2019-09-02(令和元年) 松尾芳郎
令和元年8月における我が国周辺での中露両軍の活動は依然として活発に続いている。防衛省統合幕僚監部が特異事象として公表したのは次の8件。
(According to the Ministry of Defense Joint Staff Japan, Chinese and Russian Forces movements around the Japanese Islands were kept as high during August, 2019. Eight events were reported.)
安倍首相は9月5にプーチン大統領と北方領土問題を含め日露平和条約について会談するが、我が国周辺での露軍の動きを見るとそんな雰囲気は感じられない。中国軍も同様で着実に日本周辺での活動を増やしている。7月末発表の中国国防白書は「尖閣諸島は中国固有の領土」と明記し「パトロールは国家主権の行使だ」と書いている。また東支那海の日中中間線を「EEZ(排他的経済水域)」とすることも無視、沖縄列島近海まで広がる大陸棚を自国の海と主張、我が国EEZの侵犯を繰り返している。我国と中露の関係は一体どうなるのか。
08/01 公表 ロシア海軍艦艇の動向について
08/01 公表 中国海軍艦艇の動向について
08/08 公表 ロシア機の日本海および東シナ海における飛行について
08/09 公表 ロシア海軍艦艇の動向について
08/15 公表 ロシア海軍艦艇の動向について
08/19 公表 中国海軍艦艇の動向についいて
08/23 公表 中国海軍艦艇の投稿について
08/26 公表 ロシア海軍艦艇の動向について
08/01 公表 ロシア海軍艦艇の動向について
8月1日(木)午前11時、北海道北端の宗谷岬北北東35 kmの海域をオホーツク海から日本海に向け航行するタランタルIII級ミサイル護衛哨戒艇2隻を発見した。発見追尾したのは余市基地海上自衛隊第1ミサイル艇隊所属の「わかたか」。これら艦艇は6月21日(金)に宗谷海峡をオホーツク海に向け航行したものと同一である。
図1:(統合幕僚監部)海自ミサイル艇「わかたか」が撮影したタランタルIII級ミサイル護衛哨戒艇(921)。超音速対艦ミサイルSS-N-22連装発射筒を両舷に備える。現役にあるのは主にIII型で25隻、満載排水量462トン、速力36ノット、兵装はSS-N-22ミサイル4基と76mm単装砲1門。
図2:(統合幕僚監部)図1を参照。
08/01 公表 中国海軍艦艇の動向について
8月1日(木)午前9時、沖縄県久米島の南120 kmの海域を北上する中国海軍ルーヤンIII級ミサイル駆逐艦2隻、ジャンカイII級フリゲート3隻、およびフユ級高速戦闘支援艦1隻の合計6隻からなる艦隊を発見した。艦隊は太平洋から宮古海峡を通過、東支那海に向け航行した。これらの艦艇は去る7月25日と7月27日に東支那海から宮古海峡を通過、太平洋に出たものと同一である。発見追尾したのは那覇基地海上自衛隊第5航空軍所属[P-3C]哨戒機、佐世保基地第13護衛隊所属「さわぎり」および佐世保警備隊所属「あまくさ」。
図3:(統合幕僚監部)「ルーヤンIII/旅洋III」型は[052D] 型駆逐艦で、[052C]を改良した最新の防空駆逐艦。1番艦「昆明」は2014年に就役。写真の[117]は5番艦「西寧」、2017年の就役。同型艦は12隻が完成済み、建造中を含めると23隻になる予定。満載排水量7,500 ton、全長160 m、速力29 kt。兵装は対空/対艦/対巡航/対潜ミサイル発射用8セル型VLSを8基(合計64セル)装備する。これにHQ-9B対空ミサイル、YJ-18対艦ミサイルなどを搭載する。我国の「あたご」型イージス艦よりやや小型だが、総合的な性能はほぼ同じ、しかし数では中国海軍の方がはるかに多い。
