2018-04-16(平成30年) 松尾芳郎
図1:(防衛白書、統合幕僚監部)過去10年間のロシア軍機および中国軍機の我が国領空接近に対する航空自衛隊戦闘機の緊急発進(スクランブル)回数の推移を示す。平成29年度は前年度に比べ回数は減っているが依然として年間800回を超える高水準にある。
防衛省統合幕僚監部の発表(平成30.4.13)によれば、平成29年4月から平成30年3月までの1年間に航空自衛隊戦闘機が行った緊急発進は904回に達し、前年度対比で264回減少したものの、中国軍機が全体の55%、ロシア軍機が43%でほぼ全数を占めた。
一部マスコミは、緊急発進回数が前年比で減少した点だけを取り上げ、緊張緩和・日露/日中友好に向けた世論誘導を試みている。
良く見ると、最近5年間は連続して年間800回の高水準にあり、内容も脅威度の高い飛行が増え、この2カ国とは正常な国際関係にあるとはとても思えない。「日露友好・北方4島の共同開発」、「7年振りの日中経済協議、首脳会談」など、囃し立てる友好ムードとは一体何だろうか、と疑問を感じる。
図2:(統合幕僚監部)平成29年度のロシア軍機および中国軍機の飛行パターン。前年に比べ、ロシア軍機はツポレフTu-95戦略爆撃機による長距離飛行が増えたこと、中国軍機ではH-6K爆撃機による紀伊半島沖への飛行とスーホイSu-30戦闘機の対馬海峡飛行、が特に注目される。
航空自衛隊は全国を4つの地域に分け、それぞれに航空方面隊を置き、各々の傘下に戦闘航空団を配置している。緊急発進回数の最も多かったのは南西航空方面隊の447回で殆どが中国軍機に対する迎撃・監視、ついで北部航空方面隊がロシア軍機に対し330回のスクランブルを行っている。
図3:(Wikipedia)航空自衛隊の航空方面隊の担当空域を示す。各航空方面隊は隷下に1〜2個戦闘航空団(Air Wing)、1〜2個高射群(PAC-3ミサイルなど)、1個航空警戒管制団(FPS-5、FPS-3改レーダーなど)等を持ち、担当空域の防空の責任を担う。各戦闘航空団はF-15JやF-2戦闘機など20機+で編成される。
平成29年度の特徴は次の通り;—
- 中国軍機に対する緊急発進回数は500回で、前年度に比べ351回減少した。しかし、中国軍機の性能、技量が著しく向上していることを示す例が増えている。すなわち;—
l 2018-08-24にH-6K爆撃機の6機編隊が宮古海峡を通過、沖縄列島沿いに北東に進み、紀伊半島沖まで飛来し往復した件。H-6Kが積む巡航ミサイルCJ-10Aは射程1,500 km、米軍のトマホークに匹敵し、我国領空に接近せずとも公海上どこからでも目標を攻撃できる。詳しくはTokyoExpress 2017-08-25 「ロシア機、中国機、相次いで我が国防空識別圏内を飛行」6ページ以降を参照されたい。
図4(統合幕僚監部):中国空軍のH-6K爆撃機。ロシア製ツポレフTu-16バジャー爆撃機をライセンス生産したが、大幅に改良され中距離弾道ミサイルや巡航ミサイルを発射できる。中国空軍は60機ほどを実戦配備中。
l 戦闘機が対馬海峡を通過し日本海に進出した件、2017-12-18にH-6K爆撃機2機を護衛する形でスーホイSu-30戦闘機2機が日本海に入った。詳しくはTokyoExpress 2017-12-22 “中国軍機の動き、我が国周辺で益々活発化“を参照のこと。
図5:(統合幕僚監部)スーホイSu-30は双発、複座、高機動性を備え、米空軍のF-15Eに匹敵する制空戦闘機。ロシア製だが中国向けに作られたのはSu-30MKKとSu-30MK2。中国空軍ではSu-30MKKを73機、中国海軍はSu-30MK2を24機それぞれ運用している。
l 中国機が沖縄本島と宮古島の間を飛行した件数が36件に達しこれまでの最多となった件がある。図2に示すように今や宮古海峡は太平洋への出入口になった感がある。
- ロシア軍機に対する緊急発進は390回で前年比89回増加した。特にTu-95戦略爆撃機が我が国本州周辺を長距離飛行するなどの事例が昨年度対比でほぼ倍増の21件に達した。写真の例は、TokyoExpress 2019-02-25 “ロシア空軍戦略爆撃機2機が我が国の太平洋沿岸の全域を往復飛行“に詳しく述べてある。
図6:(統合幕僚監部)写真は去る2月20日に空自戦闘機が撮影したTu-95戦略爆撃機。同日にはTu-95が2機、北海道国後—択捉島間を南下、本州太平洋岸に沿い南大東島の南方沖に進出、反転して北上した。このような事例が急増している。
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