2019-07-30(令和元年) 松尾芳郎
令和元年7月の我国周辺での中露両軍の活動は前月とほぼ同じ、依然として続いている。防衛省統合幕僚監部が特異事象として公表したのは次の6件。目立ったのは7月23日、中露両軍爆撃機4機による対馬海峡から宮古海峡に至る我国防空識別圏(ADIZ)内の飛行と、A-50早期警戒機の竹島領空侵犯事件である。
(According to the Ministry of Defense Joint Staff Japan, Chinese and Russian Forces movements around the Japanese Islands were kept as usual during July, 2019. Six events were reported, including the four bombers passed through Tshushima to Miyako straights, and another Russian AWACS flew over Japan’s territorial airspace.)
中国軍事委員会の指揮を受ける海警局の公船4隻よる沖縄県尖閣諸島周辺の接続水域および領海への侵犯は連日続いている。
- 07/08 公表 中国艦艇の動向について
- 07/16 公表 ロシア海軍艦艇の動向について
- 07-23 公表 中国機およびロシア機の東シナ海および日本海における飛行について
- 07-24 公表 中国海軍艦艇の動向について
- 07-26 公表 中国海軍艦艇の動向について
- 07-29 公表 中国海軍艦艇の動向について
以下にこれらの内容を記述する。
07/08 公表 中国艦艇の動向について
7月6日土曜日午後1時半、上対馬の北東110 kmの海域を南西に進む中国海軍ジャンカイII級フリゲート2隻を発見、同艦隊その後対馬海峡を南下、東支那海に入った。発見、追尾したのは厚木基地海上自衛隊第4航空群所属のP-1哨戒機である。
図1:(統合幕僚監部)「江凱II」級フリゲートは「054A」型とも呼ばれ、「江凱I」級を改良した艦で、満載排水量は4,000〜4,500 tonの大型艦。速度28 kt、航続距離は3,800 km。前甲板にはMk.41に似た32セルのVLSを備え、HQ-16対空ミサイル(紅旗16)を収納。HQ-16は、射程25〜42 km、射高17 km、速度マッハ4、特に超低空で飛来する目標への迎撃能力を重視したミサイル。これで「江凱II」級は僚艦防空能力を備えるフリゲートとなった。艦中央には対艦ミサイルYJ-83の4連装発射筒2基が見える。艦首にはロシア製AK-176 を国産化した60口径76 mm単装砲を搭載する。28隻が建造され、写真は25番艦「燕湖」(Wuhu) [539]、2017年の就役。
図2:(統合幕僚監部)邯鄲(Handan)[579]は「江凱II」級の20番艦で2015年就役、北海艦隊に所属している。説明は図1を参照。
07/16 公表 ロシア海軍艦艇の動向について
7月15日月曜日午後1時、宗谷海峡の東北東250 kmの海域を西に向かって進むロシア海軍のナヌチカIII級ミサイル護衛哨戒艇1隻、およびソルム級航洋曳船1隻を発見した。その後これら艦艇は宗谷海峡を西に進み、日本海に入った。発見、追尾したのは、八戸基地海上自衛隊第2航空群所属のP-3C哨戒機と余市基地第1ミサイル艇隊所属の「くまたか」である。
図3:(統合幕僚監部)ナヌチカ(Nanuchka)級コルベットは、対艦ミサイルを主兵装とする艦。原型を改良したIII級は、沿岸警備艇としては初めてAK-630 型30 mm CIWSを装備し個艦防空能力を持つ。併せて射程150 kmのP-120「マヒラート」対艦ミサイルを装備。P-120は4発用の発射筒に収められ、これが合計4基ある。ナヌチカIII級は満載排水量6 70 ton、速力32 kt、航続距離2,500 N.M、乗員60名。11隻が配備されている。
図4:(統合幕僚監部)アメリカ海軍の航洋タグボートに相当する。
07-23 公表 中国機およびロシア機の東シナ海および日本海における飛行について
7月23日(火)午前、中国空軍H-6K爆撃機2機とロシア空軍Tu-95爆撃機2機の合計4機が東シナ海から対馬と九州の間の対馬海峡上空を通過、日本海に入り竹島の西側を通り北上、その後反転して往路と同じ航跡で東支那海に入った。中国機2機は尖閣諸島北方で中国本土へ向かったが、ロシア機2機は途中で中国機と別れ、宮古海峡上空まで進み反転して中国本土方面に飛び去った。
