防衛装備庁、新戦闘機「F-3」用AESAレーダーを公開


2018-12-18(平成30年)  松尾芳郎

 

『TokyoExpress 2018-11-24 “空自次期戦闘機「F-3」、2025年の初飛行なるか”』などで紹介してきたように、防衛省では[F-3]に関わる技術について少しずつ公開してきた。すなわち大推力エンジン技術、ネットワーク戦闘技術、大型ウエポンベイ技術、その他である。今回明らかになったのは「高出力小型レーダー技術」の中身、新しい「AESA (active electronically scanned array)」レーダーである。

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図1:(防衛装備庁/Aviation Week Colin Throm) 防衛装備庁公表の「26 DMU」に説明を追加した図。「F-3」は、これを基本にして、開発中の関連技術を搭載した機体となる予定。

 

公開された新AESAレーダー・アンテナは、三菱電機が製造しF-2戦闘機に搭載されているJ/APG-2レーダー・アンテナとほとんど同じ形、サイズで、F-2に取付け試験されるようだ。

防衛装備庁は、これを11月28-30日に開催された東京国際航空宇宙展で展示した。展示されたレーダーは、本物の高出力AESAレーダーで、最新のセンサー・システムと一体化した構造になっている。センサー部分は液冷システムで発熱を防いでいること、半導体素子は窒化ガリウム(Ga N = Gallium-Nitride )素子であること、以外の詳細は明らかにされていない。

防衛省では新戦闘機の開発を2019年3月末までに、国内での独自開発か外国他社の協力を得て開発するかを決めたいとし、2030年代の配備を目指している。

今回航空宇宙展で展示したレーダーは、F-2戦闘機にそのまま搭載可能な形状で、F-3搭載を目的とした技術実証モデルと考えられる。

アンテナ面は幅およそ74 cmで、裏面には冷却液を送るチューブが付いている。専門家の意見では、F-16やそれを改造したF-2などの小型戦闘機ではレーダーに冷却液を送るのはかなり難しい。冷却剤は可燃性なのでチューブはパイロットから離す必要があるためだ。その点F-3はF-22ラプター戦闘機より大型になる予定なので大きな障害にはならない。

展示されたレーダーの背面には”500 hr ”と記入してあり、恐らくこのAESAレーダーは地上試験装置で500時間の試験運転を完了したものと考えられる。

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図2:(防衛省)展示されたAESAレーダーはF-2搭載可能な大きさである。しかしアンテナ面の背後に組み込まれるプロセッサーは、F-2に搭載されている[J/APG-2](図3)よりかなり小型になっているようだ。

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図3:(防衛省)F-2用三菱電機製[J/APG-2]レーダー(Ga N素子モジュール使用)は、撃ち放し能力を持つ[99式対空誘導弾改(AAM-4B)]が使えるよう探知距離を百数十kmに伸ばしている。アンテナ面には多数の小さい送受信素子(T/Rユニット)が並んでいる。小型ながら米海軍のF/A-18用レイセオン製[APG-79]AESAレーダー(Ga As素子モジュール使用)に匹敵する性能を持つ。

実際のレーダーはこの1.5倍ほどの大きさとなり、敵レーダー電波の反射を少なくするため傾けて取り付けられることになる。

何れにしても実証モデルと実際のアンテナとの間に大きな差はない。特に送受信素子(T/R Unit = transmitter/receiver module/unit)の外形を示すアンテナの外周の形は変わらない筈だ。試作レーダーのアンテナ面はカバーに覆われているので、送受信素子は見えない。送受信素子は、一つ一つが小型レーダーで、電子ビームは電子的にコントロールされ、同一方向に高速でスキャンされ、目標を探査する。

このレーダーが使っている窒化ガリウム(Ga N)半導体製送受信素子は、高出力で低ノイズ、従って目標探知距離が長い。我が国では2010年ごろから護衛艦やF-2戦闘機に採用されている。最近では日英共同開発の長距離空対空ミサイルMDBAメテオール(Meteor)のシーカーに採用が決まっている。

F-2には、かつて三菱電機製AESAレーダー[J/APG-1 ]が使われたが問題が生じたため、6年前から同社製の改良型J/APG-2 AESAレーダーに換装されている。従って、これが今回さらに更新されるとは考えられない。

しかし同じ空自のF-15のレーダー換装に使われる可能性はある。F-15用の最新型レーダーはレイセオン(Raytheon)製APG-63(V)3 AESAレーダーで、米空軍のF-15は性能向上策の一つとして採用が進んでいる。しかし、APG-63(V)3は従来型のガリウム・砒素(Ga As= Gallium -Arsenide)半導体素子を使っている。

 

以下に「中期防衛力整備計画(平成26-30年)」にある“航空自衛隊の近代化計画”」と「平成31年度防衛予算概算要求」に記載してある「F-2」と「F-15J」の近代化改修の概要に触れて見たい。

 

