2018-04-28(平成30年) 松尾芳郎
図1:(Aviation Herald)事故機の着陸直後の様子。左側エンジンの破損状況。
図2:(NTSB)左エンジンのファン・ブレード1枚がなくなっている。検査官の右肘のあたり。
図3:(Aviation Herald / Matt Tranchin) 割れて飛散した客室窓。
2018年4月17日サウスウエスト航空B 737-700型機[N772SW] はニューヨーク・ラガーデア(New York, La Guardia) 空港からWN-1380便として乗員5名と乗客143名を乗せダラス・ローブ(Dallas Love, TX)に向け出発した。ラガーでイア空港を離陸上昇中高度32,000 ftに差し掛かった頃、左エンジン(CFM56)が破壊、インレット・カウル等が飛散、破片が胴体に当たり、客室窓1枚が破れ客室与圧が噴き出した。乗員は直ちに酸素マスクを着用、管制にエンジン破損を報告、緊急着陸を要請し、フィラデルフィア(Philadelphia, PA)空港に向け降下した。空港進入の20 nm手前で「機体の一部が破損しているので速度を落とす、エンジン火災も発生、負傷者がいるので救急車の手配が必要、」と管制に報告。管制は状況を理解、「停止したらすぐに対処する」と連絡した。管制は高度3,000 ft以下の空域から全ての飛行機を退避させ、どのランウエイにでも着陸可能と、伝えた。事故機はランウエイ27Lに安全に着陸し、近くのタキシーウエイ上で停止した。乗員は非常救難要員に機体左側に損傷があること、客室に負傷者がいることを告げた。救難要員は、救護用梯子を使い負傷者を搬出するとともに一般乗客の脱出を手伝い、ターミナルに運んだ。女性乗客1名が窓から吸い出されそうになり、他の乗客の手で引き戻されたが、重傷で直ちに入院、しかしNTSBによれば後刻死亡が確認された。他に7名が軽傷で簡単な手当てを受けた。
NTSBによる初期調査によると、エンジン破壊の原因は、24枚あるファン・ブレードの13番ブレードがハブ部分で金属疲労によるクラックのため破断、飛散したのが発端と判明した。エンジン火災は起きていない。
図4:(CFM International) CFMエンジンのファン・ブレードの変遷。最も古い「CFM56-5B」(1991)から逐次翼幅が広くなり最新の「CFM LEAP」は最も幅広、素材もTi合金から複合材に代わり軽量化されている。
「LEAP」:エアバスA320neo、ボーイング737MAX、COMAC C919、に採用、
「CFM56-7B」:ボーイング737 NG (-600, -700, -800)に採用、
「CFM56-5B」:エアバスA320系列機の採用、
4月17日の事故は、「CFM56-7B」ファン・ブレードの最下部にある取付け用ダブテイル部分に疲労破壊が生じ、破断、飛散した。
図5:(YouTube) YouTube作成の“CFM56-7Bエンジンのファン・ブレード取付け方法”動画から収録した写真。デスクの6時の位置(最下点)の溝に24番ブレードのダブテイルを嵌め込むことから始めて、反時計方向に23番、22番と1番まで続ける。1枚ごとに位置極めピン(白く見える板状部品)を取付けて繰り返す。従って超音波検査は、位置決めピンを外し、ブレードを外して1枚ごとに行うことになる。
機長は海軍のF-18戦闘機の元パイロットで女性、副操縦士は男性、いずれも立派に任務を遂行した。着陸は操縦性を維持するためフラップ5度で行った。飛散したカウリングなどの破片はフィラデルフィア空港の北西60 nmで発見された。
NTSBによるフライト・レコーダー解析で、左エンジンは回転がゼロとなり、激しい振動が起こり、客室与圧低下の警報が鳴り響き、急激に機体が左方向に41度も傾いた(roll)、ことが分かった。乗員はエンジン破壊後、フラップを通常の着陸では30度または40度セットを使うが、この場合は片方のエンジンだけで着陸するので姿勢制御を容易にするため5度にすること決定。22分後に機速165 KIAS (ノット)の比較的速い速度で着陸した。
同種の事故は、2016年8月27日にサウスウエスト航空B737—700型機がペンサコーラ(Pensacola, Florida)を飛行中、発生している。
EASA(欧州航空安全庁=European Aviation Safety Agency)は「CFM56-7Bエンジンのファン・ブレード事故について」と題するAD(耐空性改善通報)2018-0071を4月20日に発行した。これによると、破断したファン・ブレードは一旦ファン・ケース内に留まったが、すぐに前方に押し出されインレット・カウルを破断、分離した。ファン・ブレードの破断は、ファンの取付け部“ダブテイル(dovetail)”部分から始まった。「AD」は、該当するファン・ブレードは9ヶ月以内に超音波検査をするよう、要求している。
一方米国のFAA(連邦航空局=Federal Aviation Agency)は、同じ日付でAD 2010-12-03を発行、検査は5月10日までに3万サイクル以上のCFM56-7Bエンジンを対象に実施するよう命じ、CFM56-3およびCFM56-3Bは除外した。対象となるエンジンは600台。そして次回の検査は、今年9月までに20,000サイクル以上のエンジン2,500台を対象に実施するよう求めている。
CFM社ではSBで、他のCFM56-7Bエンジンに対して、20,000サイクルに達する前に同様の検査をするよう推奨している。
エンジンを作るCFM International社によると、4月の最後の週までに全世界で使われているCFM56-7Bのファン・ブレード検査は60%が完了した。これまでのところ「安全に関わる問題点は発見されていない」としている。CFMは米国GEとフランスSafranの両社が折半で作るエンジン製造会社である。
サウスウエスト航空では、CFM56-7Bを搭載するB737-700と-800を合計703機運航中で、前回の事故(2016-08-27)のあとCFM社がSBで推奨するファン・ブレードの超音波検査を行ってきた。今回の事故前までに17,000枚の検査をし、1枚にクラックを発見している。4月17に事故を受け直ちに検査を強化し、今年末までに35,500枚のCFM56-7B用ファン・ブレードの超音波検査を実施する予定である。
我国では、日本航空が737-800型機を41機、全日空が737-700と同-800型機を合わせて50機ほど運用している。いずれもCFM56-7Bエンジン付きである。
—以上—
本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。
Aviation Week MRO-Network.com April 18, 2018 “Investigation Points to Metal Fatigue in 737 Engine Failure” by Bill Carey
Aviation Herald 2018-04-23 “Accident: Southwest B737 near Philadelphia on Apr 17th 2018, uncontained engine failure takes out passenger window” by Simon Hradechy
Aviation Daily Apr 26, 2018 “CFM56 Inspections Progressing; No Fleet-wise Issues Found” by Sean Broderick
キネマ航空CEOオフィスのプログ2018-3-9 “キネマ航空CEO[MRJのビジネス・アップデートを行う。と同時に日本の航空機製造行政の失敗を考えて、「他山の石も考えてみる」の巻”