これとは別にロシア空軍A-50早期警戒機1機がシベリア方面から日本海に飛来、竹島付近で我国の領空を2度にわたり侵犯した。1度目は午前9時10分ごろ、2度目は9時半ごろ、2回合計で7分間の領空侵犯をした後シベリア方面に立ち去った。
両件は共に我国の防空識別圏(ADIZ)を侵犯した事案、これに対し、航空自衛隊では那覇基地等から戦闘機を緊急発進させ、4機に対しては領空侵犯を防ぎ、また領空を侵犯したA-50早期警戒機に対しては速やかに退去するよう無線で警告した。しかし警告射撃は行なっていない。
A-50早期警戒機の竹島付近での領空侵犯に対し、同島の実効支配を主張する韓国は複数の戦闘機F-15Kを緊急発進させ、A-50に対し警告射撃を2度実施、合計360発の機関砲弾を発射した。
A-50の領空侵犯について菅官房長官は23日の記者会見で、「A-50早期警戒機は2回領空侵犯を行なっておりロシア政府に抗議した。また韓国空軍機による警告射撃は、竹島領有権を保有する我国として受け入れられず極めて遺憾、として韓国政府に抗議した」と述べている。
図5:(統合幕僚監部)H-6はロシアTu-16バジャー爆撃機を西安航空機でライセンス生産した機体。以来改良が重ねられ現在のH-6K型となり巡航ミサイル搭載機として配備中。長距離巡航ミサイルを6基搭載できる。乗員3名、全長35m、翼幅34.4m、最大離陸重量76 ton。複合材使用率を高め、エンジンは国産WP-8型からロシア製のD-30KP-2型に換装、推力を30 %アップ、燃費は20 %向上した。2007年1月に初飛行、2011年5月から配備。巡航速度790km/hr、戦闘行動半径3,500 km、兵装搭載量は9 ton。搭載する巡航ミサイルCJ-10Kは射程2,000 km、米国のトマホークに匹敵する、我国領空に接近することなくどこからでも目標を攻撃できる。
図6:(統合幕僚監部)ロシア空軍のA-50早期警戒機は、イリューシン(Ilyushin) Il-76MD貨物機を基に、ベリエフ(Beriev)設計局が改造した早期警戒機で、1984年から配備、1992年までに約40機が作られた。その後数度の改良が行われ、レーダーを含む電子装備を全てデジタル化し近代的にした機体「A-50 U」が完成、2009年に初飛行した。現在ロシア空軍は、首都モスクワから250 kmにあるイワノボ(Ivanovo)空軍基地にA-50 Uを4機配備し、他に原型のA-50を15機を保有している。A-50は、全長50 m、翼幅50.5 m、高さ15 m、最大離陸重量170 ton、乗員15名、エンジンはSoloviev D-30KPターボファン推力26,500 lbsを4基、航続距離7,500 km。
図7:(統合幕僚監部)ロシア空軍Tu-95爆撃機。2機が中国軍H-6K爆撃機と編隊を組み東シナ海から対馬海峡を通過、日本海に進出、反転して東シナ海に戻り、H-6Kと別れて宮古海峡から太平洋に出、再び戻り中国大陸に立ち去った。タス通信は今回の合同演習で11時間の飛行をした、報じた。写真はそのうちの1機。ツポレフTu-95型機は1956年配備開始の古い機体だが、改良を重ねTu-95MSとなり63機が配備中。軸馬力14,800 hpのクズネツオフNK-12MAターボプロップを4基装備、最大離陸重量185 ton、最高速度925 km/hr、航続距離は6,400 km。海軍用に対潜哨戒機Tu-142がある。Tu-95MSは、超音速対地攻撃用ラドガ(Raduga) Kh-15巡航ミサイル、射程300 kmを6発、胴体内ランチャーに搭載。派生型のTu-95MS-16型は、ラドガ(Raduga)Kh-55亜音速対地攻撃用、射程2,500 kmの巡航ミサイルをランチャーに6発と翼下面に10発、計16発を搭載できる。
図8:(統合幕僚監部)7月23日午前、ロシアTu-95爆撃機2機と中国H-6K爆撃機2機は合同演習を行い、東支那海から対馬海峡を通り、日本海に入り、竹島西の空域を北上反転し、再び東支那海に戻り、尖閣諸島北で中国機は別れ本土に戻った。一方ロシア機は、宮古海峡付近に進出、反転して中国大陸方面に立ち去った。
図9:(統合幕僚監部)ロシアA-50早期警戒機1機は、シベリア方面から竹島東の領空を侵犯、南に進出、反転して竹島西の領空を侵犯、北上した。
図9A:(統合幕僚監部)平成30年版防衛白書記載の「我が国および周辺国の防空識別圏(ADIZ)」。これで見ると、韓国が実効支配中の「竹島」、およびロシアが実効支配する「北方4島」は、我が国ADIZから除外されている。中国が領有を求める「尖閣諸島」は我が国ADIZに含まれている。
