オールド野党のたそがれ‼  寄せ集めの統一会派


2019(令和元)年09月06日   元 文部科学大臣秘書官  鳥居徹夫

 

統一会派呼びかけは、立憲民主党の政策優先

立憲民主党の枝野幸男代表と、国民民主党の玉木雄一郎代表は、8月20日に開いた党首会談で、衆参両院で統一会派を組むことで合意した。
これに旧民主党系の衆院会派「社会保障を立て直す国民会議」も加わるとなると、衆院で計117人、参院会派は60人となる。

立憲民主党は、参議院選挙までは(1人区以外の)野党共闘に拒否反応を示し、他の野党と摩擦を起こしても立民の勢力拡大を優先してきた。
統一会派、比例区での統一名簿作成などを拒否し、膨張路線(枝野ドクトリン)により、他党を侵食してきた。
その枝野氏が参議院選挙から半月経過した8月5日に、国民民主党の玉木雄一郎代表、衆院会派「社会保障を立て直す国民会議」の野田佳彦代表と相次いで会談し、衆院で統一会派を組もうと提案した。
「数の上でも、論戦力の上でもより強力な野党第一会派を作る」ことが必要というのである。
ところが、その呼びかけ文には、「立憲民主党の政策、すなわち、立憲主義の回復など憲法に関する考え方、いわゆる原発ゼロ法案等のエネルギー関連政策、および、選択的夫婦別氏制度や同性当事者間による婚姻を可能とする一連の民法一部改正法案等の多様性関連政策などにご理解ご協力いただき、院内会派『立憲民主党・無所属フォーラム』に加わって、衆議院でともに戦っていただきたく」と書かれていた。(立憲民主党ホームページより)
この呼びかけは旧民主党・民進党系の諸政党に院内会派『立憲民主党・無所属フォーラム』に加わることを要請するもので、政策的にも運動論的にも、立憲民主党に吸収されることになる。
国民民主党へ揺さぶりをかけ、立憲民主党主導の統一会派をめざすことにほかならない。

立憲民主党の主導の統一会派へ

この枝野代表の要請に対し、国民民主党内でも、古本伸一郎衆院議員は「立民と一緒になれば年がら年中、批判の野党になる」と懸念し、「立民の提案を見る限り、軍門に下れとしか読めない」として立憲民主党との同一会派結成に反対したという。
さらに立憲民主党は政策として、憲法に対する考え方、原発ゼロ、選択的夫婦別姓や同性婚を認める民法改正などを列挙していたことに対しても、国民民主党側からは「上から目線の踏み絵だ」と反発した。
ところが国民民主党の玉木代表は、「こちらの意見がすべて通るわけではないが、単に吸収されるわけではない」と、協議を始めることに理解を求めたという。
8月20日の合意文書は「それぞれが異なる政党であることを踏まえ、それぞれの立場に配慮しあう」と玉虫色の表現に終始している。
もちろん憲法など基本政策の溝も埋まってはいないことから、枝野氏ら狙うのは国民民主党の分裂・解体、無力化である。
そして行き着く先は、立憲民主党の主導の統一会派であり、形を変えた「枝野ドクトリン」そのものなのである。

参議院比例の得票減少がショックだった立憲民主党

立憲民主党は「永田町の数合わせに組みしない」とする参議院選挙前の姿勢を転換し、次の衆議院選挙に向けて野党勢力の結集を目指す方向に転換したように見えた。
ところがその方向性は、国民民主党など旧民主党の勢力を糾合する形での国会の統一会派結成であり、形を変えた枝野ドクトリンである。
立憲民主党の呼びかけ文にあるように、統一会派の狙いは「左翼路線の純化」であり、立憲民主の膨張となる。
立憲民主党が、民進党系の諸政党を同一会派にまとめ野党の結集軸となることに方向転換したのは、枝野ドクトリンで臨んだ参議院選挙で議席数は増やしたものの伸び悩んだことにある。
参議院選挙では、惨敗するとみられた国民民主党が意外に踏ん張り、新興勢力の「れいわ新選組」が橋頭堡を築いた。そして立憲民主党は2017(平成29)年の総選挙の勢いを継続できなかった。
立憲民主党が比例で実際に獲得したのは8議席。立民が獲得した比例票も2017年衆院選の約1108万票から約791万票に落ち込んだ。300万票以上の減少である。
選挙区でも、国民民主党現職への刺客擁立にこだわった静岡選挙区(定数2)は返り討ちとなり、2人擁立した東京選挙区(定数6)では1議席しか取れなかった。

無党派層がニュー野党へ、危機に立つ既存野党

立憲民主党は、改選9議席から17議席にほぼ倍増したものの、枝野氏が積極的に擁立した元アイドルや、有名弁護士らの目玉候補は落選した。かろうじて滑り込んだのは元格闘家の須藤元気。
それにもまして衝撃的だったのが、新興政党である山本太郎率いる「れいわ新選組」が、初の国政選挙で約228万票の比例票をたたき出し2議席も獲得したことであった。

立憲民主党の枝野幸男代表は8月27日、国民民主党と会派合流する意義について「さまざまな経験も能力もある多くの仲間に加わってもらい、戦力アップして戦い、行政監視の機能を発揮することは、次の衆院選で有権者の期待と信頼を受け止める上でも大きな意味を持つ」と語った。
今回の参議院選挙は、低投票率(今回48.8%)のうえ無党派票が旧民進党系の候補者に流れなかった。野党支持の無党派票の多くは「れいわ新選組」などに流れた。
立憲民主党と国民民主党が分立したままで、しかも新興勢力の「れいわ新選組」も野党戦線に加わることになると、無党派票は分散する。
しかも「れいわ新選組」に多くが流れることに対し、既存野党が危機感を持ったことにある。

既存野党としては、野党の主役の座を「れいわ新選組」と競う前に、旧民進党系で「固まり」を作っておき、野党の主体が旧民進党系であることをアピールしたいということであろう。
統一会派とはなったが、基本政策の相違が多すぎることから、同じ党になるとは考えにくい。同一政党になるかどうかは、次の総選挙の直前の政局次第ではないか。
「れいわ新選組」などのニュー野党の台頭は、そのままオールド野党の存在意義を問うこととなる。そして既成野党にとつても露出度にも影響を及ぼし、その存亡にもかかわる。
オールド野党が統一会派という枠組みをもとに、立憲民主党の主導で再結集する契機となったようである。