李克強首相の離日、再び中国軍機の行動が活発化、宮古海峡通過


2018-05-12(平成30年) 松尾芳郎

 

李克強首相は日本公式訪問を終え11日に離日したが、これを待っていたかのように中国軍機の活動が再開された。

李氏は、訪日期間中、日中関係改善のメッセージを発信、それに応えて日本側も政界経済界から歓迎の意向が繰り返えされ、日中友好ムードが演出された。しかし、安倍首相が出した「中国当局に拘束されている日本人8人の解放」については無回答、また「沖縄県石垣市の尖閣諸島周辺で繰り返される中国海警局艦船による領海侵犯」については会議の議題にすら挙げられなかった。これら懸案の重要事項は先送りされたまま、李首相は11日に安倍首相らの見送りを後に離日した。

これを待っていたかのように、中国軍はH-6K爆撃機4機を含む8機が、二手に分かれて沖縄本島と宮古島間の宮古海峡を通過し、我が国に威圧を加えた。

中国軍の英字ニュース“China Military Com” は「中国人民軍空軍は台湾を含む周辺の島々のパトロールを実施」および「中国軍は最新型のSu-35 戦闘機を台湾と付近の島々のパトロールに参加させた」と題した二つのニュースを発表した。

同ニュースによれば、中国空軍はH-6K爆撃機を2機ずつの二手に分け、一つはH-6K 爆撃機2機で東支那海から宮古海峡を通り太平洋に抜け、我が南西諸島の南岸に沿い台湾バシー海峡を通過、本土に帰投、もう一つのH-6K編隊はTu-1 54情報収集機1機とY-8 / KJ-2000早期警戒機(AEW=Airborne Early Warning) 1機を伴い中国南部からバシー海峡を通り北東に進路をとり、宮古海峡を抜け帰還した。両編隊にはそれぞれ最新型のSu-35戦闘機とJ-11戦闘機が護衛として随伴した。特にSu-35戦闘機のバシー海峡通過飛行は初めてのことで、空軍の練度向上を示した出来事だと誇っている。

これら中国空軍の今回の活動に参加した航空機をまとめると次のようになる。

l   H-6K 爆撃機      4機

l   Tu-154情報収集機   1機

l   Y-8/KJ-2000 早期警戒機 1機

l   Su-35 多目的戦闘機   1機

l   J-11 戦闘機      1機

11 日H-6K

図1:(統合幕僚監部)5月11日宮古海峡を通過したH-6K爆撃機4機のうちの1機。H-6はロシアTu-16バジャー爆撃機を1959年から西安航空機でライセンス生産した機体。以来改良が重ねられ現在のH-6K型となり巡航ミサイル搭載機として配備中。H-6K爆撃機は2011年1月から配備開始、ロシアからD-30KP-2エンジンを50機分相当の輸入が決定済み。H-6Kの主兵装はCJ-10K巡航ミサイルで、翼下面に最大6発搭載できる。CJ-10K巡航ミサイルは射程1,400-2,000 km。写真では両翼に1基ずつ、2基を携行している。

11日台湾国防省

図2:(TAIWAN Defense Ministry)11日バシー海峡上空でH-6K爆撃機を迎撃するため緊急発進した台湾空軍のF-16戦闘機。

11日Tu-154

図3:(統合幕僚監部)TU-154情報収集機は、今も生産中のロシアのツポレフ(Tupolev)製3発旅客機が基本で、1,000機以上が生産された。1972年から使用中で改良が続けられ多数の派生型が生まれた。中国は民間用Tu-154Mに大型の合成開口レーダー(SAR)を取付け電子偵察機(ELINT)に改造、Tu-154MD型として使っている。Tu-154Mは、最大離陸重量は100 ton、航続距離6,600 km、エンジンはD-30KUターボファン、推力23,000 lbs (100 kN)を3基。中国空軍司令部直轄部隊の第34輸送機師団(北京南苑基地)に配備中、6機がSAR付きELINT仕様である。

11日Y-8

図4:(統合幕僚監部)Y-8 / KJ-2000はロシアの貨物輸送機An-12が基本、Y-8輸送機として開発した。陜西航空機で1981年から100機ほど作られた。これを基本に電子戦機を含む多くの派生型が生まれている。エンジンはWJ-6ターボプロップ4,250 hp x 4基、航続距離5,600 km。本機は前部胴体側面に側方監視レーダーを収めた膨らみがある。大きさは西側のC-130輸送機とほぼ同じである。

Su-35

図5:(中国空軍)スーホイ(Sukhoi) Su-35は“フランカー-E (fkanker-E)”とも呼ばれ、Su-27防空戦闘機を改良した多目的戦闘機。単座、双発、超音速での運動性の良さ、が評価されている。Su-35Sはロシア空軍用として2009年に採用された。これまでに82機が完成、うち14機が中国に引き渡されている。中国は48機の購入を望んでいるが、現在までの契約は24機にとどまっている。

機体諸元は;—

全長21.9 m、翼幅15.3 m、最大離陸重量34.5 ton、エンジンはサターン(Saturn) AL-41F1Sアフトバーナ付きターボファンを2基、各推力19,400 lbs(A/Bなし)、31,900 lbs(A/Bあり)、最大速度マッハ2.25、航続距離3,600 km/高空、兵装取付用ハードポイントは12箇所あり、最大8 tonまで搭載できる。

11日中国軍機

図6:(統合幕僚監部)5月11日の中国軍機の航跡、統幕監部発表の地図に中国軍サイトの情報を加えて作成した図。中国軍機は二手に分かれて、一方は東支那海—宮古海峡—太平洋—バシー海峡と時計回りに飛行し、他方はバシー海峡—太平洋—宮古海峡—東支那海と反時計回りに飛行した。いずれにもSu-35戦闘機が随伴したことが注目される。

 

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