航時には下げて親子の目が合う位置にする。
“スカイリーフ”は今の所類似の装置はなく、唯一似た物としては壁掛け式の靴箱スタイルの装置があるが、離着陸時には幼児を抱き上げ、親が自分のシートベルトで保護しなくてはならない。
“スカイリーフ”は未だ航空当局からの承認は得ていない、ハインケルでは航空会社から承認取得のための支援を求めている。
スピリアント社製ワインクーラー
スピリアント(Spiriant)社では客室に搭載できるワインクーラー・セットを開発し、すでに航空当局の承認を得ている。多くのファースト・クラス客室などには専用のバーが設置されているが、これをビジネス・クラスまで拡大するには費用、占有面積、などの点で解決を要する問題が多い。スピリアント社のワインクーラーは、ギャレイの片隅に置けるタイプ、セルフサービスが可能なので、ビジネス・クラス旅客にとりかなり魅力的になると思われる。
このワインクーラーはフルサイズのワインボトルを3本収められ、予め冷却しておいて使う方式で10時間ほど冷却効果がある。飛行中に必要に応じ交換し、再冷却できる。離着陸時は引き出しなどに収納する。通常遭遇するタービュランスには十分対応できる。
図6:(Spiriant)スピリアント製のグレイシャル・ワインクーラー(Glacial Wine Cooler)。3本収納でき、予め冷却してから使う。冷却持続時間は10時間。瓶の周りを覆う冷却材はポリプロピレン(EPP=Expandable Polypropylene )製で、軽く、長寿命。ビジネス・クラス客室のギャレイ・テーブルの片隅に置いたり、サービスカートに乗せて使ったり、あるいはギャレイ・テーブルでのセルフサービスに使える。
—以上—
本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。
Aviation Week Network May 2, 2018 “Zodiac, Heinkel Engineering and Spriant Innovate to Improve Cabins” by Kerry Reals
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