F-2の近代化改修

F-2は、空戦の他に対地、対艦攻撃もできる多用途戦闘機として日米共同で開発された機体。米国のF-16C/Dブロック40を基本とし、旋回性能向上のため翼面積を増やし(29.7m2から34.84m2へ)、軽量化のため炭素繊維複合材を多用、離陸性能改善のためエンジンを推力向上型に変更してある。

平成7年(1995年)初飛行後、平成23年(2011年)に94機目(他に試作4機)となる最終機が納入された。定期整備後の試験飛行で1機全損(2007年10月)と津波被害(2011年3月)で5機の全損が発生した。このため現有勢力は88機に減少している。これが3個飛行隊と操縦教育訓練部隊に配備されている。単座型のF-2A(62機)と複座型のF-2B(32機)が製造された。

F-2の最大の特徴は三菱電機製J/APG-1レーダー。実用機搭載では世界初のAESAレーダーで、ガリウム−砒素(GaAs=Gallium-Arsenide)半導体製の送受信素子約800個を直径70cmの平面アンテナ上に並べていた。これを改良し探知距離を伸したのが近代化改修で換装したJ/APG-2レーダーである。半導体素子を窒化ガリウム(GaN=Gallium-Nitride)に変更し、1216個使用している。”GaAs”に比べ”GaN”半導体送受信素子は出力が3倍になる。

F-2の近代化改修は2009年から実施中で、内容は次ぎの項目。

*  空対空戦闘能力向上にため、AAM-4B 空対空ミサイルおよびAAM-5空対空ミサイルの搭載能力を持たせる機体改修、およびJ/APG-2レーダーへの換装。1機当たり費用は、機体側改修が3.2億円、新型レーダーが3.1億円。

*  JDAM(Joint Direct Attack Munition)「GPS誘導爆弾」機能の付加。1機当たり費用は2.8億円。

*  三菱電機製、ターゲッテイング・ポッド[J/AAQ-2]「外装型赤外線前方監視装置」の搭載試験。量産化後の改修費は1機当たり数億円程度。

さらに開発中であった新空対艦ミサイルXASM-3の完成(2018年)、量産開始(2019年)、に併せて機体改修が行なわれている。

これ等一連の改修でF-2の総合的戦力は米海軍のF/A-18E/Fスーパーホーネットに迫ることになり、対ロシア・中国との軍事バランス改善に役立つ。

「F-2」は、全長15.5m、翼幅11.1m、全備重量22㌧。エンジンはGE F110-IHI-129型推力13.4㌧1基、IHIでライセンス生産している。搭載兵装は13ヶ所のハードポイントに燃料タンクを含み8㌧まで可能、空対空ミサイル、対艦ミサイル、500lbs爆弾などを任務に応じて多様な兵装を搭載できる。

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図4:(防衛省)三菱[F-2]戦闘機には、三菱電機製[J/APG-2] [AESA]レーダーを装備。推定能力は、同時処理目標は10個以上、探知距離は艦船等大型目標では185km程度。 [F-35]用[APG-81]等最新のレーダーに比べると性能は一歩譲る。

F-15Jの近代化改修

「F-15」は三菱重工業が主契約で、単座型のF-15J165機と複座型F-15DJ48機の計213機が製造された。これは開発国アメリカに次ぐ保有数で、アメリカ以外の使用数356機の約6割を占めている。 2018年で201機を運用中。調達価格は一機約120億円。

航空自衛隊のF-15Jは大きく分けて近代化改修を行った「F-15MJ」と従来型の「F-15SJ」の二つに分類される。近代化改修は「MSIP (多段階能力向上計画)」と呼ばれ1機当たり12.5億円を掛けて次の改修を行った。改修対象機はいわゆる後期型で、機内の通信用回線が「MIL-STD-1553B」規格に準拠している機体で、約100機ある。

*レーダーをAPG-63からAPG-63(V)1に換装、

*セントラル・コンピュータの能力向上、

*空調システムの強化、

*ジェネレーターの能力向上、

*空対空ミサイルAAM-4BおよびAAM-5を搭載可能とする改修、

*友軍との通信機能向上のためのFDL搭載改修(Link 16)、

これとは別に自己防衛能力付与のためNVG (Night Vision Goggle)搭載改修、費用は1機当たり0.8億円。

しかし防衛省では、ロシア、中国の軍備近代化に対応するため近代化改修MSIP、すなわち「F-15MJ」のみでは不十分と判断、平成31年度(2019)予算案で次の新しい改修を要求している。すなわち;—

『戦闘機(F-15)の能力向上(2機改修:101億円)、周辺諸国の航空戦力の強化に対応するとともに、防空等の任務に適切に対応するため、スタンド・オフ・ミサイル(JASSM等)の搭載、搭載弾薬数の増加および電子戦能力の向上等に必要な改修を実施。※その他関連経費(設計変更等)として、別途439億円を計上。』

