2018-04-19(平成30年) 松尾芳郎
図1:(NASA) 太陽系外惑星を探査する宇宙望遠鏡「TESS」、4台の高性能広角レンズ・カメラで、300光年以内にある高輝度の恒星を回る惑星を観測する。
太陽系の外にある恒星の惑星を探査する宇宙望遠鏡「TESS (テス)」が打ち上げられた。「TESS」は2018年4月18日06:51 p.m. EDT(東部夏時間)にケネデイ宇宙センター内のケープカナベラル空軍基地40号発射台から、スペースX社の打上げロケット“ファルコン9”で打ち上げられた。打ち上げは成功し、「TESS」は07:53 p.m.にファルコン9から分離し2枚のソーラーパネルが展張した。
図2:(NASA)打ち上げ前、スペースXファルコン9ロケットの頂部に取付けられた「TESS」宇宙望遠鏡。「NASA」と「TESS」のロゴが描かれている。
図3:(NASA)4月18日、NASAの「TESS」宇宙望遠鏡はケープカナベラル空軍基地40号発射台からスペースXファルコン9で打ち上げられた。
これから数週間かけて「TESS」は搭載する6個のスラスターを使い、軌道を月の周回軌道近くまで広げ、最終的には地球を13.7日で周回する楕円軌道に入る。それから計測器類の試験を行い60日後から太陽系外惑星の観測を始める。
軌道上で観測するデータ量は膨大になるので、TESSが地球に最も接近する際に高速通信で地上に送信する。
「TESS」とは[Transiting Exoplanet Survey Satellite (恒星表面を通過する惑星を探査する)] 衛星の略称である。我々地球を含む太陽系の惑星は「planet(プラネット)、」と呼ぶが、太陽系外の恒星の周囲を回る惑星は「Exoplanet (エキソプラネット=系外惑星)」と言っている。
「TESS」は、この太陽系外の恒星を回る生命を育んでいるかも知れない惑星を調べることを目標にしている。恒星の表面を「系外惑星」が通過する時(Transiting)恒星の輝き(光度)が僅かに低下するが、この現象を捉えて「系外惑星」を検出する。
太陽の周辺には約20万に及ぶ恒星があり、その周囲を巡る百万前後とみられる惑星、つまり「系外惑星」を調べるのが「TESS」の役目だ。
これまでに観測された「系外惑星」の中には地球サイズや地球の2倍までのものが約300個あるが、「TESS」が本格的に稼働すればこの数は飛躍的に増えるだろう。
「TESS」のミッション
「TESS」は、これから2年間、全天を26個に区分し24度x 96度の範囲毎に観測する。搭載する4台の広角カメラで、先ず南半球の宇宙空間を13区間に分けて1年間観測、それから2年目に北半球の宇宙空間を13等分して調べる。観測は明るい星を2分ずつ、各区分を最低27日かけて観測する。
図3A:(NASA)「TESS」の観測範囲。全天を南北に2等分し、それぞれを13分割して、各区分を27日かけて観測する。始めの1年で南半球側、次の1年で北半球側を撮影して活動を終わる。
「TESS」は、これまで「系外惑星」探査をしてきた「ケプラー(Kepler)」探査機に比べ、30倍から100倍の明るい星を観測できるので、地上設置の天体望遠鏡や軌道上の宇宙望遠鏡による確認作業も容易に行える。また観測範囲も「ケプラー」に比べ400倍に広がる。
さらに「系外惑星」の研究者達にとり、「ケプラー」よりも遥かに容易にアクセスでき、研究の利便性が向上する。
NASAの「ケプラー」宇宙望遠鏡は2009-2013年の間活動し「系外惑星」を調べてきたが、観測した範囲は全天の0.25%に過ぎなかった。主に地球から300ないし3,000光年の範囲にあるかすかな光を放つ恒星を調べ“通過観測法”で2,600個以上の系外惑星を観測した。
これに対してTESSは全天のおよそ90%を観測し、その目標は地球から30ないし300光年の範囲にあるもっと輝く恒星(ケプラーが観測した恒星より30倍から100倍も明るい星)を調べることである。
これだけ輝度の高い恒星だと、観測にスペクトル分光器(Spectroscopy)を使うことができる。スペクトル分析とは、白色光をプリズムを通してみると虹と同じように7色に分解して見える。これを調べることで、発色源の元素が判り、個別の元素の波長で観測すると同じ恒星でも姿は異なって見える。
この手法で、目標とする系外惑星の質量、密度、大気の構成、水の有無、などを調べることができ、それを通して生命の存在の可否が推定できる。
(恒星表面の)通過観測法(Transit Photometry Method)