図4:(統合幕僚監部)「ジャンカイII/江凱II」型は外洋艦隊用の「054A」フリゲートで、2008年に1番艦「舟山」が就役した。満載排水量4,500 ton、全長137 m、速力27 kt、HQ-16対空ミサイルを米国のMk41 VLSに似た32セルVLSに装備。対艦ミサイルは艦中央部にYJ-83型を4連装発射機2基に格納している。写真の[576]「大慶」は17番艦で2015年の就役。
図5:(統合幕僚監部)図4参照。艦番号[598]「日照」は27番艦、2018年1月就役の最新型。同型艦は30隻になる予定。
図6:(統合幕僚監部)中国海軍では[901]型と呼ばれ2隻が作られ、艦番号[965]「呼倫湖」は1番艦で2017年9月就役。満載排水量48,000 tonの大型艦で、これまでの主力補給艦[903/903A]福地型の2倍近い大きさ。空母機動部隊の専用補給艦として建造された。艦中央に門型の補給ポスト3基、艦尾には大型ヘリ甲板があり、艦載ヘリZ-8を2機搭載する。推進動力はガスタービン4基、2軸推進で最大25 ktで空母艦隊に同行する。
図7:(統合幕僚監部)図3を参照。「ルーヤンIII/旅洋III」型は[052D] 型駆逐艦で、[052C]を改良した最新の防空駆逐艦。写真は[131]「太原」で10番艦、2018年11月就役、東海艦隊に所属。
図8:(統合幕僚監部)図4を参照。「江凱II」級フリゲートは「054A」型とも呼ばれ、「江凱I」級を改良した艦で、満載排水量は4,000〜4,500 tonの大型艦。[532]「荊州(Jingzhou)」は2016年就役で東海艦隊所属。
08/08 公表 ロシア機の日本海および東シナ海における飛行について
8月8日(木) ロシア海軍[Tu-142]哨戒機2機が日本海から対馬東の対馬海峡を通過、東支那海に入り、反転して往路と同じ航路を通り、日本海に抜けた。航空自衛隊では戦闘機を緊急発進させ、領空侵犯を防いだ。
図9:(統合幕僚監部)[Tu-142]対潜哨戒機については「TokyoExpress 2019-08-21“ロシア海軍のニュース、2題”」で紹介したが、ここではその概要を述べる。
ツポレフ(Tupolev) [Tu-142]対潜哨戒機は、空軍の[Tu-95]戦略爆撃機を基本として海軍用対潜哨戒機に改造した機体である。[Tu-95]に比べ、対潜哨戒用装備搭載のため胴体前部を1.7 m延長し、不整地離着陸可能なようにランデイング・ギアを強化し、アビオニクスや兵装を近代化している。最新型は[Tu-142MZ]で、航続距離が伸び、最新のアビオニクスを搭載している。1970年から使われ、他に[Tu-142MK] / 新レーダー[Korshun]を搭載したもの、[Tu-142MR] / 潜航中の原子力潜水艦との通信機能を向上したもの、の2つがあり、都合3機種、合計24機が配備中。
図10:(統合幕僚監部)8月8日、ロシア海軍[Tu-142]対潜哨戒機2機が日本海から対馬海峡を抜け東支那海に入り、反転して往路と同じ経路で日本海に戻った。
08/09 公表 ロシア海軍艦艇の動向について
8月8日(木)午前10時、ロシア海軍ウダロイI級駆逐艦1隻が北海道宗谷岬を日本海からオホーツク海に向け航行した。発見追尾したのは海上自衛隊余市基地第1ミサイル艇隊所属の「くまたか」である。
図11:(統合幕僚監部)ウダロイ(Udaloy) I級駆逐艦「アドミラル・ビノグラドフ」(572)。満載排水量8,500㌧の大型対潜艦、強力なソナー、長射程の対潜ミサイル、対潜ヘリ2機、それにSA-N-9型個艦防空ミサイルを装備。1980-1991年にかけて12隻が作られ、現在8隻が就役中で太平洋艦隊に4隻を配備中。イージス艦に近い性能と兵装を持つ。
「アドミラル・ビノグラドフ(572)」は、去る6月7日午前11時45分、西太平洋のフィリピン海で、アメリカ海軍イージス巡洋艦「チャンセラービル/Chancellorville(CG-62)」に対し、30 mまで異常接近を行なった。当時米艦はヘリの着艦作業中で速度と進路を一定に保って航行していたところ、右後方からロシア艦が高速で急接近、米艦は衝突を避けるため後進全速をかけた。この危険な操艦に対しアメリカはロシアに抗議を申し入れた。駆逐艦「アドミラル・ビノグラドフ」は同級駆逐艦「アドミラル・トリプツ」、給油艦「イルクート」と共に中国海軍との合同演習に参加していた、6月8日に太平洋から宮古海峡を通過東支那海に入っている。