補足すると、「F-15MJ」に搭載したレーダーAPG-63(V)1は、TokyoExpress 2018-07-16“イージス艦用レーダー、日米が協同開発へ –レーダー技術進歩の歴史—”で述べたように典型的な「アレイアンテナ型機械式ビーム・スキャン方式」である。これを改良し「電子的ビーム・スキャン方式」AESAレーダーが「APG-63 (V)3」で、現在米空軍F-15の改修で搭載中である。米国の報道によると改修費用は1機当たり約10億円とされる。防衛省が平成31年度予算(2機で101億円)で要求している「F-15MJ」用のレーダーがAPG-63(V)3になるのか、前述の三菱電機が開発するGa-N素子を使う新レーダーになるのか、明らかにされていない。

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図5:(Defense Update)ボーイング・レイセオンが実施中のF-15Cのレーダー換装作業。旧型APG-63(V)1から新型のAPG-63(V)3 AESAへの換装。両者の違いは、多数のアンテナ素子が配列してあるレーダー面とその背後のビーム・ステアリング・コントローラーである。その後ろの装置は殆ど(V)1の部品を使用している。

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図6:(航空自衛隊)F-15Jは、空自主力戦闘機として8個飛行隊と飛行教導隊などに約200機が配備中。三菱重工がライセンス生産。半数が[J-MSIP]計画(多段階能力向上計画)で能力向上・近代化改修が実施され[F-15MJ]となった。

F-15Jは全長19.4m、翼幅13.1m、エンジンはF100-PW(IHI)-100推力8.6㌧を2基装備。全備重量は25㌧、最大航続距離2,500nm (4,600km)、最大速度はマッハ2.5。対地、対艦攻撃能力はMk.82型無誘導爆弾(500lbs)を搭載できるが限定的。

 

AGM-158 JASSM

AGM-158 JASSM (Joint Air-to-Surface Standoff Missile)は、米国ロッキード・マーチン社製の大型、ステルス仕様、精密誘導、強力な炸薬1000 lbs (450 kg)を弾頭に収める長距離巡航ミサイル。2009年から米軍で導入され、その後オーストラリア、フィンランド、ポーランドにも採用されている。射程距離925+ kmの長距離型のJASSM-ERは2014年から生産中。

スタンド・オフ(standoff)ミサイルとは“距離を置く”の意味で、敵の対空ミサイル等の防空網圏外の安全な空域から発射可能なミサイルを云う。

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図7:(Lockheed Martin)ロッキード・マーチン社製AGM-158 JASSM空対地巡航ミサイル。主翼と尾翼は折りたたまれた状態で機体に取付けられ、発射後展張する仕組み。重量約1 ton、長さ4.3 m、弾頭450 kg、エンジンはテレダインCAE J402-CA-100ターボジェット推力680 lbs、射程距離はAGM-158Aが370km、AGM-158B JASSM-ERが925+ km。両者の外形は殆ど同じである。JASSM-ERは、旧型のJASSMとハードで70 %が共通、ソフトで95%が共通である。JASSM-ERは2006年4月から米空軍に配備開始。米空軍では2018年2月からF-15系列の最新型F-15EへのJASSM-ER搭載を開始した。防衛省が平成31年度予算案に計上しているのは、当然のことながらJASSM-ERと思われる。

 

改修しないF-15SJ の処置

旧型の「F-15SJ」は99機あるが、こちらは能力向上が困難なため、順次最新のステルス戦闘機F-35に置き換えられる。すなわち12月18日に閣議決定した中期防衛力整備計画(中期防)により、F-35型戦闘機105機を追加調達する。

内訳は空軍仕様のF-35A型を63機、短距離離陸垂直着陸(STVL)型海兵隊仕様のF-35B型を42機を購入する。F-35B STVL型機は、同じ中期防で空母化改修が決まった護衛艦「いずも」、「かが」の2隻に随時搭載、使用される。

すでに2011年の閣議決定で、F-35A型機42機の導入が決定され現在国内組立が進んでいるので、これを含めると我が航空自衛隊のF-35戦闘機は合計147機体制となる。

F-35にはA型、B型、C型があり、米国では空軍/F-35Aを1,763機、海軍/F-35Cを260機、海兵隊/F-35B を350機とF-35C を80機、3軍合計で2,443機を調達する計画である。

調達機数で2番目に多かった英国はF-35B型を138機導入する。従って我国の調達予定147機は、英国を抜き米国に次ぐ機数となる。

 

—以上—

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

Aviation Week Network 2018-12-06 “Japan Reveals Future-Fighter AESA Radar” by Bradley Perrett

Aviation Week Network 2018-12-06 “Japanese Eagles Head for Upgrade, More F-35s in Prospect” by Bradley Perrett

TokyoExpress 2014-02-27 “航空自衛隊、装備近代化へ大きく前進”

TokyoExpress 2018-07-16 “イージス艦用レーダー、日米が共同開発へ —レーダー技術進歩の歴史—“

Raytheon AN/APG-63 (V)3 AESA Radar

Lockheed Martin “JASSM”