すでに述べたが“通過観測法(Transit Photometry Method)”とは、恒星表面を「系外惑星」が通過する時、恒星の光度が低下を繰り返す現象を利用しその大きさや周回軌道を調べる手法である。繰り返し起きる光度低下の量から「系外惑星」のサイズを決められるし、光度が低下する時間からその周回期間を知ることができる。その過程を図4から図6に図示する。図で”恒星の見かけの光度変化“は黄色の線で示している。
図4:(NASA) 惑星が恒星面に掛からない状態では、恒星の光度は変わらない。
図5:(NASA) 惑星が恒星の表面を通過する間は、恒星の光度が下がる。
図6:(NASA)惑星が恒星の表面を通過し終わると恒星の光度は元に戻る。
「TESS」は、“通過観測法”を使ってこれから膨大な数の「系外惑星」のカタログを作ることになる。このリストが完成すると、地上の天体望遠鏡で一つずつ確認する作業が行われる。地上望遠鏡の観測は、単独で行うだけでなく、複数の望遠鏡が協力して系外惑星の詳細を調べることになる。
すでに分かっている系外惑星のサイズ、軌道、重量などのデータを使って、TESSと地上望遠鏡により新しい系外惑星の組成を推定できる。つまりそれらが地球のように岩石質なのか、あるいは木星のようなガス惑星なのかが分かる。
さらに数年後に打ち上げられるNASAのジェームス・ウエブ宇宙望遠鏡を利用すれば、系外惑星の大気の組成も判定できる。
「TESS」チームは、次に示す各研究所の合同チームである。すなわち、マサチューセッツ工科大学(MIT=Massachusetts Institute of Technology)、カブリ航空宇宙研究所( Kavli Institute for Astrophysics and Space Research)、NASAゴダード宇宙飛行センター(NASA’s Goddard Space Flight Center)、MITリンカーン研究所(MIT’s Lincoln Laboratory)、オービタルATK(Orbital ATK)、NASAエームス研究センター(NASA’s Ames Research Center)、ハーバード・スミソニアン宇宙物理センター(Harvard-Smithsonian Center for Astrophysics)、および宇宙望遠鏡研究所(Space Telescope Science Institute)でチームを構成している。
TESS 宇宙望遠鏡
図7:(NASA/MIT) TESS宇宙望遠鏡の全体図。搭載機器は計測機器1台と広角撮影光学カメラ4台、それに付随するフード、サンシールド、データ処理装置(DHU=Data Handling Unit)、動力源はソーラーパネル2枚で出力は415 watt、姿勢制御装置、データ収納装置、通信機器、である。
4台の搭載カメラは、単体で24度x 24度の範囲、全体で24度x 96度の範囲をカバー(FOV=Field of View)し撮影する。各カメラはCCD検知装置、レンズ群、レンズフードを備えている。
カメラが観測する波長は「600 nmから1000 nm」の範囲なので、可視光線の波長である「400 nm (紫)から700 nm(赤)」に比べ、かなり赤外線の方向にシフトしている。これで「M dwarfs」と呼ばれる太陽の近傍に多い高輝度の恒星を調べることができる。「M dwarfs」は比較的低温で赤色なのでTESSの観測波長と合っている。
終わりに
米国トランプ政権が地球温暖化を規制するパリ協定から離脱を決めたことで、政権が科学技術を軽視しているとし、温暖化問題を重視する人々からの非難の声が大きく報道されている。
しかし現実は多少違い、本稿で述べた「TESS」が示すように、米国は世界に先駆けて先端技術を色々な分野で推進している。NASAの航空宇宙に関わる予算は、遅れているジェームス・ウエブ宇宙望遠鏡計画にも追加支出を議会に要請したりして、全体的に従来の政権の方針を踏襲、むしろ一部では強化している。
地球温暖化については、専門家の意見が分かれていて、太陽活動(黒点の増減)による影響が大きいとする意見もある。それによると今後数十年間では太陽活動の低下で地球は寒冷化に向かうという予測がされている。これまでの事例によると数百年間隔で寒冷期が繰り返されている。
物事は一面的に軽々しく判断してはいけない事例と感じた。
—以上—
本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。
NASA April 19, 2018 “Countdown Underway for Launch of TESS on a Space X Falcon 9 Rocket”
NASA April 19, 2018 “NASA Planet Hunter on its Way to Orbit”
NASA “Characteristics of the TESS space telescope”