図12:(U.S. Navy)米海軍ヘリコプターから撮影した当時の写真。向かって右がヘリ着艦訓練のため速度、進路一定に保ち航行中の米艦。左が高速で接近するロシア艦。
図13:(U.S. Navy)向かって右が後進全速をかけ衝突回避をする米艦「チャンセラービル」、左は急速旋回するロシア艦「アドミラル・ビノグラドフ」。どちらが仕掛けたかはっきり判る。
08/15 公表 ロシア海軍艦艇の動向について
8月15日(木)午前5時、北海道宗谷岬を日本海からオホーツク海に向けて航行するロシア海軍スラバ級ミサイル巡洋艦、ソブレメンヌイ級ミサイル駆逐艦、ウダロイI級駆逐艦各1隻の合計3隻の艦隊を発見した。発見追尾したのは海上自衛隊余市基地第1ミサイル艇隊所属「わかたか」である。
これに関し親衛ロシア海軍情報局は、8月15日に太平洋艦隊旗艦親衛ロケット巡洋艦「ワリヤーグ(011)、戦隊水雷艦「ブイストルイ」、大型対潜艦「アドミラル・トリプツ」が宗谷海峡を通過した、と報じた。
図14:(統合幕僚監部)毎度紹介するが「ワリヤーグ(Varyag)」(011)は太平洋艦隊旗艦 。1989年就役で2008年に近代化改修を完了。満載排水量11,500 ton、空母機動部隊攻撃が主任務。同型艦3隻が配備中。両舷にある4本の筒には、射程距離700km、速度マッハ2「P-1000ブルカーン(Vulkan)」対艦ミサイルを装備、各筒に2基ずつ、合計16基を搭載する。
図15:(統合幕僚監部)ロシア海軍名“駆逐艦「ブイストルイ」(715)”。排水量8,000 ton、対空、対艦戦闘が主任務。注目されるのは、両舷に装備する超音速対艦ミサイル「モスキート」SS-N-22 SSM 4連装発射筒。オホーツク海で「P-270モスキート」超音速対艦ミサイルで洋上標的を目標に発射訓練を行ったと見られる。「モスキート」は全長10 m、弾頭に300 kgの炸薬を搭載、マッハ2-3で120 kmを飛ぶ。改良型の「P-800オニークス」はさ7日らに性能が向上したタイプ。いずれも固体燃料ロケット・ラムジェット統合推進システムを使った巡航ミサイル。
図16:(統合幕僚監部)図11を参照。
08/19 公表 中国海軍艦艇の動向についいて
8月18日午後7時、下対馬の南西200 kmの海域を日本海に向けて航行する中国海軍ジャンカイII級フリゲート1隻およびジャンウエイII級フリゲート1隻を発見した。発見、追尾したのは佐世保基地第3ミサイル艇隊所属の「おおたか」および鹿屋基地第1航空群所属の[P-1]哨戒機である。
図17:(統合幕僚監部)図4を参照。
図18:(統合幕僚監部)053H3型「ジャンウエイ(Jiangwei) II級/ 江衛II型」は「江衛I型」の改良版で、1番艦「嘉興」(521)は1998年就役、写真の「宜昌」(564)を含め10隻が2005年までに完成。「江衛I型」の兵装と電子装備に西側技術を導入近代化を図った。艦対空ミサイルを[HQ-7NB]・8連装発射機にし、携行弾数を18発に増やしている。艦対艦ミサイルは射程150-200 kmの[YJ-83]・4連装発射筒2基に改まっている。その他に艦載砲は56口径100 mm砲、CIWSは37 mm 連装機関砲4基を搭載する。満載排水量2,390 ton、全長111.7 m、速力26.5 kt、航続距離7,000 km。
08/23 公表 中国海軍艦艇の動向について
8月22日(木)午前9時、上対馬の北東200 kmの海域を南西の東支那海に向けて航行するジャンカイII級フリゲートおよびジャンウエイII級フリゲート各1隻を派遣した。発見、追尾したのは佐世保基地第3ミサイル艇隊所属の「しらたか」と厚木基地第4航空群所属の[P-1]哨戒機である。これらの艦艇は8月18日に対馬海峡を北上、日本海に入ったものと同一。したがって写真は省略する。