07-24 公表 中国海軍艦艇の動向について
7月22日月曜日午前7時、下津島の南西200 kmの海域を北東の進む中国海軍ジャンカイII級フリゲート1隻を発見、その後同艦は対馬海峡を北上日本海に出たが、23日(火)には再び対馬海峡を南下、東支那海に戻った。発見追尾したのは佐世保基地第3ミサイル艇隊所属の「おおたか」である。同フリゲートは去る6月17日に太平洋から宮古海峡を通過、東支那海に向け航行した艦と同じである。
図10:(統合幕僚監部)「ジャンカイII/江凱II」型は「054A」フリゲートで、2008年に写真の1番艦「舟山(529)」が就役した。満載排水量4,500 ton、全長137 m、速力27 kt、HQ-16対空ミサイルを米国のMk41 VLSに似たVLS 32セルに収めている。対艦ミサイルは艦中央部にYJ-83型を4連装発射機2基に格納している。[045A]フリゲートは外洋艦隊用で防空能力の強化を図っている。
7-26 公表 中国海軍艦艇の動向について
7月25日木曜日午前5時、宮古島の北240 kmの宮古海峡海域を南下する中国海軍ルーヤンIII級ミサイル駆逐艦1隻、ジャンカイII級フリゲート2隻、およびフユ級高速戦闘支援艦1隻の合計4隻の艦隊を発見した。同艦隊は宮古海峡を南下、太平洋に進出した。発見・追尾したのは那覇基地海上自衛隊第5航空群所属のP-3C哨戒機および佐世保地方隊所属の「あまくさ」である。これら中国艦4隻は、いずれも去る2019年6月10日に空母「遼寧」に随伴し東シナ海から太平洋に進出、グアム島付近で演習した艦艇である。
図11:(統合幕僚監部)「ルーヤンIII/旅洋III」型は[052D] 型駆逐艦で、前身の[052C]を改良した最新の防空駆逐艦。1番艦「昆明」は2014年に就役。写真の[117]は5番艦「西寧」で2017年就役。同型艦13隻が完成済み、建造中を含めると23隻になる予定。満載排水量7,500 ton、全長160 m、速力29 kt。兵装は対空/対艦/対巡航/対潜ミサイル発射用8セル型VLSを8基(合計64セル)を装備する。これにHQ-9B対空ミサイル、YJ-18対艦ミサイルなどを搭載する。我国の「あたご」型イージス艦に匹敵し総合的な性能はほぼ同じ、しかし数では我国海自の8隻に比べ圧倒的に中国海軍の方が多い。2019年6月10日に空母「遼寧」と共に東シナ海から太平洋に進出した。
図12:(統合幕僚監部)写真の[576]「大慶」は17番艦で2015年就役。2019年6月10日に空母「遼寧」と共に東シナ海から太平洋に進出した。
図13:(統合幕僚監部)説明は図8を参照。艦番号[598]「日照」は27番艦、2018年1月就役の最新型。2019年6月10日に空母「遼寧」と共に東シナ海から太平洋に進出した。
図14:(統合幕僚監部)中国海軍補給艦の中で[901]型と呼ばれ2隻が作られ、写真の艦番号[965]「呼倫湖」はその1番艦。2017年9月就役の最新艦。満載排水量48,000 tonで、これまでの主力補給艦[903/903A]福地型の2倍近いサイズである。空母機動部隊の専用補給艦として建造された。米海軍の空母随伴の戦闘支援艦「サプライ」級を参考に作られたと言われる。艦中央に門型の補給ポスト3基、艦尾には大型ヘリ発着甲板があり、艦載ヘリZ-8を2機搭載する。推進動力には4基のガスタービンを採用、2軸推進で最大25 ktの速度で空母艦隊に同行する。2019年6月10日に空母「遼寧」と共に東シナ海から太平洋に進出した。
07-29 公表 中国海軍艦艇の動向について
7月27日(土)午前7時、宮古島の北240 kmの海域を南下する中国海軍ルーヤンIII級ミサイル駆逐艦1隻とジャンカイII級フリゲート1隻を発見した。この2隻は宮古海峡を通過、太平洋に向け航行した。発見・追尾したのは那覇基地海上自衛隊第5航空群所属のP-3C哨戒機および佐世保基地佐世保地方隊所属の「あまくさ」である。
図14:(統合幕僚監部) 「ルーヤンIII/旅洋III」型は[052D] 型駆逐艦で、前身の[052C]を改良した最新の防空駆逐艦。写真は[131]「太原」で10番艦、2018年11月就役、東海艦隊に所属する最新鋭艦。詳しくは図11の説明を参照。
図15:(統合幕僚監部) 「江凱II」級フリゲートは「054A」型とも呼ばれ、「江凱I」級を改良した艦で、満載排水量は4,000〜4,500 tonの大型艦。[532]「荊州(Jingzhou)」は2016年就役、東海艦隊所属。詳しくは図1の説明を参照。
―以上―