08/26 公表 ロシア海軍艦艇の動向について
8月24日(土)午前6時半から翌日25日午前10時半にかけて、北海道宗谷岬西130 kmの海域を東に向けオホーツク海方面に航行するロシア海軍ウダロイI級駆逐艦1隻、ステレグシチー級フリゲート2隻、タランタルIII級ミサイル護衛哨戒艇2隻、タランタルII級ミサイル護衛哨戒艇1隻、およびマルシャル・ネデリン級ミサイル観測支援艦1隻の合計7隻の艦隊を発見した。発見追尾したのは大湊基地第15護衛隊所属「ちくま」と八戸基地第2航空群所属の[P-3C]哨戒機である。
これに関して親衛ロシア海軍情報局は次のように発表している。複合測量艦「マルシャル・クルイロフ」、大型対潜艦「アドミラル・バレンテーエフ(548)」、コルベット「ソベルシェンヌイ(333)」および「グロームキー」、ロケット艇、病院船「イルテイシュ」、から成る小艦隊艦船支隊は、ウラジオストックからカムチャツカ半島への移動を行った。艦隊はオホーツク海で計画されたミサイルおよび砲射撃訓練を行う。
図19:(統合幕僚監部)ロシア海軍では「大型対潜艦」と呼び、艦名は「アドミラル・バレエンテーエフ(548)」、1991年の就役、太平洋艦隊の所属している。
図20:ロシア海軍発表の大型対潜艦/ウダロイI級駆逐艦「アドミラル・バレエンテーエフ(548)の艦容。
図21:(統合幕僚監部)小型だが高性能のフリゲート。艦番号[333]は2017年就役の3番艦「ソベルシェンヌイ」で4番艦「グロムキー」と共に太平洋艦隊に配属され頻繁に姿を現している。同型艦は5隻で、3隻はバルチック艦隊に備中。現在2隻が建造中でいずれも太平洋艦隊に配属予定。ロシア海軍で「プロジェクト20380コルベット」と呼ぶ最新鋭コルベットである。ステルス形状で、水中抵抗も従来船型より25%減、満載排水量2,200 ton、全長104,5 m、速力27 kt、マスト頂部はSバンド3次元レーダー、マスト本体は最新式の閉囲型で内部に各種レーダーを装備する。兵装は、対空戦用[GSh-630M] 30 mm ガトリング砲2基、陸上用対空ミサイル[S-400]を艦載用にして12セルのVLS(垂直発射装置)に装備。さらに対艦用に[3M24]ウラン対艦ミサイルを4連装発射筒2基に搭載している。
図22:ロシア海軍発表のステレグシチー級フリゲート/プロジェクト20380 コルベット「ソベルシェンヌイ(333)」の艦容。
図23:(統合幕僚監部)図21を参照。「グロームキー(335)」は「プロジェクト20380 コルベット」の2番艦で2018年12月就役、太平洋艦隊に配属。
図24:(統合幕僚監部)ロシア海軍呼称で「大型ロケット艇R-14 (924)」。いわゆるコルベット艦で、満載排水量約500トン、対艦超音速ミサイル3M-80「モスキート」連装発射機を両舷に備え、敵水上艦隊の撃破を主任務とする汎用哨戒艇。さらに個艦防空用の対空ミサイル9K38イグラ発射機1基を持つ。最大速力41 kt。20隻以上が現役配備中。小型だが侮り難い兵装を持つ。
図25:(統合幕僚監部)図24を参照。「大型ロケット艇R-18 (937)」
図26:(統合幕僚監部)図24を参照。「大型ロケット艇R-79 (995)」
図27:(統合幕僚監部)ロシア海軍では複合測量艦と呼び、本艦の名称は「マルシャル・クルイロフ」。2017年に近代化改修を実施し復帰した。8月29日にカムチャツカ半島のペトロパブロフスク・カムチャツキー軍港に到着、物資補給を終えてから演習旗艦としてオホーツク海での演習に参加する。
図28:8月におけるロシア海軍、中国海軍の我が国周辺における活動を取りまとめた図。この中で「8月8日」ロシア艦ウダロイ(Udaloy) I級駆逐艦「アドミラル・ビノグラドフ」(572)が宗谷海峡を通過したが、これは今年6月7日、フィリピン海で米イージス艦「チャンセラービル」に異常接近した艦。その後6月8日宮古海峡を通過東支那海に入っている。
―以上―